逃げ水
掲載日:2020/08/31
夏の高原は昼下がりは涼やかで。
散歩するにはちょうど良い。
「あれ、なぁに?」
白い服に、麦わら帽子。
昔の私の望みの衣装の。
可愛い、可愛い、娘達。
指差す先には夏の輝き。
「逃げ水よ」
それは夏の蜃気楼。
追っても届かない儚い幻。
駆けて行く、幼い姉妹の。
帽子の赤いリボンの後を。
ゆっくりとついて歩く私。
通り過ぎる先の。
散歩道沿いの花壇に。
潤いを撒くホースには。
ちいさな穴が密かに隠れて。
ほとばしる先端に大きな虹を。
穴からピューッっと吹き出でた。
霧は秘密の小さな虹を架けている。
ん?
「ママー!」
娘達がこちらに振る手が。
"何か"の引っ掛かりを外す。
暑い最中、働く旦那に。
南無南無、感謝の合掌。
静に娘に手を振り返す。
私は優雅な夏の貴婦人。
「きゃー!」
きゃー?
娘達が逃げ水に。
なぜか追い付いていた。
「ギャー!」
白いワンピースがー!
止めて、ヤメテ、止めて。
パシャ、バシャしないでー!
スカートが両足に絡まる!
飛んだ麦わら帽子が首に紐で。
三人お揃いの服を。
泥汚れから救うべく走る私の先を。
ざまぁ。
酔ってるんじゃ無いよ、と。
思い浮かべた幻の旦那。
その顔を映した本物が。
すいーっと滑らかに遠ざかって行った。




