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3 上級試験、再会、そして姫との出会いと同類の発見

総合評価10点ですか。

残念ですが、打ち切ります。

ありがとうございました。



 

 平民の上級への挑戦と受け取られたらしく、ある最前線で試験は行われた。


 最前線と言っても戦争ではなく、破綻した迷宮からの魔物の群れの防衛と言う、ある意味末期の状況の緩和を目指している地域と言ったほうが良いか。

 なので毎日のように怪我人が運び込まれ、毎週のようにパーティが壊滅している。

 そんなこの世の地獄のような場所だけど、能力があるなら稼ぎ放題とも言える場所。


「この街の今日の怪我人は大体800人だ。明日まで掛かると増えるからな」


 今までの治癒師はダウンしており、日々怪我人が増えるばかりになっているとか。

 調べてみると例の中の2の女治癒師のようだけど、かなり老けて見えるのは過労のせいか。

 他の連中もまともに回復してない魔力を振り絞って回復させており、あんな半端者でも居なくなるときついらしく、早く参加してくれと言われている。

 つまりは試験のクリアは無理だろうから、オレらと同様の立場になってくれって要請だ。


 そんな話は聞けねーな。


 体育館みたいな療養所の中に入り、それっぽく詠唱する。


「聖なる神よ、我が願いを聞き届けたまえ。神聖回復、リラクゼーション」


 もちろん細いクモの糸の構築と糸の垂らしは先にやっての話なので、あたかもその詠唱によって全員が同時に回復しているように見える。


 似非範囲回復魔法の完成である。


 ちょっと厨二病みたいなのが嫌だけど、この際それは気にしない事にする。


「なんだその、おいおい、全員を一気にかよ」

「よし、次に行きますね」

「あ、ああ」


(ありゃ間違いなく合格だな。てか、あんなの過去の偉人クラスじゃねーか。とんでもねーな)


 半日もあれば街全ての療養所の怪我人は癒えており、明日にも再編成をして迷宮への直接関与になる見込みだとか。

 オレは合格にするからそれに参加してくれと言われ、引き換えとかセコイと思ったけど、それしかないなら仕方が無いと、回復要員として参加する事になる。


 それでもやっぱり回復のトップはオレじゃなく、上の5という上級の中でも中堅どころの人が率いるらしい。

 ちなみにオレは上の2なのは、新人は普通は1だけど、最前線をクリアしたから特別に2にしたと言われると、それが実力を意味している訳じゃないのだと気付く。


 上の5でも恐らくは800人の怪我人を半日で全員癒すなどやれまいに、それをクリアしたのにたった1しか加算しないとか、その基準の元になっている案件は相当に規模の小さな代物だと知れる。


 だってさ、最前線クリアは怪我人を癒した人数で変わらずに、単にひとつの街の怪我人を癒したという実績にしかならないのだ。

 なので貴族のお偉いさんの関連とかだと、僅か数人でクリアってのもあるらしい。


 かつて存在したポンコツヒーラーの話になると、町の怪我人全てが回復薬を所持しており、癒す行動で薬を飲んで、魔法が効いたと思わせてクリアに持ち込んだという酷い話になっていて、そんなのでも王族の姫と婚約になったんだけど、あっさりと毒で死んだとか。

 その毒も試練の毒と呼ばれて王族の間では常飲して慣らすタイプの代物であり、下級でも回復の腕前があれば間違っても死ぬような事にはならない毒なのに、それであっさりと死んでしまったらしい。


 王族の関連になるなら必要な事だと、奥さんになる姫と共に飲んだ結果らしいな。


 確かに毒を飲み交わすなんてのが婚姻の証なんてのも変わっていると思うけど、飲み慣れているとは言っても常人が耐えるのに、当たり前に耐えそうな治癒師、それも上級が死んだのは恥ずべき事と、そのポンコツヒーラーの罪になったらしく、実家でも絶縁騒ぎになったとか。


 それは極端な例だとしても、貴族の間ではそんな水増しが有効となると、上の5の人の実力も怪しいものだな。


 ◇


 どうにもならんぞ。


 ひとつのパーティに所属して回復していれば他のパーティに怪我人が発生し、後方基地に送られるとしてもそこの怪我人も増えていく。

 かと言って後方基地で回復していると、毎日のように怪我人が送られてくる。

 つまり、オレ以外の回復職の性能が相当に悪いから、皆が皆オレの足を引っ張っている状態なんだ。


 だからもう後方基地専門にするしかないんだけど、半日で終わらせてぶらぶらしていると、サボっていると思われて告げ口される始末だ。

 そうして激戦区に送られて回復していると、後方基地の怪我人がまた増えていく有様だ。


「上2の分際でサボリとは良い度胸だな」


 お前の数倍は働いていると言いたいが、貴族に対しての釈明は反抗と取られたらそれでもう終わりになる。

 すなわち懲戒免職となり、上2から上1に落ちるのが確実なのだ。

 だけどさ、ここはオレで持っているも同然なのに、よくもそんなに偉そうに言えるものだ。


 決めた。


「辞めます」

「ふん、なら今から上1だ。次に反抗したら中級落ちだからな」


 やれやれ、ランクって本当に地位だけの話だったとは、そんな物を目指そうと思ったオレは愚かだったと思うしかないな。

 退職金などは望めず、それでいて月払いなのに払ってくれず、20日余りの無料奉仕となった今回の要請の結果は、下らない権力構造の末端は奴隷と同じという教訓を持って終了した。


 殺さなければ神許は消えないので、消したのはあいつの能力だ。


 体内の魔力は幼い頃から培った魔力容器が受け持っており、それが無くなればどんな術師も魔法が使えなくなるって代物だ。

 酔っ払って寝ていた上官の胸をはだけ、浸透で食ってやればそいつはもう魔法が使えない。

 しかも他人の魔力容器を食えば、いくらか魔力貯留が増えるとなると、横車を通した連中の魔力容器は全て食ってやりたいぐらいだけど、あんまり大勢にしたら事件と思われるので、数人だけに留めておいた。


 すなわち、回復のトップの上の5の男と、見栄っ張りな中の2の女術師と、偉そうに仕切った現場の上の3の男だ。


 魔法が使えなくても聖風の魔導具を使えば、下級クラスには回復もやれるだろうから、後は自らの権力で水増しすれば今の地位に留まれるかも知れないのだし、色々と頑張ってみるんだな。

 冒険者ギルドに戻ったオレは、相変わらずのEランク冒険者のままで、中級回復職として再臨した。


 もうね、上1とか要らないの。


 いかにも崖っぷちだからと怪しい依頼を押し付けようとしやがってよ、断れば中級に落ちると脅す連中ばかりとか、そんな代物に未練も何も無いさ。

 結局、あの迷宮攻略部隊は怪我人続出でやれなくなり、今では元のように最前線でランクの奴隷連中をこき使っているらしい。


 オレは曲がりなりにも上級の端くれなので、ギルドでの安価治療をしながらパンのネタ製造をやる日々をこなしている。

 そのうち上級も消えるだろうけど、それまでに実績を積めば中級に落ちになっても依頼が来るはずだしな。

 それにさ、オレは別に働く意味は無いんだし、いざとなったらどっかの遺跡の中で眠っても構わないんだ。


 もう少し世間のモラルが上がってくれないと、暮らし辛くていけないよ。


 ◇


 マスターを発見した。


 相変わらずの研究者をやっているかと思ったけど、どうやら結婚したみたいで夫婦でお出かけになっているようだ。

 それは良いんだけど、折角吸いまくってやったと言うのに、大食いの癖が抜けなかったのか、かなりふくよかになっている。


 折角だし、ちょいと寄生してスリムにしてやろうかな。


 ストーキングして家を突き止めて深夜にお邪魔する。

 夜は別居になっているようで、1人で寝るのは寂しいのか、悶々としているようだ。


「マスター、久しぶり」

「えっ、誰」

「マリンですよ」

「嘘……生きてたのね」

「ちゃんと昇華の儀式も終わらせているので、神聖魔法は効きませんよ」

「やりたい放題になっているのね」

「今でも滅ぼしたいですか? 」

「ごめんね。あの時はもう恐ろしくて。でも君はアタシの為にしてくれたのよね」

「もう元には戻れないでしょうけど、かつてのお礼ぐらいは受けて欲しいな」

「何をするの? 」

「またスリムに戻してあげるよ」


 かつての体型に戻れるとなると、多少の恐怖心などは消えたようで、オレに包まれるマスターは今、静かに横たわっている。


「凄いわね。かつては少し感じたものだけど、今では殆ど感じないわ」

「このまま皮膚と同化させれば、自然なダイエットのように見せられますよ」

「そうね、折角だからお願いしようかしら」


 念の為に洞窟探検をしてみたけど、お子様の存在は無かった。

 つまりはこの腹の膨れようは全て脂肪なのね。

 マスターが眠っている間も起きている間も、ひたすら少しずつ脂肪を吸収していく。

 今回は身体に変換せずにそのまま収納しているので、どんな骸骨人間も豚に出来る素材がひたすら溜まる事になる。


 そうだなぁ、こういう仕事もいけそうだけど、秘密を守れないと自滅になるからなぁ。

 そうなると勝手に寄生しての吸収にするしかないけど、口止めの方法としては破ったら吸い取った脂肪を押し付けると言えばいけそうでもあるな。


 老廃物も吸い取るので下着が汚れなくて便利と言われ、身体も快適なままなのでもう少しお願いと言われてそのままになっていた。

 かなりスリムになったので、近所の奥様連中の評判となり、どんなダイエットなのかと噂になっているものの、うっかり言えないので困っているらしい。

 旦那のほうも惚れ直したようで、局部だけ皮膜を外しての夜の行為となっている。


 もうね、旦那の手で撫で回されるのが嫌らしく、皮膜ごしなのがありがたいと言われたらそのままにするかないよな。


 そんな皮膜生活も数ヶ月が過ぎ、いくら食べても太らないうえに美人な奥さんの存在は近隣に鳴り響く。

 そうなると食指を伸ばすのが上級貴族らしく、中級でしかない旦那では防ぎ切れないとして、一夜だけの人身御供も受け入れるしかなくなったらしい。


 旦那には後でかなりの無理を言ってやると息巻いており、一夜だけならと我慢するつもりになっているけど、傲慢な上級貴族に気に入られたらもう抜ける事は出来ないと思うんだけど、そうなったらまたぞろ蠢く必要が出るかも知れないな。


 ◇


 パチーン「ああっ」


 パチーン「あうん」


 マスターったら芝居が大根なんだから。


 物理無効の皮膜持ちだから単なる衝撃しか覚えず、それもすぐさま回復させるから痛みなどは感じる暇も無いってのに、さっきからムチを当てられて痛がる芝居に没頭している。


 そう、一夜の伽とは表面だけの話であり、要は自分よりも美しいと評判の奥さんの事が憎らしいと訴えた上級貴族の奥様による姦計だったらしく、今日も奥様の手の者によるムチ打ちが行われている。

 その奥様はムチの音を聞くだけで満足するらしく、そうなれば芝居で乗り切るしか無いとひたすら痛がる芝居をやっているマスターであり、オレは深夜にあちこち潜り込んで、悪事の証拠を集めているところだ。


 そうして最後には共に抜け出して、対抗派閥に売り付ける計画になっており、それに旦那を使う事で、巧く行けば家の立場も上がるだろうし、ダメでも旦那が殺されるだけなので安全と、中々に冷酷な計画を立てている。


 まあ、マスターも貴族の一員なので、そういうのは当たり前なのだろう。


 だけどさ、旦那のアレを再現しろと言われても困るんだけど、オレにはもう人間の性欲の欠片も残っておらず、だからこそマスターの身体も平気で包めるんだし。

 そんな張型の役回りとか嫌だと言うのに、ムチの衝撃が刺激になって、このまじゃ眠れないと言われて懇願されてはな。


 仕方が無いな、今回だけだぞ。


 ◇


 証拠を集めたので抜け出す計画を立てる。


 実は旦那の裏切りが発覚し、旦那共々対抗派閥の生贄にする計画に変更され、遠い親戚を頼って事を成すらしく、抜け出したらそこにすがる予定だとか。

 そうしてもう結婚なんかはこりごりなので、またぞろ研究に明け暮れたいと思っており、オレみたいなのをまた作りたいと意欲は買うけど、問題は智恵の有無だからな。


 賢い子が出来るのを祈っておくよ。


 すっかりスリムとなったマスターとひとまず別れ、オレは旅に出る事になっている。

 本当は美容の仕事の計画もあったんだけど、マスターが痩せた秘密を知人に知られたくないと言うからやれなくてさ、そのうちまた太ったらお願いするわと言われ、別行動になったんだ。


 遠い親戚の手柄にする事で立ち位置を確保したマスターは、彼らの庇護の元で研究三昧の日々を送るらしく、政略の旦那からの慰謝料も得ており、かなりの悠々自適になっているようだ。


 どうやらオレが夜の務めを嫌がるので、嫌がらない子が欲しいと思っているようで、次なるオレの後継はそういう用途に使われる事になるのかも知れない。

 結局、マスターからせしめた脂肪の量はかなりになっており、この際だからと豊胸魔術師として旅から旅も良かろうと、ある太った女と契約して、スリムでありながらも豊かな胸を実現させると共に、客を集めさせて荒稼ぎをした。


 どのみち眠らせておいてその隙に脂肪注入するだけであり、痩身も望むのならついでに他の脂肪を吸収するだけだ。

 旅の術師なので少々荒くやっても構うまいと、吸える限度で強引に吸ったので、体型が歪になったかも知れないけど、豊かな胸で誤魔化されているようだし、そのうちまた同じように太れば目立たなくなるはずだ。


 元手の要らない豊胸術師の噂は万里を走り、行く先々で仕事を始めたら権力者からのアプローチがあるのには参ったが、それでも一夜にして豊かな胸にするので偽者呼ばわりされる事はなく、それなりの金にはなるので特に断りはしなかった。


 ただ、ある女史の強引な値引きには嫌気が差したので、報復したのは言うまでもない。


 その噂はすぐに立ち、横暴と呼ばれる女史が痩せぎすになったのは、何かの呪いでは無いかと言われだした。

 まるでその姿はゾンビのような脂肪皆無の身体であり、とても美人とは言えない醜い姿。

 少しはあったはずの胸は完全に無くなり、肋骨が浮き出ている有様。

 かつてもそれなりに痩せていた彼女の体重は更に軽くなっており、少しでも何かに当たると骨まで響くようで、報復としては上等だろう。


 なんせ、乳房の形がおかしいと言い出して、だから負けろと言うんだよ。

 しかも弾力もおかしいから更に負けろと言った挙句、本当なら損害賠償なところを我慢してやるから、そのまま立ち去れと言う有様。

 そうなったら絶息させて、気を失っている間に全部吸い尽くすしかないよね、脂肪を。

 今じゃ内臓脂肪もゼロだから、長生きは出来ないと思うけど、そんなの知った事ではない。


 そんな事もありはしたけど、何処に行っても大抵需要はあるみたいで、客に困る事は無くなっている。


 ◇


 いくつの国を越えただろうか、今のこの国の姫様の体内に収まっているのは、ふと見かけた姫様が痩せぎすであり、このままでは長生き出来ないのでは無いかと言われるぐらいに小食であるうえに、魔力臓器が生まれつき小さいのにも関わらず、回復量が多くて魔力臓器の負担になっており、それで余計に身体の負担になっているものの、治療法も無いのでどうしようもないって話を聞いたからだ。


 まずは可能な限りの身体を残して収納に残りの身体を収めた後、姫様が寝ている隙に表皮から浸透して魔力臓器のお隣に鎮座した。

 そうして余分な魔力を吸収しながら、可能な限り身体を補充して効率を高め、朝目覚めたらストマックマッサージをして食欲を増進させ、それからしばらくは消化の助けになるようにマッサージを継続し、身体の負担を軽減させるように細い糸状の身体で補正してやり、元気になったと思わせてそれの継続をさせて基礎代謝を向上させていたんだけど、そのうち抜き差しならなくなっていた。


 最初は補助のつもりだったのに、あちこちそれをしている間に身体全体にオレがはびこる結果となり、大人になるまでおいそれとは抜けられない状態になったのだ。

 どのみち魔力臓器は使えば使う程に大きくなるのだし、それなら日々吸いまくっていればそうなるだろうと、大人になるまでこのままで行こうと決心した。


 そうなると絶壁の改造も必要だろうと、日々の脂肪注入が足される結果となり、彼女の胸は日々大きくなっていく。

 どのみち肩こりになる前に回復させるので疲労する事もなく、すっかり大きくなった胸を多少持て余しつつも、満更ではないようなので良しとする。

 かつて痩せていたとは思えない程にふくよかにはしたものの、少女のうちはこれぐらいのほうが身体に負担にならないので、そのうちにスリムな体型にしてやれば問題無かろう。


 身体が元気になると前向きになったらしく、日々の勉強の意欲も湧いている様子でついでにオレの勉強にもなっているのがありがたい。

 それでもまだ子供なのですぐに飽きるらしく、毎日少しずつの勉強になっているのは致し方ないところなのだろう。


 現在の魔力貯留は15000を越えており、このままだとまだまだ増えそうな予感だ。

 日々の吸収で増えた分は身体の回復に努めているのだけど、溜まるほうが多いのでこっそり体内で蜂蜜製造をしては収納している状況だ。

 それと言うのも暇様が寝ているうちに口内に蜂蜜を供給するシステムを構築したので、その為に蜂蜜が必要になったからだ。

 時々口の中が甘くなるという、不思議な現象を体験させる事が出来るようになったんだ。


 勉強をしていると口の中が甘くなるという条件付けで、姫様は勉強が好きになったようで、ひたすらの勉強になっているらしく、最初は美姫と呼ばれていたのが賢姫と呼ばれそうになっているものの、どちらかと言えばそちらのほうが望ましいらしく、教師の質はどんどん高くなっている。


 頭脳労働には甘いものと言うのは効果的のようで、蜂蜜供給システムの調子は実に良い。

 だけど大人になればそれも止めないといけないけど、いきなり止まったら変に思うだろうな。

 元々病弱だった姫様は、今では元気になってはいるんだけど、どういう訳だか男が嫌いなようであり、結婚は嫌だと言っている。

 それでも姫と生まれたからには結婚は必須なようなのだけど、それぐらいなら神殿に行くなどと言っては皆を困らせているようだ。


 それでも見合いだけと言う約束で、何とか納得させたものの、相手の男の子が乱暴者なのは何かの陰謀だろうか。


 ちょっとした事で反論したらいきなり激高し、女の顔を殴ろうとする有様は、将来の暴君を思わせる所業。

 本来なら姫様はそのまま殴られるんだろうけど、オレが中に居る状態でそんな横暴は許さない。

 表皮ガードで相手の拳を痛めさせ、そのついでに糸を飛ばして体内に脂肪を供給する。

 いきなり膨れ上がったたんこぶくたいな腹の出来物は、そのうち見つかって騒ぎになるだろうが、単なる脂肪の塊なので騒ぐだけ無駄だ。


 その場は何とかなったものの、姫様が泣いてばかりいるので報復してやろうと、体内の身体から分離して移動して、男の子を一夜にしてまん丸にしてやった。

 子供の皮膚はかなり伸びるので、いくら注入しても注入しても余裕があり、ひたすらの注入はその限度で突っ張ったものの、相当量の脂肪注入を可能とした。


 全身がたぷんたぷんになった少年は、将来はイケメンになると言われていた面影は既に無く、恐らく朝気付いた使用人によってあちこちに拡散されるだろうな。

 そうなればもう、姫様の相手は務まらないと辞退する羽目になるだろうし、そもそも女をいきなり殴ろうとするような男なのだから、これだけの変化ならもう終わりになるだろう。


 満足したので元に戻り、姫様の庇護は継続となる。


 ◇


 あれから何年が過ぎたのか、姫様は凛々しくなられたな。


 理想的な体型を維持しながらも身体の補助は少しずつ抜いていき、自力で自由に動けるように誘導したので、今ではすっかり元の身体に戻っている。


 健啖家でありながらも余計な肉が付く事もないうえに、豊満な双丘は皆の注目を集めており、姫様の男嫌いさえ治れば相手には不自由しないと言うのが周辺の連中のもっぱらの噂になっているようだ。


 結局、あの少年との見合いはすぐさま破談となっており、姫様に対する暴行の件も合わせて相手の家の評判をかなり落とし、少年の体型の変化は姫様を殴った事で神様からの罰を受けたと、もっぱらの噂になっている。

 本人は痩せようと努力しているようだけど、元々は他人の脂肪なのでそう簡単にはいかない。

 なんせ脂肪自体は生理食塩水の入ったパックを埋め込んだのに等しいので、どうあがこうとそれが消えない限りは痩せる事は出来ないのだ。


 外科で取り出す手法の無いこの世界の医学では、諦めてその身体と付き合うしかない。


 体重がいきなり倍以上になれば、運動量はかなり減るだろうし、少し動けば息切れがする。

 なので痩せたいと思っても思うようにはいかないはずであり、身長が伸びても太った体型はそうそう無くなったりはしないものだ。

 まあそれでも改心するなら抜いてやっても構わないが、あんな子供の頃から横暴であれば、それは親の教育なのだろうから治る見込みは恐らく無い。

 ならば幼い頃の罪と諦めて、その身体で生きて行けと言うしかない。


 まあ、痩せている者より太っている者のほうが筋肉量は多いって言うから、悪い事ばかりでは無いさ。


 男嫌いの姫様は、乱暴な見合い相手のせいで余計に酷くなり、どうしようかと周囲はやきもきしていたのだけど、隣国の王子に一目惚れするというイベントで、一同はかなり安堵したらしい。

 早速にも隣国との調整が始まり、2人はほんわかとした雰囲気の中でお互いの愛を深めていこうとしているのに、元々懸想していたらしき隣国の侯爵の娘の手の者の横槍が実にウザい。

 いやね、侵入者を捕らえて尋問したところ、簡単に吐いてくれたんだ。


 やり方は簡単だ。


 身体全体を包んでおいて、白状しないとこのまま食うぞと言ってやっただけだ。

 本人は真っ青になって、全て話すから勘弁してくれと泣き出してさ、それが暗殺者のやる事かと少し呆れたね。

 しまいにはオレに余計な体液まで吸収させられてさ、仕方が無いからそいつの体内に潜り込み、命令者の娘の所まで連れて行けと命令し、またぞろ豚娘を拵えて逃げたんだ。

 その時に足を洗って姫様の影守りに就けと命令し、裏切ったら寝ているうちに食うぞと言えば、誓うから食わないでくれと言ったのでとりあえずは信用して放ったんだ。


 まああいつが影守りをしようがしまいがどちらでも良いが、この国から消えるようなら次に合った時があいつの最後になるだけだ。

 直接殺さなくても脂肪注入してやれば豚男になるだけであり、そんな身体にいきなりなったりしたらまともに動けないから仕事もダメになるだろう。


 まあ、散々脅しておいたので、オレの存在を間違っても告発はしないだろうし、もしするようなら探し出してオークもどきにしてやるさ。

 姫様と王子の交際はしばらく続き、婚約を経て結婚に到る。


 両国の関係者の奮迅の努力の結果が実り、今では幸せな結婚生活を……と、思ったのにな。


 相手が第一王子だったのが拙かったのか、跡継ぎ問題で多妻にしなければならないらしく、姫様はそれを嫌がって自分で何とかすると、毎日のように王子に抱かれているそうだ。

 オレはもう姫様から抜けたから詳しい事は知らないけど、好きな相手ならば耐えられるようで、王子のほうも満更ではないらしく、当分の間は現状維持にしたいと周囲に話したらしい。


 姫様の体内は今ではかなり強靭になっており、産道もかなり強化しているので出産で困る事は無いだろう。

 あちこちの重要な筋肉は刺激と回復で超回復な結果となっており、姫様が思うよりは丈夫な身体だから心配は要らないと思う。

 特に乳房を支える筋肉は相当の強化になっているので、将来的に垂れたりはしないと思う。


 まあ、老人になれば分からないけど。


 姫様を見守って12年、色々な事があったけど、幸せになってくれるのなら苦労した記憶も報われるってものだ。

 オレの事は結局、姫様には言えなかったけど、こんな人外の事など知らないほうが幸せかも知れないので、このままで良いだろう。


 さて、そろそろ移動しようかな。


 ◇


 空を飛んでみたい。


 不意にそんな衝動に襲われて、まずは形から考えてみる。

 鳥の形なんかは却下だし、飛行機と言うのも奇を衒い過ぎだろう。

 何よりそんな形の魔物の存在があるんだし、それと似ていれば変異種と思われるだけだ。

 となると全く異なる形にすれば、いきなりの討伐騒ぎにはならないんじゃないだろうか。


 そこで考えたのが空飛ぶ銀食器。


 外周に斜めの噴射口を等間隔に構築し、回転させるようにすると共に、内円はプロペラ状にしてやれば、回転する事で浮力が得られるはずだ。

 もとより薄くする修練は熟練になっており、薄くても気絶した人を動かす外骨格の修練もした。

 そもそも可能な限り薄くて大きな銀色の食器のような物が回転していたら、そんな物に近寄ろうとは誰も思わないに違いない。


 まずは小さな形で安定させ、次第に大きくしていく。


 収めてあった身体の成分も全部出して、余っていた脂肪からの身体化もやって大きくし、薄いながらも強度を保てるように筋を通して保持させて、限界の大きさに挑戦する。

 これを見た人は外宇宙からの訪問者と思ってくれないかな、なんてな。


 なんか楽しくなってきた。


 回れまーわーれ♪


 うおっ、しまった、魔物には通用しなかったか。


 仕方が無いので襲ってきたドラゴンにすっぽりと被さり、そのままうろこ下の肉を吸収しながらうろこ採取を開始する。

 ドラゴンのうろこは高く売れるらしいので、生皮を剥がすようで申し訳無いが、そっちが先に襲って来たのだから諦めて欲しい。


 《おのれ、化け物め、わしから離れぬか》


 おや、喋れるのか?


 いやこれは思念伝達だな。


 となれば……。


 《そっちが先に襲ったんだろうが》


 《なんと、話が通じるとは何者じゃ》


 《ただの魔法生物だよ》


 《錬金術より生まれし生命か》


 《おや、詳しいね》


 《これでも長く生きておるのでな、それぐらいの事は知っておるよ》


 《それで何で襲ったの》


 《怪しき物体が空を飛んでおれば、退治しようと思うものだろうが》


 《どういう風に怪しいの? 》


 《それは、じゃな、つまり、その》


 《フライングソーサーみたいだから怪しいと思ったの? くすくす》


 《なんと、おぬしも同類か》


 やっぱりな。


 普通の魔物が自分より大きな空飛ぶ物体を、いきなり攻撃とかするものか。

 空飛ぶ円盤と思ったからこそ、転生した竜の身体で攻撃してみたかったんだろ。


 《それにしても、魔法生物に転生とは哀れよの》


 《そうかな。物理無効で魔法無効で、しかも今は神聖魔法も無効になっている。しかもだよ、錬金術は使えるし生活魔法も全てが使える有様だ》


 《あれは魔導具であろうに、いかにして覚えたのじゃ》


 《吸収持ちがひたすら使えば、スキルも吸収するらしいぞ》


 《うぬぬ、そんな裏技があろうとは》


 《さて、浄化を全力で行使しても構わないか? 》


 《うおおお、それだけは止めてくれ。この世界の魔物は神聖魔法で消滅するのじゃ》


 《そんな身体では昇華の儀式も受けられないだろうから、神許になってないんだね》


 《人化出来るかと思って楽しみにしておったのに、そのような事は出来ぬなどと言われ、諦めてドラゴンとして生きておったのじゃ》


 《神殿の地下に何とか潜り込んで、しばらく寝ていたら神許になるんじゃないか? 》


 《あれは神の許しであろうに》


 《テーブルの裏にくっ付いていただけで、1週間でもらえる代物だ。つまりはあの空間の魔素を体内に入れて、聖寄りの存在にすれば勝手に付くものさ》


 《おぬし、最近到来したのじゃな。わしもかつてはそのような思考をしておったはずじゃが、すっかりとこちらの常識に流されておったようじゃ。確かにそう考えれば納得もするの》


 《本当に神が許しているならすぐに終わるはずの儀式が1週間から10日も掛かるのは別に理由があるはずだ。つまりは神聖な魔素を吸収する事で聖寄りの身体となった事を探知されて、ステータスの表記を変えるシステムに基づいて自動的に編纂されているんだろう》


 《長年の疑問が消えたの》


 《世界はシステムでありプログラムであり、下々の状態の変化を探知してステータスの表記を変えるシステムの元、神の存在を意識させてはいるものの、実際に見た者はいない》


 《それが結論じゃな》


 《もっとも、神罰システムも有効に働いているから、あたかも神が実在するかのように見えているけどな》


 《そのような考えのおぬしに神罰が落ちない以上、それは真実という事になるの》


 《となれば今の身体をアバターと見立て、仮想ゲームのつもりで生きていけばいいさ》


 《成程のぅ。それで生に飽きぬのじゃな》


 《死ねば戻れるかどうかは分からなくても、二度とこちらに来られないと思えば、出来る限りは体験したいと思うものだろう? 》


 《確かにの。感謝するぞ、若いの。わしの気力を戻してくれたの。怪しき者と相打ちになっても構わぬと思っての攻撃じゃったが、今ではそのような事はしたいとは思わぬ》


 《飽きたら眠れば良いだけさ》


 《そうじゃの。そしてまた新たな世を体験するのじゃな》


 《そういう事さ》


 かなり昔にこの世界に来たみたいで、すっかり生きる希望を無くしていたみたいだけど、どのみちドラゴンの寿命は半永久的に保つらしいし、それを言うならオレも似たようなものだ。

 ならばお互い、今の世に飽きたら少し眠れば、また新たな人類の世界が広がっているだろう。

 そうしてその世を体験すれば良いだけさ。

 この世界が滅びるまで、いやもしかしたらオレは滅びた後も生存を続けられるかも知れないとなれば、本当に円盤みたいな形で宇宙を放浪する事になるかも知れないな。


 まあそんな先の事はともかく、今を楽しもうじゃないか。

 

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