24話 魔法を使うには
色々な意味で悲しい気持ちを拭いきれないままの俺はセレーネと一緒に東門付近の屋台を回った。夜のように鉄板焼きばかりではなく、串焼きや見たことのない蒸し料理、クレープのような甘い匂いもする。匂いに釣られてあちこち行くセレーネを追い掛けながら、これ、と立ち止まる所で買い物をした。一つ一つ包装されたチョコレートを売っている店も見付けたのでいくつか買っておくことにする。
「ギルドはどうだった?」
「わふっ!」
「あら、そうなの?」
祭りを連想する屋台で沈んだ気持ちを忘れ始めた頃、偶然ベルゼテとレイドに会ってしまった。セレーネがなんと言ったかは分からないが、こちらを見てニヤついたベルゼテの反応で悟る。悟ったついでにベルゼテの脛を蹴ると、蹴られた張本人ではなくレイドが俺の肩を掴んだ。俺の行動は完全に子供のような八つ当たりであるが、まさかこんなに人通りのある所で剣は抜かないだろうと決め付けた俺が悪いのだろうか。
「!!」
「レディへの態度がなっていないね、グラウディアス君」
「すぐに剣を抜くのは人としてどうかなって思うんだけど?!」
「でも避けたじゃないか」
「避けるわ!」
正確にいうと避けさせてもらった、なのだが。ジェインの姿は見えていないようなので何も言わない。
剣を抜いた冒険者が目の前に居るせいで注目の的だった。ある程度の食い物は買ったから部屋に戻ろうとすると、今度はミヤとイリアが立ち塞がる。三人とゴキブリ一匹で仲良くデートをしていたらしい。
「グロウディースと言ったわよね?さっさとこの女を連れて行ってちょうだい!」
「レイドにかけた魅了魔法も解きなさいよ!!」
別に名前は覚えられてなくてもいいんだけど。
「シェーンは居ないのか?」
二人を無視してレイドに聞くと剣を腰に戻しながら「御者と一緒に荷物の整理をしているよ」と言った。人にはインベントリという便利機能はあってもそれぞれ容量が決まっているから、外に出しておける物は出しておくそうだ。荷物の整理をしてこの街で素材を売るつもりらしい。
レイド達は冒険者だから、色んな街を回って依頼をしているのだろう。今はセトキョウスケの依頼を受注しているが、他の依頼もやらなければ生活も苦しくなるそうだ。
「Bランク冒険者でも生活が苦しくなんの?」
「君達のバイコーンのようにオートリジェネが掛かった防具じゃないからね。魔物と闘って綻べば修繕しないと死んでしまうよ」
「オート…」
リジェネ…?自動回復みたいなやつ?
「まさか知らないなんて事はないだろう?君の右袖の部分、オートリジェネで直っているし」
「…あー、うん。オートリジェネ。そう」
全然気付かなかったけど右袖が元に戻ってる。元々黒いし血が滲んでも気付かないが、よく見れば血も付いていなかった。
俺の反応を怪しむように片眉を上げたレイドが俺に近付いた所で間にベルゼテが入る。レイドの視界がベルゼテだけになると、背景はまるでお花畑のようにレイドの表情が明るくなった。
「グラウディアスが戻るまで、と決めていたから私はもう行くわね」
「!ベルゼテさん、まだ貴女を行かせるわけには」
「レイド!そろそろこの街の依頼も見に行かないとでしょ!」
「そうよ。私達は仕事があるの。さっさと失せなさい」
声を荒げる二人にレイドが冷めた視線を向けると、二人はぐ、と口を噤んだ。ベルゼテに出会ってしまう前は何を言ってもニコニコと笑って宥める程度だったはずだ。色んな女に気を持たせておくにはそうするしかないのだから。だが、レイドがそれを辞めてしまった。そうすることで…レイドが率いていたパーティーがどうなってしまうのかは…
「グラウディアス、宿はあっちよ?」
「あぁ」
俺には関係ないか。セレーネとベルゼテは気にする事無く歩き出したが、俺はチラリと振り返った。
レイドはベルゼテの後ろ姿を見つめており、ミヤとイリアは恐る恐るレイドの腕に自身の腕を絡める。振り払われない事に安堵しながら、しかし自分を見てくれなくなったレイドから目線を逸らすように顔を俯けている。
「人間って、危うい子しか居ないのね」
「チョコレートで200年も閉じ込められてた悪魔には言われたくないんじゃないか?」
「ちょっと!それは女神が持ってた本のシナリオのせいじゃないっ」
「ははっ…あ、チョコレート買っといた」
「!!グラウディアス~っ!」
抱き付こうとするゴキブリから逃げてセレーネを盾にする。チョコレートを一つだけ投げて渡すと迫ってくる事はなくなり、俺達は宿へ戻った。
部屋へ入るとジェインが現れ、買ってきたものを食べながら各々寛ぐ。寝転がって食べるジェインを注意したのはベルゼテで、しかし疲れたからと言って体勢を変えないジェイン。
「全く、これだからお子ちゃまは。魔界でそんな態度を取ったら体に穴が空くわよ?」
「影の国はこの世界でいう路地裏が首都みたいなもんだからなぁ。魔界みたいな お貴族様制度 はないもんでねぇ」
「一度悪魔王に教育されるといいわ」
「ククク、こっちの世界に引っ張り出したら面白いもんが見れるんじゃねぇかぁ?」
「やめてくれ」
「わふ…」
続いての話題は俺の今後の戦闘スタイルについて、だった。通常の武器を使って魔物と対峙するのは絶対に無理だ、と言い切ったジェインに、ベルゼテがニヤニヤと笑っている。適性検査を受けた後のタリンのようなニヤニヤ顔に苛ついたが、否定も反発も出来ないため串焼きの串を噛み砕いて堪えた。
「見たかったわぁ~スライムに手を焼くグラウディアス!」
「うっさい。しょうが無いだろ、ステータスは全部1だし、適性属性もないんだから」
「聖魔法があるじゃない。使わなかったの?」
「……」
「…」
「使わなかったのね……」
ジェインも忘れていたようだ。勿論、俺も忘れていた。とにかく武器でどこまで戦えるのかを知りたかったのもあるが…せめて試し打ちはしたかった…。
しかし何が使えるのか分からないため、ギルドカードでステータスを確認してみるも何も変わりは無い。新たに属性が加わっていないため結局何が使えるようになったのかは不明なままだ。
「魔法って詠唱みたいなのが必要なんじゃないの?」
「対象に当てるためや威力を高めるために詠唱する事で安定した魔法が放てるわよ」
「俺それ知らないし」
「聖魔法は私も知らないのよね…詠唱が始まった時点で逃げるか先に潰しに行くし」
悪魔だもんな…。試そうにも試せないモヤモヤを抱えながらギルドカードを見つめる。レベルがあればステータスの変化もありそうだが、経験値の事を聞くと首を傾げられてしまった。この世界にレベルという概念はなさそうだ。
「次の依頼ではロッドを使ってみろよぉ」
「ロッド?あぁ、あの杖…」
「影の国に伝わる聖女の遺品だからなぁ。聖魔法なら馴染むんじゃねぇかぁ?」
「んー、あ、これか?」
取り出すとベルゼテの顔が歪む。身を引いて口元を引き攣らしているためこの杖が聖魔法に馴染みあるのは間違いなさそうだ。ステータスは知力+8000と命中+8000、更には幸運+8000。
「幸運って何?」
「魔物が持つ魔核を壊さず、しかも純度が高いまま取り出せるようになるのよ…あの、悪魔には魔核がないからこちらに向けるのはやめて…」
「別になんもするつもりないって」
「何よその顔!何か企んでるじゃない!」
さっきまでニヤニヤしていたベルゼテへの仕返しだ。
次はコレを使うとして、しかし肝心の詠唱も魔法の名前も知らないため不安しかない。
「魔法が使えなくて時間がかかるようなら他の国宝武器を使えよぉ?」
「そこは使えるまで見守るとか、頑張ろうとか」
「ならねぇなぁ」
「ですよね」
間髪入れずに返されて諦める。
「あー、あとベルゼテとかの身分証明ってどうすんの?ギルドカード発行してもらうのが早いのか?」
「ギルドカード発行には適性検査があるんでしょう?あんな魔具に悪魔である私が触れたら大変な事になるわよ」
「大変な事って…?」
「あれは自分がどの属性と相性が良いか…あの魔具に手を翳すと、性質の近い精霊が反応して自分の幻影を見せるの」
それが自分の適性。体の中にある魔力、そして自然界にあるマナ。どの属性を扱いやすいかが分かれば自然界にあるマナを抽出するのも容易くなり、魔法を放つ上で自身の魔力を節約する事が出来る。
適性した属性、といってもその属性魔法しか使えないわけではなくマナの抽出が上手く出来るか出来ないか、だそうだ。
「例えば、適性が火なら火のマナを集めやすいわね。自分の魔力だけで魔法を放つ時の負担が100だとして、マナは集めた分だけその負担を減らせる。適性が火でありながら風魔法を使うとしても魔力の負担は変わらないわ。でも、風の精霊とお友達じゃない場合は風のマナは集めにくいでしょうから負担を減らせない」
他の属性も使えるけど疲れるよって事か。中には複数属性のマナを感知出来る者も居るらしいが、そういう者は高ランク冒険者や各国のエリート騎士達ばかり…出世も簡単というわけだ。
「適性属性がない時点で落ちこぼれだからなぁ?おっさんも言ってただろぉ?赤子でも反応はするってよぉ」
「分かってるからっ」
「まぁ、グラウディアスの魔力は俺が持ってるからなぁ?数字がないって事はそもそもの負担がねぇ」
「あ、そうか…俺の場合はマナを集める必要がないのか」
「だなぁ」
それはチートっぽい。ゴミみたいなステータスを補える国宝武器と、適性属性が無くても負担なく使える魔法…。自身の闘う術はだいぶ優遇されている事に気付けた俺は話題を戻す事にした。
「で?ベルゼテの身分証明はどうするんだ?魔具に触れたらヤバいんだろ?」
「そうねぇ…精霊は悪魔を嫌っているから正体は曝かれるでしょうね。水晶に映し出されるのは…悪魔王、かしら?それはそれで面白そうだけれど」
それ宣戦布告しにきた悪魔王の召使いだろ。
「ギルドカードの発行は無理そうだな…」
「ふふふ、大丈夫よ。ほら、魔界の免許証。ヘルドラゴンの運転免許は350年前に取って、無事故無違反なんだから」
人差し指と中指の先にカードを1枚挟んで見せたベルゼテ。
魔界の、って言ってる時点で使えないと思うんだけど。




