覚えてろ・・・
さほど時間をかけずに身支度を終えた紅は骸骨の待つ部屋へと向かった。
部屋に入って最初に目に入るのは足の低いテーブル、その両側には二人掛けのソファーが其々置かれている。
ソファーの片方には先程の骸骨が背筋を伸ばして座っていた。隣にはカレンが座っており、話しながら待っていたのか軽く斜めを向き、向かい合うようにして同じソファーに腰を据えていた。骸骨の前には湯気の立つ紅茶とお茶請けのクッキーが置かれてるが果たして飲めるのか?
消化器官のない骸骨と食べ物という状況に違和感を覚えないでもないが、紅はその辺を軽やかにスルーし相手に不快感を与えない程度に骸骨を見る。
死者の覗きに意識が行っていたため最初は気づかなかったが、この隣人は女性用の修道服を身に纏った女性のようだ。
・・・勿論個人の趣味として女性物の服を好む者も居るのだろうが、幸いにして骸骨は頭部、額までが見えていれば性別の判別が可能なので間違いはないだろう。
動作には品がある。貴族とか?確か死者系って階級があったような?
そんなことを考えつつも紅は骸骨の女性の真向かいに腰を下ろした。
「お待たせしました。」
『カラン』
声を掛けると彼女は体ごとこちらに向き直り首を横に振った。気にしていないと言う意思表示の様だ。
「改めまして、お初にお目にかかります。私は渡し屋にてパーティー万屋に所属しております。如月紅と申します」
渡し屋とは他種族間同士の間を取り持つ事を職とするギルドのことだ。
数多の種族が集う事となったこの世界では唯一のルールとして『知性ありしモノ同士のはあらゆる殺傷、戦争、略奪を禁ずる。』とされているが、元々常識が違う者たちが同じ場所に押し込められているのだ。様々な問題があってしかるべきだろう、種族間での戦争になっていないだけマシである。統一者様マジありがとう!!
そんな種族間同士の様々な問題を解決するために新たに出来たのが『渡し屋ギルド』だ。常識の違う者たちの間を取り持つ事が仕事で依頼は多岐にわたっており、小さな雑用から危険を伴う物まで幅広い。
簡単な仕事は小遣い稼ぎにしかならないが、危険度や難易度によっては実入りも多く、名が売れれば大金を持つことすら可能だ。創設から10年も経っていないが、確りとした根回しの末出来た組織なだけあって創設以来、大きな問題もなく組織として成り立っており社会的にも実績的にも大々的に認知されている立派な職業である。
渡し屋はランク制で、F~Aランクがある。一応その上にSランクが存在してはいるが、気分一つで天災、厄災、奇跡を引き起こせる完全なる規格外たちのランクで何が在籍しているかも定かではない。なので普通はAランクが最高ランクとなる。
唯一公開されているSランク相当は実在するとされる統一者で、この世界で最も強い者なので確定だ。要するにこのぐらい規格外がSランクになるといった一種の基準である。
複数人で組む事をパーティと呼び、メンバーの平均ランクがパーティランクとなる。パーティを組んでいる場合はパーティランクより2つ上の依頼を受けることが可能となる。
え?冒険者ギルドに似てるって?構想の大本はそこだし間違ってはいないな!ちゃんと冒険者ギルドは別で存在してるし、住み分けもされているので問題は皆無だ!
万屋のパーティーランクはB、大体どんな依頼でも受けられる高ランクパーティーだ。因みに紅個人はC、カレンはBランクになる。
『カラン、カラカラ、カラン』
「えーと」
困った。言葉が通じない気がする。
紅の言葉を受けた女性が何事か返したようだが生憎骸骨語は理解が出来そうにない。
言語統一がなされているのに何故理解できないか?っと言うとそもそも彼女の意志が言葉となっていないからだ。
どうも言語とは声帯あるいはそれに準ずる機関を使用し喋ると言う行為をするか、テレパシー等の意思を伝える行為をしなければ言語と認められないらしく、ただの音では言葉とならない。
故に目の前の隣人が骨同士を打ち鳴らす音をいくらたてても言語として成立しないのだ。ちなみに何故か死者同士は通じるらしい。謎である。
兎に角そう言う訳でヒト前なので自重するが、言語の壁について紅が頭を抱えたくなっていると、
「『セレス・カトリーナ、死者の祭司をしております』だって、そのまま通訳するから大丈夫よ」
カレンからの助け舟が来た。うちの嫁まじ有能。
「ありがと、そのまま頼む」
「うん、任せて」
紅の懇願にカレンは朗らかに笑いながら頷いた。めっちゃ可愛い。
にしても死者の祭司ね。確か何かの祭りの実行委員の様なものだって聞いたけど、その辺か?
『カラン、カラン』
「『万屋様は私たち死者からの依頼も受けて下さると、聞いていおります』」
「そうですね。種族の垣根一切無く依頼を承っております」
『カラカラ、カラン』
「『指名依頼をお願いしたいのです』」
渡し屋の中では得手不得手による不利益が起きないようにそれぞれ得意分野を定め、それを専門職業として扱う者が殆どだが、紅達の所属する万屋は文字通りの意味で何でも屋だ。高ランクパーティーの為殆どの依頼を受けられ、依頼を高評価で達成していると渡し屋内でもそれなりに名が売れている。
尚且つ他の者が忌む悪魔や魔人、妖怪などからの依頼も普通に引き受けるので一部そういったものから指名依頼が来ることも珍しくはない。今回もその様だ。しかし、
「指名依頼となるとギルドを通しての依頼になると思うのでそちらを通さないと・・・」
指名依頼と言うことはギルドを通した依頼になる。また、紅達はパーティーに所属しているので最低でもパーティーリーダーへの連絡は必要だ。
さてこの時間にリーダーに連絡が着くものかと若干悩んでいると、
『カラカラカラン、カランカラン、カラカラン』
「『昨夜の内にギルドへの依頼とその受理、パーティリーダー様への承認は得ています。そのリーダー様から本日こちらの家にと言われました』」
そう言つつ――正確には通訳されつつ――取り出したのは正式な手続き済みの依頼書と、A4ノートを豪快に破き、紙よ裂けよ!と言わんばかりの筆圧でデカデカと書かれた、
《負かせた!!☆(ゝω・)v》
の文字だ。
・・・ノートの無駄使いだし、字汚いし、筆圧が酷いし、顔文字ムカつくし、尚且つ盛大な誤字、間違いない、リーダーだ。
勝手に仕事を受けて、勝手に人の家を教えて、連絡も入れずに丸投げとは、いい度胸してる・・・。
「あらまぁ、リーダーの筆跡ね。酷い誤字も、無駄にお上手な顔文字も、読み辛い汚字もご本人ね」
「そーだな、とりあえず後で天誅するときの為に綺麗にとっておこうか、貰っても良いですか?」
『カラン』
取り出した本人から快くリーダーの許可書を貰い。さっそく依頼内容の確認に移るのだった。
因みに現物は消したり破いたり、書き足したり出来ないように構造強化を掛け、十階から落としても無傷な額縁に入れ、海の底、空の果てに投げても変形しない金庫に入れて確り保存した。
覚えてろ・・・。
※ ※ ※
「ぶえっっっくしょん」
ズビー
「風邪かな?」






