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34話 女冒険者•シエル



 西門付近にある宿屋の店主は羊頭をした二足歩行の獣人だった。泊まりに来ているのは同じく獣人の冒険者が多く、中には人も居るが種族関係なく親しげに挨拶を交わしていた。

 大部屋は埋まっている、と聞いて二部屋取った。寝るときに戻れば良いかと一部屋に全員で入るとベルゼテはベッドに腰掛けて足を組み、ジェインはもう一つのベッドに寝転がる。俺はソファーに座り、その前に座ったセレーネが俺の膝に顎を置いた。


「貴様の目的はなんだ?」


 そして壁に寄りかかり腕を組んだダンタリオン。聖魔法の影響が未だ消えないため手や耳の再生が遅れているそうだが、ポークに治してもらうか聞くとジェインに「トドメさすつもりかよぉ」と笑われ…悪魔には聖魔法による治癒術も毒になる事を学ぶ。ベルゼテやダンタリオンをどうにかしたい時には使えそうだ。


「目的というか…俺は水の都スフィアを目指してる。その後は…分からない。誰が俺の依頼を受けているのか、どう欺くか躱すか…」


 俺がこのまま生き続けたとして、『暗黒騎士と聖なる光』の物語が終わりを迎えた時にどうなるのか。


「狙われているのか?」

「そういうこと」

「クゥーン…」

「姿絵の特徴は黒髪に黒目で髪ももっと短いし。今の俺を見てすぐに分かる奴は居ないと思うけど…」


 身長なども晒されていたが長身のベルゼテや俺よりも背が高いダンタリオンが加わった事で欺きやすくなるだろう。姿絵と実物の俺を並べてじっくり見られれば顔は変わりないためバレるだろうけど。

 これから共に行動するなら、と悲しそうに鳴くセレーネを撫でながらダンタリオンに経緯を説明した。


「グラウディアス」


 説明の合間にベルゼテが俺を呼ぶがもう少しだから待って、と手のひらを見せて続きを話し…終わった所で更に名前を呼ばれる。


「何」

「セレーネが限界だそうよ」

「え?」

「クゥン…わふ…」

「お腹が減ったって」


 悲しそうな鳴き声は俺を憂いてではなく腹が減った事にだったのか。ジェインは既に寝ているし、ダンタリオンへの話も終わったから何か食べようとセレーネに声をかける。お腹が減りすぎて動けないのかその場にコロン、と寝転がったセレーネの腹を擦り宿内で食事の用意が出来るのかベルゼテに確認して貰うことにした。


「我が行こう」

「いや駄目だろ、さっきまで人を食べようとしてた悪魔が食事の調達とか怖いから」

「羊の肉は好まんよ」

「怖いから!」


 ふ、と口元に笑みを作ったダンタリオンはそのまま部屋から出て行った。止めに行こう、と俺も部屋から出て探すと階段を降りた所で女冒険者に囲まれているダンタリオン。男の姿の時に喰らうのは雌…ヤバイ…

 階段の手摺りを跳び越え着地した所から階段を駆け下りる。


「おい、ダンタ」


「我は仲間達の食事を運ばねばならんのだ。だが手がこうでは何も出来ん」

「まぁ!可哀想に…」

「私達が手伝ってあげますよ!」

「此処の宿は初めてですか?あそこが食堂ですよ」


 女冒険者達に案内されて人の多い食堂へ入っていく。

 ダンやタリ、リオンと呼ばれた他の姿は人間に見えなかったが本体であるダンタリオンの容姿は人として整っている。簡単に言うとイケメン。そのイケメンに困ってるアピールをされた女冒険者達は辺りにハートを飛ばしながら案内していった。


「まじか…悪魔だぞ…」


 悪魔だと知られても困るけど。


 一人で部屋に戻るとセレーネが一瞬尻尾を振ったが手ぶらである俺を見て鼻をふん、と鳴らすと不貞腐れたようにそっぽを向く。


「ダンタリオンは大丈夫そうだった?」

「あー…多分。もはやハーレム築きそうな勢い」

「?」


 首を傾げたベルゼテにソファーへ座るように促しベッドを占領する。この部屋にはベッドが二つだがもう一つの部屋も同じ作りのため、部屋分けは勝手に決めさせてもらった。俺とジェイン、そしてセレーネ。ジェインの体は小さいが寝相が悪いためセレーネは俺と一緒にベッドを使えば良いだろう。そして既にジェインが寝ているためこの部屋は俺の部屋でもある。


 暫くして戻ってきたダンタリオンは手ぶらだったが、続けて女冒険者が五人も入ってきた。テーブル一杯に並べられていく料理にベルゼテがお礼を言うと一人の女冒険者は顔を赤くさせながら「とんでもございませんっ!」と声を裏返す。


「この人達が貴方の仲間?」

「わぁ~銀色のわんちゃんっ!可愛いっ」

「ふふ、この子おへそ出して寝てますよ~」

「あ、もしかしてバイコーン装備の低ランク冒険者君?」

「お姉さん!Aランク冒険者のベルゼテさんですよね?!あ、握手してくださいっ」


 五人は料理を並べ終えると部屋を見回して各々別の反応をする。セレーネはテーブルに置かれた大きな肉をくわえて部屋の端へ移動すると周りを威嚇しながら食べ始めた。


「さ、触ってもいい?」

「食事中は触らないでやってほしいんだけど」

「そうよね~…わんちゃんいっぱい食べてね!」


「君も一緒に悪魔狩りに行ったんでしょ?」


 自然な動作で隣に座った女はベルゼテに握手を求めた女とパーティーを組んでいるそうだ。そして他のパーティーメンバーは食堂で食事中らしく、残りの三人も同じだと言った。


「ポロスに住む悪魔の依頼を受けようと思って来たら既に討伐終了って聞いちゃって」

「アギトは獲物を取られたって荒れてましたよ~!でもベルゼテさんの事を見たら落ち着くかもね、美人には弱いからっ」


 悪魔の依頼を受けるために来た、という事はAランク以上…。三人組は元々ポロスに所属する冒険者だが悪魔討伐の依頼はさすがに受けられなかった、と苦笑して、長年居座る悪魔と森の腐敗を解いてくれてありがとうとお礼を言う。

 ダンタリオンやベルゼテは人当たりの良い笑みを浮かべたまま女五人の相手をしていたが、片や悪魔討伐をしたがるパーティー、片や悪魔を恐れるパーティー。お前等の正体バレたら大変な事になるぞ、と口には出せないが念を送ってみる。


「貴女達、食事を運ぶのを手伝ってくれてありがとう。私達は今後の事を話したいからそろそろいいかしら?」


 ベルゼテの言葉に四人が素直に部屋から出て行こうとしたが、ただ一人、俺の隣に座っている女は動こうとしない。パーティーを組んでいるという女は振り返ったが何も言わずにそのまま行ってしまった。


「仲間は出て行ったけど?」

「他のパーティーと交流するのも大事でしょ?特に此処はゼノンダラス国の冒険者が多いから、情報を集めるには適しているし」

「貴様の目的はなんだ?」

「おいっ」


 聞いたばかりの台詞に思わず声を出すとダンタリオンは俺を一瞥するだけで女へ視線を戻す。


「私達はアウトラから来た冒険者よ。さっきの子が言ってたでしょ?アギト…知らない?」

「…あー、聞いたこと、あるような…」

「そうでしょうとも!国が認めるSランク冒険者だもの!」


 胸を張った女を見て知らないと言わなくて良かったと安心する。俺含めてこの世界の人情報を知る者は居ないだろう。たった数日前に召喚された俺、影の国を彷徨う腐敗したシェイド、200年間地下に閉じ込められていた悪魔と人を恨み喰っていた悪魔。セレーネは二つも前の物語を持った女神の眷属だ。

 知られている事に気分を良くした女は名前をシエルと言った。


「悪魔の情報を教えて欲しいの」

「見返りはあるのかしら?」

「何か知りたい情報があるなら聞いて。なんでも答えるわ」


「悪魔の情報を知りたい理由は?」

「…それは…私からは言えないんだけど、」


 なんでも答えると言ったのに。何故悪魔の情報を欲しているのか分からない以上、悪魔が2体も居る状況で迂闊な事は話せない。しかも相手は高ランク冒険者であり、その中には国が認めたというSランクの冒険者、アギトが居る。


「どんな悪魔の事を知りたいのか…は、どうかしら?私達が相手にしたのは腐敗の悪魔だけれど、その情報がほしいということ?」

「他にも悪魔が居なかったかなって、思って」

「例えば?」


 ベルゼテの質問に喉を詰まらせるように黙ったシエルは大きな溜め息を吐き出すと両手を軽く挙げた。


「ごめんなさい。突然失礼だったよね?両手がないイケメンが困ってる様子だから手伝ったら、ベルゼテさんが居るパーティーだなんてビックリしちゃって」


 たまたま手伝った男のパーティーメンバーに悪魔討伐をしたベルゼテが居たから聞いただけ、と。ベルゼテやダンタリオンへ視線を向けるが、ダンタリオンは壁に寄りかかったまま目を閉じており、ベルゼテは料理に手を付けながら笑っている。

 腐敗の悪魔とは別に悪魔が居なかったかって?この部屋に居るんだけど。


「詳しく話せないのであれば仕方が無いわよ。知っている事なら教えてあげたいけど…何を聞きたいのかも分からないと喋れないわ」

「ですよね!あははっ、いやぁ…アギト怒るかな…私が言ったって言わないでくれます?」


 諦めるわけではなく情報収集を優先したシエルは気まずそうに「アギトには秘密で、」と付け加えた。

 シエルとアギトは同じ村で生まれ育ち、現在はアウトラ所属の冒険者になった。仲間にも恵まれ各地で様々な貢献をしてきたアギト達は数ヶ月前にアウトラのギルド長に呼び戻され、生まれ育った村の惨状を知らされる。


「向かったけれど、誰も居なかったの…残っていたのは壊れた家と村全体に広がる血痕だけ」

「それと悪夢の情報って関係あるのか?魔族の国の仕業かもしれないだろ」

「魔族なら死体すら残っていないのはおかしいじゃない。確かに戦争中…だけどマキファンズ国側は魔族に対して負けを認める事を許しているし、魔族は無闇に力なき村人を虐殺しない」


 侵攻されているとはいえ抗う術のない村や町は負けを認める事で命を拾う。それがマキファンズ国であり、魔族も手を下さない。ゼノンダラス国であれば如何なる事があっても抗い続けるため捕らえられた人は良くて奴隷に、しかしほとんどが殺されてしまう。

 マキファンズ国である村が死体一つ見付からないのは魔族の国とは関係がない事を物語っている、とシエルは訴えた。巨大な魔物か、魔物の群れか…だが痕跡が何一つない。


「…モレク」

「!!貴方、知ってるの?!」


 ダンタリオンの言葉にシエルは顔を上げた。


「アウトラへの行き方を教えろ。それが見返りだ」

「勿論よ!」




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