表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/167

100話 ドラゴン達





「少し寄りたいところがあるんじゃが…」


 アウトラから少し離れた所でルゥ爺を呼び、空へ飛び立ってから言われた一言。空中での主導権はルゥ爺にあり、こちらには拒否権などないに等しい状況で言うのだからある意味策士だ。


「何処行きたいの」

「まぁ降りはせんよ。ちょーっと頭上を飛んでやろうと思ってな」


 そう言って進んだ方向はガルダワン。街に大きな影が落ちる程の高さで飛んでいくと風を切る音と一緒に鉄を打つ音が響いていたが、一度ピタリと止まった。


「ガルーダの奴、どんな顔をしておるのか楽しみじゃな」

「もういいのか?」

「寄り道は終わったからのぉ。ゼノンダラス国…ジューン砂漠だったか?すぐに着くぞ」


 再び鉄を打つ音が聞こえ、振り向いてみるとガルダワンはもう遠くなっていた。ルゥ爺は鼻歌を交えながら翼を動かして高度を上げ、前進していく。


「黒竜に……乗る、とは……ね!」

「ワイバーンより上下運動がないから楽でしょう?」

「はい!ベルゼテさ…んんん!?」

「危ないわよ……しっかり掴まりなさい?」


 ベルゼテに声を掛けられて油断したのか、飛ばされかけたレイドをダンタリオンが掴んで助けた。魔界に還っていると思っていた悪魔が俺の仲間になったと知ったレイドは、特に何も言わなかったがシェーンは落ち着かず…駄々をこねた女二人も一緒に置いてルゥ爺に乗ったのは俺達の他にレイドだけ。

 ワイバーンで移動する予定だったが、ローフォンドが自慢気に黒竜の話をしたせいでミヤとイリアを説得するのがかなり面倒臭かったのは…忘れようと思う。


 と、いうのも……


『レイド様…申し訳ございません……』

『いいんだよシェーン。此処は僕に任せてくれ』

『私はレイドと一緒に行くから!赤髪ババァなんかと二人きりになんてさせないからぁ!』

『私だって反対よ!…そ、その、黒竜に乗りたいからというわけじゃないけど!』


『ミヤ、イリア……僕からのお願いだ。必ず迎えに来る。それまで、仲間を……シェーンを頼めるのは君達二人だけなんだ。分かってくれるね?』


『わかんない!』

『わからないわ!』


『レイドが私から離れるならっ』

『黒竜に乗れないなら…っ』


『『死んでやるっ!!』』


 と、まぁ、凄く鬱陶しかった。結局ダンタリオンの幻覚で二人は簡単に手を振り、幻覚魔法に掛かったと気付かないレイドはそんな二人を抱き締めてルゥ爺に乗ったわけだ。乗ってから早々、ベルゼテに向かって今の抱擁に深い意味はなくて、と言い訳を始めた頃にはルゥ爺が飛び、その速さに言葉を失って大人しくなったのが少し前まで。


「レイドも置いてくれば良かったんじゃないの?」

「一応国境を越えるから、魔物嫌いのゼノンダラス国内でセレーネやルゥを見られたら一気に悪者よ?要請を受けた、と証明出来る者は必要なのよ」

「ベルゼテさんが僕を必要としている……!」

「イリアでも良かったけどな。ルゥ爺に乗りたがってたし」

「グラウディアス君はイリアがタイプなのか?そうか、それならそうと早く言ってくれれば──」

「リオ、離してもいいぞ」

「誓約者の命令は絶対だ。我を恨むなよ」


 涼しい顔をして言ったダンタリオンが軽く手を離すと後ろにふわりと飛んだレイド。その浮遊感に瞼が強く閉じられたが、その背中を掴んだダンタリオンがルゥ爺に押し付けるようにしてやるとレイドはしがみつくように手に力を込める。


「まぁ…赤薔薇の君メンバー全員が揃うよりはマシだけど」


 ベルゼテに出会い変わったのかと思ったがそうでもないようで、抱擁された二人は幻覚に掛かっているはずなのに頬を染め、更にはベルゼテに言い訳をする姿はなんとも間抜けで…。いっその事、期待なんてさせないくらいにベルゼテを想えばまた印象は変わるのだろうが……相手は悪魔だ。無責任な事は言えないため複雑な気持ちになる。


「そういえば、ルゥ爺とピュートーンが会ったらどうなんの?」


 遠くに山が見え、ドラゴンの存在を思い出して聞くとルゥ爺が鼻で笑った。


「あんな小僧、ワシを見たら穴を掘って隠れるだろうのぅ」

「誰が何を掘って何をするって?」


 平行して飛ぶドラゴン。角度を変える度にキラキラと光る青い鱗に、ルゥ爺や古竜とは違う細く長い胴体と透き通った声。


「ピュートーン…?!」

「前にあそこのハイドラを始末した人間だな?まさかリュゼ=ノワール殿の知り合いだとは思わなかった」

「リュゼ=ノワール…あぁ、ルゥ爺の事だっけ」

「その名は好かん!ルゥ爺と呼べ」

「過去を捨てるのも勝手だ。何処へ行くのかは知らないが、私は穴を掘って隠れるとしようか」


 ルゥ爺の言葉をしっかりと聞いていたピュートーンは面白がるように笑いを含ませて言うと何かをベルゼテに投げてから山へ向かって飛んでいく。


「なめられてんじゃん」

「うるさいわいっ……奴は若造の中でも生意気だったからのぅ!お主等を乗せていなければ地獄を見せてやった所じゃ」


 ルゥ爺のブレスで全て吹き飛ばせそうだが、ピュートーンもドラゴンだ。地獄を見るのはこの世界に住む生物達だろう。

 ベルゼテに何を受け取ったのか聞こうとして目線を動かすと、手に持っていた何かは黒く変色して砂のように細かくなると風に吹き飛ばされていった。


「それは?」

「ピュートーンの鱗ね」

「貰ってなにかあんの?」

「……ただの運試しよ」


 そう言って笑ったベルゼテは手の中に残った黒い砂を離した。運試しだとして、あんなに綺麗な鱗が黒く風化してしまうなんて…悪い事が起きる予兆のような気がする。俺が晒した表情で考えていた事が分かったのか、ベルゼテは「まさかビビったのかしら」と揶揄ってきた。


「運試しなら結果は最悪っぽいけど」

「私には幸運の数値がないから分かりきった事よ。それでも今、私はこうして外の空気を吸っているの。一つの奇跡が今も一緒に居るんだから、貴方は心配なんてしなくていいのよ」

「…なぁ、ベルゼテが俺について来てくれるのは──」

「見えたぞ!ジューン砂漠じゃ!」


 ルゥ爺の声に前を向き直すと緑が失せ、次第に茶色い景色が広がっていった。砂で覆われた地は風が吹くとサラサラと流れて跡を作る。


「…あれがジューン砂漠か」

「わざわざ人が住めないような所に拠点を作る理由は何かしらね。根城が欲しいなら国境付近の街を奪えばいいだけなのに」

「…此処から近い街は全て先陣した魔族達によって焼かれているんですよ」


 レイドは悔しそうに声を絞り出した。

 使えなくなった家を更に壊すよりは何もない所で拠点作りをした方が楽と考えたのか…。砂漠に作られた黒い外壁の城の周りには簡易的なテントが複数ある。上を飛ぶ黒竜に気が付いた魔族は走り出すとあちこちから魔族が外へ出てきた。


「此処でルゥ爺のブレスをやったら終わりか?」

「なんじゃ、良いのか?」

「…待って。あっちから何か……!!下降よ!下降しなさい!!」


─────ゴォオオ ゥ ッ !!


 ベルゼテの声にルゥ爺が一気に下降していくと、先程まで飛んでいた位置に太い熱光線が通っていった。離れたというのにそこでも感じる熱や、脳が揺れるほどの轟音は……。


「なに、あれ?ルゥ爺か?!」

「ワシなわけあるか!」

「じゃあ何!」

「…ふぅ、全く……熱烈な歓迎をしてくれるのぉ」


 地面すれすれを飛んだルゥ爺はそのまま着地すると俺達を降ろした。ルゥ爺が飛んでいないというのに翼を動かす音がして見上げれば、逆行のため黒いシルエットだけが浮かぶ。だが、どう見てもそれは…


「ついに復活したか。リュゼ=ノワール」

「久し振りじゃというのに随分と雑な挨拶をするではないか、のぅ?ヴュー=サジェス」

「その名は好かん」

「ワシもじゃ」


「古竜……!」


 ルゥ爺と同じ大きさの褐色のドラゴン。俺をダグマラート山脈に放置したドラゴンだ。


 声を出した事でルゥ爺の他にも何か居る事に気が付いた古竜は、地に足を着けると首の位置を低くし「人間と悪魔……それに魔物に魔獣?」と困惑した声色を漏らした。


「リュゼ、なんでこんな小っこいのを」

「ルゥ爺と呼ばんかい!まぁ、色々あっての」

「ほう……色々か」


「古竜と黒竜が居たら目立って仕方が無いわね」

「この者はどうする?今にも泡を吹き出しそうだが」

「…俺達は魔族の拠点に向かおう。ルゥ爺、古竜と話があるなら──」


 剣に戻らず話しててもいいよ、と言う前に古竜の口の中が目の前にあった。しかし食われるわけではなく、すぐに閉じられた口。大きな鼻先から生温い風が吹かれて……


「あぁ、あの時の…生きておったか。ん?イメチェンか?似合って居らぬよ」

「こんなに気さくな奴だとは思わなかったよ」


 目的は何であれ救われたのは事実。しかし放置されたのも事実…。複雑な感情を抱きながら答えると古竜は翼を広げた。


「リュ…おっと、ルゥだったか。見せてやりたい物がある」

「うぅむ……じゃがワシは」


 ちらりと此方を見たルゥ爺に「行って来い」と言えば少し嬉しそうに口元が動いたのが見え、そのまま二体のドラゴンが飛んでいくのを見送った。


「ルゥはかなりの戦力になるはずだけど」

「相手は古竜だ。ルゥ爺にとって大事な物かもしれないし」

「我はいつまでコイツのお守りをすれば良い?」

「あ」


 既に気を失っているレイドはうつ伏せの状態で倒れており、更にはダンタリオンが背中を踏んでいた。それの何処がお守りなのか問いたいが、細かい砂粒である此処でうつ伏せはさすがにヤバそうで仰向けにしてやると顔中砂まみれだ。


「置いてってもいいよな?」

「セレーネ、乗せてあげてくれるかしら」

「ヴゥウウ……」

「セレーネに乗るのは俺だし。コイツを支えながらは嫌だな。な?セレーネ」

「わふっ」


 拠点からは少し離れた位置で降りたため、素早く移動しなければ逆に迎撃される可能性は極めて高い。黒竜の姿は確実に見られているし、古竜のブレスは拠点の上を通った。警戒された状況で気を失っている男一人を抱えて戦場に行くなんて誰がする事だろうか。


「……ったく、おい。起きろレイド」

「うぅドラ、ゴン…ブレ、ス…ぅ」

「よし、起きないな。置いていこう」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ