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30話 夕日とススキ



 俺達がまず目指したいのはアウトラだ。そこのギルドへ行ってドドゥーから貰った紹介状をアウトラのギルド長、ローフォンドに渡す。だがレイドを連れて行くわけにはいかないため、幻覚の悪魔 ダンタリオンをどうにかしよう。と、西門ではなく南門を出たわけだが…


「レイドをそこに向かわせればいいんじゃないの?」


 わざわざ俺達まで行く必要があるのだろうか。街に迷惑を掛けないためにレイドを外へ出し、その間に俺達は西門から出て行けば解決だ。


「そんな事を言わないでください、グラウディアスさん。どうか…私達に力を貸してください」

「あ、触らなくていいから」


 寄ってきたシェーンから離れて間にジェインを挟む。


「ククク、うちのグラウディアスは女よりも少年好きでなぁ」

「俺、ジェインがあの時に居なかった事まだ怒ってるからね?」

「わふ…」

「ちょっと聞いてるの?」


 ベルゼテの話はギルド長とのやりとりについてだった。跳ねるスライムを無視して進んだ先…昼間は腐敗していたはずの場所も他と変わりない森になっている。

 結局ギルド長からは何も受け取ることをしない代わりにセトキョウスケの依頼について仕入れたそうだ。


 依頼主は聖女マリア。表向きはそうなっているが、ゼノンダラス国の白騎士団が関わっている。白騎士団が何か聞けばベルゼテは「知らないわよ」と言って続きを話した。


「ゼノンダラス国ではフレイからの神託も多いそうよ。人間が本当の目的を知っているかは疑問だけれど…フレイが関わっているなら言わなくても分かるわね」

「…聖女の様子とかは?」

「マキファンズ国であるポロスのギルド長では把握出来ないようね。まぁ、ゼノンダラス国の冒険者が此処に居るんだから聞くのが早いかしら?」


 レイドに視線が向けられる。


「君がセトキョウスケであるなら、協力してほしい」

「俺はセトキョウスケじゃないから協力出来ない」

「…あの時に見た。君が僕を救ったというなら君がセトキョウスケだ」

「あそこに居たのは幻覚の悪魔だろ?お前が見たのは幻覚」


 外に出たら髪型も髪色も戻っていたしこれで貫くつもりだ。レイドならば俺を無理矢理連れて行く事も出来ないし、他の冒険者達に囲まれた所で俺はグラウディアスという名前の冒険者。一緒に行動するベルゼテが悪魔討伐をしたのだから、幻覚の悪魔の話をしても信憑性はあるだろう。

 レイドはミヤとイリアが生きている事を知り、少しは調子が戻ってきている。


「白騎士団は国王が信頼するヴァニラ様によって統率されている騎士団だよ…ヴァニラ様は聖女様のお付きでもあるから今の白騎士団は聖女様のものと言ってもいい」


 ヴァニラって最初の塔で会った女か…真莉愛がそう呼んでいた気がする。


「聖女は?元気にしてる?」

「暗黒騎士団との交戦や各地の浄化に大忙しさ。そんな中でセトキョウスケの名を呼んでいると聞いた…僕は聖女様のためにセトキョウスケを連れて行かなければいけない」


 レイドの瞳の色に光が戻ったように見えた。瞬間に風が吹いて前を向くと辺り一面ススキのような草が広がる。その先は海か川か…向こう岸の見えない水面。夕日に照らされてキラキラと輝いていた。


 その真ん中に居るのはミヤとイリアで、こちらに気付いて近寄ると何の迷いもなくレイドにビンタする。手のひらが痛むのかイリアはもう片方の手で包んだ。


「ばかっ」


 突然のビンタの後に「ばか」とは何事かと。涙を浮かべたイリアとミヤはレイドに抱き付くと、レイドは二人を抱き締める。どうでも良い茶番を指差してベルゼテを見遣るとベルゼテは見てすらいない。


「…此処ね」

「ダンタリオンが居るのか?」

「恐らく、これは全て幻覚…さて、どう出てくるかしら」


 ミヤとイリアも幻覚か聞こうとしたがどうやら本物のようだから少し安心した。夕日に染まり黄金に輝くススキが風に揺れている光景はとても綺麗で、これが幻覚だというのなら何のために見せられているのだろうか。

 ジェインは興味がないのかセレーネの毛繕いを始め、レイド達に緊張感はない。


「もう少し進むわよ」

「退魔師を喚べばいいの?」

「時が来たらね」


 悪魔王の支配下にない悪魔、ダンタリオン。幻覚の悪魔…ベルゼテが居なければ目の前にある全てが幻覚だとは思えない。

 レイド達を置いて背の高いススキが並ぶ草原を歩く。ジェインとセレーネはそこへ入ると姿が隠れてしまった。


「なぁ~おんぶしてくれよぉ」

「…居住スペースに戻るか?セレーネも元の大きさに戻っても良さそうだけど」


 レイド達に何か言われても適当な言い訳を探そう。俺の提案に乗ったジェインは消え、セレーネは元の姿になる。ミヤの叫び声が聞こえ振り向くが視線の先はセレーネなので放置で良い。

 既に幻覚の中に居るならばダンタリオンはこちらに気付いているはずだが現れる気配はなく、ベルゼテは首を傾げた。


「おかしいわね…あの遺跡よりも強く感じるのに…」

「セレーネ、幻覚が途絶える端まで行って様子を見れるか?何も無ければすぐに戻ってきてほしいけど」

「わぉんっ」


 右へ向かって走ったセレーネ。ベルゼテもホウキを取り出したが、それは止める。お前まで行ったらまた俺が一人になってしまう。


「今はジェインも居るしいいじゃない。私はあっちから探ってくる」

「もしベルゼテが居るから隠れてる、ならヤバいだろ!」

「それなら私が移動した方が好都合よ。グラウディアスが足止めしている間に戻ればいいでしょ?」


 今日の今日で二度もあんな思いをするのは御免なんだが…。俺の気持ちを汲み取ってくれないベルゼテは何故が笑顔でホウキに乗って飛んでいく。それを見送った後…未だに現れない悪魔がいつ出てくるのか気の抜けない状態になった。


「グラウディアス君」

「…なに」


 呼ばれても振り向かない俺に対して前に回り込んだレイドは、両脇にミヤとイリアを引っ付けていた。頬が赤くなっているが最初の一発分だけでその腫れは異常な気もして。


「今は、そうしておこう」

「は?」

「君はグラウディアス君だ」

「それ以外の何者でもないから」

「あの悪魔が此処に居るんだろう?…一度手を付けた食事は見逃さない…ベルゼテさんが言っていたのは僕が狙われる、という意味だね?」

「お察しの良い事で…分かってるなら俺に近付かないでくれる?」


 とばっちりとか受けたくないし。言い放てばミヤとイリアが騒ぐ。わざとらしく耳を塞ぐと更に騒いだが、レイドが二人を止めた。


「来ると分かっていたら僕達だって戦える。Bランク冒険者パーティー、赤薔薇の君を舐めてもらっては困るよ」

「そうよ!あの時はイリアがヘマするから陣形が崩れたんだから!」

「ミヤがレイドにへばり付いてて隙を作ったんでしょう?!」

「お二人ともその辺に!はぁ~……レイド様、グラウディアスさん、サポートはお任せください」


 シェーンの言葉を合図にレイドは俺の隣に立つと、その後ろにシェーン、更に右後方にイリア、左後方にミヤ。さながら俺もメンバーのように持ち場につかれたのだが。


「間違えてアンタの頭を射抜いたらごめんねー?」

「間違えてお前の頭を吹っ飛ばすから大丈夫」


 銃を取り出してミヤへ向けると分かりやすい程に肩を飛び上がらせていた。人にやられて嫌なことはやったらいけません。やるならやられろ平等に。これは婆ちゃんの教えだ。


「というか中距離ですって?!バランスが悪いじゃない!」

「Fランクでも囮にはなれるでしょ!アンタ先頭!レイドの盾になって!」


 後ろ二人を指差してレイドを見るが前を見つめて眉間にシワを寄せている。トイレを我慢しているかのような表情に声をかけるのを躊躇った。驚かせてしまえば粗相があるかもしれない。

 すると俺の背中に纏わり付くように現れたジェインが耳元で囁いた。


「くるぜぇ」


 その囁きと同時に水面が膨れ、ゆっくりと巨大な蜘蛛が姿を見せた。先程まで騒いでいた二人も武器を構え、レイドは指示を出していく。


「シェーン!バフをっ」

「はい!」

「イリアは高火力で頼む!様子見はしなくていい!」

「そのつもりですわっ」

「ミヤは目を狙え!」

「的がたくさんあって狙いやすいよっ!」


「俺は?」

「さぁ?さっきのキンキン女に言われたようにレイドの囮にでもなるかぁ?」


 一斉に攻撃をしかけたレイドのパーティー。バフの効果か体を纏う光になんだか強くなった気がしたがジェインが笑いながらギルドカードを見せてくる。こんな状況でステータスの確認だなんて緊張感ないな、と思いながら見てみれば…




 体力----魔力----

   攻撃 1 × 1

   防御 1 × 1

   知力 1 × 1

   命中 1 × 1

   俊敏 1 × 1

   幸運 1


 ×1って意味なくない?!シェーンの魔法どうしようもなくない?!


「驚いたかい?シェーンはステータスと同じ値をかける事が出来るんだ!時間は短い、一気に片を付けよう!」


 それはもうレイドなら物凄いステータスになっているのであろうが俺は結局1のままだ。強くなった気がしたのはなんだったのか。未だに笑うジェインの顔にギルドカードを叩きつけて、走り出したレイドの後を追う。


「バイコーン装備なのに防御も1ってなんで?」

「バイコーンは死んでも生きてるからなぁ、気に入られないとステータスには影響しないんじゃねぇ?」

「あの爺さんっ初心者にこんなの買わせたの?!」

「どうせ死なねぇんだから防御なんて要らねぇだろぉ。まぁ、バイコーンについては今度教えてやるかぁ」


 今は目の前の蜘蛛に集中しろ、と。セレーネとベルゼテが戻ってくるまで耐えれば…レイドが蜘蛛の足を斬った所で反対側の足からの攻撃を俺が受け止める。勿論それに俺の意志はなく勝手に体が動いただけだが。

 いつの間にか握っている黒い大剣で受け止めた足をそのまま払い、斬ると蜘蛛はバランスを崩して前に倒れ込んだ。


「グラウディアス君!」

「ジェイン…お前…」

「ククク、仲間っぽくていいじゃねぇかぁ」


 近付いた蜘蛛の顔。目には矢が刺さっており、ミヤの腕前を確認する。


「下がりなさい!」


 イリアの言葉にジェインが俺を下がらすと蜘蛛の下に魔法陣が現れ、下から上に向かって炎が湧き上がった。

 あの悪魔がここまで簡単にやれてしまうのか、と疑問に思うとほぼ同時に炎が四方に飛散し、先程までそこにいた蜘蛛は姿を消し…代わりに立っているのは一人の男。


 首を傾げてこちらを見る男は瞳を右から左へ動かすとニヤリと笑った。


「餌が三匹」


「…!女三人!!伏せろっ!」


 後ろから感じた風に叫ぶと同時に体が動く。近くに居たイリアの頭を掴んで一緒にしゃがみ、レイドはミヤの手を引いて抱き締めるようにして地面に伏せた。




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