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50話 シェイドの帰還




 ダリンズは見知らぬバイコーン装備の男に支えられた俺の顔を見て目を見開くと、街中で武器を持っているマクウェルのパーティーに視線を移して眉間に皺を寄せた。


「ダリンズさん…そいつ、人じゃないんです」

「ほ、本当ですよ!シェイドが居ないんです!一緒に居る男もですから!ま、魔物か魔族か、あ、悪魔かもしれません」


「タリン…と同じ一族、か?」

「タリン兄様を知ってるんですか?!あっ、いえ、悪魔の囁きですね…私の記憶を読んだに違いありません」


 面倒な時に出会ってしまったものだ…。事情を説明すれば俺が瀬戸恭介である事が知られてしまう可能性もあり、だからと言ってシェイドの説明も俺では出来ない。既に肉体を得て別行動してます、で納得するならば白昼堂々武器なんて向けられないだろう。


「グラウディアス君、宿は?」

「あっち、の…ごほ、」


 今度は吐血。血の味に吐き気が増して震えると俺を引きずったダンタリオンは宿の方へ向かって歩き、追ってこようとするマクウェル達をダリンズが止めた。


「事情は俺が確認しよう。責任も、俺が取る」

「俺も同行します」

「…いいかい?グラウディアス君」


 誰も付いてくるな、とは言えない。首を縦に動かす事で同意を知らせるとダリンズとマクウェルが付いてきた。


 宿主は再び血にまみれている俺を二度見すると、ダリンズに簡単な説明をされて部屋まで案内する。

 ソファーに座らされた俺はそのまま蹲るように横になった。


「こんな状況で説明を求めるのは無理だ。落ち着くまで…」

「彼が人であるならそうするべきでしょう。だが、違う。ダリンズさんはなんで庇おうとするんですか」

「…グラウディアス君……」


 人でないなら何故ステラとナナを救ったのか。人で無いなら何者なのか…そう問いたいのだろうが何も答えられない。せめて痛みさえどうにかなれば、と歯を食いしばったが何も変わらなかった。

 ダンタリオンは腕を組んで壁に寄り掛かると、声は出さないが口を動かす。


 こ ろ す か ?


 前にもこんな光景があったな、と自嘲しながら首を振る。もちろん横に。

 すると勢いよく扉が開き、小さくなったセレーネがその後ろに血塗れのジェインを乗せて入ってきた。


「わふっ!」

「よぉ…グラウディアスぅ……」

「お、ま……」


 後頭部から額まで抉れたような傷が出来ているジェインはセレーネから降りるとふらついた足取りで俺の元に来ると、今度は安堵したように寝息を立てる。突然の状況に言葉を失っていたダリンズとマクウェルはハッとしてジェインの心配をし始めた。


「治癒師を!」

「少年、そいつから離れるんだ!」


 各々別の心配、ではあるが。


 だが離れようとしないジェイン。治癒師を呼びに行くまでもなく傷はスゥーと消えていき残ったのは乾いた血液だけ。俺の頭痛も無くなり、鼻血も止まった。

 上体を起き上がらせてジェインの頭を膝の上に乗せる。


「…どゆこと」


「こっちの台詞だ!何が起こったんだ?!」

「化け物め…その少年も仲間か!」


 コイツが俺のシェイドだと言ってもよいのか躊躇い、ただ傷が消えた事の説明は出来ない。ポークを喚んだわけではない。セレーネも俺の前に座り眠るジェインの頭に顎を置いた。


「…ベルゼテは?」

「クゥン……」

「そうか」


 ダンタリオンは短く返し、壁に寄り掛かったまま目を閉じた。


「ダリンズと…マクウェル、だっけ?どう説明すればいいのか分からない。けど、俺は魔物でも魔族でも悪魔でもない。それだけは…」


 信じてくれ。そう言おうとして喉が詰まる。会ったばかりの奴に不審な点があり既に疑っている状況で言った所で信憑性など何処にもないだろう。俺ならそんな奴に信じろと言われれば尚更不信感を抱く。


「……マリンは、シェイドを見る事が出来る。ダリンズさんも知ってますよね」

「あぁ。だが…そうだとして、よりによってなんでグラウディアス君が」

「彼と知り合いですか」

「ステラとナナがアズライトリザードに遭遇したんだが…グラウディアス君が討伐したことで助けてもらったんだ」

「アズライトリザード!?」


 驚愕の声を上げると同時に流れるような動作で剣を俺に突きつけたマクウェル。まだ剣を持っていた事に呆れと感心が混じって溜め息を吐いた。


「そういえばステラとナナの傷も治癒してくれたそうだ。その少年の傷を治したのもグラウディアス君だろう?」

「それは…」


 違う。眠るジェインの髪の毛を退かして傷があった場所を確認するが跡すら残っていなかった。どうして治ったのか…正直そんな事よりも何があったのか、という方が重要だった。ベルゼテがどうしているのかセレーネから聞いたダンタリオンは理解しているはずで、しかしそれを言わず、動きもしない事から無事と思って良いのだろう。


「Dランクの大剣使いが治癒?アズライトリザードはAランクの魔物だ…」

「冒険者を騙っているなら可能かもしれないだろ」

「!はは、正体を晒す気になったか?」

「ほら」


 ギルドカードを取り出して渡す。そこにはグラウディアス•ドゥーベンという名前とDランクだという証拠が記されている。適性が無い事を悟られるのはこの際しょうがない、と諦めもあったのだが…ダンタリオンが左手を軽く振るとカードに火と聖の文字が浮かび上がっていた。

 それによってある程度の疑いは晴れるかもしれないが、俺がギルドカードを見せた理由は名前にある。


「ドゥーロの領主でギルド長、ドドゥーに確認してくれれば俺の事は保証してくれるはずだから」

「ドゥーロの…」

「タリンには直接あったよ。俺のシェイドは少し不思議らしくてさ」


 それも確認すればいい。そう言って様子を見ればマクウェルはゆっくりと剣を下ろした。ドドゥーやタリンなら俺が瀬戸恭介だとは言わない、はず…。かといって息子だ、と欺いてくれるかも不明だ。

 しかし時間が稼げればそれでいい。ベルゼテと合流してこの街から離れれば…


「ダリンズさん」

「あ、あぁ、ギルドで確認してこよう」

「確認が取れるまでお前を見張らせてもらう」


 一人がけのソファーにどかっと座ったマクウェル。ダリンズはギルドへ向かうため部屋から出て行ったが、マクウェルが残ったため迂闊な会話は出来なかった。

 リッチとの決着はどうなったのか…ベルゼテは何をしているのか…予定よりも早く戻ってきたジェインとセレーネに何があったのか。確認したい事しかなく歯痒い思いである。


「んん……ぁあー…寝てたわぁ」

「ジェイン…大丈夫か?」

「おぉ…まじでビビったぁ。なぁ、何が居たと思う~?ククク、すげぇぞぉ?デマントイドドラゴンだぁ」


 デマン?


「デマントイドドラゴンだと!!?」

「あー、そうデマントイレドラゴン?ダリンズが言ってたやつじゃん」

「デマンドイドドラゴンだ!少年…ジェイン、と言ったな?本当に見たのか…?」

「誰だぁ?気安く俺の名前を呼んでんじゃねぇよぉ」


 元々目つきの悪いジェインが凄む事に寄って更に人相が悪くなったが、見た目は子供のためマクウェルは怖じ気づく事も無く近寄ってくると起き上がったばかりのジェインの両肩を掴んで揺さぶった。それに頭をガクガクと揺らされながらジェインは口元を押さえる。


「うぉぇ…吐く、吐くぅ」

「やめ、やめろマクウェル!」

「なら言え!デマンドイドドラゴンはSランク冒険者の領域だぞ…っ?!そんな魔物が…本当にあの鉱山の先に居るなら…」


 マクウェルも鉱山の先に現れたという話は聞いていたようだった。想像をしたのか途端に顔色を悪くするとフラフラとした足取りで一人がけのソファーに戻って再び座る。

 そんなにヤバイ魔物とぶち当たったのか、とジェインを見下ろすが目が合うとヘラ、と笑っていて事の重要さに欠ける気がした。


「あの傷は…えっと、デマントイドドラゴン?にやられたのか?」

「いやぁ?お前も感じなかったかぁ?」

「…何を」

「ククク、痛みだよぉ。あのドラゴン野郎、俺等が嫌いみたいでなぁ」


 突然の頭痛の正体をジェインは知っている…?ずっと煩かったマクウェルは怪しいくらいに静かになりジェインの言葉に耳を傾けていた。今の状況を知らないジェインにこのまま話を続けさせても良いのか考えたが…やはりマクウェルの前で下手な事を言うのは危険だ。


「俺とグラウディアスんぐっ、んーんんんーんー」


 途中で口を塞いでマクウェルをチラリと見るとガッツリと睨まれていた。まぁ、不自然だろうけど背に腹はかえられない。苛立ちを隠さずに貧乏揺すりを始めたマクウェルをどうするか…


「何故遮る?デマントイドドラゴンが居るのなら一大事だ。この街は一瞬で消し飛ぶ事に……っ」

「んーんんんーんーー……ん」

「!!!っ、舐めっ!汚ぇな!」

「ひでぇなぁグラウディアスぅ。それとよぉ、お前さっきからうるせぇけどぉ?」


 舐められた手の平をジェインのポンチョで拭くと今度はジェインとマクウェルの睨み合いになっていた。人ではない何かの仲間であるジェインも人ではないと判断したのかマクウェルは剣を握りながら…しかし姿形が少年であるのが引っ掛かるのか立ち上がりはしない。


「どっかのレイドにも見習わせたいな」

「何がだぁ?」

「こっちの話。」


 何処でも構わず斬りかかってくるよりもマクウェルの方がずっと大人ではある。実際、事情の知らない者からすれば俺は疑われる存在なのだから。そんな俺に剣を向けたマクウェルは所謂 正義 。何も間違っていない。


「まぁいいけどよぉ…デマントイドドラゴンはベルゼテと犬っころで輪切りになってんぞぉ」

「なんだと?!」

「…まじ?」

「まじだぜぇ。なぁ?セレーネぇ」


「わふっ」


 ダンタリオンを見ると薄く笑って頷いた。


 Sランク冒険者が複数人で力を合わせて討伐するような魔物、デマントイドドラゴン…。一体の悪魔と、犬っころというのは恐らくケルベロスの事か。俺はどれだけ強い悪魔と共に行動しているのか実感したような、しないような…なんとも不思議な気分になった。

 マクウェルは信じられないのか鼻で笑ったかと思えば真剣に考え込んだりとクルクル表情を変えている。


「魔法袋渡してやったから持って帰ってくんだろぉ」

「魔法袋って?」

「インベントリ代わりの袋だぁ。生きてなきゃなんでも入るぞぉ」

「……ほんと…なんでもありだよな」


 ベルゼテの無事と同時に魔物による脅威が去った事も確認出来て少しだけ心が楽になった。あとは頭痛の原因と、マクウェルをどうするか、だな。





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