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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夏のホラー2021『かくれんぼ』

そこに置かれている表情

作者: 小畠由起子

「もういーかーい?」

「まーだだよー!」


 隠れ場所を探しながら、達也(たつや)はふとすべり台のほうを見た。


 ――あれ、この公園、おれたち以外いなかったと思うけど――


 いつの間にかまぎれこんだのだろうか、いがぐり頭の男の子が、すべり台にのぼっている。すべるのかと思って見ていたが、男の子はすべる様子もなく、なぜか頭をかかえて、小さいからだを目いっぱいちぢめている。それはまるで……。


「なんだ、あいつもかくれんぼしてんのか?」


 男の子がちらりと頭をあげた。達也は思わず顔をそらす。別にそんなことをするつもりはなかったのだが、反射的に顔をそむけてしまった。


 ――変なやつ――


「もういーかーい?」


 再び鬼の声が聞こえてきたので、達也はあわてて「まーだだよー!」と大声をあげて、それから急いで隠れる場所を探し出した。




「ちぇっ、次はおれの番か」


 舌打ちする達也に、英二(えいじ)がちゃかすようにいう。


「ちゃんと百まで数えろよ。五人見つかるまでちゃんと探せよな」


 ポンポンッと肩をたたかれて、達也はもう一度舌打ちしてからしゃがみこんだ。「いーち、にーい、さーん……」と数を数えていくうちに、ふと、おかしなことに気がついた。


 ――五人……? いや、待てよ、おれたち五人でかくれんぼしてたよな? なんで、五人見つかるまで探さないといけないんだ――


 英二が間違えたのだろうか? セミの声がうるさいほどに聞こえる。達也は数を数えることに集中した。


「三十八、三十九……」


 それにしてもずいぶんと暑い。おにごっこは暑くてすぐバテるから、かくれんぼしようといった自分がバカらしく思える。


 ――こんな日は、さっさと家に帰ってゲームでもしときゃよかった――


 セミの声が耳について離れない。汗もぼたぼた落ちてくる。少し数えるペースを上げた。どうせ誰も気づかないだろうし、気づいたところで、他のみんなもさっさと終わらせたいって思っているだろう。六人全員が――


「八十ろくっ……!」


 ――六人全員? いや、おれ、なに考えてんだ――


「……八十七、八十八……」


 再び数を数えていく。暑さで頭がおかしくなりそうだ。いや、もうおかしくなっているのかもしれない。数も数えられなくなるなんて。


「……九十三、九十四、九十五……、九十七、九十八、九十九……百」


 ようやく百まで数え終わった。早く帰りたい。セミがうるさくミンミンいっている。あぁ、目がまわる。なんだっけ、なにをやってんだっけ? あぁ、かくれんぼだ。かくれんぼって? そうだ、誰か人を見つけないといけないんだ。あいつは……人? いや、あいつは鬼だ。この際鬼でもいい。早く見つけて終わらせたい……。


「みーつけた」


 自分の言葉で我に返り、達也は「うげっ!」とすっとんきょうな声をあげた。目の前にいたのはあいつだった。すべり台で不格好に隠れていた、いがぐり頭の男の子だった。達也はブンブンと頭をふり、それから急に強気になって声を荒げる。


「見つけたっていってんだろ! ほら、次はお前が鬼だぞ!」


 いがぐり頭の男の子が、ゆっくりと顔をあげた。なんてことはない、どこにでもいる普通の男の子だった。別に怖がる必要なんてなかったんだ。こいつが鬼だなんて、おれはいったいなにを考えていたんだ……。


「……そうか、お前、おれのことが見えているんだな? ……じゃあ次は、おれが鬼の番だな」


 子どもの声ではなかった。ゾクッとして男の子の顔を見やると、達也は「ヒッ!」と短い悲鳴を上げた。ゆがんでいた。なにもかもがゆがんでいた。顔のパーツはあるべきところへ置いてあるが、なんというか、それが『ゆがんでいる』としかいえないような、ざわざわと胸を逆なでるような、邪悪な置きかたになっていたのだ。笑っている? いや、そんなもんじゃない。まさにそれは『置かれている』に等しかった。誰が置いたんだろう? ……鬼だ。


「それじゃ、百数えるぞ。ほら、隠れろよ」

「ひっ……ひぃぃぃぃっ!」


 のどが張り裂けんばかりの絶叫をあげて、公園から飛び出す達也を見て、他の()()があわてて隠れ場所から出てきた。


「あっ、おい、達也!」


 声をかけるが、達也はまるで脱兎のごとく走り去っていく。ぽかんとした顔で、残された四人は顔を見合わせる。


「……あいつ、どうしたんだ?」


 英二の言葉に、みんなわけがわからないといった様子で首をふった。




「いったい達也のやつ、どこ行っちまったんだよ?」


 眠気まなこをこすりながら、英二があくびまじりにいう。かくれんぼしていた他の男の子たちも眠そうだ。


「うちの父ちゃんと母ちゃんも、朝になるまでずっと探してたっていってたぜ。兄ちゃんもさ」

「いったいなにを見たんだろうな、あいつ。なんであんな叫んでたんだろう?」


 あのあとかくれんぼを続ける気にもなれずに、四人はそのまま家に帰ったのだ。そしてその夜、達也がまだ帰ってきていないと連絡があり、最後に遊んでいた四人は、達也の様子を聞かれて、そこから村は大騒ぎになってしまったのだ。


「うちのじいちゃんとばあちゃんなんか、ヒバ様が出た、ヒバ様が出たってばかりいっててさ……。なぁ、ヒバ様ってなんだろう?」


 英二の問いかけに、もちろんみんな目をぱちくりさせる。と、そのときだ。


「……ん? おい、あれ、あそこ……達也じゃないか?」


 英二が指さしたほうを、みんなけげんそうな顔で見る。そして、英二のほうを振り向き混乱した様子で聞き返す。


「あそこって、どこだよ? 誰も見えないけど」

「いや、あそこだって、ほら! おい、達也! お前いったいどこへ行ってたんだよ!」


 気づいたら英二はかけだしていた。見慣れた達也のうしろすがただ。いったいどこへ行ってたんだろう? そんなことを思いながら肩をポンッとたたく。ふりむいた達也の顔は、まるでそこに『置かれている』かのような、不自然な表情をしていて……。

お読みくださいましてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 達也も英二もきっと、初めから鬼に魅入られる素質があったんでしょうね。「置かれている」表情は、福笑いのようなものを想像して読んでいました。
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