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70話 キキラは特殊な魔術師




「俺の依頼を横取りしやがって!」

「言いがかりよ!私達は手順を守ってるわ!」


 依頼の取り合いらしい。よくある光景のようでギルド職員は二つのパーティーを引き離すと、近くに居た冒険者達も宥め役をしている。

 この隙に逃げ、ゴーレムを討伐して魔核を納品した所で依頼を受けていないためランクは上がらず…かと言って今から受注しに行けばキキラは付いてくる。


「はぁ~…」

「お願いします!この通りですからっ」

「何かを見ても他言無用…覚えておいて…」

「…?わかりました!」




 ゴーレムが居るのは遺跡の近く。Cランクへ上がればダンジョンへ入る事も出来るらしい。


「ダンジョンへ入ればランクも上がりやすいですよ!」


 まずはCランクに上がるためにゴーレムの単体討伐。わざわざセレーネやダンタリオンを紹介するわけにもいかず俺達はそのまま遺跡を目指した。道中でキキラの話を聞くと、元パーティーメンバーは既にBランクに上がっているそうだ。


「新しく入った魔術師は広範囲魔法が得意でして…」

「キキラは何が得意なんだ?」

「あはは、それが…まぁ、なんというか…」


 遺跡が見え、ゴーレムを視認する。三体居るがそれぞれ別の方向を向いており一体だけおびき寄せれば依頼達成だ。まぁ、その一体が魔核を落とせば、の話だが。


「まずお話しするべきは魔法というよりも私の特異体質と言いますか…」

「…おい、三体ともこっちを向いたぞ?」

「気付かれるような位置では無かったはずだけれど」

「その…」


 三体のゴーレムが此方を向いて歩いてくる。長く太い腕を地面に付けるとほぼ四足歩行になり、次第に移動するスピードも上がっていく。


「挑発、でして」


 あはは。 それは随分と乾いた笑い声だった。

 目の前に現れたゴーレムは見上げるほどの大きさで、振り上げられた手がどうなるのかは予想通り…


───ドォオオオンッ!!


「っ、コイツから片付けるか!」


 一発の叩きつけで地面は抉れ、土埃が舞う。ベルゼテが人前で魔法を使えば悪魔だと知られる可能性もあり、仕方が無く銃を取り出したがベルゼテに止められた。


「セレーネが居ないのよ!」

「っ!」


 そうだ、魔核を落とさせなければいけない。キキラの特異体質が挑発ならばゴーレムはキキラを狙うはず、と弓を構えられる距離へ移動すればゴーレムはこちらに付いてくる。


「!?」

「ちなみにもう一つありまして、」

「何!」

「ステルスと言って、敵意あるモノからは認識されないんです」


 ゴミ過ぎるわ!遠くの敵をおびき寄せるくせに自分は認識されず、そして…


「キキラ!魔法を!」

「は、はい!えーと、私の名の元に力を貸したまえ…奪え、奪え…シャドウ!闇の支配をっ!」

「これは…っ!グラウディアス!ジェインに従いなさいっ」

「は?!う、わっ」

「ククク…力を抜いとけぇ」


 キキラは魔法を放ったようだが何も変わらない。…いや、ゴーレムは動きにくそうではあるが、木にぶつかりながら俺を追ってきている。ベルゼテとジェインに言われた通り力を抜いてジェインに任せると、ベルゼテはケルベロスを召喚し、丸々と太った犬がぽて、と地面に寝転がる。


「ケルベロスちゃん!そこに居る人間を連れて離れなさい!」

「俺様に命令だと?この前も鉱石竜なんかとぶち当たりやがって…!」

「お礼は…マドレーヌよ!」

「…なんだソレ?」

「フワフワで甘くて…あぁ、食べたことがないなんて可哀想ね…」


 そんな事であの駄犬が動くわけがない…キキラの前ではあるが永遠に逃げ続けるわけにもいかないため、インベントリから武器を取り出そうとすると自分の意思とは別の部位が動く。右手を動かしているつもりなのに首が左を向き、右足で止まろうとすれば左腕が後ろに下がってしまうのだ。


「ジェイン!遊んでる場合かよっ」

「ちげぇ。あの女ぁ、メンドーな魔法を使いやがるなぁ」


「あれ?失敗しちゃいましたかね?!」

「いいえ、成功よ。貴女は此処に居るモノ全ての中枢神経を麻痺させてるわ!元メンバーにもこんな魔法を使っていたの?!」

「あ、魔法は使うなーって言われてましたね…」


 でもさっき魔法を!って言いましたよね?と。確かに言ったがこんな魔法だとは知らなかったわけで。中枢神経の麻痺という事は…なんだ?体が思うように動かなくなる、という認識でいいのだろうか?しかしジェインに任せれば俺は動ける。そして後から喚ばれたケルベロスも自在に動けるようで、ヨダレを垂らして尻尾を振り始めたと思えばぴょん、ぴょん、と飛び跳ねるように移動を始めた。

 移動する度に体は大きくなり、キキラの元に辿り着いた時にはセレーネより一回り小さいくらいの大きさになっている。


「きゃっ!な、なななんですかこのわんちゃん!大きくなりましたよ!」

「さっさと連れて行きなさい!」

「チッ、まどれえぬのためだからな!」

「うぇ?!喋っ…あっ!ちょ、ま、あぁあ!ぅあああああっ!」


 ケルベロスはキキラを足をくわえるとそのまま引きずって離れていく。


「グラウディアス、幸運に補正が付く武器はあるかしら?!」

「弓だ!ジェイン!」

「はいよぉ」


 弓を取り出し矢を形成していく。キキラとの距離が離れたためかゴーレムの動きがなめらかになり、俺も自分の意思で矢を射った。


「これは魔核が落ちたなぁ」

「んじゃ、他二体は用なし!」


 銃に持ち替えて俺を囲う一体を撃ち、ベルゼテは自分の目の前にいるゴーレムに対して指を鳴らすとゴーレムが爆発した。

 岩が崩れていく様を眺めながら溜め息を吐くとジェインが魔核を回収し、ベルゼテは腕を組んでケルベロスの帰りを待っている。


「クビになって当然過ぎるだろ…」

「低ランクでアレを経験し、高ランクで解放されればランク上げも楽になりそうね」

「あー、重りを外した感じの…」


 意図せずに挑発とステルスを発動してしまうならばパーティーを組まない方がいい。ケルベロスに引きずられて戻ってきたキキラを見下ろし、一応手を差し出す。起こしてやるとフラフラしているキキラはゴーレムが居ない事を確認すると驚いていた。


「三体ともどこへ?!」

「倒したわよ」

「わぁあ!凄いっ!ゴーレムに物理は効かないですし、お二人とも遠距離って言ってましたもんね!見たかったですぅ」


 銃や弓は物理だと思っていたが…魔力を使って矢を形成したり、弾を撃っているならば物理判定にはならないのだろうか?しかし今はそんな事よりも…とにかくキキラはパーティー行動が向いていない事を伝えてやるのが先だ。

 実力のある低ランク冒険者ならば枷を設ける事で自身のレベルアップに繋がるかもしれないが、ランクを上げるとなれば共に行動するにはリスクがありすぎる。


「…他にはどんな魔法が使えるんだ?」

「私の適性は闇でして!闇の精霊シャドウは先程のように敵の行動を制限したり、他にも視界を奪う目眩まし、重力加速などもありますよ!」

「敵の…」

「やってみます?」

「いい!大丈夫!なんとなく分かるから!」

「そうですか…」


 なんで落ち込むの?!


「殺傷力はないのね…シャドウなら仕方が無いわ」

「闇ってこういうもんなのか?」

「下級精霊であるシャドウは主に状態異常を引き起こす…所謂デバフに重宝されるのだけど…上級ディアベルに認められれば悪魔を召喚する事も出来るわよ」

「あはは、私はそこまでの魔力がないので…でも皆さんの役には立てました?」

「よーく聞いて、よーく理解してほしい」

「??」


 アウトラへ戻りながらキキラの能力について、そしてパーティーとして共に行動するリスクについてを話す。それでも良いからパーティーを組もう!という奴はまず居ない事、居たとすれば疑った方が良い事…


「もちろん良い奴も居るかもしれない。けど、その良い奴を危険に晒すのが自分だとして、キキラはそれでいいのか?」

「良くありません!」

「だろ?自分でコントロール出来ない限りパーティーを組むのは諦めた方がいい」

「そんな…」


 ソロだとしても火力がないキキラでは、冒険者を辞めろ、と言われているようなものだった。段々と口数が減り俯いて歩くキキラを励ましてやるような言葉は出て来ない。もうこれ以上は付いてこないだろう、と確信でき、アウトラのギルドに着くとキキラは「ありがとうございました」と言って笑った。少し引き攣った頬や今にも泣き出しそうな目元には気付かなかった事にする。


「私は…冒険者にはなれないんですね」

「…冒険者よりも向いてる職があるかもよ」

「あはは…何をやっても褒められた事なんてないんです。私は…落ちこぼれなんですよ。自分を変えたくてアウトラまで来たんです。帰る家など既にないというのに…。もっと早く、諦めていれば良かったですね」


 ギルドの扉を開けると複数のパーティーが荒れているようで、中には武器を構えている冒険者も居る。職員が止めようとしても聞く耳を持たず制御出来ないでいるようだ。


 俺は扉に寄り掛かって中の光景を眺めた後、キキラを見て中の様子を親指で差す。


「キキラの魔法でアイツ等の行動制限すれば?冒険者じゃなくてギルド職員になる、とかさ」


 そんな簡単な話では無いか。と、ただの思い付きを口走った事を笑って誤魔化すと体がズシッと重くなった。


「さぁ皆さん!ギルド内での私闘は規約違反ですよー!」


「な、なんだぁ?!」

「体が重…い、ぐぁ!!」

「真っ暗になったわ!どういう事!何も見えない…っ」

「あ?!なんだ、体が思うように動かねぇ!!」


「キキラ…?お前、まさか…」

「シャドウ!更に魔力増幅しましょーう!」


 依頼を巡っての争いは無くなったが…その変わりに阿鼻叫喚と化したギルド内は先程までの光景よりも入りたくないという気持ちが増すばかりだった。後から入ろうとした冒険者が「敵襲か…?!」と身構えるのも無理はないだろう。





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