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7:3

 骸骨の司祭、セレスからの依頼により二人は街に繰り出した。

 ここで一つ訂正しておくことがある。それは紅の運動神経抜群で背が高く、人よりも少しだけ顔立ちがよい。並の上程度の頭の良さを持つと自負している。といった彼の認識だ。

 何事も自己評価と他評価には落差があるのは当然なのだ。実際の他者から見た彼は、


「あ、如月様よ!」

「なんてカッコいいのかしら」

「他の男が霞むわね」

「くっ、女の目を持っていきやがって恨めしい…」

「相変わらず過ぎて嘆く気にもなれねぇ」

「あいつの顔つぶれないかなぁ(ボソ」


 と、物騒な発言もあるが街を歩けば男女問わず人目を惹く存在だ。それもそのはず、容姿だけで言えば高身長、引き締まった体、精悍な顔つきは男の色気を感じさせる。


 しかも好きな女性と常に行動を共にするのだ。当然身なりには気を遣う為モデル以上の人間が出来上がる。100人が100人振り返る色男なのだ。因みに頭は天才と呼ばれる部類で、身体能力は荒事もある渡し屋内でも名売れなので当然人間をやめたような高さだったりする。

 本人からしたら人より少しだけ優れている程度の認識なので、自身が目を引いているとは露程も思っていない。


 ではなぜそんな誤認が起こるのか?

 簡単なことだ。それは紅本人がカレン以外見えていない為である。


「カレン腕を組もう、折角出て来たんだ。デートをしよう」

「こら!遊びじゃなくてお仕事なのよ」

「このぐらいの役得は良いだろ、カレンと一緒にいる時間を無駄にしたくない」


 物心ついた頃に出会い。一目見たその瞬間から恋に落ちた彼にとって周りからの評価や好意、自身の見目等どうでもいい事になった。第一は意中の女性がどう思うかだ。

 そうしてカレン自身も自覚の有無は置いておくとして、紅に大変甘く、好意も持っている。故に、


「もう、しょうがないわね」

「ありがとう」


 紅からのお願いなら聞いちゃうのだ。


 カレンは紅の差し出した手を取り、浮いていた体を地面に下ろすと、そのまま身を寄せ腕を組む。その姿は大変仲睦まじいカップルの姿そのものだ。

 これで毎朝の風物詩になっているプロポーズは流しているのだから意味が解らない。


 紅は勿論のことだがカレンもまた目を引く存在だ。100人が100人振り返る色男と腕を組む女、これだけでも目立つ、更に擬きとは言え体系の分かり難い和服の上からでも見て取れる見事な体つき、見えない顔への興味とそこから零れる艶、少し見る目があればいい女だと見て取れるのだ。そんな二人が腕を組んで甘い雰囲気を醸し出しながら歩けば目立たないはずがない。


 そんな二人への嫉妬心は当たり前だが半端ない。

 しかしカレンへの害意は紅が、紅への害意はカレンが各々敏感に察知し、向けてくる者に浴びただけで死を覚悟するような殺気と殺意の籠った睨みをピンポイントで送っているので誰も邪魔をしない。


 事情を知らない愚か者は凡人でも分かるほどの強烈な殺気を浴び、這う這うの体で逃げ、最悪は立ったまま失禁しながら気絶する者までいる。

 事情を知っている者はそんな愚か者に可哀想な物を見る視線を一瞬送り、あとは微笑ましそうな生暖かい視線で二人を見送るのだった。


 そんな事情もあり、行く先々で羨望と嫉妬の視線を浴びながらも二人は誰はばかることなく、デート7割り仕事3割りの割合で街を練り歩き、依頼品以外の買い物や買い食い、ウィンドショッピング等でデートを楽しみつつ依頼品を買い集めていった。因みにデート費は自分たち持ち、依頼品の料金は依頼人持ちだ。


 え?7割デートで良いのかって?9割よりましでしょ、まだ真面目に仕事してる方だよ。大丈夫大丈夫。


「買い出しは終わったな」

「そうね。あとはご挨拶かしら?」


 訪れた場所が繁華街だった事もあり、かなりの量の荷物だったが、全てをカレンの重さも大きさも関係なくしまえる四次元ポケットと名高い袖下に収納して、手ぶらで腕を組みつつ最後に会場提供者がいる場所に向かう。


 そこにあったのは小さな教会だ。年月と共に風化した壁は罅が入り、蔦に覆われ色褪せている。しかしながらしっかりと修繕、手入れが行き届いた教会は、良い時の経ち方をしているのかことが分かる。


「当教会にようこそ、本日は式場の下見でしょうか?」


 教会に入ってすぐ、穏やかな笑みを浮かべた牧師服を着た老エルフが紅達を出迎えそう言った。

 腕を組み甘い雰囲気の二人を見ての言葉のようだ。微笑ましそうに二人を見る目には暖かな光があった。

 

「ふむ、まだ年齢的に無理だがこんな場所で式が出来たら良いな」

「そうね。暖かそうな雰囲気のある教会だもの、きっと此処でお式をしたら幸せになれそうね」

「ありがとうございます」


 紅は勘違いされているのを分かっていながら意図的にそれを増長する言葉を選び、カレンは気が付いていない第三者目線での言葉だが紅の言葉もあって違和感がない。こうして着実に外堀が埋まっているが幸か不幸かカレンに自覚はない。

 

 雰囲気は良くても小さな教会故か他に気配は無く、三人以外誰も居ないようだ。


「式の下見もいいのですが、私たちはセレス司祭の使いで参りました」

「セレス司祭の?詳しくお聞かせ願えますか?」


 セレスの名を聞いた途端、エルフは笑みをそのままにこちらを探る色を目に乗せる。

 もっとも普通であれば気付かないほど僅かな変化ではあるが、二人にとってそれを察する事は難しくなかった。伊達に種族間を超えた万屋などやっていない。


「申し訳ございません。こちらも仕事で来ているため内容をおいそれと教える訳には参りません。お名前をお伺いしても?」

「失礼いたしました。私はクレイ・ジーニ、この教会で牧師をしておりますエルフです」

「ご丁寧にありがとうございます。私は渡し屋でパーティ万屋に所属しております人間の如月紅です」

「同じく万屋のカレンです」


 クレイに自己紹介をしつつ、二人は渡し屋の身分証明になっているクリスタルカードを差し出す。

 通称クリカと呼ばれ、片面には複数の円を重ねて花に見える紋様が有り、全てのヒトが持つ何某かの力――妖力とか神通力とか魔力とか――を流すと、持ち主を証明してくれ、他人が力を流すとけたたましい警戒音が鳴り、居場所を特定する電波が出るので盗まれる事は滅多にない。


 また、紋様の施し方が特殊で魔術、科学、魔工術、妖術、神術等々ありとあらゆる技術を混ぜ合わせて形にした謎技術(トップシークレット)で施されているため偽造が出来ない。よってクリカは最も確実で安心できる身分証明書と認識されている。

 クリカ欲しさに渡し屋に所属する者がいる程なのだからその信用度もうかがい知れる。因みにものすごく硬いのでしばしば盾に使われることもある。


「クリカの持ち主証明も問題なく機能していますね。では本当にセレス司祭の使いなのですね」

「セレス司祭とはお知り合いですか?」

「ええ、彼女とは生前からの付き合いですから」


 警戒を解いた今回の目的の人物であるクレイは、少しの悲しみを含んだ誇らしい笑顔でそう告げるのだった。

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