さいせい・サイセイ・再生?
クレイはクリカの効果もあってか紅達を信用出来ると判断したらしく、二人は教会内の居住区に招いた。
居住区は質素で温かく、生活感のある内装で、通された場所は簡素な木の机と椅子4脚が置かれたダイニングのようだ。紅とカレンが腕が触れ合いそうなほど近くに隣り合って座り、クレイはその二人の目の前に座る形だ。
え?二人の距離が近い?いつもの事だから気にすんな!牧師様も微笑ましそうだから余計気にすんなよ。
向かい合った三人の話し合いは特筆することなどなく恙なく行われた。
「では、日程の変更なくサイセイ祭は開催されるということで良いのですね?」
「はい、そうなります」
「分かりました。では夜長の日までに準備をしておきましょう」
「お願い致します」
話し合うべき事を終え、紅達は人心地付いた気分で、ほっと息を吐き、机の上には置かれたカップに手を伸ばした。
カップの中身はクレイが手ずから入れた爽やかな香りのするハーブティーだ。うん、うまい。自家製か?カレンも気に入ったのか口元に笑みを浮かべている。ちょっと分けてもらえんだろうか?
などと考えつつ素朴な疑問、
「そう言えば、何故サイセイ祭と言うのかクレイ牧師はご存知でしょうか?お恥ずかしい話、この催し自体初めて聞くもので分かりかねておりまして」
紅は元より紅よりもこういった事情に詳しいカレンですら詳細を知らない。存在を知っていただけでもセレス司祭に驚かれたぐらいだ。
サイセイ祭、名前も今一ピンとこない。字を当てるなら再生か?死者に再生とはこれ如何に、等と考えているとクレイは紅が何を疑問視しているのか分かったのだろう。穏やかに笑いながら、説明してくれた。
「サイセイ祭は再び逝く祭りと書いて再逝祭と言うのですよ」
「再び逝く祭り?」
再逝祭は再び死に逝く祭り、二度目の別れをこの世に告げる為の祭りだ。
生者として死に死者としてもう一度死ぬ、聞きようによっては酷いことに思えるが実際には新たな旅立ちの意味もあり、紅が最初に当てた字のように再生、再びの生への期待も込めて、再逝祭と言うのだそうだ。
命名者は日本人か?読み方と漢字で二重の意味を持たせるとか漢字に関してある程度造詣がないと難しいよなぁ。
「私からも一つよろしいでしょうか?」
「はい」
「去年まではセレスさんが再逝祭の挨拶にいらしていたのですか?」
紅の質問がひと段落したのを見るとカレンもまた質問を口にした。
「ええ、一昨年までは挨拶以外でも訪ねて来て下さったのですが、去年は挨拶のみ、今年に限ってはそれもなくて、此処へ来ることに飽いてしまったのでしょうか」
カレンの質問にクレイは寂しそうな顔で頷いた。
寂しそうな、悲しそうな、残念でならない。っといった感情がありありと分かるほどに表情が沈んでいる。セレスと生前からの付き合い故か、拒絶されている様に感じるのだろう。
「セレス司祭は生前の姿への擬態がお上手ですし、元人間だった事もあり街を出歩くことも難しくないのですが・・・嫌われてしまったのでしょうか」
「人間への擬態ですか?」
「ええ、生前の二十代半程の姿を基本としておりますね。とても美しいヒトだったでしょ?」
自慢げにセレスのことを語っているがちょっと待って欲しい。確か家に訪ねて来た時あのヒトは骸骨のままだった。擬態が出来るのなら話す時に態々カレンが通訳する必要はなかったはず。どういう事だ?紅が疑問に思い問いかけようかとしたその瞬間、
「ええ、とても綺麗なヒトでしたわ」
カレンは紅の腕に軽く触れて彼の言葉を止め、そのまま紅が口を挟まぬように話し始めた。
「そうでしょう?彼女と縁があった事は当時から私の自慢でしたよ。お元気でしたか?」
「とても健やかそうでした」
「ああ、それなら良かった。彼女に会えないのは寂しいですが元気であれば良いのです」
クレイは穏やかに、心の底から嬉しそうにそう言葉を返したのだった。
※ ※ ※
クレイとの世間話も終え、紅茶のお土産を頂いてから紅達は教会を後にした。レシピも聞けたのでハーブの栽培からだな、安定して採れるようになるまでは定期的に買取に来よう、うん実にいいお茶だった。
え?普通に貰いに行けば良い?馬鹿言え、茶葉や栽培もタダじゃないんだ対価を払うのは当然だろ?それにな、カレンも飲むんだぞ?俺が作った物をカレンが飲むんだぞ?!俺が作りたいだろ!!一から!!!
「?なんか寒気が・・・?」
おっと、あんま邪念があると感づかれるな、平常心平常心っと。
「寒いか?」
「んー大丈夫そう、お日様も紅も暖かいもの」
そう言ってカレンは腕に抱き着く力を強め、ニコリと微笑んだ。うん、可愛い。
っと、そう言えば聞きたいことがあったんだ。
「なあ、カレン」
「セレスさんの事?」
「ああ、クレイ牧師はセレス司祭は人間に擬態が出来るって言ってたが実際にはしてなかった。」
しかもいつもは擬態をしている様な口振りだ。そもそも随時擬態が可能なら何故こんな仕事を依頼してきた?全て一人でも可能だったはず。いや荷物の量はそれなりだから依頼そのものはいいとして、なぜ生前からの知人への挨拶すら俺たちに依頼した?
セレスの依頼に関して様々な疑念が飛び交っている紅をカレンは口元に笑みを――寧ろ噴き出す直前の様な笑みを――浮かべ紅を覗き込む。
「カレン?」
「ふふ、なんだか難しく考えてるみたいね?」
「難しく?」
「ええ、難しく。依頼の理由は何てことない些細な事で、他人にとっては些末な事、でも女にとってはとっても大切で重要な事」
「女にとって?」
「うふふ、紅もまだまだね」
「???」
疑問符を大量に振りまく紅にカレン笑うばかりで教える気はないらしい。
危機察知能力が異常なほど高いカレンから忠告や警告が無いのなら危惧する事は無いのだろう、腑に落ちないが取りあえず意識の外に出す事にした。
・・・けして女の事情に首を突っ込みたくないとかではない。いや本当に。