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竜の国の異邦人  作者: 風結
8/35

竜の都

「……ほ? もう朝御飯?」

 ワーシュは目を覚ましてから大欠伸。

 ワーシュは寄り掛かっていたホーエルから離れる。

「もうお腹が空いたの? それと、(よだれ)くらい拭こうね」

 ホーエルはワーシュに布を差し出した。

 ワーシュは差し出されたことに気付かない。

 ホーエルは溜め息を吐きながら世話を焼く。

 「治癒」で腕を治してもらった感謝の意味もあるのだろう。

 皆は仲の良い兄妹のような姿に何とも言えない顔付になる。

「申し訳ない。そちら方面は、魔法ほどには洗練されていないので」

 エルムスは乗合馬車の同乗者に笑顔で謝った。

「ほぐっ……、事実を言われるとね~、大抵の人は傷付くのよ~」

 ワーシュは愚痴を言いながら女の子を抱え上げて可愛がった。

「魔法使いの居る団は珍しいし、野良蜘蛛を倒したとあって、雷竜でも噂になってるよ」

 男は娘を可愛がるワーシュを見ながら言う。

「今日、出掛けるのは正解ね。冒険者の(さが)みたいなもので、変に注目されてしまうから」

 女は娘を可愛がるワーシュを見ながら悔し気な顔をする。

 ワーシュに甘えているほど娘は懐いてくれないのだろう。

「いやぁ、妻は教育熱心なんだ。まだ五歳だし、俺はもっと自由に育ててもいいと思ってるんだけど……」

 男は女に睨まれて言葉を切った。

 夫婦の力関係の結果のようだ。

「竜の国では無料で、竜舎で学べるのよ! 選択肢を増やす為にも、得意不得意は今の内から知っておかないと!」

 女は真剣な顔で男に詰め寄る。

 自分の為ではなく娘のことを思ってのことのようだ。

「やっぱり御二人も、元冒険者なのかな?」

 ホーエルは話を逸らす為に言葉を滑り込ませる。

 夫婦喧嘩は竜も食わないと空気を読んだらしい。

「ああ、俺たちは、所謂(いわゆる)中堅冒険者という奴だった。弱くはないが特段強くもない。冒険者で食ってはいけるが、将来が明るいわけでもない。娘が生まれてから、冒険者を止めることも考えたが、どうも踏ん切りがつかなかった」

 男は娘を見ながら穏やかな声で語った。

「私たちは運が良かったの。怪我をして引退したのではないから、組合での働き口はなかったわ。竜の国の噂を聞いて、知り合いに連絡を取ってみたら、グリングロウ国の職員として雇って貰えるーーというかね、……助けてくれ、と頼まれたのよ」

 女は遠くを見るような視線を空に向ける。

 当時のことを思い出しているらしい。

「ファタ」

 僕は皆が言いたくなさそうだったので明言した。

「ははっ、やっぱりわかるかい? 実は、彼がまだ冒険者だった頃、同じ団に所属してたんだ。俺たちと違って、あっさり駆け上がっていったけど。その後、俺たちが別の団に移ったとき、その地域の幹部が彼だった。それで多少の付き合いがあって、連絡してみたらーー組合の人間以外で仲間が欲しい、……と懇願されて、今に至ると」

 男は遠くを見るような視線を空に向ける。

 当時のことを忘れようとしているらしい。

「ほ? ってことは、二人は雷守の味方だったりタリタリするの?」

 ワーシュは女の子を護る素振りを見せる。

「そこは、持ちつ持たれつ、だ。冒険者の半分くらいがそうであったように、俺たちも冒険者以外の選択肢がなかった。彼は、自分がサボる為に、効率よく俺たちを鍛えてくれている。俺たちの話し方も以前はかなり酷かったが、だいぶ増しになった。性格とは逆に、彼の能力には本当に舌を巻く。まぁ、そういうわけで、恩知らず、と言われないくらいには彼の味方になってあげるつもりだ」

 男は現実の味を噛み締めつつ苦笑した。

 女の子は長話に飽きてきている。

「ってことは、リシェさんが相手でも雷守の味方すんのか?」

 コルクスはワーシュから渡された女の子をあやしながら尋ねた。

 男と女はコルクスの熟れた手際に驚く。

「う~ん、『侍従長のお気に入り』の君たちには言っておいたほうがいいか。ーーいいかい、侍従長は世間で言われてるような人ではない。と同時に、世間で言われてる以上の人でもある。それが、彼の横で見てきた、俺の感想だ」

 男は真剣な顔で皆を見る。

「そうね。価値観が違うというか、見えているものが違うというか。侍従長が怖いと思うのは、同じ場所に立っていないから。それ以上に怖いのは、同じ場所に立ってしまったときーーなんて、自分で言っていてわからなくなってしまったわ」

 女は真剣な顔で皆を見る。

「いえ、貴重な意見に感謝する。恐らく私たちは、未だ侍従長の本心(こわさ)に触れていない。今、見えているものからだけでは、推察は難しい」

 エルムスは真剣な顔で頷いてから黙考する。

 リシェと周囲の関係からリシェの力の一端に気付いたらしい。

「ふご~っ! やめっやめっ、皆してそんなにリシェさん大好きか!? 超好きなのか!? これから竜の都で楽しみな楽々(たのたの)なんだからっ、辛気臭い顔なんて炎竜に焼き焼きのヤキモキしてもらって笑顔にしちゃるわ~っ!」

 ワーシュは女の子に襲い掛かる振りをする。

 女の子は笑いながらコルクスに抱き付いた。

 男は眉を危険な角度にする。

 娘が大好きな父親のようだ。

「そろそろ着くみたいだね」

 ホーエルはコルクスから女の子を引き剥がして男に渡した。

 女の子は男に抱き付いて安心する。

 男は女に笑われて情けない顔になる。

 皆は笑顔になる。

「俺たちも、そこまで竜の都に詳しいわけではないけど、案内くらいなら出来るが、どうだい?」

 男は女を見てから提案した。

 女は女の子を見てから頷く。

 女の子の情操教育にもいいと判断したようだ。

 皆は迷うことなくエルムスを見る。

「お誘い、感謝する。今回の、待ち合わせの相手が厄介である確率が高い。何より、この一件には侍従長が絡んでいる。正直に言うと、娘さんの安全を保障できない。……あと、私は別口で、〝目〟で竜官であるサリストス・エーリア殿と面会というか面談のようなことになっているのだが、彼について知っていることがあれば、どうか教えて欲しい」

 エルムスは前のめりになって尋ねる。

「あ、ああ、俺たちは会ったことがないから、噂で聞いてるくらいのことなら構わないが。ーー数周期後には〝サイカ〟になるだろうと言われてるくらいの、凄い人らしい。竜の国の枢要からも信頼されて、お負けに侍従長と普通に付き合えてるらしいから、何ていうか、()()()()だと思う」

 男は心持ち声を潜めて語る。

 エルムスは自然と頭を下げていく。

「でも、竜官の部下には優秀な若手が揃っているというから、上を目指すのなら悪いお誘いではないのではないの?」

 女は首を傾げて不思議がる。

「それはーーと?」

 エルムスは答えようとして周囲を見た。

 乗合馬車は目的地に到着。

 窓の外に特徴的な翠緑の硝子が見える。

「翠緑宮に着いたようだね。……降りたらリシェ君が居るとか、そんなことないよね?」

 ホーエルは気不味そうな顔で皆を見た。

 最悪を想定することで心の準備をさせたようだ。

「やめろ! 何か現実になりそーな気がすんからっ、やめろ!」

 コルクスは振り払うように立ち上がって馬車から降りる。

 皆は三人が降りるのを待つ。

 皆は馬車から降りて女の子に手を振る。

「皆さん、おはようございます。それと、こちらが『蜘蛛王』の素材の、金貨十五枚です。ーー因みに、侍従長は昼までは執務室だと、通りすがりのファスファール様が教えてくださいました」

 リャナは金貨が入った布袋と空の布袋を四つ渡してくる。

「リャナ。ありがとう、助かる」

 僕はワーシュに背中を叩かれたので受け取ってお礼を言う。

 ワーシュは不満げな顔をした。

 リャナに対してもっと親し気にしたほうが良かったらしい。

 リャナは背中の後ろに両手を回して恥ずかし気にしている。

 ワーシュは再度背中を叩いてきた。

「昨日よりも落ち着いた感じだね。リャナには似合っている」

 僕は過剰にならないように気を付けながらリャナを褒める。

「っ……」

 リャナは潰れたような三角帽子を下げて表情を隠した。

 見た目は悪くないので帽子はダニステイルでの流行りなのだろう。

 ワーシュは笑顔で頷く。

 どうやら及第点には達したらしい。

「一人三枚だね。無駄遣いはしないで、と一応、忠告はしたからね」

 ホーエルは金貨を配分しながらワーシュとコルクスを見た。

 皆は受け取ってから布袋を仕舞う。

 リャナは皆を見て不思議そうな顔をする。

 大金を見ても皆が浮かれていないので違和感があったのだろう。

「あの……、それでなのですが、これからミャンが参上するので、どうか、ーーどうか温かな心で見守ってあげてください……」

 リャナは周囲の人通りを見て溜め息を吐く。

「あやや? ミニレムちゃん?」

 ワーシュは街道の向かいの家屋の屋根の左右に現れた二体の「六形騎」を眺める。

 二体の「六形騎」は回転してからポーズを決める。

 ポンは「六形騎」に合わせて風の魔法で屋根の真ん中に現れた。

 ポンは輝く指先で空中に文字を描いていく。

「竜の百味(かぜ)は今日も爽やかにっ! 空に天竜っ、大地に地竜っ! 狭間に舞うはっ、魔法の傀儡っ! 従順にして苛烈なるっ、魔の番人! 『魔女』の名を継ぐっ、正統なる魔法使いっ、ミャン・ポン参上!!」

 ポンは二体の「六形騎」と共に屋根から飛び下りる。

 四体の「六形騎」はポンの後ろに現れる。

 周囲の人々は慣れた様子でミャンとミニレムたちに喝采を送った。

「はっ!? 何故に爆発魔法が発動しないのだ??」

 ポンは複雑なポーズを決めたまま背後を見た。

「も?」

 ポンは向き直って翠緑宮の方角を見た。

 コウの感知に引っ掛かったようだ。

 六体の「六形騎」はギザマルより速く逃げた。

 周囲の人々は慣れた様子で解散する。

「ぅぺんっ!?」

 ポンは飛来した魔法で吹き飛ばされる。

 僕は飛んできたポンの首筋と腿に手を当てて身を引きながら回転した。

 僕は勢いを殺してから首筋の手を背中に腿の手を膝裏に持っていく。

「む……?」

 ポンは自身を抱えている僕を見る。

 僕は左手を下げてポンを地面に下ろした。

 リャナは魔法を使おうとした手を慌てて下ろす。

「おやや~ん? ミャンちゃんはライルにお姫様抱っこされたのに~、お気に召さなかったのかな~?」

 ワーシュはポンに抱き付こうとしてエルムスとホーエルに止められる。

「我が継ぐは『魔女』なり! 『魔女』とは男を篭絡する(たぶらかす)者であって、その逆などあってはならないのだ!」

 ポンは僕に指を突き付けてドヤ顔をする。

 三つ音の鐘が鳴る。

「時刻になったから行く。予定の時刻になっても私が現れなければ先に帰ってくれて良い。遅くなったとしても、何らかの手段で『雷爪の傷痕』に帰す、と先方から言われているので、……竜に乗らなくても済むように私の幸運をエルシュテルに祈っておいてくれ」

 エルムスは黄昏た姿で翠緑宮に向かって歩いていった。

 これからの自身の運命を悟っているのだろう。

「まぁ、祈ってやろーぜ。十中八九、竜官に扱き使われることになる、とか言ってたかんな」

 コルクスはエルシュテルとサクラニルにおざなりに祈る。

 サクラニルを入れたのはエルムスが信仰しているからだろう。

 皆はコルクスに倣って程々に祈る。

「其方らが迷宮へと挑むっ、我の(ともがら)だな! 見掛けは弱そうだがっ、『死魔獣』の一角たる『蜘蛛王』を倒したと聞く! なーらーばーっ、合っ格っだ!!」

 ポンはミニレムが拾ってきた杖を受け取ってから皆に突き付けた。

 リャナは無言で右手を左右に振る。

「だっ……だだだだだだだだっ!?」

 ポンは左右に顔を振る。

 リャナの魔法の効果のようだ。

「ミャン。昨日話したでしょう? 選ぶのはあたしたちではなく、らっ…ライルさんたちのほうです。ーー隠しても無駄になるだけなので、ミャンはミャンらしく振る舞って構いませんが、マホマール様が与えてくださったこの機会から何も学べないようなら、あたしの権限で迷宮探索を許可しません」

 リャナは魔法でポンの顔を上げさせて説教する。

「……説教魔ままままままままっまっ!?」

 ポンは上下に顔を振る。

 リャナに対して素直になれないのだろう。

「ん~? もしかしてシテシテ、リャナちゃんの魔法が上達した理由だったりする?」

 ワーシュはリャナの手振りとポンの顔を見ながら尋ねる。

「……その通りです。この魔力操作で一番難しいのは、緩める、ことです。損傷を与えない程度の手加減。……何千、何万回と繰り返したので、魔力操作の技量そのものが上がってしまいました」

 リャナはポンを見ず溜め息を吐きながら魔法を行使した。

 無意識と感覚の双方で高い水準にあるようだ。

「な~る、そ~なのよね~、魔力をそのままぶつけるのって~、簡単だもの~。そこを理解しない魔法使いは三流だって~、親父が言ってたわ~」

 ワーシュは頷きつつリャナの魔法を真似る。

 落ち葉は小さく揺れる。

「そう言えば、メイムの親父さんがよく言ってたね。『魔法はそのまま使うな』ーーだったっけ?」

 ホーエルは周囲を見て困り顔になる。

 街道で目立ってしまっているので気になるようだ。

「『工夫しない魔法は、魔法に失礼だ』とかとかー、もー寝耳に水竜よー」

 ワーシュは幻聴が聞こえたのか耳を塞いで頭を振った。

「はい。魔法談議は歩きながらにしようね」

 ホーエルはワーシュとコルクスの背中を押す。

 翠緑宮の近くで騒ぎになることを懸念したようだ。

「今回は初回だし、ワーシュとコルクスは一人で行動させられないから、引率するとしてーー」

 ホーエルは言葉を切ってからポンを怖がらせないように笑顔を浮かべる。

「ふっ、我を甘く見ないでもらおう! 『魔女』たるものっ、男女の微妙な空気もお手の物っ、魔法使いの物! リャナとこの男を二人っきりにさせようとするっ、その魂胆! 竜に乗った気持ちでっででででででででぇ~っ!?」

 ポンは円を描くように頭をゆっくりと動かす。

 リャナは左右の指を開いて振動させていた。

 他にもまだ様々な手技がありそうだ。

「ミャンっ!? 何を言って……」

 リャナは更に力を籠めようとして小さく震える。

 僕は話が進まないのでリャナの掌に手を重ねる。

「ららららいっ、ライルっさん……??」

 リャナは戸惑いながら僕を見た。

「お祖母さんとは、こうして出掛けていたと思ったけど、違った?」

 僕はリャナと手を繋いでから確認する。

「そ…それは……、はい…そう……です……」

 リャナは視線を逸らしてからゆっくりと手を下ろした。

 相手が僕であることに不満があるようだが受け容れてくれたらしい。

「くっ、さすが『嫁にしたいランキング』一位の女! これほどまでにあっさりと男を篭絡するとは! だがっ、我とて負けん! 『魔女』の名を継ぐ者としべぇっっ!!」

 ポンは(うずくま)って脳天を押さえた。

 リャナは振り下ろした自身の肘を見て驚く。

 無意識の内に攻撃してしまったようだ。

「大丈夫。わかっているから」

 僕はリャナが誤解しないようにきちんと伝えておく。

 リャナは照れ隠しでポンの頬を魔法で抓る。

 仲直り出来たようだ。

「やっぱりパリパリ、リャナちゃんってダニステイルでも凄いの?」

 ワーシュは落ち葉を燃やした。

 魔力操作が上手く出来なかった八つ当たりだろう。

「ふっ、よくぞ聞いた! リャナは『正統派』の『至魔』と呼ばれる傑女! 『光輝三命(ライトレイン)』が顕現されしときっ、地竜並みの堅物と言わしめた『正統派』の『十賢者』がっ、滂沱の涙を流して祝福したという伝説ぅぶぉっっ!!」

 ポンは勢いよく空を見上げて動かなくなる。

「いーやーっ、いーやーっ!」

 リャナはしゃがんで帽子を片手で掴むと頭を左右に強く振った。

 ホーエルはポンが倒れないように支える。

 ポンはあっさりと意識を取り戻して「治癒」を自身に施す。

「『光輝三命』ーーとな? な~になに? (こうば)しい匂いがぷんぷんしてくるわね~」

 ワーシュは仔炎竜を苛める氷竜のような顔になる。

「『光輝』とは! 輝く言葉を三つ並べた聖語! 本来ならっ、三つも並べれば陳腐になるのだ! 輝きを失わせずっ、洗練と技巧に裏打ちされたものこそがっ、『光輝』!! 三つでも至難だとされる輝言をっ、九つも並べたのがっ、リャナ!! 奇跡が……、そうっ、その瞬間っ、奇跡が舞い降りたのだ!! 完全無欠なる『光輝三命』の爆誕!! 羨ましいにも程がぶぁえっっ!!」

 ポンは硬直した。

 首の後ろに衝撃が加わったらしい。

「いーやーっ、いーやーっ!」

 リャナは全力で振った手刀を緩めて帽子に戻した。

 僕は帽子を掴んでいるリャナの手を取る。

「いー、……?」

 リャナは動きを止めた。

 僕は両手を軽く引っ張ってリャナを立たせる。

 僕は父親(もとおうさま)のような眼差しを心掛けてリャナを見る。

「そ、その……、三周期前くらいまでは、あたしも、あの、魔法にのめり込んでいたというか、ダニステイルの色に染まっていたというか、自分の限界にも気付かずに、少しだけはっちゃけていたというかーー」

 リャナはポンが復活したので話をポンに振る。

「ミャン。あなたも『自然派』の『寵女』と呼ばれているのだから、あたしを羨ましがっていないで、そちらを極めれば良いでしょう?」

 リャナは聞き分けのない子供に言い聞かせるように勧める。

「なーらーぬーっ! 『魔女』はばりんっばりんっの『正統派』だった故にっ、我が目指すは『正統派』以外には有り得ぬのだ!!」

 ミャンは戻ってきた五体の「六形騎」と一緒にポーズを決める。

 僕はミニレムから離れる。

 ワーシュはサージュを捕まえて抱き締める。

「ま、竜にも角にも、ワーシュ以上の我が魔魔だってことはわかった。ほ~れ、俺らより竜の都に詳しーんだろーから、さっさと案内しな」

 コルクスはポンの帽子を取って先を歩く。

「ぶぉっ! 魔法使いと三角帽子は一心同体なのだ! その絆ばっ!?」

 ポンは聖語を描こうとしてコルクスに帽子を被せられる。

 コルクスはポンの背中を押して離れていく。

 潮時だと行動に出たようだ。

 五体のミニレムはワーシュを取り囲んで踊り始める。

「ほ~んと、自分も子供の癖に、子供の扱いが上手いわよねぇ」

 ワーシュは泣く泣くサージュを手放してからミニレムたちと一緒に踊る。

「そうだね。コルクスはワーシュの扱いにも長けているし、助かってるよ」

 ホーエルはミニレムたちの輪に加わって踊った。

 ホーエルはワーシュの背中を押して先行する二人を追う。

 六体のミニレムは両手を振る。

 皆は去っていくミニレムに手を振る。

 ワーシュは愚痴と魔法をホーエルにぶつけながら去っていく。

「……えっと、ライルさん。あの、これでは歩けないので……」

 リャナは繋いだ両手を見て俯く。

「リャナと手を繋いでいると、不思議と落ち着く。もう少しこのままで居て欲しい」

 僕は病気で亡くなった母親の手の感触を思い出しながらリャナに頼む。

「っ……」

 リャナは泣き出しそうな顔で三度頷く。

 僕の行いが女々しいと呆れられてしまったようだ。

 通行人は僕とリャナを見て笑顔になっている。

 僕は少しだけ痛んだ心を静かに受け留める。

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