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78話 剣聖に国宝武器=鬼に金棒



 俺では目で追えなかったバンパイアロードの動きをドミニクは息も乱さずに捉え、更には迷いも無く剣を振るとバンパイアロードは斬られたのか肩口を押さえながら後退した。口元の笑みは引き釣り、俺達の事など眼中にはないようだ。


「単身で乗り込んでくるなど、随分と舐められたものだな」

「お望みであれば私の眷属をご覧頂きましょうかねぇ」


 逆再生したような音が聞こえ、無数の影が動く。そこから現れたのは種族などバラバラの闇落ちしたはぐれ魔物。姿を晒すと同時に襲いかかる魔物をドミニクは剣を何度か振るうとカタールの時と同じように衝撃波を飛ばして斬った。


「ほら治ったからね。人に斬られるなんて君は何を考えてるのかな?…はっ!!もしかして僕の仕事を増やして痩せさせようとしてるの?!」

「…セレーネ、」

「無視!?はぁ…今はゆっくりさせてやりな。上級バンパイアの血液が脳に回ると眷属化させられるんだから。それがバンパイアロードとなると…ここまで堪えられたのはあの女神の眷属だから以外に考えられないよ」


 黒く固まった毛を解し、手についた血の塊を握る。少し離れた所で黒い棘に刺されて動けなくなっている悪魔二体を銃で狙って撃つと、解放されたベルゼテは肩を回し、ダンタリオンは不貞腐れたような顔をしながら近付いてきた。


「弾丸が足に当たったわよ」

「我の横腹も抉られたのだが」

「動けなかったくせに文句言うなよ」


 どうせ聖属性でやられない限り再生するだろ。セレーネが動けないためドミニクを置いて離れる事は出来ず、アウトラから速やかに逃げる俺の計画は終わってしまった。


「街に入る時に先頭を歩いていた人間ね…」

「あの女がバンパイアロードを倒せるってかぁ?」

「影の国って未来なんだろ?そこにバンパイアが居ないならどっかで滅びてるはずだ」


 物語をなぞれば主要人物は居るだろう。グレンツェンのリーダー、剣聖と呼ばれるSランク冒険者が脇役だとは思えない。

 勿論、序盤で処分されるはずの俺でも何かしらの影響を与えることは出来た。二つ前の物語に登場しそのままお役御免となったベルゼテが地上へ出た事も、ダンタリオンが魔界へ帰るために同行し魔物の統率者リッチとの関係を終えた事も、ルゥ爺の封印を解いたのも…魔王の右腕と呼ばれる巨人を倒した事も…。何かしらの影響、に繋がるはずだ。

 だが、俺達で倒せないならそれは仕方の無いこと。


「偶然か、それとも必然か…バンパイアロードが狙った街にはSランク冒険者が居た。そして未来でもある影の国にバンパイアは存在しない」


 はぐれ魔物を一掃したドミニクは剣を構え直した。先程までの余裕はなくなり口元の笑みを消していくバンパイアロードは、何度も姿を消してはドミニクの背後を取ろうとする。


「そろそろ時間だ。バンパイアロード、貴様の負けだな」

「興味…深いですねぇ!これ程の力を持つ人間を従えれば…ユリウスも私を恐れるでしょう…!」


 剣を払ったバンパイアロードはドミニクの肩を掴むと首元に顔を寄せた。新たな武器を取り出すと同時にドミニクの腕は宙を舞う。


「私の血に…何処まで抗えますかねぇ?」


「ポーク」

「人使いが荒いね…そうだ、シュークリームが食べたいからよろしくね」


 マドレーヌはないのにシュークリームはあるのか。


「ドミニク」

「!」


 ドミニクの腕が治ると同時に国宝武器である片手剣を投げる。状況は理解していないであろうドミニクはそれでも疑問など持たずにソレを受け取るとバンパイアロードの胴を斬り、斬った腹を蹴るとすぐさま間合いを詰めて首を狙って腕を動かした。


「その剣、は…」

「私が勝つ時、お前は何も語れない」

「ま、待つのです。そうですねぇ、首謀者でしたね?私ではありません。私を此処で殺してしまえばあの街の人間など…!」

「そうか。問題ない」

「まっ──」


 頭が飛んで転がる。此方を向いて止まったそれと目が合った気がして…


「体験後の感想は?」

「ステータスの低さ…それを補う不思議な武器があろうとも…私の足元にも及ばない人間が…何故、あぁ…いいです…」

「っ、危ない!」


 体が灰になって消えていったにも関わらず首だけのバンパイアロードが俺に向かって飛んできた。見事に俺の首に牙を当てたバンパイアロードは徐々に灰になって風に流されていく。


「私が消えれば新たなバンパイアロードを生み出すだけですからね…これで、滅びませんねぇ~!」


 充血した目が俺を睨んで、弧を描いた。


「俺がバンパイアロードになるって事?今よりは強くなって生きやすそうだな」

「ククク、残念ながらグラウディアスに状態異常なんか掛からねぇけどなぁ」

「あー、まぁ…だろうと思った」


「!!!何故…何故…っ!」


 ───ザンッ、


「首だけで動くなんて気色が悪いな。灰になりやすくなるよう手伝おう」

「こんなはずでは、っ─!!」


 言葉通りに手伝ったドミニクによってバンパイアロードは灰となり、赤い魔核を落として消えた。


 元々、バンパイアは滅ぶ運命だった。だけど、もしかしたら『此処で』は無かったのかもしれない。

 例えばマキファンズ国の剣聖があのまま血を吸われていたら…そしてゼノンダラス国へ攻めていたら。物語の本編に組み込まれるはずのイベントに過ぎなかったとして…主人公達が乗り越えるべき一つの壁だったとして。しかし結果は 滅び だろう。


「貴様!治癒師だろう?!何故この者の治癒をしない!」

「僕に言ってる?治癒なんてする必要ないよね?だってソイツは──」

「もう治してもらったから!ほら、…なんもないだろ?ポークもご苦労様、シュークリームな!シュークリーム買っとく!」


 背中に乗ったジェインが首を押さえたから傷も消えているはず…その望みにかけて言えば叶ったのかドミニクは安心したように息を吐いた。


「黒竜を操れると聞いたが、呼んでいればあのくらいの魔物はすぐに倒せたんじゃないか?」

「倒せても、黒竜がバンパイアロードに一度でも噛まれれば…それを止められる者は居るかしら?」

「ローブの女…他の門を守ってくれたそうだな。アウトラを代表して感謝しよう。それに、そうか…自我の崩壊した黒竜が相手では私でもどうにも出来んかもしれないな」


 困ったように笑ったドミニクは俺に剣を返した。国宝武器…バンパイアロードが興味を示していた武器。これを持ったドミニクによって戦況は変わった。


「凄く良いモノを持っているな。羨ましいよ」

「…俺達は行かないと」

「いや、それは出来ない。私はある依頼を受けて再び此処に来たんだ」


 1枚の紙を取り出したドミニクはそれを見せる。

『騎士姿の男をアウトラへ』


「すげぇ簡潔で分かりやすい内容、だな」

「ははっ!私もそう思ったよ」


 このままアウトラへ戻った所で何が待つのか…既に騎士団や魔法師団の所属ではないとバレているだろう。瘴気の浄化については…ギルバートの口止めをした記憶がないし、黒竜の存在は大問題。

 ベルゼテを見ると目を逸らされたため、恐らく人前で絶魔法を使ったな。


「悪いけど俺達急いでるから」

「そう言うな。私からも礼がしたいんだ」

「礼なら今もらうよ。俺達の事は見なかったことにする、っていうのでどう?」

「変な事を言うんだな?」


「ヴァンスが襲われた件は聞いているかしら?」


 ベルゼテの発言にドミニクは振り向いた。


「あぁ、騎士団から冒険者ギルドへも報告があった。なんでもとある冒険者に助けられた、と」

「まだ終わっていないわ。奴等の狙いはケインという騎士学校に通う生徒…そして今回のアウトラ奇襲。ヴァンスに居た魔物もバンパイアロードも同じ名前を口にしたの」


 『ユリウス』。まだ姿を現していないソイツはまだガナルディに居る可能性が高く、貴族も人質になっている。バンパイアロードが負けた事によりその人質が未だに無事と考えて良いのかは分からないが…


「なるほど…それで急いでいる、と。さすが冒険者だ」


 やはり冒険者だと知られていた。


 このまま見逃してくれない雰囲気と、セレーネが起き上がらないため強行突破も出来ず…


「我が手を貸そう」

「…やめておく」


 ダンタリオンの幻覚がSランクの冒険者に効かなかった場合の事を考えると…切り抜け方が見付からなかった。



「そんなに脅えなくても大丈夫だ。アウトラの英雄だぞ?ローフォンド…アウトラのギルド長も会いたがっている」

「アウトラのギルド長?!」

「あ、あぁ…私はギルド長が出した任務しか受けないからな」


「…危険はあるのかしら?」

「あるもんか。何度だって言うが君達はアウトラを救った。黒竜についての言及はあるだろうが…ギルバートが君と黒竜は意思疎通が出来る、と言っていた。ならば尚更、君達に危害をくわえようとはしないさ」


 どうせ切り抜けられない…だがギルド長に会うチャンスでもある…。わざわざ遠回りしないで水の都スフィアまでの最短ルートを進む事が出来る。

 ベルゼテやダンタリオンが俺の判断に任せる、と言うとドミニクは俺を見て返事を待った。答えは決まっているようなものだが、武力行使をせずに待ってくれるドミニクには好感度が上がる。


「…セレーネの事もあるし、行くか」

「せっかく次の街を見付けてやったのによぉ」

「悪かったよジェイン」


 俺の後ろで拗ねたジェインの頭に手を置くと、ドミニクはジェインの目線に合わせるように膝を曲げて「君がジェインか…っ!かくれんぼが上手なんだな」と笑って手を伸ばしてきた。ジェインはその手を払うと居住スペースに引っ込んでしまったが。


「消え…精霊か…!?」

「…いや、ただの反抗期…」


 横たわるセレーネに小さくなれるか聞けば、薄く目を開けたセレーネはいつものサイズに戻ってくれた。立ち上がろうとしたのでそのまま抱き上げ、俺はセレーネの首元に顔を埋める。





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