これからの運命
結局おみくじって毎年信じますよね。信じすぎも良くないかもとか思いながら変な結果だったら引きずります。
「今年最初の最下位は、ごめんなさいしし座のあなた、初日からあまりついてないかも
気を付けて1日をお過ごしください、ラッキーアイテムは、赤色のニット帽!」
「赤色のニット帽よしっと」
朝の占いコーナーで言われた通りのニット帽をかぶり、僕は家を出た。僕は毎日ラッキーアイテムを持ち歩いている。きっかけは高校受験の時、今日くらい朝の占いを信じてみるかとその時のラッキーアイテムを持ち込み受けてみたら、今までで一番高い点数を取り志望校に合格したからだ。それからは学校がない日でも必ず持ち歩くようにしている。
玄関のドアを開けると深夜に雪が降っていたらしく、いつも歩く道は白く覆われていた。この景色だと赤いニット帽はちょっと目立ちすぎのようだ。歩行者や運転者の人まで赤が視界に入るらしい。そんなことはお構いなしに僕は近くの神社へと向かった。
到着すると、みんな集まり始めていた。
「おっ健太!あけおめ!なんだ、今日は赤いニット帽か」
いつも真っ先に気づいてくれるのは幼馴染の信一だ。小学校からの付き合いで、受験の時も一緒だった。その時から身に着けているものに変化があるとすぐにラッキーアイテムと察してくる。
「お前ほんとに占いを信じてるよな、ラッキーアイテムもしっかり」
「一つのモチベーションみたいなものだよ、新年初日から最下位だったし」
「新年からついてないな、そういえばこの前カラフルな象の置物みたいなの持ってきてたけど毎回どこでそろえてんの?」
「だいたい100均でそろう」
「100均すごくね!?」
新年からいつもの教室のような会話をしていると、集合時間になった。しかしまだ見当たらない人物がいた。
「あれ、大原さんは?」
健太に聞いてみる。
「あー、やっぱり忙しいんじゃない?あそこの正月限定販売の和菓子めっちゃ人気らしいし」
「そうか...」
大原さんは同じクラスの女子で、地元で有名な和菓子屋の娘だ。土日はもちろんのこと放課後も家の手伝いをしている。そのため女子からも遊びに誘われず、グループから孤立している状態だった。そんな大原さんをなぜ俺が気にしているのか、それは...
高校に入学して少し経ったある日、授業の課題の中で男女ペアになる機会があった。均等にくじ引きで決められ、たまたま大原さんとペアになったのだ。僕はすごく緊張しており、課題の紙を無心で見ていた。すると、大原さんのほうから話しかけてきてくれた。
「えっと、健太君よろしくね」
いきなり名前呼び!とドキドキな思いをしながら会話を進めた。
「うん、よろしく大原さん」
「毎回学校に変なもの持ってきてるよね、あれは何なの?」
「変なものって言わないで?あれは1日のラッキーアイテムなんだから」
「そうだったんだ、ラッキーアイテムかー私は占いを信じないタイプだからなー」
「1日持ち歩いてると何でもできる気持ちになるんだよ」
「占いに振り回されないようにね」
「大丈夫!占いを信じてるから!」
「本当に大丈夫かな~?」
そんな俺の占い好きの話をしていたら授業時間の半分が過ぎてしまった。でも大原さんは話やすく、いつのまにか緊張がなくなっていた。
その授業がきっかけで僕は大原さんと仲良くなれた。毎朝挨拶をしたり、ラッキーアイテムを見て笑ったり。毎日の時間が大原さんのおかげで一段と楽しくなっていた。でも、ラッキーアイテムの効果でもあると僕は思っていた。
そんな関係を今年も続けていきたいという気持ちを大原さんに告げようと来たのに、肝心の大原さんが居ないとなっては意味がない。神社への参拝をすまし、僕はすぐさま携帯をポケットから取り出した。
「大原さんにメッセージ送っとくわ」
「来てくれるといいな、それはそうとお前おみくじ引かなくていいのか?」
「やべっ!そうだった!」
占いを信じる人は、もちろんおみくじの内容も信じる。今年1年の運勢をこの1枚にかけるのだ。僕はいろんな思いを乗せながら出てきた番号を巫女さんに伝え紙を受け取った。
「頼む!頼む!」
思いを口に出しながらおみくじを開いた。
「!!!」
「健太~どうだった?俺は大吉だったけど」
「末吉...」
「どっどんまい、吉じゃなかっただけましじゃん」
「そうだけどさ~」
最悪だ、今年1年微妙な年になると思うとテンションが下がる。
「詳細見てみろよ、いいこと書いてあるかもしれないぜ例えば待ち人とか
大原さんからは連絡来たのか?」
「いやまだ既読ついてない、待ち人はー、訪れないって書いてあるんだけど」
「あちゃ~、もう今日は来ないかもな」
今日の運勢も最下位だしおみくじは末吉だし大原さんも来ないし。今年は最悪の年になるぞと思った。
「健太、みんな解散するみたいだけどお前はどうする?大原さん待つのか?」
「ちょっとだけ待ってみるよ、じゃあまた学校でね」
「おう、またな」
信一を見送った後、僕は焚火を見つめながら大原さんを待った。メッセージを送ってから1時間たっても既読が付かないので、そろそろ帰るかと階段の方に視線を向けた時だった。勢いよく女性が階段を駆け上がってきた。黒い髪をなびかせ、人一倍白い息を吐きながら。
「大原さん!」
僕は驚きと嬉しさが入り交じり、いつもより大きな声で名前を呼んでしまった。その声に彼女は気づきこちらの方に小走りで駆け寄ってくる。
「ごめんねお店忙しくて、みんなは?」
「一通り済んだから解散したよ」
「そっか~」
まだ少し荒い息遣いとこの寒さの状況であまり見られない汗。相当急いできたのだろう。そんな大原さんを見ながら俺は話し出した。
「でもよかった~大原さんに会えないと思ってた」
「なんで?」
「既読はつかないし、今日の運勢は最下位だし、おみくじには待ち人こずって書いてあるし」
「ごめんね、急いでたから
というか、新年からそんな運勢悪い日もあるんだね」
「ほんとだよ!最悪な年が始まりそうだよ!」
これだ、この時間が1番好きなんだ。僕は改めて気づいた。
「でも一つ分かったことがあるね」
「何が分かったの?」
「待ち人来ずって書いてあったんでしょ?でも私とは会えた、ということは占いがすべてじゃないってこと」
「確かにそうかもしれないね、でもこの赤いニット帽のおかげかもしれないじゃん?」
「往生際が悪いんだね」
「まあね」
そのあと一緒に参拝を済ませ、大原さんもおみくじを引いた。大吉を出した時のどや顔は今年ずっと忘れないだろう。
でも大原さんの言う通りすべての占いの結果がひっくり返った。信じすぎるのもよくないかなと少しは思った。
「大原さん!」
帰り際、僕は今日2度目の叫びで大原さんを振り向かせた。
「なに?」
「えっと、今年もよろしくね」
「うん、よろしく」
ありきたりな言葉しか出て来ず少し後悔した。でもその瞬間の大原さんは寒さのせいなのか走ってきたせいなのかほっぺたが赤く染まっており、なんだか照れくさそうな笑顔だった。
その笑顔を見た瞬間これからの心配が吹き飛んだ。占いなんて関係ないのかもしれない、運命なんて決められない方がいいのかもしれない。その時その時で決めていくのだ。
今年はいい年になりそうだと自分の中で確信した。
運命とかは自分で決めていこうかなって話でした。
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