81話 自己紹介
黒竜について何か聞かれるかと思ったがそれ以上は話題にされず、俺が出した条件1と3を受け入れるという事で話はまとまった。
「ガナルディの問題が無事に片付けば水の都•スフィアの女王へ紹介状を書こう。安全な生活を保証してもらえるように特別扱いにするのもいいね」
「セトキョウスケの依頼が取り下げられたら特に隠れる必要もないし、変に勘繰られるような書き方はされたくないんだけど…」
「そう?取り下げられる事はないと思うけど…あちらの国は結構荒れているようだよ?」
アルテミスの力さえ戻ればフレイが諦めてくれる。だがアルテミスの話はしなかった。多くの信仰者は不要だと言われたからだ。人知れず、自由に世界を回りたいという元女神の願いを聞くのも使命のような気がして、女神についての話までは出来なかった。
ドドゥーとの関係は良好のようなので、ソル村について話すか考えていると俺とローフォンドの間にジェインが座る。
「はろぉ~アウトラのギルド長さんよぉ」
「……驚いた、何処から入ってきたのかな?」
「最初から居たぜぇ」
とはいえ隠れていたジェインの存在など気付けるわけがない。このタイミングで出てきたという事はソル村についての話をするつもりなのだろう。
「条件2、ソル村はある組織が関係してる。心当たりはないか?」
「…組織……魔物の統率者の事を言っているのかい?」
「ククク、群れを作るのは魔物だけじゃないからなぁ」
「つまり、人の仕業、と?」
ローフォンドの空気がピリついた。思案するように腕を組んで組織名を次々挙げていき、最終的にはゼノンダラス国の名前に行き着く。
「魔族の国の侵攻を逆手に取りソル村まで来ていたんだね…」
どうやら納得する答えを見付けたようだがソル村の人が見せた記憶とは違い、俺とジェインは目を合わせた。ジェインの口角が上がっていったので取り敢えず塞ぐと手の平に大量の唾が掛かって憂鬱な気持ちになる。
「ゼノンダラス国が関係するかは分からない。ただ、マキファンズ国の……それも冒険者ギルドが関与しているのは間違いなさそうなんだ」
「?…何処の何?」
「マキファンズ国の、冒険者ギルド」
ジェインのポンチョで唾を拭いながら答え、ちらりとローフォンドを見遣ると目を見開いて固まっていた。
「黒いローブの後ろに鷹と狼の刺繍。実行した奴等はもう死んでるけどな。…ギルド内でも細かく分けた組織とかある?」
「黒いローブ…は、ガナルディにある冒険者ギルド本部の中でもトップが配る事の出来る支給品だね。ただ選ばれたものの自由は無くなり元老会の犬になるようなもんさ」
「村人を惨殺後、モレクを召喚して全て喰われた。本部のトップの意向か、何が目的かは知らない。俺達が知っているのは無関係ではない、という事だけ」
何故実行した人物が死んでいるのか聞かれたがモレクを召喚した際に喰われた、とだけ答える。
「君達はどこでそれを?」
「間抜けなシェイドが残っていたからなぁ」
「死霊術を使える者まで居るのかい?驚かされてばかりだよ」
そういう事にしておこう…。ソファーに凭れて苦笑したローフォンドはソル村の調査方針を変えると言い、廊下で待機しているドミニクを呼び戻した。
「全ての条件を受け入れよう」
その代わり、俺達はグレンツェンと共にガナルディへ行かなければいけない。
「いいかい?ユリウスはグレンツェンに任せる事。君は君にしか出来ない依頼がある事を忘れないように」
「…分かった」
「では行こうか。私の仲間も紹介したいしな」
「え?」
「どうした?」
今から行くの?とローフォンドを見ると「何言ってんの?」みたいな顔をされ、ドミニクを見上げると「早く立てよ」みたいに見下ろされている。ジェインはグン、と伸びをして一気に力を抜くと「ベッドで寝るのは諦めるかぁ」と言い居住スペースに入っていった。
「おぉ、またかくれんぼか!凄い、見事に気配を消している!」
「さっきも突然現れたが…あの子は何者なんだい?」
「…移動方法って何かあんの……?」
外に出てギルドの裏手に回ると小屋がある。そこの当番なのか立ったまま居眠りをしている青年は俺達に気付くと慌てて姿勢を正した。
「ワイバーンを五体ほど借りる」
「五体…ですか、えっと、」
移動方法…緊急依頼の場合はワイバーンを借りる事が出来、一体に対して二人から三人は乗れるらしい。グレンツェンで三体、俺達で二体借りてガナルディまで向かうそうだ。
段々夜も明けてきており、薄暗さはあるが星は見えなくなった。
「ドミニク様!申し訳ありません…!ワイバーンは…三体しかおりません……」
「他に使っている者が?」
「その、ガルダワンへ魔族の侵略があったとの事でその調査に…Aランクパーティーのカイロス様率いるラサラス一行がワイバーンを使用中でして……」
ガルダワンが無事だと分かればすぐに戻りそうだが、ドミニクは一刻も早く向かわなければ…と歯を食いしばっているため脅えだした青年の肩を叩く。
「取り敢えず三体借りよう。俺達は後から行く」
「後から…?どう行くつもりだ?」
「まぁ、上から」
どうせ黒竜の存在は知られている。グレンツェンを先に向かわせる方が良いだろうし、無事に終われば紹介状を受け取り後は目的地に向かうだけ。寝ていない脳みそが何度か大きく揺れるが、ルゥ爺にはゆったり飛んでもらおう。
「そうか…なるほど……!私達も乗せてもらえるだろうか?!」
「ワイバーン三体借りていい?」
「す、すぐに準備します!」
「何故…っ!何故だっ!」
なるべく悪魔と同じ空間に居させたくないのとキャッツが使う広範囲展開の中に悪魔を入れるわけにはいかないのと…説明なんて出来るわけもなく、悔しそうに拳を握ったドミニクは放っておく事にする。
青年は小屋の中に入り暫くすると笛を三つ俺に渡してきた。
「これは?」
「此処にワイバーンに付けた数字があるので、これで個体に指示を出せます!3はユーリ、雌で少々荒っぽい性格ですが男性に懐きやすいです。8はキース、雄で気性が荒いですが女性に対しては優しいので大丈夫です。9はマール、雄でかなり狂暴ですが自分よりも強い者には服従しますので安心してください!」
難ありワイバーンしか居ないんだけど。まぁ、どうせワイバーンに乗るのはグレンツェンのメンバーだから問題はないだろう。受け取った笛をドミニクに渡すと小屋の奥からワイバーンが空に向かって三体飛び出し、街の上を旋回し始めた。
「…メンバーを紹介しよう」
「よろしく」
青年に軽く手を振って広場へ行くと、セレーネが起き上がっていた。走り寄るとセレーネは申し訳なさそうに「クゥーン、」と声を漏らして頭を俺の太ももにコツン、と当てる。
「もう大丈夫なのか?」
「わふ、」
「回復はしたようね。今はお腹が減ってツラいみたい」
「ご飯食べて留守番しててもいいけど」
「わふっ?わぉんっ」
「何処かに行くなら一緒に行くそうよ」
「西門へ向かいながら話そうと思うが、それでもいいか?」
ドミニクの言葉に頷き、先を歩くグレンツェンのメンバーの後を追った。
「俺達はこれからガナルディに行き、バンパイアの統率者…ユリウスを倒す…のはグレンツェンに任せて、瘴気の浄化や吸血鬼化している人や負傷者を助けるのが役目だ」
「あら、それなら私達は近付けないわね」
「セレーネと共に我も留守番とやらをしても構わないが」
「わふ?!わふっわぉふっ」
「セレーネは一緒に行くつもりよ?」
合流する前に軽く経緯を話し、これが済めばいよいよ水の都スフィアへ向かえる事を言えばベルゼテもダンタリオンも表情を和らげた。
「良かったじゃない」
目的地に着けば、俺の旅は終わる。悪魔がどうするのかは知らないが…魔界へ帰るのが100年後であるならば同じ街には居座らないだろう。
グレンツェンに近付くとそのメンバーは振り向き歩くスピードを緩めた。同じくドミニクから依頼内容を聞いていたのか表情は引き締まっている。
「改めて、私はグレンツェンのリーダー、Sランク冒険者のドミニクだ。剣を扱う」
「グレンツェンの特攻役、双剣使いのハシヅメ様だ!お前、騎士じゃなかったんだって?冒険者のくせにドミニク様の前に立ちやがっ───」
「マナト。刀を使う。よろしく」
「くぉら!マナト!俺がまだ喋って──」
「先程も名乗りましたが、Sランク冒険者、ギルバートです。また共闘出来るなんて楽しみですよ。」
「私はキャロル!武器は大槌が好きかなぁ~?あ、記憶が曖昧だけど、そっちのイケメンが私のこと抱き上げてくれたんだよね?名前は?彼女居る?」
「キャロル…はぁ~騒がしくてすまない。俺はゴーンだ。遠距離近距離どちらも…器用貧乏でな」
銀髪の女、ドミニク。茶髪の双剣使い、ハシヅメ。白縹色の刀使い、マナト。緑髪眼鏡、ギルバート。紫髪の少女、キャロル。赤髪の器用貧乏、ゴーン。
前衛が四人、魔術師が一人、そしてゴーンはその時によって立ち位置が変わるそうだ。
「俺はグラウディアス。こっちが相棒のセレーネ、たまに出てくる子どもはジェイン。無愛想なのがリオで、コレがビュートピアリー」
「ちょっと、コレって何よ」
「こちらがビュートピアリーさんです」
言い直すと満足したのか髪の毛を掻き上げてグレンツェンのメンバーを見下ろすようにしたベルゼテに「やめろ」と言って肘で小突く。相手はアウトラを代表するようなパーティーだぞ、と…。
「ふふ、いいじゃない。これから一緒に戦うんですもの。ねぇ?」
「そうだな。よろしく頼むよ、ビュートピアリー殿」
ドミニクは嫌な顔もせずに快く受け入れてくれた。そして…
「びゅ、ビュートピアリー…さん…っ、」
と、顔を赤くして背筋を伸ばした男、ハシヅメや…
「ふぉおおお!おっきい!ずるいっ大っきい!」
と、興奮しながら自分の胸元に手を置いた少女、キャロル。
ゴーンは溜め息を吐くとキャロルの手を下ろさせ、歩くように促した。そして誰もハシヅメを気にしないため動かない彼は置いていかれるが…やはり誰も気にしないのか西門に辿り着いてから振り向くとハシヅメの姿は見えなくなっていた…。
「私って罪な女ね」
「ゴキブリに雄とか雌とかあったっけ…」




