表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

1 目覚めてからお別れになるまで

1話1話が長い代わりにすぐに終わりそうです。

 

 気付いたらガラスの瓶の中に居たんだけど、どう考えても人間じゃないんだ、今のオレは。


「これを飲んでくれたら完成なのに、毎回どうしても吸収してくれないのよね」


 オレってどんな生き物なんだ。


 感覚的にはスライムみたいだけど、色が銀色なんだ。

 メタル……にしてもやたら小さいし。

 確かにあれはゲームだから大きさとか分からないけど、それでもこんなに小さくは無かったはずだ。


 女性の手で瓶を掴んで指が半分ぐらい回る大きさで、高さは指10本分ぐらいかな。

 インスタントコーヒーのでかい瓶ぐらいかな。

 その中の三分の一ぐらいをオレが占めている。

 もし、出たにしても握りこぶしかリンゴぐらいの大きさだけど、もしかしてこの世界のスライムってそんなに小さいのかな。


 お、何か入ってきた。


 さっき言っていた液体のようだけど、これを吸収すれば良いのかな。


「ああ、飲んでる……やっと、成功だわ」


 おお、これで良かったみたいだ。

 味は感じないし、特に身体に変化も無いんだけど、さっきの液体ってどんな意味があったんだろう。


「さあ、いよいよ本番ね。テイム」


 これは、もしかして、でも、逆らえるな。


 かなり弱い……勧誘みたいな、でも、逆らう意味って無いよね。


 承諾の意思を相手に伝えようとすると、何かが繋がったような気がした。


「やった、テイム成功だわ」


 この女の情報が分かる。

 マリリンさんと言うのか。

 22才で、彼氏は無しね。

 現在、魔法生物の研究者で……うえっ?


 オレって魔法生物だったの?


 それにしても、こんなに詳しく相手の情報が分かるとか、つまりこちらの情報も知られているんだろうけど、魔法生物(転生者)とかになっていないだろうな。


 体力に魔力に技能ってのはスキルの事かな。

 錬金術となっているから多分そうだろう。

 後は生活魔法の汎用ってのが使えるみたいだ。


 詳しく知りたいと思えばその詳細も分かるし、使いたいと思えば使えるようになりそうだ。


「あら、アタシのスキルがコピーされているわ。今回のはかなり優秀みたいね。これなら助手の代わりになったりして」


 それが望みなら叶えたいものだね。


 ◇


 こんなオレにやれる事があるのなら、何でも言って欲しいと願う。

 そんな気持ちが伝わったのか、いよいよ瓶から出してくれるようだ。


 ふよん……。


 ゲームのスライムみたいな形状を保つのが難しいけど、何とか形を変える事は出来そうだ。


「おとなしいわね。今までのは勝手にあちこちに移動して困っていたけど、この子はその場で動かないでもじもじしているだけだし、これなら助手は無理でもペットみたいにはなるかも。後は命令を理解してくれれば良いんだけど」


 それなら任せろ。


 元人間だからな、大抵の事は理解するぞ。


「えっと、まずはこっちに来て」


 もぞもぞ……のたりのたり……ぽよんぽよん。


「もう跳ねられるのね。それにこっちに来るのも早かったし、もしかして理解している? 」


 少しの塊を上に伸ばして、こくんこくんと頷いてみる。


「うわ、凄い、この子」


 その手の情報は飼い主? から送られてくるので、普通の魔法生物でも智恵があるなら可能そうなリアクションだけど、さすがに元人間には及ばないのか、かなり優秀だと思われているようだ。


 それからも色々なテスト……知能指数を計るようなものはわざと失敗したけど、それ以外はそれなりにこなして大体、幼児ぐらいの知能があると思ってくれたようだ。


 いきなり成人クラスの知能とかいかにも変だし、魔物とかの類が憑依しているとか思われて処分されてもつまらないので、かなりセーブしておいたんだけど、それが良かったみたいだ。


 元来、魔法生物の知能はピンキリらしいけど、今のオレの知能はピンにかなり近いらしい。

 かつて錬金術の大家が拵えた代物にかなり近いって事で、しっかり育成して凌駕させたいと思っているらしく、読み聞かせでこの世界の情報をかなり詳しく知る事が出来た。


 ◇


 やはり異世界なのは間違いなく、生活魔法には3種類あって、マスターの所持しているのは一番安いやつらしい。

 それでも大銀貨1枚だったと言われても困るけど、話を聞いているうちに大体のレートが知れた。


 つまり大体……。


 小銅貨 10円

 中銅貨 100円

 大銅貨 1000円

 小銀貨 1万円

 中銀貨 10万円

 大銀貨 100万円

 小金貨 1000万円

 中金貨 1億円

 大金貨 10億円


 こんな感じになっているようで、このレートはあくまでも製造された魔導具に関してのみ有効らしく、食品や武具や防具や素材だとかなりの剥離があるようだ。


 まあ、流通とか全然だしね。


 ともあれ大銀貨1枚は大体100万円相当となると、あの腕輪がそんな高額なのか。


 小さな炎-着火

 パンの元-製粉

 涼しい風-送風

 清らかな-清水


 この4種類が使えて、それぞれは魔力の流し込む量で強弱が付けられるらしく、着火だと、軽い気持ちでマッチの火、真剣に注ぎ込んで小さな焚き火ぐらいとか。

 見せてもらったけど、確かにマッチの火かローソクの炎ぐらいのと、念じた後に出た炎はその大きさは比べ物にならなかった。


 もしかして、攻撃に使えるんじゃ?


 そう思わせるぐらいだったけど、どうやらそれは可能だけど不可能、つまりは連続使用だと内在魔力が尽きるらしく、最大の威力では2回がきついぐらいであり、大抵は極小から小ぐらいの威力にしておいて、時々の使用にするのがコツらしい。


 魔力の補充は自然吸収になっていて、一晩寝れば回復するらしい。


 ちなみにパンの元と言っても小麦粉が出る訳じゃなく、腕輪を着けて手の平に小麦を載せて詠唱すると挽いてくれるだけみたいだ。

 それでも石臼の要らないこの魔導具は、かなりの普及らしいが納得の性能だ。


 貸してもらえたので早速、腕輪の中に身体を通してみる。


 《涼しい風-送風》 そよそよそよそよ……。


「凄い凄い、やっぱり君って賢いね。ああ、涼しいなぁ。時々やってくれるかい? 」


 どうやら今は夏っぽい気候らしく、かなり汗を掻いていて送風を心地良さそうに浴びていて、それの継続を望んでいるようだ。


 扇風機かよ。


 どうやら彼女には魔法の才能は無いみたいで、この魔導具も自然吸収に頼るしかないらしいが、オレにはどうやらその才能があるみたいで、魔導具から余剰魔力が抜けるみたいなので、可能な限り抜いてみようと思っている。


 魔力容器とも臓器とも言われる魔力を溜めておける代物は全ての生物が所持しており、死んだらそれが収縮して石のように硬くなり、魔物の場合は魔石と呼ばれて回収して魔導具の材料や燃料に活用されているとか。


 そうして魔法の才能と言うのは、体内の魔力容器の中の魔力……これはオドと呼ぶべきかも知れないけど、この世界ではそんな区分は無いようだ……を触媒にして外気の魔力……これはマナとすべきだろうな……を魔法の形状に変化させられる才能の事であり、それには明確なイメージが必要になるみたいだ。


 映像文化の無いこの異世界で、明確なイメージの確立は難しいらしく、火山の噴火とかも自分の目で見た事のある者は滅多におらず、その再現は伝聞などでは不可能だろう。


その点、オレは衛星チャンネルで様々な自然の現象を見ており、その原理なども知っているので、その再現は可能そうだった。

更に言うなら戦争の中継のニュースなども見ており、兵器の構造なども興味のままにいくらか知っている。

元々、大学出のサラリーマンだったような記憶もあるので、それなりの科学や物理に対する知識があるので、この異世界の誰よりも魔法に対するアプローチが簡単だろうと思っている。


魔法の才能は、そんな経験も素養として足された結果なのかも知れない。


 ◇


 人間なら寝ている間に自然回復するものらしいけど、睡眠の不要なオレにはその回復させる時が無い。

 瞑想っぽくしても何も取り込めないみたいだし。つまり、直接接触した存在からは吸えるけど、それが大気の場合を省くんだな。


 それにしても、いくらでも吸収出来るんだけど、オレの限度はどれぐらいなんだろうか。


 そよそよそよそよ……。


 切れては詠唱、切れては詠唱と、余剰魔力を吸い取りながらの奉仕は続いていく。

 彼女は快適な気分で研究に熱中しているようで、この奉仕は彼女の研究が終わるまで続くのだろう。

 それでも特に苦にはならないみたいなので継続しているけど、さすがは魔法生物だけあって、魔力だけ得ていれば空腹にはならないみたいだ。


 つまり、吸収しているのは食事になるのかな。


 かなりの量の吸収だけど、妙に身体の奥が変な感じになっている。

 もしかして、奥に魔力が溜まっているのだとしたら、そのうち吸えなくなるのかも知れない。

 それでも限界まで吸ってみないと、どうなるかは分からないからな。


 奉仕中に遂に限界を迎え、オレの身体が変化する。


 だけどそれは静かな変化なのでマスターには気付かれず、それは静かなままに終了した。


 自分に意識を向ける。


 名前・マリン

 種族・魔法生物(進化種・特殊・魔力)

 体力・200

 魔力・600(+7400)

 固有・吸収・貯留・魔力貯留(8000/8000)

 耐性・物理無効・魔法無効

 技能・錬金術(劣化)

   ・生活魔法(汎用・劣化)


 どうやら魔法生物は最初に食べた物を貯留する特性があるようで、回復タイプにするのが多いらしく、その場合は薬草ばかりを食べさせるらしい。

 そうしてテイムして命令すると、薬草のエキスを出してくれるようになるようで、回復薬の製造がかなり楽になるらしい。


 彼女は新しいタイプの魔法生物の研究の中で、魔力のみの吸収でどうなるかって研究をしており、オレの技能が決定されたのはそういう訳のようだ。

 後は腕輪の生活魔法を劣化版だけど保有したのは恐らく、吸収持ちがひたすらの使用になっていたからだろうと彼女は言う。


 かなり貯留魔力が多いようだけど、それは進化によって顕著化された結果のようで、マスターの予想ではそこまでの量にはならないはずだったらしく、もし魔法が使えたらかなりの高性能な魔力貯留魔導具の代わりになったのにと残念がっていた。


 それでもまだ覚える余地があるならと、マスターの師匠に当たる人が所持している高級な魔導具を借りてくれるらしく、それを全てマスター出来たらかなりの価値になると言うけど、知られたら誘拐されちゃうよ。


 どうやら別に思惑があったらしい。


 マスターの魔力じゃ充分な量が出ないから諦めていたらしく、今回覚えた高級生活魔法の劣化版なんだけど、連続使用させられている。

 物理法則とか全く関係の無いこの現象の説明は付けられないけど、出る物は仕方が無い。


 天然甘味-蜂蜜

 家畜の脂-油脂

 鶏卵の白-白身

 鶏卵の黄-黄身


 さすがに料理を作れとは言われないけど、毎日の食生活が豊かになると言われ、連日便利に使われてます。


 確かにマスターなら内在魔力が頼りなので、魔力切れになったら腕輪の自然回復に頼るしかないけど、オレの場合は魔力貯留がある。

 しかもずっと汎用を持たせてくれているのでひたすらの回復となっており、必要な時に必要なだけ供給が可能になっており、そのせいで毎日の食生活に活用されているんだ。

 そのせいで腕輪と同等、いやそれ以上の効果になったのは副産物だけど、要は魔力の供給さえやれるならいくらでも強力になりそうだったのだ。

 なので劣化版と言いつつも腕輪以上の効果がある現状において、もはやマスターが腕輪を使うメリットが無くなり、オレ専用みたいな位置取りになったのも致し方あるまい。

 小麦粉製造とかも、必要量の小麦を包んで一気に製粉できるうえに、不要なゴミを吸収するから掃除要らずになっており、彼女にとってはかなり便利なアイテムと化している。


 そのうち聖風の魔導具もコピーさせたいと目論んでいるようだけど、そもそも高級魔導具もかなりの価格のようで、そのレンタル料で資金がかなり飛んだらしく、当分先になりそうだ。


 いかに師弟価格でも安くなかったんだね。


 ◇


 彼女も研究者なのでマッドな面があったのか、犯罪行為をさせられそうです。


 とは言っても、魔法生物に対する尋問とかは不可能なので、自白は間違ってもありませんが。

 ただ、彼女に言い含められただけであり、普通の魔法生物には到底理解が及ばないだろうし、またその手法にも無理がある。

 それでも彼女はオレを、大家の魔法生物よりも賢いと見ており、もしかしたらの思いで言い含められた。


「あのね、神殿には聖風の生活魔導具が置いてあるの。この容器のフタは中から回せるようにしておくから、夜中に置いてある場所を探して使って何とか覚えられたらリース料が不要になるのよね。ダメ元だけどやってみてくれると嬉しいな」


 こんなのオレ以外不可能だろ。


 確かに生成された魔法生物は神の許しを得る為に、神殿に10日ぐらいは安置されるのが決まりのようで、それぐらいなら飲み食いしなくても生きられるので、持ち主にも会えないまま過ごさなくてはならないらしい。

 神の許しを得た魔法生物は、神聖魔法を浴びても平気になるらしく、魔物からの昇華と呼ばれているとか。


 つまり、今神聖魔法を浴びると魔物のように消滅してしまうのかよ……早く連れてって~


 貧乏ゆすり状態になったオレを見て、危険なのが分かったのかしらと彼女は笑うけど、こっちは消滅の危機なんだから早くして欲しいものだ。

 魔法生物は必ずテイムの必要があるのと神殿での昇華の必要があり、その期限は製造後半年以内と決まっており、それと言うのも進化後の魔法生物はテイムが非常に困難になるうえに、自我の形成が成されて凶暴化する場合もあるらしく、危険な魔物として処分対象になる場合もあるとか。


 そうか、普通は食糧が薬草なので食べさせる量をあるじが決められるので、進化までには時間が掛かるのか。

 オレの場合は能動的にひたすらの魔力というごはんの吸収に明け暮れたので、食物から得られる魔力とは比べ物にならなかったのも足されて、こんな短時間での進化になったんだな。


 もちろん討伐決定は神聖魔法の洗礼を受けて後の話なので、昇華の儀式さえ終わらせておけば、外で見かけて攻撃されても問題が無くなる。


 そう、魔法生物には普通の魔法は通用しないので、野良と思われるとすぐに神殿に連絡が行き、神聖魔法を浴びせられる事になり、昇華の儀式を経てない場合はあっさりと消滅してしまうらしい。


 大変なのは昇華後の野良だけど、普通はそういうのは攻撃に対して反撃をするので、それを見て討伐対象に制定されるらしい。

 物理無効・魔法無効・神聖魔法無効の野良をどうやって倒すかと言うと、閉じ込めて餓死させる方式が一般的になっており、魔法生物には吸収出来ないタイプのガラス……今使っている用器とか……に閉じ込められて神殿で聖水の泉に沈められるのだとか。


 万が一、容器から出られても外は聖水。


 かつては野良で人を攻撃した場合は魔物扱いとなるものの、神聖魔法の効きは余り良くならなかったらしく、だからこそそんな処分方法になったようで、そんな状態でも聖水を浴びるとダメージになるらしく、そのまま消滅してしまうとか。

 それでも餓死を狙うのは気分の問題であるようで、野良の魔法生物が溶けた聖水は穢れているんじゃないかと利用者にかなり不評らしく、なので基本は餓死だけど保険の意味で聖水の泉に沈める方法に変わったらしい。


 マスターによると、魔法生物は魔素で構成されているので、消滅しても魔素にしかならず、聖水の効力が高まるぐらいの影響しかないらしいけど、気分の問題として魔物が溶けた聖水は使い物にならないとされているだけらしい。


 確かにスライムが溶けたらそうだろうけど。


 ◇


 スライムと似て非なる生き物、ここに参上。


 初日の夜から腕輪探しをやりまくり、人影が見えたら壁に張り付いてやり過ごし、何とか見つけてそのまま取り込んで、自分に向かっての昼夜を問わない連続使用。

 このままパクると問題なので、帰る前日には元の場所に戻す予定だ。


 つまり、借りるだけなら建物から出ない限りは窃盗にならないようで、持ったまま出たら窃盗と認識されるらしいのだ。

 魔法生物による窃盗は、折角の昇華がふいになるらしく、確実に返却しようと思っている。


 なので今は野良の魔法生物もこの条件付けによって安全に倒せるようになっているとか。

 つまりだね、いかに進化した後で昇華させようと、悪事を働いたらそれが無効になるっぽい。

 カルマに関連付けた現在の施術により、違法の魔法生物の討伐は確実に行われているらしく、そのまま逃げたりしたら即座に配備網が形成されて、何処に逃げても安全じゃなくなるとか。


 その為にもきちんと返さないとな。


 1週間で何とか劣化版を獲得できたので、とっとと返そうと腕輪置き場に移動する。

 実は借りようと思ったのは数があったからであり、しかも埃を被っていたからだ。


 高額の魔導具が6個、埃を被って鎮座していたんだ。


 高いなら磨けと思ったけど、どうやら高額なのでおいそれとは人が入れない場所に隠しているつもりのようで、確かに通気穴しか開いてなかったな。

 腕輪が通るサイズの通気穴とか意味が無いだろうに、部屋の中央でなおかつ天井付近の棚だから間違っても取られないと思ったのかも知れない。


 オレが悪人の手先なら全部盗れちゃうよ。


 それでもこんな身体じゃ大金を得ても仕方が無いし、下手にカルマを溜めると折角の昇華が意味を成さなくなる。

 それは生存の危機に繋がるので避けたいとなると、そんな事は到底やる気にもならない。


 ともあれ、聖風の生活魔法(劣化版)は確保した。


 癒しの風-治癒

 活力の風-回復

 解毒の風-消毒

 清めの風-浄化


 昇華前に浄化を使うと危険と聞いていて良かったよ。

 これっていわゆる神聖魔法に属するみたいだし、知らずに使っていたら消滅していたかも。


 それでもこの浄化は、泉の中で使うと泉の浄化もやれるらしく、人間が使うより便利にやれるようだけど、だからと言ってこき使うのは反対だからね。


 ◇


 名前・マリン

 種族・魔法生物・神許(進化種・特殊・魔力)

 体力・200

 魔力・600(+7400)

 固有・吸収・貯留・魔力貯留(8000/8000)

 耐性・物理無効・魔法無効・神聖魔法無効

 技能・錬金術(劣化)

   ・生活魔法(汎用・高級・聖風・劣化)


 ちょっと高級感の出た魔法生物のマリンです。


 (現在地を正確に描写すると、年齢制限に引っかかるので言えません)


 今朝、いきなりマスターが倒れてしまいました。


 お腹が痛いらしいです。


 外から治癒や回復を使ってみたのですが、元々が生活魔法なうえに劣化版なのでまともに患部に届かないらしく、少し良くなったとは言ってくれますが、起きてはくれませんでした。

 医者を呼びに行くにも魔法生物な身の上ではどうしようもありません。


 仕方が無いので潜りました。


 体内からの対応で何とか収まったものの、どうやら子供が産めない病だったらしく、それで研究一筋になっていたようですね。

 その病も自然に進行していたようで、切開の知識の無いこんな異世界では、腫瘍の類は魔法での治療が効かない呪いの一種と思われているようでした。

 場所は幸い、洞窟の奥だったので腫瘍ごと吸収して治癒の風で完治しましたが、あれが他の臓器ならヤバかったです。


 ただ、出入りの時にマスターに余計な感情を与えてしまったらしく、もう完治しているのに確かめてくれと言われて困っています。


 それ、絶対、出入りが目的だよね。


 彼氏居ない歴=年齢のマスターは夜が寂しいのは分かりますが、こんな人外に頼らずにちゃんとした同族の相手を見つけて欲しいものです。


 え、お願い? 仕方無いなぁ。


 ◇


 住処が変わってしまいました。


 体内からの治癒の風は回復魔法を浴びるに等しく、出先でのピンチに有効のようでした。

 ちょうど素材を切らしてしまい、街の素材屋にも無かったので採取に行こうと、オレを連れて街外に出てしまったのです。

 最初は肩に乗せられていたのですが、魔物に襲われて逃げるうちに落とされてしまい、合流するのが大変だったのでそうなってしまったのでした。


 幸いにもマスター所持の腕輪の最高出力の着火でどうにかなったらしく、ほどなく合流出来ましたが、居なくなったオレを大声で探されると、その声で別の魔物を呼びそうだったので焦りました。


 そうして現在の場所になるのですが、いかに安全だとは言え、もう少し恥じらいを持たないと彼氏が出来ないよ。

 それでも魔物出現ですぐさま戦闘体制が取れるので、マスターを守れるこの場所は便利だけどさ、他にどうしようも無いのかなぁ。


 行け行け、ノーハンマスターってか。


 まあどのみち、出るとマスターはしばらく使い物にならないから、オレが魔物に相対するしかないんだけど、癖になったらどうしよう。


 ◇


 マスターがスタイルを気にしているとか、もしかして彼氏が出来たのかな?


 違いました。


 どうやら実家からの呼び出しがあるようで、普段着ないような服を着るのだけど、研究とは言うものの、滅多に外に出ないのでお腹にかなりの脂肪が付いていて、肝心の服がきついらしい。

 幸いにも帰郷は馬車での移動なので日時の余裕があるので、帰るまでにダイエットで何とかするつもりでいるようだ。


 ここはオレの出番かな。


 どうやら腫瘍を吸収しようと試行錯誤した時に発現したようなんだけど、固有技能に《浸透》ってのが増えていたんだ。

 これは表面を損傷させずにその中身だけを吸収出来る技能、つまりは腫瘍の中身だけの吸収の成果になるのだろう。


 それはともかく、オレはマスターのお腹に薄くへばり付いた。


「あら、どうしたの。もしかして、変な事をさせちゃったから、うちのマリンちゃんがエッチになったのかしら。どうしよう」


 人聞きの悪い事を言わないで欲しい、マスターよ。


 浸透効果で脂肪が吸えないかと思って頑張っているのに、そんなセクハラオヤジな扱いは不本意だぞ。


「あんっ、マリンちゃん、止めて」


 とは言うけどな、ちゃんと脂肪を減らさないと服が着れないだろうに、このままじゃ良く無いだろ。

 今も研究服での馬車移動になっていて、色気の無い女扱いをされているから逆に貞操は安全だろうけど、まともな格好をしていれば美人なのに、惜しいなんてもんじゃない。

 恐らく実家でもその事は理解されていて、見合いか何かのつもりで呼び出したに決まっている。

 適齢期が15才からな異世界において、20代前半のマスターは行き遅れに近い状態なのに、本人はそんな事は全く気にしないようで、実家からの手紙での催促があるぐらいになっているのは知っているんだぞ。


 ああ、あれか。


 もう腫瘍は吸い出して完治させたのに、病自体は治ってないと思っているのかな。

 確かに行為中に腫瘍が破れたりすると相手も危険だし、妊娠中に破れたりしたら胎児の身が危険になるだろう。

 だから諦めていたんだろうけど、もうその心配は無いってのに、既に諦めた気持ちは継続しているようで、何とか改善して欲しいものだ。


 そんなマスターの出会いの為にも、スタイリストは頑張るよ。


 最初は少しだけだったのに、連日身体を伸ばしているうちに、かなり伸びるようになった。

 お腹の前面と側面とやっていたのが一度にやれるようになり、腹巻状態で一気に吸収がやれているんだけど、いきなり全部の吸収は無理なようで、毎日少しずつになっている。


 最初は嫌がっていたマスターだけど、ちょっとスリムになってオレの目的を知ったらしく、今では積極的に腹に巻くようになっている。


 浸透の技能を使って皮膚への干渉を下げ、偽の皮膚っぽい状態のままひたすら吸収と拡大を続けている現在、かなりの面積になっている。

 もう着装したままになっていて、いくら食べても太らないと、毎日大食いになっているようだけど、服は着れるようになったのは良いけど、オレを手放せなくなってないか?


 オレも食べた脂肪が身体の構成成分に足されているようで、それを成長と言って良いのかは知らないけどかなりの大きさになっているはずだ。

 下腹部を含めて上半身の殆どを覆えるようになった今、マスターの防御力はかなり向上しているはずだ。


 なんせ物理無効で魔法無効で神聖魔法無効な皮膜を着ているようなものだから、剣で切られそうになっても衝撃だけで済むだろうし、そういうのは治癒ですぐに治してやるからさ。


 それがフラグだったのか、いきなり馬車が転覆した。


 道の端を通ったせいなのか、道が崩落したらしい。


 慌てるマスターを可能な限り包んでいく。


 最低限、呼吸だけは可能にして、顔も足も包んでいく。


 限界まで包んでみたけど、まだまだ容量が足りなかったらしく、崖下で動けないままになっている。

 マスターの身体を癒しながら、吸える脂肪は吸っていく。


 他の乗客も大怪我ながらもかろうじて生きており、マスターの治療の合間に少しずつだけど大怪我を優先して血止めぐらいはしてやっている。

 マスターのスタイルはかなりのスリムにはなったものの、身体の損傷は殆ど癒えたようで、ひとまず安心だろうけど念の為に全身を覆ったままだ。

 深い眠りの中にあるマスターだけど、外骨格で動かせないものかな。

 だってこのままだと盗賊に見つかったら大変な事になるだろうし。


 うっく、重い、これは、きつい、ぞと。


 幽鬼のように動く女性に意識は無く、それでもそろりそろりと移動して行く。

 他の乗客の傷はひとまず癒したものの、骨折などは癒せないので動けないままのようだ。

 マスターの身体を何とか少しずつ動かして事故現場から遠ざけていく。


 少しでも街に近くなるように……。


 パカラッパカラッ……。


 何か来た。


「どうしました」


 起きろ、起きろ、マスター起きろ。


 刺激を与えると気付いたようで、何とか応対しているけれど、マスターのスタイルが拙かったのか、相手の男の下腹部が膨らんでいる。


 そして、遂に……。


 だが残念だったな。

 攻撃は吸収するから覚悟しろよ。

 目標を定めて突撃して来た物体は、オレの皮膜と接触してそのまま吸収されました。


 おーおー、股座抑えて暴れているけど、無くなったモノは返さないよ。


 マスターは何とか立ち直り、よろよろと街に向かって歩いていく。


 ああ、財布なら心配するな。

 皮膜の中にバラで確保してあるからさ。

 とりあえず破れた服を着替えるまでは、この皮膜状態でいなければ。


 あれ、どうして戻るの?


 荷物を忘れとか言っているけど、戻ったらまた襲われるかも知れないのに。

 さっきの男は盗賊の一味だろうし、馬で追いかけて来たんだろうし。

 このままだとマスターが危険だけど、意識のあるマスターは操れそうにない。

 仕方が無いので限界まで脂肪を吸収して、少しでも体積を増やしておこうか。

 そうしてさっきみたいに瞬間的な吸収を使えば、きっと武器の吸収もやれるはずだ。

 マスターが化け物呼ばわりされるかも知れないけど、殺されたりレイプされるよりはマシだよね。


 ◇


 昇華の効果が消え去った。


 オレが人を食ったからだろう。


 例え相手が悪人であろうとも、人を食えば昇華の効果は消えるのか。

 となるとマスターの為に動いた事が、いけなかったと言うのだろうか。

 確かにかつては人間だったけど、今のオレにそんな倫理観は無い。

 今のオレを支えているのは、創造主であるマスターを助ける事。


 だから盗賊を食いまくったんだ。


「マリン、ちゃん、大丈夫、なの? 」


 ああ、マスターを怯えさせてしまったな。

 自分も食われると思っているのかな。

 それはとても寂しい事だけど、言葉が直接通じない相手だと弁解のしようもない。

 まだラインのようなものは繋がっているけど、街に着いたら閉じ込めて聖水の泉に沈めるつもりになっているようだ。


 悲しいよ、マスター。


 さようなら、マスター。


 ◇


 こうしてオレは野良の魔法生物になった。


 マスターを助ける為とはいえ、盗賊を全部食ったのが悪かったようだ。

 しかも、死んでいた乗客や馬も食ってしまったのが更に良くなかったらしく、マスターも怯えていたけど乗客は恐怖の感情に塗り潰されていた。

 そうしてマスターからの死刑宣告を受けて、もうダメだと思ったんだ。


 確かにマスターには逆らうつもりはないけどさ、消滅処分には従えないよ。


 まあそれでも、今のマスターのスタイルは抜群になっているし、レイプも未然に防いだから今でも綺麗なままだ。

 だからお見合いでもして良縁を見つけて、幸せになって欲しいと願っておくよ。


 さてと、これでひとまずは自由の身になった訳だけど、暴れると討伐対象にされてしまうだろう。


 転生したら魔法生物になっていた件について、とかちょっとパクリっぽい題名の書物とか出してみたいけど、まともな文章も書けない現状ではどうしようもない。

 とりあえずはどっかの街の神殿に潜り込んで、新たに昇華の儀式を勝手にするしかあるまい。


 あれはさ、聖なる場の空気に数日間晒す事で、聖なる魔力を取り込ませて身体の性質を聖寄りにさせれば良いだけみたいなんだよな。

 だから別に鎮座してある他の魔法生物に並ばなくても、その部屋に居れば良いと思うんだ。

 確かにステータスに変化があるから、神が本当に許容したと思うんだろうけど、あれは恐らく、状態の変化を探知しての記載の改変になっているだけに思えるんだ。


 だって勝手に改名しても適用されたりするし。


 マスターと別れてから自分で改名してカイトになっている。

 自分で思い込んだだけでやれたので、状態の感知からの記述変更だと思ったんだ。

 そうじゃないと全ての存在を、ひたすら監視している事になるよな。

 人を食ったすぐ後に見てみたら神許の文字が消えていたんだし、それは恐らく間違い無いところだろう。


 竿だけなら消えなかったのに、直接の死因になったのが拙かったのか。


 再度の昇華を可能にしたら、次からは殺さないように対処しよう。

 生きてさえいれば解消にならないのなら、いくらでもやりようはあるからだ。

 それにしてもかなりの量を吸収したせいか、かなり大きくなっちまったな。


 擬態・馬……。


 パカランパカラン……。


 慣れないと足がもつれそうだけど、慣れると早く走れそうだ。


 村近くで擬態を解いて、深夜に村の中に入っていく。

 残念ながら神殿は無いようで、宿に泊まっていた商人の馬車と思しき存在の床に、下から張り付いて時を待つ。


 このまま街まで連れて行ってくれると良いな。


 ◇


 普通は馬車裏などは調べないようで、無事に街に侵入出来た。


 そのまま夜を待って、貧民街に潜り込む。


 オレもな、いきなり魔法生物の格好で神殿に行こうとは思わないよ。

 とっくに手配されているだろうから、今のままでは何処の神殿も危険なはずだ。

 普通の野良になった魔法生物なら、そこまでは考えが及ばないはずであり、そもそも再度の昇華とか考えないものだ。

 だから街に到着すればいきなり人を襲って発覚するのが精々であり、あちらさんもそのつもりで警戒しているはずだ。


 だから人を探す。


 それも死体があれば良いのだけど、無理なら生きていても構わない。

 リンチを受けたのか、ボロボロになって捨てられている少年を発見し、治療をしてみたのだけど既に手遅れのようだ。

 本人はかなり苦しそうにあえいでおり、早く楽になりたいと思っているようだ。

 かつてのマスターとのやりとりで、接触していたらより相手の事が分かるようになっていたんだ。

 だからマスターも最後の時に触れてくれていたら、オレの真意も分かったはずなのに、してくれなかったから今がある。


(楽に死なせてやろう)


 感謝の念が届く。


 耳からつるりと入って脳を食らい、記憶を僅かに取得する。

 脳を失った少年の意識は消えており、身体ももうじき死ぬはずだ。

 皮膚の下を、骨を残して食らった後、皮膚に浸透して一体化する。

 その時に皮膚の色も擬態して、ちゃんと人族の色に合わせておく。


 擬態・人間の完成である。


「まだ生きていやがったか、この野郎」


 ああ、勘違いで思いっきり蹴った男の足は、物理無効な身体に対しての攻撃となっており、必然的に骨ごと砕けた。


「ぐぁぁぁぁぁぁ」


 煩い男はつるりと食らい、身包みを剥いで取得する。


 汚れた服などは着たくもなかったけど、とりあえず裸でうろつく訳にもいかない。

 後は皮袋の中にいくらかの金があったのでそれもせしめ、有用な物を袋に入れて……とりあえずもう少しまともな服が欲しいな。


 声を出す練習は少し苦労したが、何とか出るようになったので古着屋に向かい、適当な子供服に着替えて金を渡す。

 もとより人の動きには精通しているので、そこいらの魔法生物が擬態するのとは比べ物にならないはずだ。


 そうして神殿に赴いて、同類の安置所のテーブルの裏に張り付いて、10日後に何とか再度の昇華に成功する。


 やれやれ、これで何とかなりそうだな。


 ◇


 本当は1週間で終わる予定が長引いたのは、オレの存在が原因だろうな、恐らく。


 本当は他の同類にちょっかいとか掛ける予定じゃなかったのに、近くで同類が自由にしているせいか、入れ物の中からゾロゾロと抜け出してしまい、収拾が着かなくなってしまったからだ。

 このままだと全員、神許の文字が付いたにしても許されず、下手したらそのまま聖水の泉行きになりそうだった。


 なんせ容器の中でじっとしているのが理想であり、テーブルから降りたら魔物の習性が抜けてないと判断されるらしく、神殿でそんなに暴れるのは、魔物から昇華はしても本能は魔物のままだろう、と言われて早々に処分される決まりになっていた。


 なのに全員がテーブルから降りて、裏にくっ付いているオレにアクセスしようとしていたんだ。

 それが興味なのか攻撃なのかは知らないけど、TPOを弁えろとか言うだけ無駄なので、オレの手で送ってやる事にした。


 つまり、2日目の騒ぎで全員吸収して、偽の物体を容器に入れておいたのだ。


 魔法生物の成分が濃くなったからなのか、子供に化けた時の活動が更にやり易くなっていた。

 これぐらい動けるならいけるだろうと、冒険者登録をしておいた。


 この世界の冒険者は自己申告のみであり、血を1滴とかそんなのは無いようで、人外が化けても問題無いみたいだ。

 確かに高ランクは別かも知れないけど、低ランクで過ごす分には問題は無いはずだ。

 ただこの街での活動は、蹴った大人の仲間の存在が気になるので、別の街で過ごすつもりだ。


 大食いの結果、貯留が収納に変化していて、それを活用して余分な身体を収納したり素材やアイテムを収納したりと、冒険者に向けての準備は整っていく。

 何とかスリムな体型となり、ローブと安い杖を持っての、見習い回復職としてやっていこう。

 聖風の劣化のみの回復なので、永遠に見習いのままなのは仕方が無いけど、それでも人間として過ごしていれば、討伐対象にされる事もあるまい。


 もうマスターには逢えないだろうけど、この姿で逢ってもうっかり話し掛けないようにしないとな。


 それでも可能なら弟子になりたいけど、さすがにもう無理かなぁ。


 元気なのかな、マスターは。


 ◇


 万年Eランクと言われている、冒険者歴3年になる少年。


 彼は上達しない見習いのままの回復職として、初心者のパーティからのお呼びはあるものの、熟練パーティからは見向きもされない。

 それでも簡単なクエストをこなしながら、今日も街の片隅で生きている。


 その正体を知る者はいない。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ