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17話 ポロスを目指して



 アルテミスとの別れがあってもセレーネは元気に走ってくれた。背中に乗っているのは俺。俺の肩にしがみついているジェイン。ベルゼテはどこからか出したホウキに横座りをして飛んでいて、魔女のようにも見える。


「一気に二人も増えて…目立たないといいんだけどな」

「おぉおおおすげぇえええ風だぁ!風を感じるぜぇ!」

「うっさ!耳元で叫ぶなよっ」

「グラウディアスぅう!風だぜぇええ!」


「ジェインと言ったわね?そんな子供の姿をしてそんな口の利き方では目立つわよ?私を見習いなさいな」

「うるせぇ乳デカ年増ゴキブリがぁ。俺は今気分がいいんだよぉ」

「触覚は無くしたでしょ?!肌の色だって白くしたじゃない!」


 ゴキブリ云々以外にも悪口の宝庫かお前は。

 結果的にインベントリを持っていなかった俺にチート武器を恵んでくれたジェイン。しかも体力と魔力という生きる上で必須な数値をなんとかしてくれている。きっとジェインが居なければ初日に窓から飛び下りる前に殺され、そうでなくてもおっさん系モンスターに腕を吹っ飛ばされた時点で死に、それを避けた所でレッドボアに殺され、生きていたとしてもレイドに手首を斬られただけで死ぬ。

 どうせ体力も 1 だろうから。


 それにベルゼテはセレーネと会話が出来る。悪魔だが姿を変えられるし、なりきっても居る。地下で出会った時も攻撃らしいものはされ…ていない。背中を蹴られた事は忘れておいてやろう。

 どちらも仲間として行動出来れば俺が生存率が上がるだろう。


「言ったわね?後悔させてあげる」

「悪魔如きがぁ、影の国に引きずり込んでやろうかぁ?」


 …だよ、な?


 未だに終わらない言い合いをどう止めるか悩む。口を挟んで俺までターゲットになったら面倒だ、というのが悩む理由でもあるが。


「はぁ~…取り敢えずお前等一回黙って。悩むから」

「んだよぉグラウディアス~冷たくすんなよなぁ」

「私は貴方のためを思ってこのお子ちゃまを注意してるのよ?」


 どうしたものか…唯一の癒しは女の子のシャンプーの香りがするセレーネだけだ。首の部分に顔を埋めて二人が黙るのを待った。黙る気配がないから諦めようとも思った。

 するとセレーネは速度を緩め、大きな木の下で止まる。顔を上げるといつの間にか夜になっていた。


「クゥーン…」

「もうすぐで着くけどこのまま進むか、一度此処で休憩するか聞いてるわ」

「疲れたなら休んでいいよ、セレーネ」

「わふっ」

「グラウディアスが項垂れてるからセレーネが心配してるのよ。貴方を休ませた方がいいんじゃないかって、それで此処で止まったそうよ?」


 会話…出来る!そしてセレーネが良い子すぎて胸の辺りがキュン、とした。振り向いているセレーネの頭を撫でながら「俺は大丈夫」と答える。セレーネに乗っているだけの俺が疲れた、等と言えるわけもない。勿論無理をして言った台詞でもない。


「俺が項垂れてたのはジェインとベルゼテが煩くてだからさ」

「ヴゥウウウウ」


 牙を剥いて唸ったセレーネにジェインとベルゼテの肩がビクッと揺れた。


「別にぃ、犬っころなんて怖くねぇけどなぁ?」

「せ、セレーネを怒らせるのはまずいわよ」

「んだぁ?お前ビビってんのかよぉ」

「アルテミス女神の眷属よ…お子ちゃまは知らないでしょうけど…200年前のマーレという狼…セレーネにとてもそっくりなんだけど…あぁ、思い出しただけでもおぞましいっ」


 いやお前悪魔だろ…。


「な、なんだぁ?俺はビビんねぇからなぁ?!」


 なんで動揺してんだよ。


 フン、と鼻を鳴らしたセレーネは再び走り出した。日は落ちてしまったが夜の内にポロスへ辿り着きそうだ。セレーネに対するベルゼテの発言の効果もあってかジェインも大人しくなった。

 アルテミスが女神としての力を持っていた時の事はセレーネとベルゼテしか知らない。と、いう事は…セレーネも200年以上生きている事になる。魔物の寿命を知っているわけではない。しかし自分でスクライカーだと言っていた…。いや、そういえばアルテミスは始めマーレ、と呼んでいなかったか?そしてベルゼテの台詞…


「……まじか、」


 セレーネの首を撫でる。ジェインが「何がだぁ?」と聞いてきたが「そのうちな」と返して、遠くで光る街の灯りを見下ろした。

 道なりに進んでいれば目の前にある急な下り坂には直面しなかったのだろうが仕方が無い。幸い夜で暗いから駆け下りても目立たないはずだ。覚悟を決めた俺はセレーネにしがみつく…が…


「先にあそこに居る魔物を退治してきてあげるわ」


 そう言って消えたベルゼテ。恐る恐る坂の下を覗くが暗すぎて何も見えない。


「なんか居た、か?」

「トレントだなぁ…木に擬態してあそこの人間共を襲うつもりだったんだろぉ」

「あそこに人間…居る?」

「わふ」


 街の灯り以外に何も見えやしない。近寄れば分かるはずだが、セレーネは動かなかった。


 暫くして戻ってきたベルゼテは倒したトレント三体の内二体はそのままに。一体はバラしたから今後野宿する事があれば薪に使おうと提案してくる。それを収納する術を持っているのはジェインだけで、やっと駆け下り始めたセレーネに不意をつかれた俺は仰け反ったまま声を押し殺した。


「ここよ」

「うわ…気持ち悪」


 木に顔がある。グタ、と枝を下ろしている大きな木。顔の下には穴が空いており、ベルゼテの攻撃力が凄まじい事がわかった。二体とも一発で仕留められているのだ。

 そのまま収納して必要な時に使う事になり、ジェインがしまう。バラされた木の枝は俺とセレーネで集めた。


「悪魔ベルゼテ様にかかればトレントなんて下級同然よ」

「頼もしい限りだよ…」

「ポロスでもチョコレートはあるかしら?」


 懲りねぇなぁ、と苦笑する。ポロスまで待たなくても、と適当な空間に手を突っ込んでドゥーロで買った菓子を渡す。確か甘い物の中にチョコレートもあった気がして…。受け取ったベルゼテは早速頬張った。

 ベルゼテの扱い方はわかったぞ。


「もう少し近付いてから歩くか…」


 ポロスの街に入る前にどうするかを打ち合わせし、街に入った後の宿についても話す。人の形をしている俺を含めた三人は良いとして、銀狼であるセレーネも一緒に部屋で休めるような所が条件だ。獣人や亜人の街だと言っていたから難しくはなさそうだが、念のため伝えておく。


「大丈夫よ。セレーネも一緒にベッドで休みたいものね」

「わぉんっ」

「ベッドかぁ…影の国のベッドは木枠だけだからよぉ」

「よく眠れるといいな」


 腐敗した姿では分からなかったが、人の肌を手に入れたジェインの目の下には物凄く濃い隈がある。見た目の年齢がこんなに幼くなったというのに、これでは虐待を疑われてしまうんじゃないだろうか。骨まで見えていた右腕も今では幼児体型のためプニプニで外傷はないが。


 ジェインは俺からぴょんと飛び降り、ベルゼテもホウキをしまった。俺が降りてからセレーネは腰の辺りまで小さくなる。暗闇に乗じて草を刈り取られた土道へ出てから再びポロスの入り口へ向かう。夜だと言うのに街の入り口が騒がしかった。

 原因は…あれか、と見覚えのある馬車に肩を落とす。


「なんだぁ?」

「ベルゼテ…もしかしてだけど気配とか消せる?」

「えぇ。様子を見てきてほしいのね?」


 話が早くて助かる。ふ、と見ようとしなければベルゼテが何処に居るのか見えなくなった。悪魔は便利だな、と思いながら待つとすぐに戻ってくる。


「Bランクパーティー、赤薔薇の君という冒険者達が街に入らないで何かを待っているそうよ」


 ベルゼテの話では、入り口の横に馬車を停めて焚き火をしながら座り込んでいるらしい。キンキン声の女や魔術師装備をした女がイケメンに早く街に入ろうと文句を言っているそうだ。門番も早く入るなら入ってくれと言いたげだがそうできない。


「Bランクパーティーだからあまり強く言えないって門番同士で嘆いてもいたわね」


 アイツ何してんの。俺を待っているのかもしれないが、出会い頭で手首を切り落とす異常者だぞ…

 このまま普通に街へ入っても良いのか…考えながら溜め息を吐き出した。溜め息をするたびに幸せが逃げると聞いた事があるが幸い俺の運は1だ。マイナスが存在しないのであればこれ以上は下がらないだろう。


「行くか…嫌だけど」

「何か訳ありのようね」

「あれだろぉ?金髪の白金プレート野郎。グラウディアスの手首を一振りで切り落としたからなぁ」


 骨も容易に切り落とせる武器か、それとも腕が良いのか…その、どちらもだろうか。


「わふ?」

「手が戻ったのはベルゼテの魔法のお陰って事にするか」

「首を斬られても俺が戻してやるから安心しなぁ」


 想像して首を押さえる。痛みは感じないようだが勘弁願いたい…。



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