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86話 貴族の救出




 一段ずつ階段を下りる人物の顔を確認する前に、俺は声を掛けた。


「ハシヅメはどうした?部隊長さん」

「彼なら玄関ホールで待ってるよ。仲間にフラれて随分と拗ねてしまったようで」

「あぁ、なんか分かるよ」


 声を掛けられた部隊長は焦る素振りも見せずに淡々と返す。


 小太りの貴族を下に置くとアークライン公爵が落ちないように支えた。丸腰の貴族は冷蔵庫部屋へ戻ろうとするが道が狭いため一番後ろに居るセレーネのせいで通れない。いや、セレーネが運ぶ王子殿下とやらを見て逃げるのを止めたようだ。


「狼よ、王子殿下を連れて奥へ」

「死んでも此処を通しはせん。私が死んだら次は息子が家門を守るだけだ!」


 死ぬ覚悟が出来た所で先頭に居るのは俺なのだが。


「やっぱり人間じゃなかったんじゃん」

「さっきも言った通り人間だよ…。どうせ死ぬなら…人として死にたくてな……っ!」


 駆け下りて来た所でこの狭さではお互いに剣は振れない。部隊長が本当に人間ならば…銃で撃てばこの危機は去るのだろう。しかし俺が受けた依頼は貴族の救出であり魔物の討伐でも人殺しでもないのだ。

 単純に殴りかかろうとしてこの人数相手にどうするつもりかと思えば、腰の辺りから小型のナイフを取り出した部隊長はそのまま俺の首を狙って切った。


「!その大剣を私に渡すんだ!!」

「公爵、無駄な抵抗は止めて頂きたい。この冒険者の命だけでいい……ユリウス様が目覚めるまでは大人しくしてもらおう…!」


 動脈を切ったのか…血が噴いて壁を汚すのを横目で見遣るとス、とジェインの手が俺の首を押さえて消えた。


「ユリウスって寝てんの?」

「なん、だと……?っ!!傷が、ない?!いや、コレには毒が塗ってある!お前はすぐに……っ」

「俺は寝てないのに…良い御身分で……」

「なんで動けるんだ!?ば、化け物め…っ!!」


 状態異常は効かない、切られても死なない。そんな人間が居るとは思わないよな…。本当に化け物を見たような顔をして狼狽えた部隊長に、今度は俺が近付く。ナイフを振っても短すぎるソレでは俺に届かず、階段を上がりきると窓から差し込む明かりに一瞬目を細めた。

 尻餅をつきながら後退する部隊長を見下ろして、ジェインが銃を俺に持たせたが……


「一応人間なんだろ?撃つ気はないんだけど」

「ククク…いいのかぁ?一人でもやっちまえば後は変わらないぜぇ」

「その考えはヤバ過ぎ」


 兄貴の時とは違い自分の意思で動く腕は下がったままだった。しかし銃の威力を知る部隊長は喉仏を大きく上下させて唾を飲み込んでいる。


「本当に瘴気が消えている…スワンベル侯爵!殿下を治癒師の元へ連れて行けるか!」

「伯爵の亡骸はどうしますか?あそこに放置するわけにもいかないでしょう」

「今はそんな事よりも…っ!エース騎士団第三部隊長!どういう事か説明してもらうぞっ」


 ふらついた足取りで階段を上がり終えた貴族は座り込んだ部隊長に問い詰めるが俺よりも前に出た所で腕を掴むと「冒険者風情が私に振れるな!」と言って俺を振り払った。戦意喪失しているわけではない部隊長の手には毒仕込みのナイフが握られたままだ。無駄にポークを喚びたくないため貴族の頭に銃を当てるとやっと歩みを止めてくれた。


「く、狂ったか!」

「さっき俺が首切られたの見てなかったのか?毒塗ってあるらしいよ、あのナイフ」

「銃を頭に突き付けてる奴の台詞ではないだろ!早く下ろせっ」

「なら俺より後ろに──」


 下がってくれ、と言う前に貴族の背中で遮られていた視界の先が動いたのを感じ、左腕で貴族を退かそうとしたがそれよりも早くに貴族が前に進んでいく。いや、部隊長によって引き寄せられた貴族はまんまと現在進行形の人質になったわけだ。

 首元にナイフが当たると「ひっ、」と息を吸ったような悲鳴が漏れていた。


「アークライン公爵とスワンベル侯爵が居ればこちらは問題ないんだ!お前が生かされていた理由なんてないんだよっ!」

「部隊長……っ!はな、話せば…わかるっ!」

「銃を!銃をこっちによこせ!!」


 ドラマとかで見たことがあるシーンだ、と思いながら銃を投げて渡してやる。簡単にナイフを捨てて両手で銃をキャッチした部隊長の目は血走っていた。頬を持ち上げて笑う口元からは高笑いが発せられ、その隙に解放された貴族が俺の後ろに下がると「なんで武器を渡したりしたんだ!」と唾を飛ばしながら怒鳴る。どうせ、武器を渡さないでいれば早く言うとおりにしろーとか言うくせに…


「俺のお気に入りなんだ、その銃。使わない方がいいと思うけど」

「馬鹿め!馬鹿過ぎて笑えるな!俺が冒険者のお前を見逃すとでも思ったか?!」


 向けられた銃口。俺は部隊長に近付く。


「撃つからな…っ!撃つぞっ」

「人のまま死ぬために……それでユリウスに従ってんの?」

「わ、悪く思うな……俺は、そうだ…俺はお前達を守るために……」

「誰のこと?」

「父さんは!やるからな……っ!!!」


 両手で構えた部隊長は目元に涙の膜を張ると引き金を引いた。その瞬間、溜まった涙が滑り落ち、白目を向いて後ろに倒れていく。大きく一歩前に出た俺は部隊長の背中に手を置いて支えてやり座らせる。力が抜けて下を向いた部隊長の鼻からは血が垂れて騎士の制服を汚した。


「なにが、起こった、んだ?」


 アークライン公爵はビビって抱き着いて来た貴族を押し遣ると恐る恐る近付いてくる。部隊長の顔を覗き込むと彼は白目に鼻血という悲惨な顔を晒しており、アークライン公爵は眉を顰めて俺を見た。


「気絶しているようだが…」

「まぁ、疲れてたんじゃない…?」


 銃は魔力を使って弾を出す。で、あれば魔力量が足りない場合は不発に終わる。バンパイアロードですら使えずに返してきたのだ。騎士団所属の彼に使えるとは思わなかった。恐らく魔力が枯渇して気を失ったのだろう。 


「ハシヅメの所に行こうか」

「伯爵は……」

「小太り貴族?全部終わったら好きにして」


 既に死んでいるならば焦る必要もない。

 玄関ホールに戻ると、ハシヅメは更に外へ出た所の階段に座っていた。気絶した部隊長を見て表情を変えたが貴族三人を確認すると意外にも礼儀正しく頭を下げている。


「ハイライン•アークライン公爵、ご無事で何よりです」

「久し振りだなハシヅメ…情けない所を見せてしまって恥ずかしい限りだよ」

「スワンベル侯爵も…」

「挨拶など要りません。早く王子殿下を」


「セレーネ」

「わふっ」


 引き摺っていた王子殿下を大きくなったセレーネに乗せると貴族は目を見開いて驚いていた。


「先にそうしておれば王子殿下を引き摺るなどという事には…!」

「通れなかっただろ?文句ばっかだな貴族」

「グラウディアス!お前失礼が過ぎるだろ!あのっ、申し訳ございませんっ!お前も謝れよっ」


 気を失っている奴が悪いのだが。同じく引き摺られている部隊長に関しては誰も咎めないのに。


 謝罪については無視してハシヅメに部隊長の説明をすると最初は信じられない様子だったがアークライン公爵の言葉を聞いてからは何も言わなくなった。


「父さんやるからなって言ってたから、家族が人質になってるのか…あるいは」


 既にやられたのか。どちらにせよ胸糞の悪い話だ。


「星の慈雨の使い手をガナルディに派遣してもらうしかねーよ…ローフォンドギルド長は何してんだ…っ」

「取り敢えず貴族ってこの人達だけ?アウトラに戻っていいか?」


 瘴気は消したし貴族も助けたし…そう言って階段を下りていくと本邸の方から火柱が上に舞い上がり屋根を吹き飛ばしていた。


「…お気の毒に」

「家の事などどうでもよい。まさか私の邸宅を根城にされるとはな…本当に情けない……」

「あぁそういえば…ハシヅメ、部隊長はユリウスが目覚めるまでは~とか言ってたから何か知ってると思うけど」

「……起きる気配なさそうだけどな」


 地面に転がされた部隊長を蹴ったハシヅメは唾でも吐きそうな勢いで舌打ちした。


 ドミニクと合流するのか聞けば先に状況を把握したい、とアークライン公爵と向き直ったハシヅメに、事の発端を知るアークライン公爵は階段に座り込んでから話し始める。


「バンパイアロードが現れたのは二ヶ月も前の話だ……全てがあっという間だったよ、奴の眷属となり水面下で蠢く計画を知ったのは続いてユリウスが来た時だ───」



 二ヶ月前。ソル村の襲撃と重なる時期……アークライン公爵の話によるとバンパイアロードが現れたのはソル村の方で赤い光の柱が放たれてからだという。



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