55話 戦闘開始•対魔族
銃弾は鎧を突き破って貫通する。トカゲは目を開けたまま倒れると赤い魔核を落として消えた。
「ぐ、グラウディアスっ」
「セレーネ!二人を」
「わふっ」
セレーネはステラとナナの元へ行き、俺は振り返り様に残りのトカゲ二体を撃った。銃弾が当たる前に「リザードマンヲ舐メルナー」とか言っていたのでコイツ等がリザードマンだと知る。二メートルは超えている大きさだが、巨人であるルノドフガンズはもっと大きいのだろうか。
「やっぱセレーネが居ると魔核が落ちるみたいだ」
「ちゃーんと拾っといたぞぉ」
「行くか…ステラ、ナナ」
何も言えずに俺を見上げる二人を放置するわけにもいかず、かといって歩かせるのも難しくなった。
「セレーネ、乗せてやれるか?」
「ヴゥ……わふ、」
嫌そうな顔をしたが俺の願いを聞いてくれるセレーネは元の大きさに戻り二人を背中に乗せた。ステラとナナは重なる驚きに口をパクパクとさせているがゆっくりしている時間はないため、このまま開けた岩場を駆ける事にする。
不安定な足場でも正確に進めるようにジェインが俺に憑き、セレーネに振り落とされないようにステラとナナは顔を伏せてしがみつく。
「リザードマンが向かってたのはこっちだよな」
「だなぁ…おっと、」
「っ!」
割れ目で足首を捻ったがジェインによって反対の足が先に出ると体勢は整えられ走り続ける。次第に低い山もなくなり視界が開けると途端に空の色が濃紺に変わった。
「うそ、だろ」
「ククク…あは、ははっ」
「その人数で俺等とやり合おうって?随分と舐められたものだなぁ」
ズラリと並んだ異形の集団。真ん中にはゲームによく出てくるワイバーンを手懐けている大きな男が立っており、俺達を視認したのか背負っていた長柄の斧を両手に持った。鎧は全身金色で顔まで覆っている。そのデザインは悪趣味な髑髏がモチーフにされていた。
「こっちが本命ってかぁ?」
「まじかよ…」
ステラとナナを連れてセレーネを行かせるか…もしそこで瘴気が発生していれば耐えられる者が居らず行動不能になるという賭けでもある。このまま戦闘が開始されたとして、俺やジェインは簡単に死なないが…
「こっちを選んで正解だったろう?正面からは嫌な気配がしていたからなぁ!」
「グッフフ、ルノドフガンズ様の御言葉通り、あちらには悪魔が二体も現れたそうで」
「だろう!俺達は悪魔なんぞに用はねぇ!魔王様に逆らう人間が殺せればそれでいいんだ。あっちに残した兵は気の毒だがなぁ」
「ベルゼテとリオはさっさと片付けてこっちに来てくれると思うか?」
「それまでの時間稼ぎかぁ?それともやっちまうかぁ?」
「…」
数がヤバイ。両端の魔族が前に出れば俺達は簡単に囲まれ、そうでなくても俺が単身で突っ込めばセレーネ達は孤立する。こういう時にキャッツの範囲魔法が使えれば一網打尽、だが他の被害も大きいだろう。
「銃弾なら貫通はするけど良くてダブルキルか」
「カタールはどうだぁ?」
「まずは好かした村人君を喰っちまうかぁああ!」
「「「「ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」」」」
「考えてる時間はないなっ!」
地鳴りのする行進。ルノドフガンズはその場から動かず様子見している。
俺はカタールを取り出して振り、前の隊列を崩した。ある程度の距離がある中で突然味方が切断されると魔族は更に雄叫びを上げて突っ込んでくる。
「チッ、やっぱ数が多すぎる!」
「わふっ!」
「セレーネ!回り込まれないように右側気を付けてくれ!」
「わ、私も!!」
ナナはセレーネから降りると杖を取り出して詠唱を始めた。それを守るように剣を持ったステラが構える。どちらも震えているが、降りてくれたお陰かセレーネは近付いてきた魔族に次々と爪跡を残していった。
俺はカタールを右から左へ振り、更に右へ振り切ってから銃に切り替えて左から回り込もうとする魔族を撃っていく。更に空いた手で杖を取り出して振りキャッツを喚んだ
「キャッツ!広範囲展開!ナナのサポートをっ」
「ま、まま魔族の群れですか?!一体どういう…はっ!まさか自分にチャンスを…?ぶっ放して良いのですね?!」
「サ ポ ー ト !!」
「ちっ」
今舌打ちしたか?!
くる、と回ったキャッツの魔法陣に乗ったナナは自らが形成している魔法陣が大きく広がった事に気付き、しかしそのまま詠唱を続ける。
「火の精霊、サラマンダーよ…焼き尽くせ…焼き尽くせ…炎の刃を…っ」
「ほう、火の精霊ですか。それならば自分も少しお手伝いしてあげましょう」
「──!!」
空中に現れた燃えているトカゲは拗ねたように頬を膨らませるとキャッツの頭に乗った。炎の刃はキャッツの周りを飛び交い魔族へは向かっていかず、ナナは絶望したように唇を噛む。
「お願いだよ…、サラマンダー……」
「さぁ、若き乙女に力を貸して差し上げなさい…イフリート!」
「……へ?なっ?!上位精霊なんて…っ」
ナナが形成した魔法陣は明るい赤色から褐色に変わると二足立ちの燃えた魔牛が現れ…
「どうぞ」
軽く会釈したキャッツのそれが合図のようにイフリートは魔族へ突進していった。
「余所見とは余裕だなぁグラウディアスぅ」
「っ!まぁ、な!!」
「ルノドフガンズ様!人間!近付ケナイ!」
「喰らえ喰らえ!怯むな!ルノドフガンズ様に醜態を晒すなぁ!」
体当たり系の魔族が近付く前に処理していくと紫色の光が見えた。雷が走る球体のようなものは空高く飛んでいくと放物線を描いて此方に向かっている。
「あれも魔法か…?」
「こっち使えば問題ねーなぁ」
インベントリから大剣を掴み引っ張り、ナナとステラに降ってくる魔法を弾いて防いだ後に左から来る魔物を斬る。
「物理的に埒が明かないんだけど!」
「グラウディアス!あぶないっ」
「っ!」
ステラの声に前を向くと影が落ちた。一際大きな魔族…一つ目で一本角の黄緑色の巨体が上から拳を振り下ろしてくるのを避けると地面が割れた。
「ンンンンンンンン」
「下の牙剥き出しで乾かねーのぉ?」
「煽るなよっ」
再び腕を振り上げたためタイミングを合わせて斬ろうと構えるが横からは動きの速い魔族が数体突っ込んでくる。先にそちらを片して前を向き直ると視界の端に紫色の球体が写った。
「キャッツ!」
「分かってますから!いや、ほんと!溜めていたサラマンダーの刃を放出しますから皆さん一度伏せてくださいね!」
言うと同時に凝縮された炎が飛び散る。魔族に当たると刃物のように斬れ、斬れた所は燃え上がり魔族の動きが鈍くなった。一つ目魔族も「ンンンンン」と声を荒げ斬れて燃える足を何度も振って地団駄している。その間に紫色の球体を弾き、銃を構えて一つ目魔族の目を撃ち抜いた。
大きな音を立てて倒れると地面が揺れ、イフリートは炎を纏いながら魔族を吹き飛ばしていく。
「グラウディアス!燃えてるよぉ!」
サラマンダーの攻撃を避けなかったためあちこち斬られているが今はそんな事を気にしている場合ではない。そしてナナやステラはいつの間にか震えも止まっている。
「頼むから集中してくれ」
「!で、でもさ~」
「……」
ヒロインの如く飛び込まれでもしたら最悪だ…。魔族の数は……減りはしたがまだ多い。どれだけ集結させたのか……どれだけの犠牲を出そうとしたのか……
「あぁ、村人セットの服が台無しだ…」
バイコーン装備に変えるのを忘れていた。防具ではなくただの服では燃え尽きた時にただの変質者になってしまう。
魔族の攻めが緩んだ隙にバイコーン装備に替えるとルノドフガンズが笑ったような気がして…。海を割ったように左右に別れた魔族達の真ん中からワイバーンが空高く飛ぶと、ルノドフガンズは長柄の斧を高く掲げた。
「最高じゃねーか!バイコーンか!!あの男を思い出させるじゃねーの!ははっ!ははははははっ!」
「グッフフ、忌々しい暗黒騎士団団長のお気に入りですからねぇ。ズタズタに引き裂いてやりたくなりますねぇ!」
ドワーフと同じくらいの背丈の魔族…巨人であるルノドフガンズの隣に立っているためその小ささはより際立っている。両手をこすり合わせ常にゴマすりスタイルのその魔族は尖った耳をピクリと動かすと紫色の球体が飛んできた。
「遠距離はアイツか」
「銃の射程範囲だぁ障害物もねぇ」
「……だな」
「上よ!」
「!」
前に構えた銃を更に上へ向けたがワイバーンは口を開くと俺の腕を噛み千切った。
「ひっ……!ぐら、うでぃあ……す!!」
腕を失った俺を見て顔色を悪くさせたステラに、ナナはイフリートを呼び戻して守りを固める。
「持ってかれた、な」
「ククク…お気に入りがなくなっちまったなぁ」
失った腕は戻るが…ワイバーンが吐き出さない限り銃は取り戻せない。さっさと腕を元に戻して魔法を大剣で弾き、遂に動き出したルノドフガンズと視線を交わす。




