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51話 嘘も方便



 ドドゥーからの上手い証言をダリンズが確認出来ればある程度の好きは出来るはずだったが、この世界に通信機器があるのかは不明である。手紙や現地確認ならば今日明日では解放されないだろう。そして戻ってくる気配のないダリンズのせいでマクウェルの落ち着きの無さはピークを越えた。


「デマントイドドラゴンについては俺ではどうにも出来ないのは確かだ…それが事実だとして、だからと言ってお前を解放するわけにはいかない」 

「でぇ?コイツ誰なわけぇ?」


 何回も聞いてんだろぉ、と目を細めて俺を見上げたジェインに、俺もさぁ?と答える。お互いに自己紹介をしたわけではなくすれ違い様に声をかけられただけだ。突然の頭痛と鼻血を晒した事で捕まり、タリンと同じ一族のマリンという女のせいで今に至る。

 これ以上怪しまれないように説明するにはどうすれば良いか考えている間にマクウェルが先に事の成り行きを話した。


「つまりぃ?此処に居る人型の二体にはシェイドが居ないから人間じゃねーってぇ?ククク、シェイド様は偉大だなぁ」

「お前も仲間であるなら人間ではないのだろう。逆に人間ならば今の話を聞いて笑うのはおかしい」

「獣人にもシェイドは憑かねぇだろぉ?」

「…それは、そうだが…彼等には獣人の特徴はない!」

「ククク…隠したいものの一つや二つ、通りすがりの他人に教えてやる義理はねぇだろうがぁ」


 ジェインの言葉にマクウェルは明らかに弱気になった。まさかジェインがこうも巧みに話術で相手を抑えるとは思わなかった俺は余計な口出しは止めようと口を閉じておく。


「…まだ魔族による侵攻を受けていないこの街を守るために俺達は滞在している。街への影響がないにしろ、その外には瘴気が発生するだろ…そうなれば鉱山への道も閉ざされ、此処の住民は生活が出来なくなってしまう」


 瘴気を浄化出来る聖女がマキファンズ国まで来る可能性は低く、魔族をこの街を通らないようにマクウェル達は近寄る魔族を遠ざけているそうだ。見知らぬ冒険者には声をかけ、怪しければ徹底的に調べ上げる。


「一つの妥協で魔族を許せば一生の後悔を背負う」

「俺達にシェイドが憑かない理由を証明出来ればいいんだろぉ?」

「何故隠しているのか。隠す必要があるのか」


 それを確かめられれば。そう言ったマクウェルにジェインはダンタリオンに向かってテーブルの上に置いてあったペンを投げた。


「知ってっかぁ?ドラゴニア、ドラゴノイド…竜人族の末路をよぉ」

「…!ま、まさか…」

「そこに立ってる奴は偉大なるアーシェントドラゴン様の末裔、そしてコイツはその加護を受けたドラゴノイドだぁ。本当の姿を見たいかぁ?ククク、仕方がねぇ…」

「待て!本来の姿を晒せば…」

「あぁ、ドラゴニアはドラゴンの姿を晒し、ドラゴノイドは正気を失っちまうなぁ!」

「じゅ、獣人ではないじゃないか!そんな、そんな事が!」


 何やら盛り上がり始めた会話にダンタリオンを見ると受け取ったペンを回した後、上に投げた。クルクルと回ったペンは落ち始め、床に跳ねるとその音でマクウェルが振り返る。


「なっ?!」


 落ちたはずのペンは羽が生えた小さなドラゴンになった。キョロ、と部屋の中を見渡すと俺目掛けて飛び、頭の上に乗ると「くわぁ~」と可愛らしい声で鳴く。


「ア、アーシェントドラゴン…っ」

「俺達はこの赤ん坊を守るために旅をしていてなぁ。なんなら俺も姿を晒してやろぉかぁ?」

「いや…信じよう…この目でアーシェントドラゴンの幼竜を見てしまったら…なんて事だ…」


「どういう事」

「ククク、ドラゴノイド様も覚醒が近いかぁ?」


 小声で問えば笑いながら答えるジェインにマクウェルは慌てて剣をインベントリの中にしまった。偉そう座っていた姿勢を正して頭まで下げている。どうやら疑いは晴れたらしいが…このまま話を合わせておけば良いのだろうか。

 先程までと雰囲気の変わった部屋に戻ってきたダリンズは俺の頭の上に乗る白く小さなドラゴンを見付けて動揺を隠さぬままドアノブを破壊した。


「あ、アアアアーシェントっ」

「おいドアノブ…」

「どどどどういう事だぁーっ?!!」


「ダリンズさん…落ち着いて聞いてください。彼等はアーシェントドラゴンの末裔とその加護を受けたドラゴノイドです…そしてアーシェントドラゴンの幼竜まで誕生している」

「これは…一大事だ。すぐにギルドへ報告に!」


 再び出ていこうとするダリンズをダンタリオンが捕まえるとマクウェルの隣に置き、肩をすぼめたダリンズは何故か床に正座した。ジェインは悪人のように笑いながら足を組んでソファーに座ると二人は小さくなる。

 立場が逆転した瞬間だった。


「ドドゥーとやらには話が聞けたか?」

「は、はい!」


 恐らく見た目だけは年長者のAランク冒険者は順応性が高いのかダンタリオン相手に敬語を使って返事をする。それに対してマクウェルは口を挟みもせずにゆっくりとソファーから立ち上がるとダリンズのように床に正座した。


「ドゥーロのギルド長、ドドゥー•ドゥーロに確認が取れました。グラウディアス•ドゥーベンは息子である…と。タリンという職員からも証言は取れています」


 グラウディアスさんのシェイドは特殊だが、それ以上の発言は控えさせて頂きます。


 ドドゥーもタリンも庇ってくれたのだ。


「グラウディアス君がドラゴノイドならそのシェイドをマリンでは視認出来ないのも納得がいく…マクウェル」

「…はい」


 立ち上がったマクウェルは腰を直角に曲げて頭を下げた。


「申し訳ありませんでした」

「すまなかった、グラウディアス君。でも彼も…マクウェルもこの街のためを思ってくれているんだ…その、無礼を許して欲しい」

「許すも許さないも…まぁ、誤解が解けたならそれでいいし」


 早く頭を上げてくれ。正直罪悪感しかないから。

 マクウェルはまた来る、と言ってダリンズと共に部屋から出て行った。見慣れた顔が残り脱力した俺の頭からペンが落ちてくる。拾って回すとジェインに奪われ、ペン回しに何度か挑戦して最終的には遠くへ飛ばしてしまっていたが。


「チッ」

「教えてやろうか?」

「興味ねぇ」


 転がったペンを拾ったダンタリオンがくるりと華麗なペン回しを披露してテーブルに戻すとジェインはペンから視線を逸らした。素直になればいいのに…と、そんな事よりも…


「痛みの原因はなんだったんだ?」

「俺とグラウディアスが離れ過ぎたからなぁ。デマントイドドラゴンの野郎が影の国に干渉しやがってよぉ」

「…どういう事だ?」

「俺もグラウディアスも異端とは言え憑いちまったからなぁ…魂の結びはあるだろぉ」

「その辺の実感はないけど」

「ククク、普通はシェイドと会話する奴なんて居ねぇからなぁ。…覚えてるかぁ?」


 笑みを消したジェインが再びペンを手に取った。そして握るように持ち変えると俺の首にペン先を当てて喉をカッ切るように動かす。


「なにを…」

「お前が死ねば俺も死ぬ」

「…」

「俺が死んでもお前は死ぬ」

「ジェイン…」


 再びペンを回そうとして床に落ちる。重苦しくなった空気をペンが落ちる音で切り替えたようにジェインは喉を鳴らして笑った。


「離れねぇようにしないとなぁ、グラウディアスぅ」

「詳しく話せよ?重要な事、だろ?」

「ククク…影の国の話もしてやるよぉ」


 シェイドが暮らす影の国。目覚めた時から魂の共鳴により自分の過去である人に憑き、その者が死んだとき、人として生を受ける。


「俺は目覚めた時から魂の共鳴が無くてなぁ?元から肉は腐ってるし骨は見えてるしで誰も寄りつかねぇ」

「老人から若返っていくんじゃなかったか?」

「普通はなぁ…」


 だがジェインは違った。ずっと成人男性のまま…皆が若返って魂を入れ替えていく様を眺めていた。

 異端のシェイド。

 ずっと見付からなかった魂の共鳴相手は突然現れた俺だった、というのは聞いていた。本来俺が死ねばジェインが人としてこの世界に産まれるはずだが、あの時も同じ事を言っていたか…


『お前はこの世に存在してねぇ。お前が死ねば俺も消える。なんでだかよぉ、わかんだよなぁ』


 この世に存在していない俺が死ねば魂で繋がったシェイドも消える。ジェインも、この世に存在していない存在だから。


「それで、離れたらいけない理由は?悪魔依頼の時は別行動しただろ?ルーチェでも…」

「そんくらいの距離じゃ問題ねぇ。ただなぁ、デマントイドドラゴンみたいに影の国に干渉出来る奴はヤベェぞぉ」

「つまり?」


 ジェインは自分の頭を指差した。そこは血が固まり赤い跡が残っている場所だ。


「ククク、俺が裂かれてぇ…隠したお前の痛覚が晒されちまうなぁ」




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