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小さな台風に育った少女 前編 

覗いていただきありがとうございます。

ご都合主義ですが広い心で読んでいただけると幸いです。

第一皇国民は物心がつくと教えられる。

世界でも屈指の魔力を持つ皇帝が守る第一皇国。

金髪を持つ皇族は尊く選ばれた者と。


成長すると年頃の少女は教えられる。

歴代の皇帝は色狂い。

皇族一の魔力を持つ皇帝に捕まらないように、決して素顔を見せてはいけないと。





はるか昔に蒼い瞳の皇子が蜂蜜色の髪を持つ他国の姫に心を奪われた。姫と結ばれ、二人の間に生まれたのは金髪と蒼い瞳の歴代随一の魔力を持つ男児だった。

蜂蜜色の妃が産む輝かしい金髪を持つ子供は皇国の皇族とは比べものにならないほど魔力が強い子ばかり。

それが誤解を生んだ。

皇族達は金髪を持つ皇族が魔力が強いと思い込み金髪を持つ皇族同士の血族婚が主流になっていく。

血族婚の繰り返しにより、どんどん血が濃くなり健康な男児を授からなくなった。

皇族は血族婚が多いが金髪を持つ皇后は他国の生まれであり血の近い婚姻の弊害を知っていた。

皇帝の色狂いにより生まれた、数多の魔力を持たない女児の道は3つ。

良識的な皇女は他国に輿入れる。

有能な臣下から下賜の希望があれば身分に関係なく授けられる。

皇族に嫁ぐことを願い、下賜の希望さえも持たれず利用価値のない皇女は皇子の妃として受け入れる。

ただしあくまでも側妃の立ち位置。

皇帝夫妻は魔力の強い皇子の正妃は血族以外から迎えるつもりだった。

血族婚で生まれた男児のほとんどは成人前に亡くなっていたから。

魔法に依存した医療が発達していない皇国では未熟な赤子は育たない。

代々の皇帝の色狂いゆえに血が途絶えていないだけだった。

色狂いの皇帝にかわり国を裏で動かすのは嫁いだ皇后。

皇后は魔力の強い幼い皇族達を色狂いに育たないように厳しく教育を始めた。

皇后が厳しく教育しても民達の皇族を見る目は変わらない。


「喜べ。陛下に望まれた」

「私には夫が……」

「金で新しい女を買えばいい」


皇族に気に入られれば道理はなく妾として迎えいれられる。横暴な皇族の前では民の意思など通じない。強者に弱者は従わざるおえない、弱肉強食の世界が広がっていた。



「皇族は色狂いよ」

「美人は顔を隠し、目につかないようになさい。目を合わせてはいけません」

「皇宮はバケモノの巣窟。煌びやかな世界は存在しない」


皇族に捕まらないように皇国の女はヴェールで顔を隠し、体形がわからないふんわりとした服を纏うことが流行していた。

皇国民は妾になり鳥籠の中で色狂いの所有物になるより太陽の下で自由に生きることを好んでいた。







白いローブとヴェールで全身を隠している少女の名はティラー。

皇族以外で唯一皇宮で育てられている少女は皇后のお気に入りである。

今日もティラーは母親から借りた本を読む。


「ティラー、お茶にしないか。お菓子もあるよ」


世間では美少年と崇められる金髪が自慢の第一皇子の誘いにパタンと本を閉じて部屋から出ていく。

誰にでも好かれると勘違いしている第一皇子は素っ気ないティラーを懐かせる遊びをしている。

ティラーは頭のおかしい皇族のために使う時間はない。

勉強せずに女の子に声を掛け遊んでばかりの教師や両親を困らせる年上の第一皇子はティラーにとってつまらない迷惑な男。

女の子は甘いお菓子と華やかなドレス、花が好きと思い込む勘違い男。

第一皇子が持つ赤い花はティラーにとって価値のないものなので目の前に付き出されても手を伸ばさない。

ティラーは綺麗な(鑑賞用)花よりも美味しい花やよく燃える花(実用的な物)が好き。

甘い笑みで女がうっとりする仕草で愛の意味を持つ花を渡したつもりの第一皇子にとっては照れているティラーを追いかける。

ティラーの背中を追いかける第一皇子は皇女達に声を掛けられ足を止める。

母親仕込みの女性受けする紳士な挨拶を披露する。

ティラーにとって寒気がする甘い睦言を息をするように吐きながら、異母姉妹達を夢中にする。

第一皇子は先代皇帝が決めた金髪と魔力を持つ3人の婚約者がいた。皇族は後継を残す義務があり、魔力の強い皇子は数人の婚約者を与えらた。

婚約者達は第一皇子に夢を見て寵愛を手に入れるために女の争いをしていると思い込むティラーは夢から抜け出せない皇族達に振り返ることなく足を進める。




ティラーは遊んでばかりの勉強嫌いの皇族と違い勉強が好き。

そして現実をよく知っていると思い込む少女である。




時は流れ、時代が変わっても矜持の高い皇族は金髪が強い魔導士の象徴だと思い込んでいた。

魔力や魔法については井の中の蛙。

旅人から話を聞く平民や他国から輿入れした姫のほうが知識豊富。

皇后は輿入れする時に第一皇国が時代に取り残されていることを知っていたため護衛として母国でも力のある王のお抱え魔導士夫婦を連れてきた。

魔導士夫婦は皇后の指示のもと力を示し筆頭魔導士となり時代遅れの魔導士達を鍛え現実を教える。

どんな命令も忠実にこなし魔法について貪欲な魔導士夫婦の一人娘がティラーであり皇宮で自由が許される特別な少女。

魔力の強い両親から銀髪と深緑の瞳と魔力を受け継いだティラーは金髪の皇子とは比べものにならないほどの魔力の持ち主。

魔力は金髪ではなく血筋。

かつて輿入れした蜂蜜色の姫君の魔力が皇子より多かったため魔力の強い子供に恵まれただけである。

世界では常識であり皇族が受け入れられない事実である。

第一皇国内では膨大な魔力を持つティラーにとって皇国に伝わる一般的な魔法を使うのは簡単なこと。


皇国には皇后が遅れを取り戻すためにたくさんの友人という名の研究者を招くので、皇宮育ちのティラーも世界の広さを教わっていた。

両親も魔導士の友人をよく招き、両親の部屋を訪ねるお客様のおもてなしはティラーにとって楽しい時間。


「魔力の量が多くても使いこなせなければ意味はない」

「簡単な魔法も使い方次第で無限の可能性がある」


魔力の量が一番大事という皇国の教えを批判する魔導士達。

皇族では魔力を持っても魔法をきちんと学ぶ者は少なかった。両親はティラーの自由にさせていたが魔法の使い方や危険性だけは厳しく教えた。そしてティラーが望むならきちんとした知識を身に付けられる環境を与えていた。

たくさんの研究者や魔導士と出会いティラーは夢を持った。

ティラーの夢は世界中の魔法を極めること。

貪欲な大人達を見習い使えるものは全て使い世界一の魔導士を夢見る逞しい少女を目指すことにした。





庭で竜巻を起こし遊ぶティラーのヴェールが風で飛ばされた。小さな竜巻が庭園を吹き荒れ花が舞う。花びらの中、銀髪を揺らして楽しそうに笑うティラーを真っ赤な顔で眺めていたのは第一皇子。


「私は魔力の量は兄弟一だ。どうだ!?」


自信満々に話す第一皇子の言葉にティラーは遊ぶのをやめた。

落としたヴェールを拾い被って立ち去る。魔力が少なくても転移魔法を使える第三皇子のほうが優れているとは口にしない。使い方を覚えようとしない宝の持ち腐れという新しく覚えた言葉を思い出しながら足を進めた。そして第一皇子が追いかけ笑顔でティラーに話しかけるのはよくある光景だった。



第一皇子はティラーを見つけると笑顔で話しかけにいく光景は有名だった。

小柄なティラーを守れるように剣術に励み、公衆の前で行われる騎士の大会に混ざり見事な剣術を披露した。美しい剣舞のような動きに男女関係なく自国の皇子に魅了される民も多く、横暴な皇族のイメージが良いものに塗り替えられ始めた日。

皇后も喜んでいたが第一皇子が認められたい相手は例外だった。


「剣術大会で優勝した!!」


ティラーはいつもいかに優れているか自慢しにくる第一皇子の言葉に感嘆を覚えることはない。

剣術に興味のないティラーは剣の音が響く会場で魔導士の戦いがないのを残念に思いながら母の隣で本を読んでいた。

母に声を掛けられなければ本から顔を上げないため第一皇子の勇姿は見ていない。

ティラーは笑顔の第一皇子の言葉を聞こえないフリをして足を進める。

自慢されるのはティラーにとっては必要ないことか簡単で当然のこと。

後で皇女に声を掛けられ賞賛されて、偉そうな顔をしているだろう男を現す言葉を思い出しながら、決して振り返ることも歩くペースが落ちることはなかった。

ティラーにとって簡単なこと、必要ないことの自慢話に付き合うのは無駄な時間。

第一皇子の見えない努力にティラーが気づくことはない。

世界一の魔法使いを目指すティラーにとって時間はいくらあっても足りないから。

そして覚えたての新しい魔法を試し始めたティラーの頭から第一皇子のことは消えた。

民や貴族、皇族からの賞賛を素っ気なくあしらえない皇族の立場も必要なお付き合いも平民のティラーは知らない。

ティラーを追いかけられないように魔法で影を踏まれ、その場に拘束し民達の声援に強制的に応対させたのが皇后だとも。




ティラーは両親のコネを使い皇宮の図書室に出入りして魔導書を読み、皇宮の図書室の本を読み尽くすと皇后に取り引きをして皇族専用書庫に入れてもらった。

両親は忙しくても寂しくない。

ティラーは本を読み、両親の職場で食事をして、魔法を試す充実した日々に満足していた。一部の大人が両親に放っておかれる可哀想な子供と勘違いして構うのに迷惑して隠蔽魔法を覚えた。姿を見せないティラーは恥ずかしがりやの少女と言われるようになる。


「ティラーは恥ずかしがりやだ。人見知りだが、そんなところも可愛い」

「不敬ではありませんか?」

「大事な時だけしっかりすればいい。どこにいるんだろうか」


第一皇子のティラーへの呟きを聞いた大人達が勘違いして、年を重ねると慎み深いに表現が変わった。

皇宮で働く情の深い皇国民は怖い両親への恐怖ゆえに無口に育った小柄な少女の健やかな成長を願う者も多かった。




****



幼い頃から欲望渦巻く皇宮で育った成長したティラーにとって皇族はおかしい人間。

皇后以外は決して関わりたくない存在になっていた。女が自分に気に入られれば幸せと勘違いしている皇帝とそっくりな第一皇子、責任感のない第二王子、我儘な第三皇子、金髪が尊いと勘違いする皇女、言葉が通じない皇族ばかり。

隠蔽魔法で姿を消しているティラーが姿を見せて話すのは両親と皇后と他国からのお客様の前だけ。運悪く意地悪な皇女達に捕まるのは厄日である。

皇后とのお茶の帰りに母へ渡す本を頼まれたティラーは金髪の集団に囲まれた。

皇后と第一皇子のお気に入りの白いローブとヴェールで全身を隠すティラーは皇女や取り巻き達に疎まれていた。

第一皇子の寵愛が欲しい者にとって金髪を持たない魔法使いを目指す大きくならない子供は目障りな存在。第一皇子はティラーを頻繁に探しており自分達より優先され大事にされているのは明らかだった。


「女が魔導士なんて醜いと惨め」

「醜い銀髪を隠すのは賢明な判断ですね」

「可哀想に」

「汚ならしい銀の髪に」


厚い本を持つ小さな白い塊が二倍近い大きさの金髪が自慢の皇女達に囲まれている光景を年若い護衛魔導士が見つけた。

皇国民でない自身が口を出してはいけないが小さな子供が教育に悪い醜い言葉を掛けられる場面を正義感の強い護衛魔導士は放置できなかった。

皇国の文化に合わせて、全身を覆っていたローブを脱ぎ皇女達にとって醜い銀髪を主張しティラーに醜い言葉を掛ける皇女達に近づく。

金髪の皇女達に蔑んだ視線で睨まれ、無言のティラーの前に銀髪が揺れた。

皇女より小さいがティラーよりも大きい銀髪の護衛魔導士は微笑みながらティラーの横に並び皇女達に礼をした。

皇国よりも巨大な王国でも特に力のある公爵家出身の護衛魔導士は賓客扱いであり皇国の皇女よりも立場が高い。

皇女達はティラーへの言葉が銀髪の護衛魔導士に向けたものと勘違いされたと顔から血の気がひいていく。

目の前には世界で一番敵に回してはいけない国、無礼を働いてはいけないと幼い頃より教育された王国の紋章を持つ存在がいた。


「お目汚しを申し訳ありません。皇女様のような美貌は持ちませんが―――」


全ての文化が勝る王国育ちで皇女達よりも艶のある輝かしい銀髪に色白の肌、美しい顔立ちの護衛魔導士は微笑みながら、上品な所作で明らかに自分より醜い皇女達の容姿を穏やかな声で褒める。顔色の悪い皇女達は皇后よりも気品ある微笑みに寒気に襲われていると蜂蜜色の髪を持つ美少年が近づいた。


「うちの者が何か失礼を?」


顔色の悪い皇女達に護衛魔導士の主が声を掛けた。

護衛魔導士は探るような瞳で見つめる母国の王子を見つめ返す。美しい主従は視線を合わせて無言で会話をする。そして同時に微笑んだ。

王子が頷くと護衛魔導士は優雅に礼をして王子の後に控えた。

視線を集め周囲が二人のやりとりに見惚れ、緊迫していた空気が霧散していることに気づいているのは美しい主従だけ。外見を利用して空気を支配するのは蜂蜜色の王子の特技だった。


「小さな姫君を」

「かしこまりました」


世界一魔導士を多く抱え、自然さえも自由自在に操る王国の王子が微笑みかけると皇女達の顔は赤く染まる。

綺麗な顔立ちの王子にうっとりしながら優しそうな声音で穏和な笑みを浮かべる王子の話術に夢中になりティラー達のことは頭から消えた。

護衛魔導士は皇国で問題を起こそうとしたことを視線で咎めた王子に命じられるまま動く前に単独行動が好きな王子の護衛騎士達に王子から決して離れないように視線で命じた。

大柄な姫君が王子を襲うような隙を見せないようにと。

騎士達が頷いたので王子達に上品な礼をして離れる。

脱いだローブを着た護衛魔導士は美しいやりとりを夢中で見ていたティラーの持つ分厚い本を優しく取り上げそっと手を差し出した。


「小さな魔導士様。送らせてください。お勉強熱心ですこと。世界は未知で溢れてます。学ぶことは生きるために大事なことです」


美しい瞳に見つめられ、微笑みながら恭しく手を差し出す仕草にティラーは胸が高鳴り頬を染めた。


「こ、この国の女が魔導士なんて反対しないんですか?」

「誰にも生き方を否定する権利はありません。世界は広く、優れた女性魔導士もたくさん存在します。どんなに学んでも諦めない限り終わりはありません」


動揺したティラーの言葉を護衛魔導士は咎めることなく美しい笑みを浮かべながら優しい声で言葉を返す。

男尊女卑の考えがあり皇国では女魔導士は母親だけ。

魔法を学ぶティラーに文句をいう者も多かった。ティラーに文句を言うのは第一皇子の婚約者や取り巻きばかりだとは気づいていなかった。美しい護衛魔導士の言葉に、家族以外の他人に初めて認められたティラーは真っ赤な顔で手を握った。

小柄なティラーは自分とお揃いの銀髪の護衛魔導士の勘違いは訂正しない。

子供に見える外見は気に入っている。好意に甘えて本を持ってくれる護衛魔導士にエスコートされ上機嫌に部屋まで足を進める。ティラーは初めてのエスコートに胸がどんどん高鳴り、ぼそぼそと話す言葉を拾い優しく返し、突拍子のない魔法の質問もスラスラと答える護衛魔導士との時間に夢中になった。


「ま、また会えますか」

「はい。明後日まで滞在しますので。可愛らしい魔導士様、貴重なお時間をいただきありがとうございました。失礼します」


夢のような時間はすぐに終わる。

部屋に着くと護衛魔導士はティラーの手をそっと解き、本を机に置き礼をして退室した。ティラーは振り返ることなく立ち去る魔導士の背中をうっとりと眺めていた。ぼんやりと立っているティラーに気付いた母に声を掛けられ我に返る。


「素敵な人でした。もっと一緒に」

「お茶にお誘いできるといいわね。まずはお話して―――」


ティラーはアドバイスをくれた母に感謝を告げて本を渡し、隠蔽魔法を使い護衛魔導士を追いかけた。

蜂蜜色の王子の後に控えている護衛魔導士を見つけて目を輝かせる。

王子は皇女達と話しているので話しかけてはいけないことは理解したので話が終わるのを待つ。

皇女達と別れた王子が護衛魔導士と談笑しながら歩いているので追いかける。

護衛魔導士と共に歩く王子はずっと後を付いて歩く白い塊に足を止めて振り返った。


「お茶に付き合ってくれるかい?」

「は、はい!!」


ティラーは笑顔で話しかける王子に興奮して隠蔽魔法が見破られたことに気づかずに頷いた。

護衛魔導士は王子の命令で薔薇の花が美しい庭園にお茶の用意を整えた。

後に控えるのではなく隣に座ってもてなすように視線を送られ、広げたお菓子に手を伸ばさないティラーの前にお菓子を取り分けそっと置く。お茶を飲みながら王子の話術に夢中になるティラーを笑みを浮かべたまま眺めていた。


「遠い親戚。色が似ているだろう?」


ティラーはお揃いの銀髪の魔導士の隣に座れるだけで胸がいっぱいだったが、次第に王子の話に引き込まれていた。

ぽっちゃりした髪の少ない皇帝と細身の蜂蜜色の髪を持つ美しい王子は似ているようには見えなかった。

皇国とは違う文化で婚約者を持たない王子の国の話は楽しくティラーは夢中になった。


「もう少し大きくなり魔法が学びたいなら是非。歓迎するよ」

「行きます!!もし、で、できれば魔法を見せてください」


美しい主従達は小柄で瞳しか見えないティラーが年上とは気づかずに望まれるまま得意の魔法を披露した。弾んだ声をあげて喜ぶティラーに王子達は笑みを浮かべて付き合う。王子は白い子供の魔法使いは丁重に扱って欲しいと第一皇子と皇后から頼まれていた。

興奮したティラーのはしゃぐ声は目立っており、ティラーを見つけた第一皇子が近付いた。


「殿下もよろしければ」

「是非」


第一皇子は王子達の誘いを受けた。

護衛魔導士は王子の隣に席を作り控えようとするのを視線で主に制され、一番下座に移動した。

第一皇子が護衛魔導士の魔法を夢中で見るティラーを眺めながら、魔法を真剣に学ぼうと決めた日だった。

ティラーは美しい主従に夢中で混ざった第一皇子の存在は気づかない。お菓子を食べる余裕のないティラーにお土産にとお菓子を持たせて部屋まで送ってくれた護衛魔導士にさらに夢中になりお菓子を抱いたまま夢の世界に旅立った。

ティラーの隣に皇子がいたことは気づいていない。

護衛魔導士が第一皇子の言葉を無視して、自分に話しかけるティラーに笑顔で応対しながら困っていたことも。

後日護衛魔導士の報告を聞いた王子が臣下の皇族への無礼を皇帝夫妻に謝罪し皇宮を凍りつかせたこともティラーにとっては関係のないことだった。




ティラーは護衛魔導士と王子との出逢いからさらに他国のお客様が好きになった。

他国の知り合いが増えれば増えるほど美を磨き子供を生んで男に愛されることが一番だと勘違いしている皇女達よりも外国から訪問する護衛魔導士や女騎士のほうが美しく見えた。そして彼女達の訪問はティラーにとって爽快なことがある。

他国の主を持つ高貴なお客様は皇族へ向ける言葉の意味は同じ。


「美しい姫君、皇宮を案内しよう。姫君に相応しい所がある」

「大変ありがたいお誘いですが―――」


色狂いの皇族に誘われても必ず断る。

美しいお客様は頭がおめでたい皇族の正体に気付いている。

傲慢な皇族が美しいお客様にフラれるのは理不尽な皇族に振り回される両親を知るティラーには愉快な光景。

公務中であり主の許しなしに誘いを受けられないという事情をティラーは知らない。

皇族の誘いは断わるのに自分の誘いに応じてくれる優越感にも浸っていた。自分達の後を雛のように付いて歩く小柄な子供を冷たくあしらうような外交に訪ねているお客様はいなかった。成長痛が嫌いなティラーは大きくならないために薬を作って飲んでいたため何年経っても雛のように付いてくる白い小さな塊が同一人物と気づかない者も多かった。


体は成長しなくても年は重ねる。

外見年齢は10歳にも見えないティラーは16歳になった。

両親に成人後は自由にしていいと言われているティラーは国を出ようと決めた。皇国を出て美しくないストーカー達から逃れ、魔法を極めるのが成長したティラーの夢。


「ティラー、探したよ。ここにいたのか!!珍しいお菓子が手に入ったから一緒に」


命令されれば従うしかないティラーは皇族の中で一番人気の第一皇子というストーカーから逃げる。ストーカーの怖いところはティラーが誰かと話している時に現れること。何年経っても遊びをやめない皇子に向ける言葉はない。皇族なので危害を加えるのは許されないと教わっていた。

金髪を持たない外国の王子達は夢を抱え、仕える美しい青年や美女達は王子の夢を応援している。自分のためではなく誰かのための夢物語は聞いてて楽しいものだった。とくに王子達に仕える美女の話す姿は美しく、ティラーは何度も胸の高鳴りを覚えた。自国の欲深い頭がおかしい皇族達とは正反対で。特に蜂蜜色の美しい王子は同じ祖先を持つとは思えなかった。


「話があるんだ。聞いてほしい」


ティラーは第一皇子の命令に足を止めた。皇族の命令は断れない。仕方なく自分が断れないことに笑顔を浮かべている第一皇子のお茶への誘いに応じて目の前に置かれたお茶に手をつけた。


「母上から留学を勧められた。期間は二年」


ティラーは出会って10年以上経ち初めて第一皇子の会話に興味を持った。成人まであと二年。ストーカーから解放される生活に笑みが溢れた。


「魔法が盛んな国に行く。ティラーも行かないか?私の、こ、婚約者として」

「婚約していません」

「ずっと言ってるだろう!!君は私の姫君だ。成人したら妃にする」


魔法が好きでも頭のおかしい第一皇子の側では学べないのを知っている。ティラーにとって気持ち悪い笑顔で頬を染める年々婚約者の数を増やしている男に冷たい視線を向けた。冗談でも迷惑。留学に惹かれても目先の欲に囚われてはいけないが友人の教えである。


「お断りします」


ティラーが立ち上がり部屋から出ようとすると腕を掴まれ無理矢理抱きしめられた。


「私には君だけだから信じてほしい。愛している」


寒気に襲われたティラーは我慢できず魔法で第一皇子を吹き飛ばし、部屋から駆け出し皇后のもとに謝罪に走った。皇后はお気に入りのティラーの不敬を笑って許した。可愛くない息子よりも可愛い友人の娘のほうが優先だった。留学先で魔法や人間関係について学んでくるようにとティラーを連れていきたいという息子の我儘は許さず送り出した。




第一皇子の留学を惜しむ女達の中、ティラーは満面の笑みを浮かべていた。ドレスが贈られたが返品し第一皇子のためのパーティーは参加していない。

何度もしつこく留学に誘われても決して頷かなかった。見送りに来てほしいと私的なお願いをされたが、命令でないため部屋から出ない。ティラーは命令以外で皇族のために動くことは決してない。


ストーカーに付き纏われず魔法を学び、旅立つ準備を進め有意義な日々を送っていた。第一皇子から私的な手紙と使者に届けられた手紙は封を開けることはなく暖炉の中に投げ込む。燃えやすい紙なので返すことなく受け取っていた。

全ての贈り物を返却するティラーが手紙を受け取ってくれたことにストーカーが喜んでいるとは気づきもしない。第一皇子はティラーに疎まれていることに気づかないおめでたい思考の持ち主だった。

多忙な両親も毎日楽しそうなティラーの夢を応援して、護身術の教育を始めた。


「魔法が使えない場所もあるから自衛手段は生きる上で大事だ」

「知識を習得して自分の中で深めて違う形に変えていくのも有意義よ。一度世界を見るのも経験」

「老後は面倒見てあげるから安心してください」

「娘の世話にはならない」


ティラーはこれからの冒険に心躍らせていた。

両親に放置されて育ったティラーは成人したら捨てられるという噂が広がっているのは魔法以外において興味を持たない魔導士一家は気にしなかった。そしてティラーに監視をつけている男の存在も。



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