25話 偽•Aランク冒険者
昼食を終えた後、再度ギルドへ向かう。ジェインはギルドに入る前に居住スペースに引っ込み、ベルゼテは興味津々といった様子でギルド内を見回していた。
「思ったより人が多いのね」
「朝はもっと多かったけどな」
「依頼は早い者勝ちって聞いた事があるわ。300年前は私を討伐するっていう依頼もあったのよ」
返り討ちにしてやったけど。平然と言ってしまうベルゼテは何者なのか。悪魔王とチョコレートの取引を直々に出来るくらいなのだから今は聞かなかった事にしよう。
壁に貼り付けられた依頼を見てみると、Fランクでも出来る依頼はほとんどなかった。残っているのはBランク以上の冒険者を対象にした討伐依頼ばかりだ。
「あ、グラウディアスさんとセレーネさん!」
相談窓口に居たギルド職員がこちらに向かって手を振る。相変わらず声が大きいため近くに居た冒険者達はこちらを一瞥してきた。バイコーン装備が二人も居れば注目度も上がり、声を掛けられそうになったがギルド職員の元へ移動する事で回避する。
朝のようにカウンターに肘を置いて寄りかかるとギルド職員はこてんと首を傾げた。
「依頼をお探しですか?」
「まぁ、そうなんだけど…あんまり目立ちたくないから大きな声で名前を呼んでほしくないというか…」
「なるほど…確かに低ランク冒険者のグラウディアスさんがバイコーン装備だなんてただでさえ目立ちますもんね」
ギルド職員はカウンターに身を乗り出して口の横に手を置くと小声で話し出した。そういうのも注目度を上げるからやめて欲しい。けれど素でやっていそうなギルド職員を責める事は出来ず、早く依頼を選んで街から出る事に決める。
「何か依頼…あるか?」
「先程スライムの討伐をされたので、もう一度討伐系の依頼を成功させればEランクへ上がりますよ」
「スライムの他だとボア、だったか?」
「そうですね~…えっと、これです」
ファイルを捲ってE-の依頼を指差す。挿絵のボアは獰猛そうだが、レッドボアよりも小さいだろう。それにする、と受ければギルド職員は手際良く依頼書を用意し、俺に渡しながら再び監視員についての説明をしてくる。
「今回も大丈夫」
「そういえばお連れ様ですか?冒険者の方であればギルドカードの確認をさせて頂きたいんですが」
「ゴキ…あー、彼女は冒険者とかじゃなくて…」
「私?はいどうぞ」
自分の話をされていると分かったベルゼテがカードをギルド職員に渡してしまった。横から奪い取ろうと手を伸ばすが両手でしっかり受け取ったギルド職員は身を引いてしまったため届かなくなる。
矛先をベルゼテに変えて睨むが髪を掻き上げてウインクされ、この街の滞在終了を悟った。カードを見て震え始めたギルド職員の姿を見れば悟る他になかった。
「あ、あの…」
「すみません、ほんの冗談で」
「Aランク冒険者の方だったんですね!この街にはどうして…いえ、お願いがあります!」
「…は?」
再び身を乗り出してベルゼテを見つめるギルド職員から理解できない言葉が発せられた気がするんだけど…
「A?」
「Aランク!です!まさかグラウディアスさんのお師匠様ですか?ならグラウディアスさんも見込み有りという事ですよね?!ゆくゆくは高ランク冒険者の一員になるという事ですよね?!ね!!」
「あの…声、」
「助かります!ポロスは出来たばかりの街で、しかも場所も平原にポツンと独立した街なんです…ドゥーロから応援は来てくれますが元々平原や森に囲まれているためはぐれも多くて…」
興奮状態のギルド職員は結局声量を落とすこと無くポロスの現状を語った。北門から出て真っ直ぐ行った森の先は魔族の国の精鋭に占拠されており、南門を下れば昔馴染みの悪魔が鎮座している。西門の先の森はエルフが管理しているため魔物こそ少ないが首都へ行き来出来ず交流が捗らないそうだ。
せめて南門の先に居る悪魔をどうにかしたいが高ランク過ぎて誰も受けられない。先程来た有名パーティー、赤薔薇の君もA+である悪魔討伐依頼を受注出来なかった。他にも冒険者は居るが他国の依頼に殺到しているため討伐依頼の受注が減っているのだとか。
一つは俺の事だから目線を逸らす。
「貴女は女神様です!はい!こちらがその依頼です!ご武運をっ!」
「あら、こうやって依頼を受けるのね」
強制的に渡された紙を見て、ベルゼテが微笑む。自分の意思とは別に依頼を受けるのは違うと思うのだが。
「悪魔…ねぇ…楽しそうじゃない」
「はぁ?!」
「ありがとうございます!!」
快く引き受けたベルゼテを問い詰めようとしたが注目が集まりすぎたギルド内では無理だった。挨拶をしに寄ってきた冒険者達をかき分けて外へ出て、暫く進んだ所で立ち止まる。振り返り見ればベルゼテはドヤ顔だ。
「何その顔!」
「上手く騙せたじゃない」
「騙せたって何を!」
「ギルドカード」
「…あ、れはどういう…」
そうだ。ギルドカード、と言って渡したカード…。魔界の運転免許を見せてどうしてAランク冒険者になるというのか…。するとベルゼテはカードをチラつかせ、奪い見れば俺が持っているギルドカードと同じモノ。
ベルゼテ•ビュートピアリー
A -火-風-闇-
⇨ケルベロス
同じモノだが属性は三つもあるしAランクである。
「持ってんのかよ」
「悪魔王に言って作って貰ったの。ほら、昨日の夜」
そういえばやりたいことがある、と言って部屋に残っていた。悪魔王と連絡が取れるのかとか、言えば作れるのかとか…作ったとして何故Aランクスタートなのか…とか…というか、
「ケルベロスって、なに…」
「地獄門の前で寝てるだけのわんちゃんよ。最近太ったから連れて行けって言われて」
「そんな物騒な犬…そもそも犬ってセレーネと被るから!多頭飼いは出来ません」
「ヴゥウウウ」
「大丈夫よ、基本的には魔界に居るし必要な時に呼べばいいのよ」
そういう問題なのだろうか。というかAランクの任務を受けてどうするというのか…。俺はボア相手に魔法の練習をするつもりだ。悪魔同士の戦いなんて見たくも無い。
俺が受けた依頼書を確認すると西門を出た平原にボアが棲息しているようで、俺は西門へ、ベルゼテは南門…か。
「じゃあ宿屋で合流だな」
「あら、行かないの?」
「行かないよ。レイド達でも受けられなかった依頼だぞ?」
「ジェインのお陰で不死身なんだからいいじゃない。それに悪魔に聖魔法は効果的だし、グラウディアスは聖魔法退魔師の魂を取り込んだのでしょう?」
それを使うための依頼受注なら悪魔を相手にすればいいじゃない。
簡単に言ったベルゼテに首を振って西門の方へ歩き出した。言わなくても分かるだろう。俺はスライムにすら殺されそうになった男だ。ここは堅実に進む以外にない。後からついてくるベルゼテに嫌な予感がしたが立ち止まりはしなかった。
「先にボアを行くのね」
「先も後もねぇよ」
「しょうがないわねぇ~」
諦めたのかついて来るのを辞めたベルゼテ。途中でジェインが出てくると笑っている。
「いいのかぁ?」
「ベルゼテが居なくても猪くらいどうにかなるだろ」
こちらには国宝武器がある。魔法の使い方を学ぶためではあるが、難しければ早々に他の武器に切り替えるだけだ。
西門を出るとそこは視界の開けた平原だった。マキファンズ国に属して居ながら首都へ繋がるような舗装された道は無く、ギルド職員が言っていた意味を理解する。
「これじゃ交易もままならないんじゃないか?」
「悪魔と魔族とエルフ族に囲まれてるからなぁ。余程の事があっても来る奴居ないんじゃねぇ?そもそもゼノンダラス国の冒険者だらけだっただろぉ」
「え、わかんの?」
「二本の剣はゼノンダラス国の象徴だからなぁ。マキファンズなら鷹と狼、ギルドカードの模様だぜぇ?」
そういえば背景のように模様が入っていた。ジェインは居住スペースに引きこもっていたのかと思ったがシェイドになりギルド内を探索したそうで…シェイドならば認識されないのを良いことに冒険者達のギルドカードも盗み見たんだとか。
本棚付近に居た魔術師は新参者だが複数のマナを感知でき、茶髪の大男はBランク冒険者。レイドに会ったのか一人でぶつくさと文句を垂れていたらしい。
「シェイドって人に憑いたら離れられないんじゃないのか?」
「肉体を手に入れたんだぁ。そこらの雑魚と一緒にしないでくれよぉ」
とは言え、気を付けた方がいい冒険者パーティーが二組。ジェインの話によるとセトキョウヤを探しにゼノンダラスからポロスまで来たそうだ。そんなパーティー他にも居るのだろうが…
「一つはAランク冒険者が二人、Bランク冒険者が一人の三人組でよぉ…青い髪の優男がリーダーだぁ」
「そんな奴居たか?」
「バッチリ見られてだぜぇ?」
それはバイコーン装備だからだろう…。
「もう一つのパーティーは?」
「全員Aランクの女パーティーだなぁ」
元騎士だった女を筆頭に他は魔術師、槍術師、神官が同行している、とジェインに教わる。高ランクなら見た目でも分かりそうなので近付かないようにして…今はボアを探そうと辺りを見回した。
風に吹かれて揺れる草花、雲一つない青空…そこをホウキで飛ぶ魔女…こんな良い天気に空の散歩なんて気持ちよさそうだ。
「…あ?魔女?」
「ククク、終わったみてぇだぜぇ」
「ボアの魔核15個よ!」
ボアは3頭で良かったのだが。いや、違う。そうじゃなくて。
「なんでベルゼテが此処に居るんだよ?!」
「先にボアの依頼を片付けて悪魔退治に行くんでしょう?この付近のボアはまとめて狩ったからもう居ないわよ?魔核が無事なのは15個だけだったけど…」
悪魔は元から幸運が低いのよ。
俺達の前に降り立った魔女は頬に手を当て悲しそうに溜め息を吐いていた。
「…行かない」
「さぁ、行くわよ!」
「行かない…」
「諦めるんだなぁ」
「わふ…」




