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59話 閑話•ガルダワンにて





 ━━━━━━•••




 ガルダワンの街に空から大きな塊が落ちてきた。土埃を上げたその塊が魔族からの攻撃ではないか、と冒険者達が集まるがダリンズ不在の今を仕切る者は居ない。お前が見てこい、いやいやお前が…、なら一緒に……。そうやって冒険者達は複数人で塊を見に行く。


「なんの騒ぎだ?!」

「もうー!マクウェルさんーっ!なんでもうちょっと待てないんですか!」


 治癒師エリスは嘆く。ランクが高いわけではない彼女は時間をかけてマクウェルの傷を癒しているわけだが、マクウェルが動くため終わらないのだ。正義を貫く冒険者道を行くマクウェルはそんなエリスの嘆きに気付けぬまま騒ぎの中心に現れた。


 土埃が薄くなり、塊の正体が晒される。


「キャァアアアアアアーーーー!!!!!」

「下がれっ!魔族だ!!魔族が来たぞっ!」

「どうやって街の中に!!」


「待て、…死んでる…ぞ」


 マクウェルの言葉にハッとした周囲の人間は恐る恐る再確認する。落ちてきたのは 巨人の首 で間違いなさそうだ。額に穴が空いたその首は息をしておらず、動きそうにもない。


「作り物…では、ないな」


 皆が一歩下がった所で様子を見る。マクウェルは剣を取り出して突いた。


「どうした!」


 ダリンズの登場に皆がホッと息を吐いた。人の壁はすぐに退かされ事情を話したマクウェルは、次第に表情が強張っていくダリンズに気が付く。


「どうしたんですか、ダリンズさん」

「…はっ、」


 来た方向を振り向いたダリンズに釣られてマクウェルもそちらを見遣ったが、特に変化はなかった。そういえば話があると言って門から出ていったのに、何故グラウディアス達は居ないのだろうか…。マクウェルは辺りを見回すが見付けることは出来ないまま、そしてダリンズが走り出したため反射的に追う。すぐにエリスに捕まってしまったが。


「いい加減にしてくださいっ」


 エリスは涙目だった。マクウェルが心配だからではない。治療を早く終わらせる事が出来ず無能扱いされそうで不安だったのだ。

 ダリンズが向かった南門にはステラとナナが居た。あの騒ぎがあればこの二人も向かいそうなのにそうしなかったのは、既に魔族の脅威がないと知っているからだろう。戻ってきたダリンズに気付いたナナはダリンズに抱き付いて見上げた。聞いて欲しい話がたくさんある。今すぐ話したい事がたくさんある。

 幼い頃から二人を育てたダリンズは表情を見ただけで分かったが、今は戻ってきた二人が無事であった事を喜ぶだけにしよう、と決めた。


「ダリンズさんっ!あのね、」

「グラウディアス君の事は内緒にしてあげよう」

「なんで~?本当に凄かったんだからぁ」

「彼がそれを望んでる。この事は誰にも話さないと約束してくれるか?」

「わ、…わかった」

「そっか…言っちゃいけないんだね」


「さて。空から巨人の首が降ってきてな!…二人はルノドフガンズの顔を見たか?」


 気を取り直したように声色を変えたダリンズに、ステラとナナは頷いた。間近で見たわけではないが、ルノドフガンズであれば額に穴が空いているはずだ、と確信を得る証言をしたためダリンズは溜め息を吐く事で気持ちを落ち着かせる。

 南門の先は静まり返り、既にグラウディアス達は去ったのだろう。


 あの首をどうやって街の中に落としたのか…だが、救ってくれた彼が詮索を望まないのだから仕方が無い。ダリンズは大きく息を吸った。


「魔族•ルノドフガンズの首だ!街は救われた!!」


 突然大きな声で発した言葉は他の冒険者達によって繰り返されていく。ダリンズが言うのであれば間違いない。誰も疑わない。


「……ステラ、」


 ナナに呼ばれたステラは南門の先をじっと見つめて動かなかった。ダリンズが頭に手を置いて、やっと振り向いたステラは何かを決心したように力強い眼差しでダリンズを見上げる。


「処理が大変そうだ。ステラ、ナナ…手伝ってくれるか?」

「「もちろんっ!」」


 頼られた事の嬉しさから即答する。ダリンズの後を付いていくステラとナナは顔を見合わせ、何が、とは言わずに二人は「内緒にしよう」と声を合わせた。


(グラウディアスの次の相手は悪魔……こんな所で時間を潰させるわけにはいかない。此処のことは私達に任せて、絶対に内緒にするから)


 そんなステラと、


(ステラがダリンズさん以外に抱き付いたなんて内緒にしてあげなきゃね!)


 そんなナナの心情は 内緒 のため誰にも悟られず。



 ガルダワンの危機を救った者が誰なのか…ギルドが調査隊の結成を決め、それに志願しリーダーになったダリンズによって……調査が難航する事になるのはグラウディアス達が旅立ってから数日経った頃の話だ。




 ───カーンッ、カーンッ……


「チッ……ルゥの奴…復活しやがったな」


 平和を取り戻したガルダワンの北門近くの鍛冶屋から小さなぼやきが漏れた。それを消したのはドワーフ自らが打つ鉄の音だ。ドワーフは舌打ちしたにも関わらず、何処か安堵にも似た表情を浮かべると鼻先を搔いた。


「…すまねぇな」


 その謝罪は ルゥ に対してか、それとも大剣を押し付けた名も知らぬ青年に対してか。名匠ガルーダ。何代にも続きその名を受け継いできたそのドワーフは今日も鎚を振り下ろす。




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