21話 ポロスのギルド
「わふっ!」
セレーネの声で目を覚ますと、ベルゼテの腕を掴んでいるレイドが居た。寝起きこんな光景見たくもない。夢だった事にしよう。再び布団に潜って目を閉じるとセレーネが俺の上に乗って飛び跳ねる。
「んぐっ!おまっ!うっ、ちょ!」
「なんだぁ?…うぉお!セレーネぇ!俺にもやらせろぉ!」
「やめ!や、待て、まっ、ーーー!!ンンンンンっ!!!」
セレーネと一緒に飛び乗ってきたジェインの足が俺の下半身を踏み付けた。声にならない声と喉が焼けたかのような俺の叫びを聞いてキョトンとしたセレーネとジェイン。二人を退かして起き上がり、未だに違和感のある下半身を思いながら頭を抱えた。するとジェインは「ワリぃ~急所はあった方がいいと思ってそこだけ痛覚残してたわぁ」と言った。こうして男の弱点が俺の唯一の弱点になった所で、仕方が無しにベッドから降りたわけだ。
「で?何やってんの?」
「やぁ、グラウディアス君。賑やかで微笑ましいね。僕は彼女と街を探索してみようと思って」
「朝早くから扉の前に気配があって、開けたら彼が居たの。急いで閉めたんだけど中に入られちゃって」
「ククク、窓から落とそうぜぇ」
「パーティーのリーダーは君だろ?グラウディアス君の許可があれば僕と彼女はデートを出来るんだけど」
ベルゼテは鬱陶しそうな顔を隠さずにこちらを見ると口ぱくで何かを言っている。
こ ろ し て い い ?
「駄目だから!」
思わず叫ぶとベルゼテは舌打ちした。
「駄目なのかい?君一人が彼女の独占しても良い権利はないだろう?ほら、彼女も君には呆れて舌打ちしてるじゃないか」
お前を殺せなくて舌打ちしてんだよ。
「グラウディアスが私を独占する権利?夫婦なのだから当然よ」
「!君ほど美しい人が…何故グラウディアス君に…」
夫婦設定まだ継続すんの?と肩を落とすとジェインがポンチョを羽織ってベルゼテの空いている手を握った。何をするのかと思えば悲しそうな顔をしてベルゼテとレイドを見上げ…
「ママぁ、このお兄さんに鞍替えするのぉ?パパは捨てちゃうのぉ?」
「あらジェイン、私はそんな事しないわよ」
「お兄さんはなんでママの手を握ってるのぉ?ママはパパのだよぉ?」
「き、君はジェインというのか。ママとお兄さんは少し外で話しがあるからパパの所へ行っておいで」
レイドは膝を曲げてジェインに笑みを向ける。その光景がなんとも滑稽過ぎて噴き出しそうになったがなんとか堪え、かといって俺までアイツ等の茶番に付き合うつもりもない。しかし本当に俺達が夫婦でジェインが子供だった場合、レイドの対応はゴミ以下なんだが。
グー、と体を伸ばして一気に力を抜いた。
「行くか、セレーネ」
「わふっ」
「私達を置いていく気ね?!」
「グラウディアスぅ~俺も行くからぁ」
「邪魔者は消えましたよ、レディー」
さっさと離れてこちらに来たジェインに「パパじゃないの?」と聞けば「お望みなら呼んでやるよぉ」と言われたため首を横に振り、ベルゼテとすれ違う瞬間にレイドの監視を頼んでおいた。
部屋から出れば不機嫌丸出しのミヤとイリアが立っている。
「おはよ」
「ふざけんじゃないわよ!私のレイドを返して!」
「私のレイドをどうするつもり?」
お前のなの?それともお前のなの?どうでもいいけど。扉を閉める前に二人にも外に出るように言って、ベルゼテが従えばレイドも出てきた。腕は離すつもりがないのかずっと掴まれていて、ベルゼテは怠そうにその手を見つめている。
「取り敢えず外で取り合いでもなんでもしててよ。俺達は行くし、レイドがしつこいからベルゼテは置いてくし」
「この女も連れて行きなさいよ!」
「レイドどうしちゃったの…?もしかして魅了魔法…?」
は?とベルゼテを見ると目が合った。こんな面倒な奴に魅了魔法を…?と顔を顰めた俺にベルゼテから口パクの返事。
ぜ ん い ん こ ろ し て い い ?
「…ベルゼテ、俺はチョコレート探してくるから」
「まぁ!楽しみにしてるわね!」
騒ぐミヤとイリアの事は気にするつもりもないようで、ベルゼテはさっさとレイドを連れて宿から出て行った。それを追い掛けるミヤとイリア。シェーンは居ないが俺には関係ない。
宿屋の主人にギルドの場所を聞いて、ジェインとセレーネと共に外へ出る。
夜はお祭り騒ぎのように賑わっていたが、朝は静かだった。
店主に言われた方へ向かって歩き出すとすれ違うのは人だけではなく、耳や尻尾が生えた人型の…所謂獣人も居る。
「やぁ、冒険者の方ですか?ポロスには仕事がたんまりあるから、よろしく頼むよ」
「これからギルドに行くの?精が出るねぇ!」
「冒険者さん、朝ご飯はもう済んだ?良かったらこれ食べて」
「歩く度に声かけてきやがるぞぉ?」
「獣人族は素直な奴が多いって言ってたしな」
裏があるわけではなく、気さくに声をかけてくれただけだろう。渡されたフルーツサンドを食べながらギルドへ向かう。
ドゥーロ側の入り口は人が多く、奥に進むと人と獣人族が混在し、更に奥へ行けば獣人族が多くなるようだ。ギルドは街の中心にあり、家や店よりも遙かにデカい建物なおかげで見た目も分かりやすかった。
朝ではあるが冒険者らしき人物達の出入りもある。
「行くか」
入っていく冒険者の中には魔獣を連れている人も居たため、セレーネも大丈夫そうで安心する。大きな扉を開けて中に入ると、吹き抜けの天井、二階部分の手摺りに寄りかかりながら話す冒険者や、壁沿いに並ぶ本棚を仲間と一緒に見ている冒険者、受付らしい所は列が出来ており、本棚とは逆の壁には人集りが出来ていた。
様々な話し声が騒音となって聴覚を刺激するが、正にファンタジー…だ。
「…おぇ、1回消えるわぁ」
「大丈夫か?」
「おぇ」
吐きそうなのか口元を押さえながらジェインが消えた。ギルドから外へ出るわけではなく、恐らく居住スペースへ。
「そんなとこ突っ立ってたら迷惑よー?」
「あ、すみません」
いつまでも入り口付近に居るのは確かに迷惑か。ドゥーロでは此処まで賑わって居なかったし、そもそも依頼の受注方法も聞いていない。ギルドと言えば受付嬢…?カウンターは沢山あるが、それぞれに看板も立てられている。左奥から順に素材換金、訓練場案内、完遂報告所、依頼受注所、相談窓口…。人集りが出来ている所は所謂クエストボードというやつか。所狭しと紙が張り出されており、我先に、と手を伸ばしている。
まず向かうべきは決まりだな。
「おはようございます!」
相談窓口という看板の所へ行くとカウンターを挟んで奥に座っているギルド職員の女性が元気よく挨拶してくれた。こちら側には椅子がないためカウンターに肘を置いて凭れる。
「初心者なので色々教えてほしいんですけど」
「えっと…?」
「?ここ、相談窓口って書いてありますよね?」
「はい!そう、なんですけど…お兄さん、初心者っていうのは…」
「ドゥーロっていう街でギルドカードは作ったけどなんもしてないんだ」
「ではギルドカードを拝見しても?」
言われた通りにギルドカードをカウンターの上に置いた。それを手に持ったギルド職員は「ホントにFランクだ…」と呟いている。
「グラウディアスさんと、そちらはセレーネさんですね」
「わふっ」
「契約の首輪はされないんですか?ギルドカードに名を連ねているという事は信頼もあるのでしょうけど…」
「あー…付けた方がいいのか?」
本来であれば、とギルド職員は言ってセレーネを見た。俺もセレーネへ視線を向けたがセレーネも顔をふい、と背ける。
「仲間で会話が出来る奴も居るし意思疎通は出来るけど」
「そうなんですか!ちなみにセレーネさんの種族は?見かけた事のない種族ですけど、ゼノンダラス…はないですよね。出身はアウトラですか?それともガナルディの?」
スクライカー、とは言えないし。魔狼で通じるだろうか…種族や出身と聞かれても正直この世界の事は分からない。
悩んでいると隣の受付から名前を呼ばれた。返事をする前に顔だけ向けると、相談窓口のギルド職員が苦笑する。
「珍しい名前でしょう?セトキョウスケ。今、ゼノンダラス国のギルドからマキファンズ国のギルドへも依頼協力の通達が来てまして…なんでも、重犯罪人らしいですよ」
「それは…怖い、ね」
ポロスはまだまだ片付けきれない依頼が沢山あるのに!報酬がいいからって皆さん依頼に殺到しちゃうんだから…!と唇を尖らしてプリプリ怒っている。目の前に居る新人冒険者がその正体だと知れば…大喜びしそうだな…。
咄嗟に返事をしなくて良かった、と内心ホッとしつつ、セレーネの種族についての話しが逸れたため良しとしよう。
「この通り依頼は1回も受けた事がなくて、だから説明とかあれば聞きたいなって思ったんだけど」
「はい!もちろん!でもバイコーンの装備だから、初心者さんだとは思いませんでしたよ」
ふふ、と笑っている職員さん。声が大きいよ。近くに居た冒険者はこちらを見ると「まじでバイコーンじゃん」「見たことねぇよ」と興味津々だ。出来るだけ目立ちたくは無かったのだが、これは仕方が無い…
「金はあるから、さ」
必殺、パパのお金。と言っても家を出た設定のため多用できないが。
一通り流れを聞くと至ってシンプル。壁に貼られた依頼を選びカウンターに持っていく。受注し、完遂すれば報告する。素材の換金もギルドで出来る。依頼はランクごとに分かれ、それぞれ+と-が付いている。
「例えば、Cランクの依頼でもこちらはC+、こちらはC-です。Dランクの方はFランクからC-ランクまで受けることが認められておりまして、ランクアップに必要なポイントも多く貰えます」
「俺はFだからFランクかE-ランクなら受けれるって事か」
「はい!あちらに貼り出されているのは緊急や特例でして、その分報酬も高いです。ですが、こちらでも定期依頼がありますので選べますよ」
ギルド職員が分厚いファイルを出し、ペラペラと捲る。F、と赤いハンコを押されたソレは大体が採取依頼だ。D-でスライムやボアの討伐。D+でウルフやレッドスライム…。途中でギルド職員さんが+になっているのに気付いたのかページを戻していく。
「ランクを上げたいならスライムかボアの討伐ですね!初心者さんはこちらから監視員の派遣も出来ますよ」
「大丈夫。スライムの依頼を受けさせてもらうよ」
「スライムも魔物ですから…念のため」
と言われても、俺が持っている武器を人に見られたくないし…セレーネも居る。ゼノンダラス国は魔物を嫌う国なわけで、ダグマラート山脈は別と考えてもドゥーロから此処に来るまでほとんど魔物を見なかった。これから先、どんな魔物と対峙するか分からないから慣れておきたい。
「セレーネも居るし大丈夫だ」
「わふっ!」
ギルド職員さんは躊躇いながらも依頼書を出し、そこにサインする。ポン、と捺されたハンコ見て、冒険者らしくなった事に少しワクワクしつつ…
「あの、無理はなさらないでくださいね…」
「ありがとう。行ってくる」
依頼書をインベントリに突っ込みギルドから出る。スライムは俺達が入ってきた入り口ではなく、ポロスから見て南門の方に居るそうだ。未だに出て来ないジェインの心配もそこそこに俺とセレーネは南門へ向かった歩き出す。
そんな俺達の後を付いてきている人物が居る事には…まぁ、セレーネのおかげで気付いているんだが。




