22話 初心者キラー
ポロスの街の中で声をかけられれば特に問題はなかった。しかし後を付いてくる人物はそうしないため、こちらからもアクションは起こさずに南門から出て行く。門番には依頼書を見せるだけで良いそうだ。
「さて、セレーネ」
「わふ!」
「移動はさくっとしたい所だけど人の目があるとな…」
ある程度進んだ所で振り返ると、三人組は何処に隠れるでもなく立っていた。中心に立つ男一人と、両脇に控える女二人。どちらも男に寄り添って見えるため俺が嫌いな項目に当て嵌まりそうだが…
「珍しい魔獣を連れてるじゃねーの」
「あぁ、そういう…」
狙いはセレーネか。人に対して唸る行為は止めてきたが、今回は見逃そう。
「契約の首輪をしていないなら簡単だ。こっちに譲ってくれよ」
「モフモフした~い」
「わんちゃんこっちおいでぇ?」
「この通り、連れが煩くてな。どうせ金で買ったんだろ?バイコーンの装備で初心者だもんな?」
コイツ等が冒険者…だとして。レイド達のように装備は整えられていない。その格好からではゲームでいうジョブが分からず、なるべく距離を取っておいた。痛みはないし、死にはしないだろうが不死身だと騒がれたくもない。それに俺のステータスは相変わらず1のままだ。
人に対してあの銃を使うのも気が引けた。
「悪いようにはしねぇ。とっとと差し出しな」
「断ったら?」
「初心者一人が死んでも誰も分からねぇよ!!」
男は飛び出してくると同時にインベントリから剣を抜いて一気に距離を詰め、俺の首目掛けて剣を振った。くん、と頭を後ろに下げて避けると右方向からも剣が現れる。
(双剣か…かっこいいな)
危機迫る状況だと言うのに思考はそれで。思うように体は動かないがひょいと勝手に二撃目も避ける。ジェインだろうか。回転したり体を捻ったりと不規則な動きで左右から攻撃されるが、俺には何一つ当たらない。
「ちょこまかと!おい!」
「分かってるわよぉ」
後ろの女が詠唱を始めた。魔法陣が徐々に形成されていく様に見とれている間も男の攻撃は止まらない。
「わふっ、ヴゥウウウ」
「セレーネ、止めてこい」
「ヴァウッ!」
セレーネが女に向かって走り出すと、男がニヤリと笑った。もう一人の女は既に詠唱を終えていたようで、走っていたセレーネの足元に魔法陣が現れる。
「!セレーネ!!」
「ヴゥウウウ、」
「引っ掛かったな!お前のバイコーン装備も貰いたい所だが…まぁいいだろ」
セレーネの足元に現れた魔法陣からは鉄製の檻…見事に閉じ込められたセレーネが体当たりをしても壊れる事はなかった。そして未だに男は剣をしまわず、こちらを警戒している。
「あの檻に閉じ込められたら魔力が吸われていく。別に死にはしねぇよ。ちょっと意識が朦朧とするだけで…馬鹿になっちまうくらいだなぁ!」
下品な喋り方だ。
「使いたくは無かったけど…」
右手を空間に突っ込み、引きずり出す。
「仕方が無いよな?フィールドで人が死ぬなんて、冒険者なんて、そんなもんだしな?」
レッドボアを解体する時に使ったカタール。解体を終えてから拭かずにインベントリに入れたからか、血に塗れていた。ポタ、と粘着質な血液が地面にゆっくり落ちる様は不気味でしかない。
俺は目立ちたくは無かった。変な噂を流されて注目されれば俺がセトキョウスケだとバレてしまう可能性もあるから。だが、セレーネをあんな檻に閉じ込めて俺から奪おうとするのは面白くない。
カタールから滴る血を見て口元をヒクリと引き攣らせた男に言ってやる。
「なぁ、お前の本命ってどっち?どっちにも手を出してんの?」
「…は?んなもんお前に関係あるかよ!」
「こういう問題知らない?」
溺れている二人の内一人しか助けられません。貴方はどちらを助けますか?
「お前は、どっちを、助ける?」
そういってカタールを振ると剣先が届くはずもない場所にある檻が、しかも鉄製のソレがすぱっと切れる。
中から出たセレーネが檻に閉じ込めた女の前に移動すると直ぐさま威嚇し、俺はカタールをもう一人の女に向けた。
「どっちがいい?」
「ひ、あ、アンリ!逃げろ!」
「え?!まっ、私は…?!なんでよっ!」
「ごめんねチェイシー!」
「やだ!行かないでぇ!」
カタールを向けられた女が街へ向かって逃げていく。
「俺、お前みたいな奴等、嫌いだわ」
ニコリと笑みを向けてやると尻餅をついていた男は持っていた剣を振り回した。避けるまでもなく当たらない攻撃を上から見下ろし、セレーネに向かって指示を出す。
「逃げた女捕まえてこい」
そう言えば男はやめてくれ、彼女だけは、と縋った。セレーネから解放された女はその場で泣き崩れ、男に向かってひどい、と悪態を吐き出す始末。
どうやって収拾をつけようか考えながらカタールをしまうと、逃げた女を捕まえてこちらに戻ってきたセレーネ。と、その後ろには南門に居た門番の一人。表情を見るとかなり焦っているようだ。
「あ、あの!君の魔獣が女性を!!」
確かに逃げてる人をくわえて街から離れて行ったら焦るよなぁ。
「コイツ等が突然襲ってきて、セレーネをあの檻に閉じ込めたんだ」
「なんだって?!」
「こういう場合、どうするんだ?人の物を奪おうとする奴は自分の何かを奪われても文句ないよな」
「ひっ!も、門番!助けてくれよっ!コイツは化け物だ!」
しかし半壊してはいるが檻があるのは事実。俺は依頼書を見せて此処に来たし、後から追い掛けてきたのはコイツ等だ。門番もそれは知っているだろう。
「…衛兵を呼んでくる」
門番が走っていくのを見送り、目の前で座り込んだ三人を見下ろした。
「縛っとくかぁ?」
「体調は大丈夫なのか?」
「あぁ…グラウディアスの首が切り落とされるかと思ってよぉ」
やっぱり攻撃を避けれたのはジェインのおかげか。しれっと出てきたジェインに三人は言葉を失っていた。それもそうだ。俺とセレーネを追って来たのに、何処からともなく現れた子供が居れば驚きもする。しかも縄を持ってニヤリと笑っているのだから、自分たちが何をされるのかは想像出来るだろう。
しっかりと縛った所で門番が衛兵を連れてきた。後ろ手に縛られて項垂れる三人組と、堂々と立っている俺を見れば悪者がどちらなのかも分かったようで。
「人の魔獣に危害をくわえるなんて馬鹿な真似を…」
「コイツ、初心者キラーのタッズじゃないか?泣き寝入りをしていた初心者も多かったが、これで報われるかもしれんな」
衛兵は三人を連れて街へ戻ろうとする。勿論、俺にも同行を、と言われたが断った。俺にはスライム討伐の依頼があるのだ。
「その檻はそっちの女が出してたよ。あぁ、あとそこに転がってる剣2本はソイツの剣」
武器をしまい忘れるなんて可哀想に。
負け犬の遠吠えである 覚えてろよ、 という台詞は聞けなかったが、これでようやく初依頼に取りかかれる。体を擦り寄せて来たセレーネを撫でていると、ジェインは首を傾げながら聞いてきた。
「グラウディアスは男が好きなのかぁ?」
「なんでそうなんの…」
「女が居るとヤケに絡むじゃねぇかぁ」
「女には絡んでないだろ」
アンナやギルド職員さんを口説いたかよ?言えば「確かになぁ」と納得するジェイン。
スライムを探しながら森の中に入ると、並んで歩くジェインは不思議そうにミヤ達の名前を出した。
「ミヤとイリアとシェーンには構ってただろぉ?」
「俺はただハーレム…あー…不毛な恋愛っていうの?男に良いように扱われてる女も、その男も嫌いなだけだよ」
「なんでだぁ?」
「…馬鹿らしいだろ」
「?」
いつか報われるなら無駄ではない。けれど、複数の対象が居る男はいつも余裕で、餌をチラつかせては離そうとしない。その中に意中の相手が居るならばさっさと解放してやればいいのに、それをしないクズ男。自分が選ばれないのを薄々感じながら、それでもチャンスを狙う女も馬鹿らしい。
俺の兄は、そういう男だったから。間近で見てきて気分が悪かった。面白いからと進められたハーレム系の漫画も胸糞が悪くなるだけで、だったら一人の女を一途に守り抜く主人公の方が格好いいと思う。
「まぁ、俺が嫌いなだけだよ。当事者達が満足ならそれはそれで」
ただ目の前に居て欲しくないだけ。




