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1話 異世界召喚




「成功でございます!」


 嗄れたじいさんの声に目を覚ますと見慣れない一室で見慣れない格好をした怪しい集団に囲まれていた。

 最近ニュースで騒がれていた殺人事件が頭に過り、何かの宗教団体に拉致されたと理解した俺は隣でまだ倒れたままの幼馴染みの肩を叩く。


「おい、やべーぞ」

「…ぅ…何が起こったの…」

「俺達どっかの宗教団体に拉致られたっぽい」


「聖女様のお目覚めじゃ!早く王を呼ばぬか!」


 じいさんは目を見開いて命令をすると、鎧を着た人はガシャガシャと音を立てながら走り去っていく。扉は二つ。俺達の後ろにある大きな扉と、鎧を着た人が出て行った右側の扉。

 王って奴がこの宗教団体のボスだろう。そんな奴が来てしまえば俺達は終わりだ。よく聞く若者の変死もコイツ等の仕業だったのかもしれない。

 パニックになりそうな頭をなんとか落ち着かせようと幼い頃によく行った婆ちゃんの家を思い浮かべたが…駄目だ線香の匂いがしてきた…死ぬかもしれない状況なのに既に弔われ始めてる。


 結局混乱した頭のまま、王とやらが部屋に入ってきた。


「おぉ…遂に…」


 赤く長いマントに金ピカの王冠。服とかそれどうやって着たの?というくらいに複雑で、もしかして後ろをマジックテープで止めただけかな、それだったら面白いな、とぼんやり考えた。

 すると次に現れたのは金髪の女。見目麗しく若そうな女だが、周りの反応を見るとどうやら幹部くらいには偉そうだ。その女が俺と幼馴染みの前で跪く。


「聖女様…勝手に貴女様をお呼びしてしまい申し訳ございません。ですが我々、ゼノンダラス国は聖女様のお助けが必要なのでございます」

「ゼノン、ダラス…」


 幼馴染みがぼそりと呟いた。


「聖女様、どうか…」

「私が聖女…?」

「えぇ、貴女様からは歴代聖女様達と同じ魔力を感じられます」

「…うそ」

「本当でございます」


 俺を除いた皆が頷く。


「ここはゼノンダラス国?じゃあ貴女は、もしかして…ヴァニラ様?!」

「あぁ…なんという事でしょう…聖女様が私を知っておいでだなんて…女神様…我々を見放してなどおらなかったのですね!」


 何故か盛り上がる一室に、俺だけが置いてきぼりを喰らっていた。

 そもそも俺達は学校に居たはずだ。日直だから、という理由で教師に雑用を頼まれた幼馴染みと、部活へ行く準備をしていた俺。


 俺、瀬戸(せと) 恭介(きょうすけ)と幼馴染みの滝内(たきうち) 真莉愛(まりあ)は確かに放課後の教室に居た。なのに突然めまいがして、気が付けば此処に居た…。変な宗教団体に拉致された。

 と、思っていたのに。


「真莉愛?どういう事、だ?」

「どういう事も何も、ここアレだよ!暗黒騎士と聖なる光、の!」

「はぁ?」

「ゼノンダラス国は今、暗黒騎士率いる魔物達と戦争中なのよ。それを打破するために異世界から聖女を召喚するの」


「なんと…聖女様は先程来られたばかりなのに」

「我々の状況を既にお察しだというのか」

「これが聖女様のお力!」


 いや盛り上がってる所悪いんだけどさ…


「つまり、何?コスプレ集団のお遊戯会に巻き込まれてるって事か?」

「どうみても異世界召喚でしょこれ!私達、来たんだよ!小説の中に…暗黒騎士と聖なる光の舞台の中にっ」


 興奮する真莉愛に正直引いた。そんなわけないだろう、と。いい歳した大人達が小学生巻き込んで遊ぶなら盛り上がるかもしれないが、俺達は高校二年生だ。来年は大学受験だってあるし、今の俺には部活がある。三年生になったら受験組は春までしか参加出来ないしこんな遊びに付き合ってやれる暇などない。


「そんで?真莉愛が聖女なら俺はなんだよ?一緒に召喚された幼馴染みの男も居たか?」

「うん」

「いんのかよ!」

「必要なのは聖女だけだから、確か序盤で…」


 真莉愛が言い終える前に鎧を着た人達が俺と真莉愛を引き離した。真莉愛は護られるように。そして俺には剣を向けられている。

 近くで見ると衣装や小道具も凝っているな、と感心していると王と呼ばれた者がバッと手を挙げた。


「その者を我々を見捨てておらぬ女神様へ献上しろ!」

「「「はっ!」」」


 必要なのは聖女だけだから一緒に連れて来られた幼馴染みは女神とやらへ献上される、と。ならば俺はこれでお役御免ってわけだ。


「恭介逃げて!」

「俺の台詞は?」

「そんな悠長な事言ってる場合じゃないんだって!」

「まさか本当に小説の中に入ったとでも?お前夢見過ぎ」


 ははは、と笑った俺の目の前を剣が通った。反射的に身を引いて避けると鼻先がピリリと痛む。俺の両腕は後ろで固定され押さえられ、振り払おうとしても先程避けたせいか押さえる力が増していて振り払えない。

 ジリジリと近寄ってくる剣を持った男。鎧のせいで顔は見えないが、完全に役になりきっているようだ。

 というか、いくら小道具だからといってもそんなに思い切り振り回せば痛いだろう。怪我はしたくないし、そのせいで部活に出れなくなってしまうのは嫌だった。


「そろそろ離せよ、俺はもう部活に…」

「黙れ。貴様の血肉を女神様へ献上し、我がゼノンダラスに栄光をもたらしてもらわねばならん」

「はぁ?」

「さっさとやれ、俺が押さえてる!」


「ー!」


 振り下ろされた剣を頭を後ろに倒して避ける。剣の先が胸元を掠った気がして見下ろすとボタンをしていたはずのワイシャツが全開になっていた。

 え、切った?それそんなに切れるやつなの?


「恭介!殺されるよ!」


 途端に血の気が引いていく。真莉愛は此処が異世界であると確信しているのか?コイツらと一緒に俺を騙そうとしているのか?というか、何、殺されるって。やっぱりヤバイ宗教団体って事?

 思考の処理が追いつかないまま、前から近付いてくる男が一人。俺を押さえる男は一人から二人に増えた。

 前には王と、ヴァニラと呼ばれた女が控え、右には閉ざされた扉。左は大きな窓があるが、此処が何階なのかは分からない。

 そしてその窓の外には何かが飛んでいた。黒い、カラス…にしては大きい。そんなまさかな、と口角が引き攣る。


 ドラゴンが外を飛んでいる、なんて事があるだろうか?この宗教団体は俺に何か薬でも盛ったのか?


「ゼノンダラス国へ栄光を!」

「「「「「栄光を!!」」」」」


「だから怪我したら困るんだっての!」


 後ろで俺を固定している男は二人。かなり力を入れているため、それを利用して足を浮かせた。正面から斬りかかってくる男の顔面に蹴りを入れ、その反動で後ろに飛ぶ。二人を下敷きにすると同時に拘束が解かれ、別の男に捕まる前に俺は窓に向かって走った。

 部屋の作りからしてマンション、はなさそうだ。どこかのスタジオか、まぁ、二階くらいだと有難い、三階でも頑張ればなんとか無事だろうか、と思いながら窓を突き破って飛び下りる。


「逃がすなぁ!!」


 という声を聞きながら、俺は何階かもわからない程の高さから落ちていった。





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