うちの事
うちは関西のとある県の小さな町に住んでいる。
いつもうちって周りから「とろい」と言われてるんや。何でやろう?不思議でしゃあなかった。けどそれでもええやんと言ってくれる人もおった。
その人はちょっと上のお姉ちゃんやったけど。穏やかで優しい人やった。でもうちがいくつぐらいやったやろ。出会って2年くらいして遠くの町に引っ越して行ってしもた。今から10年以上も昔の話やけどね。このお姉ちゃんとは未だに会えてへん。
うちは今日も朝食で食パンを焼いてバター塗って。インスタントコーヒーを淹れる。ちなみにコーヒーはいつもスティックタイプを愛用しとる。
「……おはよう」
「おはよう」
低い声をかけてきたんはうちのお父さんや。うちの家はお父さんとうちの2人だけ。お母さんはうちがまだ2、3歳の頃に病気であの世に逝ってしもたんやわ。だから世間で言う父子家庭で育った。お父さんはもう仕事をリタイアして5年目や。頭には白いもんが目立ってった。うちも今年で30歳。小さな喫茶店の店員として働き始めたんが24歳やった。
「……蘭華。お前、結婚する気はないんか?」
「何を聞くかと思たら。うちは美人ちゃうし。お父さんもそれは知っとるやろ」
「まあ。それは分かっとるけどな。でもわしが元気な内に身を固めてくれへんと。心配や」
お父さんの言葉に苦笑いする。うちにせめて彼氏がおったらなあ。そんなんやったら心配かけんですむのに。
「……お父さん。わかった。彼氏でも頑張って見つけるさかいに」
「すまんな。蘭華もええ歳や。急がんでもええが。それでも今年中には彼氏を見つけたら。紹介ぐらいは頼むで」
「はあい」
頷いてうちはコーヒーの入ったマグカップにお湯を注ぐ。ええ香りが部屋にふうわりと広がった。バターを塗ったトーストとマグカップを机の上に置いた。朝食にありついたうちやった。
お昼になって今日は喫茶店の定休日やった事を思い出した。お父さんと自分のお昼ごはんとしてチャーハンを作った。とりあえず、適当に卵を割ってガシャガシャと木べらで崩した。そうした後でごはんをどさっと入れる。豪快に混ぜてチャーハンの素を入れた。しばらく混ぜ合わせた。ふう。とりあえず完成やな。
「……でけたで!」
大きな声で呼びかける。お父さんはちょっと嬉しそうにしてる。うちが作ったお料理はそれなりに食べてはくれるんやけど。まずかったら「いらん」と言われる時もあったわ。意外とはっきり言う人なんや。
「おう。できたんやな」
そう言ってうちが持って行ったチャーハンのお皿を受け取った。お父さんは用意したスプーンで食べた。その光景を見たらしんみりとなってしもた。いつまでお父さんは元気でいてくれるんやろ。うちはいつかは1人になるけど。
「……いただきます」
うちもスプーンを持ってチャーハンを食べてみた。ちょっと塩辛いけど。まあまあやな。あ、塩辛い言うのはしょっぱいいう意味やった。そんな事を思いながらお昼を食べた。ちょっと鼻がツンとしたのはお父さんには内緒や。
翌日、数少ない友達のなべやんにスマホでメールを送ってみた。内容は「男友達とかおったら。紹介してもらえへんかな?」というもの。なべやんは電話をしてきてくれたけど。
『あ。蘭ちゃん?』
「うん。うちやけど」
『男友達を紹介して欲しいって事やけど。彼氏の友達やったらできるよ』
「あ。ほんまに?」
『うん。彼氏に頼んだらええって言うてくれた』
なべやんが快く引き受けてくれたので明日にでもカフェで待ち合わせという事になった。うちはその後、お父さんに言うてみた。お父さんは「そうか。よかったな」と言うて喜んでくれた。うちも楽しみやった。
翌日、なべやんと一緒にカフェで落ち合った。彼氏の笹木君も一緒や。笹木君が連れて来てくれたんは同い年の男の人やった。
「……初めまして。笹木の友達で塩田 誠治言います」
「初めまして。うちはなべやんの友達で新野 蘭華言います。よろしく」
にっこり笑った塩田君は爽やか系のお兄ちゃんやった。塩田君はうちを見てちょっとはにかんだ笑顔になった。
「……新野さんって下の名前、可愛い感じやな」
「おおきに。ありがとう」
お礼言うたらはにかんだ笑顔から真顔になる。やっぱりうちの顔がブサイクやから変や思うたんか。そう思ってなべやんの方に行こうしたんやけど。塩田君は呼び止めてきた。
「……新野さん。早速で悪いけどな。メルアドを交換しようや」
「……わかった。うちのでええの?」
塩田君は頷いた。仕方ないのでメルアドを交換した。その後、カフェでお茶を飲みながらうちは塩田君と一通りお話をする。明るうて元気な塩田君は親しみやすいけど。モテるんやろうなと思った。けど意外な事に塩田君はうちを家の近くまで送ってくれた。
あれから、彼氏になってくれた誠治君をお父さんに紹介した。「結婚したら」と言われた日から2カ月は経っとった。お父さん、めっちゃびっくりしとった。あっという間に誠治君、半年後には結婚して旦那になった。友達のなべやんもびっくりしとったなあ。今となっては懐かしい話やわ。ほな。うちの話を聞いてもらって大きに。ありがとうございます。ほな。さいなら。
終わり




