第五話 中庭での男子トーク
執務室から出たオスカーは引きずる様にジョンを連れて、二人で話ができるように騎士団詰所の中庭に来ていた。
笑いが止まらないジョンにオスカーが無言で睨みつける。
「ごめんごめん、オスカー。だって、お前が女性に対して顔を赤くするのを初めて見たから、クックックッ」
ジョンは笑いをこらえようとしても堪えられずついつい笑ってしまうようだった。
「ジョン、笑うなよ…顔を赤くしたのはしょうがないだろ。彼女が俺ににこやかに話しかけてくれたんだ……家族以外にこんなことは初めてかもしれない……」
オスカーは仲のいい友達と言う事と二人だけと言う事もあり、フランクに話し始めた。
「それで惚れちまった?」
面白そうにジョンはオスカーに尋ねた。オスカーはジョンに聞かれた事でナディアを好きになったのかもしれないと自問自答する。
「惚れた?惚れたのか?惚れたと言うより、彼女の可愛らしい笑顔に胸がグッと持っていかれて鼓動が早くなっただけなんだが……」
オスカーの呟くような、普段は人の上に立つべきものとしてテキパキと力強く話すオスカーに似合わない話し方と言葉にジョンはビックリする。
「オ、オスカー、それ、惚れてるやろ。ひょっとして……お前……初恋?」
「初恋?恋?胸が痛くて鼓動が早くなっただけ……これがひょっとして恋?話に聞く恋に落ちる?まさか……恋に落ちるなんて……嘘だろ?……まさか俺が……」
恋をするなんて思っていなかったと言わんばかりにオスカーが自問自答する様子を見ていたジョンは三十超えようかと言うおっさんが初恋なんて……と思いつつ、幼馴染のジョンは子供の頃からのオスカーを思い返す。
今ほどではないが、子供の頃から目つきが悪く、貴族令嬢が近くに来ることもなく、男子に囲まれて過ごしていたオスカー。打ち解けると性格の良さがわかるのだが、目つきが悪いせいで女子が寄ってこなかった。そんな友の姿を思い出し、なんだか切なくなるのだった。
年頃の女子に目をあわせてもらえたから恋に落ちてしまうなんてどれだけ女子へ耐性がないのかと不憫に感じる。友にやってきた春を応援するため、そっとナディアの経歴を調べることにしたジョンだった。