配慮が行き届きすぎる
リーダーへの天誅は後で考えるとして、今は目の前の依頼人だ。
金庫の前からセレスの目の前に座り直し、改めて話を聞くことにした。
「さて、ではどういった依頼内容で?」
『カラン、カラカラ』
「『とある品々の調達と設置をお願いしたいのです』」
「詳しくお聞かせください」
『カラン』
彼女の話しを要約すると、死者の祭りに使う品の買い出し、祭りを行う場所の所有者への挨拶の代理、会場での道具の設置の主に三つだ。
死者達は年に一度、最も夜の長い夜長の日に祭りを執り行う、この祭りは死者にとってとても重要で、この一年の内にちゃんと成仏し、輪廻に帰る事ができた者たちへの祝福と、これから旅立つ同胞への最後の別れのために行うのだそうだ。そのため念入りに準備をする。
そんなに大事なお祭りなのに外部のしかも生者が係わっても良いのかと疑問に思っていると、
『カラン』
「『人間である方が都合がよいですので』」
「都合?」
人間の店で売っている品や、人間が多く住む地域の近くが会場だったり、人間の方が都合が良いとの事、さらには破邪効果の有る物も使うらしいので生者に手伝ってもらうと大変楽なんだとか、銀とか聖水とかは痛いし未練がないとそのまま昇天してしまうらしい。
お祭りの前に主役が居なくなるのは困るな。
「なるほど、わかりました。お引き受けします。」
『カラカラカラン』
「『ありがとうございます。死者である私達が街を歩くと不快に思う方もおりますゆえ、生者の方にお手伝いをお願いしたかったのです』」
「なるほど」
なんともまぁ生者への配慮の行き届いた死者達だ。
「興味本位な質問をよろしいですか?」
『カラン』
「何故、そんな準備が大変なお祭りを行うようになったか、聞いてもよろしいでしょうか?」
『カラン』
破邪効果の有る物を使ったり他種族の居住区に行ったりと、面倒な事をなぜするのか疑問に思い聞くと、セレスはコクリっと頭を縦に首肯した。
そもそもの始まりは生者との住み分けの為だ。死者達は未練によりこの世に残ったものでその未練が解消されれば成仏する。
成仏するとき器のない幽霊であれば問題はないが、器持ちは器を残して逝く事になるのでその辺で勝手に成仏出来ない。
祭りはこの世への未練はないけど器持ちだから気軽に成仏できない同胞の為に、器の処理を目的に集まり、そのうちに最後に騒いで楽しんでから逝こう。っという趣旨が加わって始まったそうだ。
まぁそりゃね。いきなり骨とか腐りかけの体が崩れたら迷惑だよね。処理にも困るし。それを身内で済ますために始めたと、本当に生者への配慮の行き届いた死者達だ。
『カラン、カラン、カラン』
「『何事も住み分けは大事です。生者に迷惑をかけては他の同胞たちにも迷惑が掛かります。』」
「確かに」
『カラン、カラカラ、カラン』
「『ただでさえ、迷惑をかけている同胞がいるのにこれ以上は容認しかねます』」
「心遣い感謝します」
まったく、これだけ心を砕いているヒトが居るのにそれをぶち壊す馬鹿は何処にでもいるよなぁ。
若干遠い目になるのは仕方ない。その迷惑をかけてくる例外者を知っているためだ。あれは本当にいい迷惑だ。
その後必要な品や挨拶に行くヒトの情報等、必要事項を聞き解散となった。
『カラン、カラカラ』
「『よろしくお願いいたします』」
「はい、お任せください」
良き隣人からの依頼だ。きっちり仕事しよう。