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80話 アウトラのギルド長




 ローフォンド…赤みがかった髪をセンターパートでキメてるオッサンはギルド職員と同じような制服の上に装飾の多いロングコートを肩から羽織っていた。ドミニクに案内されて階段を上がり、更に奥の通路を通るとローフォンドが扉を開けて招いてくれる。

 三人がけのソファーの端に俺が座るとドミニクは一人がけのソファーに座り、ローフォンドは俺の向かいのソファーに座った。端っこに座ったのがちょっと恥ずかしくなったが今更動けず、職員が持ってきたお茶を飲んで寛ぐフリをする。


「まず、アウトラを救ってくれた君と、君の心強い仲間達へ感謝と敬意を。そして、先程報告されたバンパイアロード…よくドミニクの到着まで持ち堪えてくれたね」

「君を追う依頼があったからこそ早くに参戦する事が出来た。これも巡り合わせだろう」

「バンパイアロードには手も足も出なかったんだ。寧ろ助けられたのは俺達の方でしょ」


 当たり障り無く…そして文字通り手も足も出なかった。二人の視線が俺から外れ、二人はアイコンタクトをするように一秒ほど目を合わせると同時に頷く。

 立ち上がったローフォンドは書斎机の引き出しから封筒を取り出し、元いたソファーに戻るとテーブルに置いてス、とこちらに近付ける。封筒を見てからローフォンドを見ると何も言わずに手の平を上に向けて「読んでみろ」とでも言うように動かした。


「……これは」

「騎士団、ヴァンス支部拠点からの報せだよ。そこに書かれている通りバンパイアはある統率者によって集結し、ガナルディ、ヴァンスを拠点にして此処、アウトラを狙うつもりだったようでね」

「元々私達グレンツェンは明日にでもアウトラを発つつもりだった」


 アウトラはガナルディの異変に気付いており、ヴァンスは俺達によって救われている。騎士団と魔法師団はバンパイアの事やガナルディについて報せようとアウトラへ…しかし計画を変更したバンパイアの奇襲は始まっており、そのまま援軍として共闘した。


「ガナルディの調査だけの予定だったけど…そんな悠長な話ではなさそうでね」


 まさか騎士団や魔法師団が冒険者ギルドに要請をするとは…しかしケインやリディアがしっかり動けた事に何処か安堵した。そしてバンパイアの統率者は間違いなく……


「ユリウス…」

「そう。ユリウス。彼をどうにかしないと我々の勝利とは言えない」

「どうして俺にこんな話を?冒険者ランクが何かは知っているだろ?」

「君を待っている間に少し調べさせてもらってね。最近ドゥーロで冒険者登録をしたんだろう?依頼の総計もかなり少ない。そしてドゥーロから此処まで来るなんて、新人冒険者ではまず難しい」


 仲間にAランク冒険者が居る、と言おうとしたが調べられている時点でそれは切り札にならなくなった。ベルゼテは何処かで冒険者登録をしたわけではなく、魔王によって偽物のギルドカードを手に入れただけなのだ。寧ろ切り札ではなく爆弾を抱えている状態に等しい。


「…いざとなったら、」

『そこの窓から飛び降りると良い。ワシがお主を拾って飛んでやるからのぅ』


「?どうしたんだい?」

「……いざとなったら逃げる。そうやって此処まで来たんだ」


 俺の気持ちを読み取ったルゥ爺に肩の力が抜け、ソファーに寄り掛かって苦笑を浮かべながらローフォンドを見ると彼も口元にだけは笑みを浮かべている。


「良い判断だと思うよ。挑戦する勇気も、生存を心掛ける慎重さも、相手を分析できる聡明さも…人間には必要な事だからね」

「君には私達と共にガナルディへ行ってもらいたい」

「バンパイアロードに勝てない俺達が行っても足手纏いだろ?」

「戦いは私に任せろ。その代わり、君の不思議な力を借りたい」


 眉間にシワが寄ったがそのままにしてドミニクの方を向くと、彼女は少しだけ顔を背けた。他言無用、といったが流石にギルド長へは無理だったか。


「ドミニクを責めないでやってくれるかい?問い質したのはこちらで、今君が持つ力について知っているのは僕と彼女だけだよ」

「力って…どの話?」

「どちらも。ドミニク率いるグレンツェンと共にガナルディへ行き、瘴気の浄化…及び負傷した貴族の治癒が君への依頼内容だ。これは特別な魔法が掛けられているから内容の開示はされないようになっているよ」


 渡された依頼書はドミニクが持っていた簡潔的な依頼書とよく似ていた。『瘴気を浄化し、負傷者を救え』たったそれだけ書かれた内容は俺の意思で隠れ、しかしローフォンドの判だけが残る。

 これを受けたとして…もう二度と会わないだろうと思っていたグレンツェンと共に行動するのは気が引けた。だがドミニク無しでユリウスという統率者に勝てる気はしない。


 俺は依頼書をインベントリにしまい、ドドゥーからの紹介状を取り出す。


「これがまず条件1」

「おや、ドドゥー•ドゥーロの」

「それと条件2、信頼できる者にソル村の調査を願いたい」

「…ソル村?…ちょっと待ってね、ドドゥーは昔の戦友なん……だ…、あぁ、そうか、君は……」

「条件3、力は貸す。けど、俺には構わないでほしい」


 紹介状を読み終えたローフォンドは表情筋を落としてしまったかのように口角を下げると俺を見つめる。ドミニクは首を傾げ、しかし他の街のギルド長からの手紙など奪うわけにはいかないのか分かりやすくソワソワとした。


 手紙がくしゃり、と音を立てて皺を作る。


「水の都•スフィアへ行きたいそうだね?」

「繋がりがあるなら紹介状を書いてほしいんだ。ドドゥーからアンタを頼れって言われてる」

「条件1は簡単だよ。スフィアの女王とは縁があってね。それで、ソル村については…こちらも調査はしているが何も掴めない。何を目的にソル村を狙ったのか…それとも悪魔の気まぐれか」

「何かを掴んでいるとしたら?」

「!…是非、聞いてみたいな」


 今は話せない、とだけ言って様子を見ることにした。公にされて困るなら俺達を始末するだろうし…何も無ければローフォンドはマキファンズ国の冒険者ギルドが絡んでいることを知らない。そんなに単純な考えでもいいのかと一瞬頭を過ったが俺には逃げ道がある。

 少なくとも最後の条件を聞き入れてくれるならばローフォンドに害はないはずだ。


「ドミニク、一旦席を外してくれるかい?」

「何故だ?私にも聞く権利はあるだろう?」

「Sランク冒険者に選ばれた者はそれなりの力を得られる。だが、アウトラの冒険者ギルドトップは僕だ。それを忘れてはいけない」

「…………分かった。席を外そう」


 ローフォンドの言葉に素直に従ったドミニクは部屋から出て行った。


「君に興味があるのかな。年頃だね」

「冗談きつい…」


 Sランク冒険者に目を付けられて良い事があるとは思えず顔を顰めると笑われた。ローフォンドがドミニクに席を外させた理由は条件3に触れるためだろう。その配慮に息を吐いて、背筋を伸ばす。


「さて…最近マキファンズ国でも依頼が殺到しているセトキョウスケが君である、というのは事実かい?」

「ドドゥーがそう書いたならアンタは信頼できるって事でいい?」

「はは、見極めを諦めるのは利口じゃないね。ゼノンダラス国が血眼になって探している人物が目の前に居て、僕が君を捕まえるのは簡単な事だよ。恩を売るチャンスを逃すかな?」

「…俺のことを調べた時点で分かってたんじゃないの?ドドゥーと知り合いなら息子の名前くらい知ってると思ったけど」


 グラウディアス•ドゥーロはドドゥーの息子だ。しかし最近冒険者登録をしたのはグラウディアス•ドゥーベンであり、セトキョウスケの依頼が回り始めた時期に現れた…知人の息子と同じ名前の人物。結び付けようと思えば出来るだろうし、そうじゃなくても俺が何者なのか疑うはず。

 それなのに招き入れ、依頼の手伝いまでさせようとする。


「まぁ…そうだね。グラウディアス君の名前を使っているのは何故か…だが登録はドゥーロでされているからドドゥーの考えがあるんだろう、くらいにしか思わなかったよ。名を騙ろうとしているわけじゃないから問題にするつもりはないしね」

「…セトキョウスケでも?」

「ドドゥーが君を僕に託したんだ。裏切りはしないさ。それに…君が従える魔術師が必要だからね」


 鋭い双眸で見られ、大剣が震えた。視線をそちらへ向けるといつの間にかテーブルを越えたローフォンドが俺の喉元に小型ナイフを向けており目線だけ動かす。


「一応さ、僕はアウトラに何人ものSランク冒険者を従えているんだよ。彼等がアウトラに所属する理由は…セトキョウスケ君、分かるかい?」

「…アンタの方が強いから?」

「うん、正解。その大剣に黒竜が宿っているね。会話は?」

「……出来る」


 喉元の刃物が無くなり、ローフォンドは俺の隣に座ると窓の外を見ながら「それは素晴らしい」と呟いた。





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