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23話 初依頼はスライムで



 スライムを見付けたらジェインの助け無しでどのくらいまで動けるかを確かめたかった。ステータスはオール1。国宝武器は使わず、影の国で売っているというこちらの世界でも一般的な剣をジェインから受け取る。

 余計な事を思い出したため兄の姿がチラついてイライラした。アイツはもう居ない。お前なんてただのキープだから、と何回も遊んだ女に告げてその場で刺されて死ぬような恥さらし。本命の彼女は別の年上の男と結婚したってさ。


「あれスライムじゃねぇかぁ?」


 ジェインの声にハッとする。木と木の間をゆっくり移動する半透明な半球体。ゲームでよく見るまんまの姿は生で見ると不思議な気持ちになった。


「俺とセレーネは此処で見てるからよぉ」


 ジェインは小さいままのセレーネに乗ると手をヒラヒラと振った。

 貰った剣を握り、スライムに近付く。


 ステータスはオール1だが、この剣を持つと攻撃は+87だ。88の火力でどの程度やれるか…もし攻撃をされても死なないという安心感は絶大で、俺はとうとう目の前のスライムに剣を振り上げる。

 一気に振り下ろすが、スライムはスー、と動いて無傷。縦ではなく横か、と剣を横に振ったが当たらない。


「……」

「しょうがねぇってぇ。グラウディアスは命中も1なんだからよぉ」


 少し離れた所で控えているジェインとセレーネの方を見ると、そう言って肩をすくめられた。

 また視線を戻すとスライムには鼻がないのに鼻で笑われた気がして。目がないのにジーと見られている気がして。


「~っ!!」


 剣を振るがスライムはあっさりと避けてしまう。暫く続けてみたが結果は変わらず…地面に剣を突き刺して項垂れると、半球型のスライムから触手が伸びて手の形になった。そのまま俺の足をポンポン、と叩いて森の中へ消えていく。

 …スライムに慰められた。


「……泣いてもいいかな」

「わふ…、」

「ククク、俺の胸を貸してやるよぉ」


 ステータスオール1。武器を持てば火力は補えるが武器屋で売っている剣では命中を補えず、かと言って命中率を上げるには……


「ジェイン、弓ってあるか?」

「あー?」


 国宝武器は見た目も派手だし、バイコーン一式で固めている俺は他の冒険者からみたら更に目立つだろう。ランクが見合っていれば絡まれる事はなさそうだが、一番下のFランクでは先程の連中のようなチンピラのカモだ。撃退する術はあっても、俺の立場を考えればトラブルなんて何もない方がいいに決まっている。

 一般的な武器である程度は戦えないと、この先の旅に支障が出るのは間違いない。


 ジェインはぽい、と弓と矢を投げてくれた。


「俺が用意した弓なら矢は魔力で形成されるし無限に使えるけどなぁ?」

「むしろ影の国からまで追われたりしないか?」

「大丈夫じゃねぇ?」


 全然信用出来ないんだけど…。受け取った弓は部活で使っていたモノよりも小振りで、矢の先もギザギザした刃が付いている。攻撃は+56、命中は+18だ。基礎ステータスと合わせて20に満たないが、一桁は抜けた。


 弦は硬く、それでいて小振りなため姿勢が崩れるやすい。


「取り敢えず…」


 近くの木に実っているミカンを狙ってみる。風はない、ミカンを繋ぐ細い枝に狙いを定めて矢を放った。


「わふっ」

「お見事ぉ」


 落ちてきたミカン。ジェインは拍手しながらセレーネから降りてミカンを拾った。


「さっきのスライムはなんか狙いにくいから、他のスライムを探しに行くか…」

「反撃もせずに行っちまったもんなぁ」

「やめて、俺、泣いちゃうから」

「ほらぁ、貸してやるってぇ」


 両手を広げたジェインのデコを小突く。どうせ俺の攻撃力は1だ。弓を持っていても100にならない俺の小突きなど痛くもないだろうに、ジェインは額を押さえながら笑っていた。


 セレーネに先導してもらいながら奥に進むと、スライムが三体集まって何やら井戸端会議をしている…ように見えた。右のスライムがブルブルと震えると真ん中のスライムが触手を伸ばして右のスライムを叩き、左のスライムは拍手している。何をやっているんだ?と様子を覗うが、雰囲気は友達三人でふざけ合っている感じで。


「俺…あれを討伐すんの……?」


 あんなに和やかなムードのスライムを?


「まぁ、スライムの素材は色々使えるからなぁ」

「そんなの人間の都合じゃないですか」

「大丈夫だぁ。アイツ等みたいな下級に感情なんてねぇからよぉ」


 さっさと確かめてみろよぉ。ジェインに背中を押され、俺は渋々弓を構えた。動き回らずその場に居座る真ん中のスライムを狙い、矢を放つ。真っ直ぐ飛んだ矢はスライムに当たり、そのスライムはドロ、と形を保てなくなったように溶けていく。


「当たった…!」

「あの赤い魔核を拾えば一体目は完了だぁ。依頼は三体だろぉ?丁度終わりじゃねぇかぁ」

「そ、そうだな」


 再び弓を構えたが、一緒にいたスライム達は討伐されたスライムを囲って震えている。魔核を手に取ってはそれを抱き締め、液状化したスライムの残骸を撫でては己の涙を拭うような仕草。


「……感情あるじゃん。感情しかないじゃん!」

「めんどくせぇ」


 ジェインの胸倉を掴んでスライムを指差す。何この罪悪感。ゲームとかならあんなシーンないし。いや、あったらやりにくいわ。実際、今ものすごくやりにくいわ。

 鬱陶しそうに顔を背けるのはやめてほしい。


「腕試しすんだろぉ?」

「まぁ、弓は当たったからもういいや…」

「はぁ?!」

「俺には出来そうにない…」


 あんなに仲間の死を悲しむ奴等を討伐するなんて。そんなにスライムの素材が必要ならそれに変わる何かを発明すればいいんだ。


「別に気にする事はねぇけどなぁ~…」


 せっかく残り二匹はあそこに居るのに…と言いたげなジェインの肩を叩いて引き返す事にした。今後、スライムの討伐依頼は避けるようにして…もっと狡猾な魔物を相手にすればきっとこの後ろめたさも無くなるんじゃないかと…。

 スライムに背を向けて歩き出すと、討伐する気になれなかった二匹のスライムが回り込んできた。仲間を討ってしまったのは俺だ。申し訳なく思い二匹のスライムを見下ろす。俺はお前達の命まで奪うつもりはないんだ、そう目で訴えると、物凄い跳躍をしたスライムは俺の顔面にぶち当たった。


「………」

「はぁ、」


 ジェインが溜め息を吐く。


 剥がそうとしても剥がれず、完全に密着したスライム。反射的に目を閉じてしまい、しかも目の前に粘着質なスライムが居るため視界は奪われたままだ。


「……」


 口も開けられない。というか息が出来ない。段々と苦しくなってきてスライムを掴んで離そうとしても離れない…。


「グラウディアスぅ…コイツらも魔物だからなぁ?」


 そんなこと言われても。


「顔もねぇし可愛くもねぇだろぉ?」


 段々可愛く見えてきたのは事実だし。


「そんなもんかねぇ…」


 口が塞がれている状態で喋れないのに会話が成り立ってる気がした。ならばこのスライムを剥がしてくれと念じると、ジェインは簡単に引っ剥がして更には叩きつける。それだけでスライムはビシャッと潰れて赤く小さな魔核を残して消えてしまった。


「あぁあああスライムがぁああ」

「馬鹿かぁ?お前殺されかけてただろぉ?」

「俺の体力はジェインが持ってったんだから死にはしないだろ?」

「呼吸は俺じゃどうしよもねぇからなぁ」

「…あ、」

「はぁ~、」


 そうか。確かに苦しかったし、あのまま息が出来なければ体の機能は止まるだろう。防御力だとか体力だとか関係無しに、生物に呼吸は必須だ。


「スライムこわ!」

「あと一匹だぜぇ」

「わふ…」


 初心者でも討伐可能な依頼。こちらの攻撃が当たればすぐに死んでしまうスライムだが、窒息死を狙う攻撃は中々えぐい。討伐対象がスライムでもギルド職員が監視員を付けようとしたのは油断した俺みたいな冒険者が過去にも居たからだろう。

 あんなに後ろめたかった気持ちも、目の前のスライムが攻撃を仕掛けてくるためすっかり失せてしまった。全てジェインによって攻撃を避けれているが、このまま弓を使って倒すしかない。…いや、こんなに近付かれたら構えられもしない。


「あー!もー!!」


 矢で刺そうにも射る力よりも劣るため刺さらない。剣に持ち替えれば当たりもしない俺の攻撃に、焦れったさと苛立ちが湧き上がってくる。俺の感情を読み取ったジェインは「いつまでスライムなんかと遊んでるんだぁ?」と呆れたように聞いてきた。

 遊んでないから!当たらないんだよ!!こんなに近くで剣を振ってるのに掠りもしない…っ!


「落ち着いて考えろグラウディアスぅ」

「ーっ」

「出来る事ぉ、あるだろぉ?」

「出来うおっ!出来る事…?」


 顔ばかりを狙ってくるスライム。


「そうか…ギリギリの所まで引きつけて」

「違う。国宝武器を使え。」

「…」

「早くしろ。」

「ヴゥウウ」

「…はい」


 いつもヌッタリ喋っていたジェインがハッキリ喋った。今はどれだけ戦えるかを知りたくて此処に来たため国宝武器を使いたくはなかったが、ジェインだけでなくセレーネまで唸り始めたため国宝武器である銃を取り出した。

 一発撃っただけで飛び回るスライムが破裂する。あんなに当たらなかった攻撃が武器を変えただけでこんなにあっさりと。


「グラウディアスぅ」

「…なに」

「これからはソレ使えよぉ?」

「いや、でもさ、」

「使うよなぁ?」

「はい」


 スライムの魔核はセレーネが持ってきてくれて、それをジェインがインベントリにしまう。二人の足取りはとても軽かったが、俺だけ重たくて仕方が無かった。

 初依頼を終えた俺達は街に戻り、ギルドの建物の前に来るとジェインは姿を消す。セレーネと二人で依頼の報告をすると無傷である俺を見てギルド職員は喜んでくれた。


「他にも依頼を受けていかれますか?」

「あー…また、後で来る…」

「そうですか…もうお昼の時間ですもんね。東門付近の屋台は安くて美味しいのでオススメですよ!」


 ニコッと笑って首をこてんと傾げたギルド職員に礼を言ってギルドから外へ出る。昼時の街の様子は朝よりも賑わっていた。


「飯と…チョコレート探すか」

「わふっ!」




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