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魔法のカードと転生手品師   作者: 雅先輩の弟
3/4

3枚目 ミランダさんと虚しさ

試験ガタガタ

試験怖いガタガタ

うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!!(発狂)

ウィンドウルフの一撃で、盾が粉々に砕かれた。

少女は、驚愕の表情を浮かべていたが、すぐさま剣を両手に持ち変え、応戦し始めた。

だが、盾と剣で戦うのが主流だったのだろう。

先程までの受け流しや、回避なども出来にくくなっており、より一層辛そうだ。

しかし、ウインドウウルフは容赦がない。

これが勝機だと言わんばかりに、度重(たびかさ)なる連撃や、恐らくスキルの【風斬】を使って、徐々に体力を奪っていく。

そして、最後の武器であり、頼みの綱でもあった片手剣にヒビが入ったのを、俺は見逃さなかった。癖なのだ。つい、目の前に困っている人がいると、思考を置き去りにして体が勝手に動いてしまうのだ。


今回もそうだ。


毎回そうだ。


困ってるおばあちゃんを助けたら何故か不良に絡まれ、迷子になった子供を助けようとしたら警備員を呼ばれ、自販機のしたにお金を落とした少女を手助けしたら変質者として警察を呼ばれ⋯etc⋯etc⋯。

まあ、つまりそういう事だ。俺が動くと俺が大変な目に会うのだ。これは絶対に決定事項だ。

⋯やっぱり俺のリアルラックの問題?


俺はそんなことを考えていたが状況は危機的だった。

盾を砕かれ、剣を砕かれた少女の肩から腹までが裂かれ、濁流の如く血が流れていた。ウィンドウルフはトドメを刺すために前足を大きくあげて振り下ろそうとした。

しかし、スキル【隠蔽(ハイド)】を使って隠れていた俺に今まで本当に気がついていなかったのだろう。俺が現れたことで零,数秒程躊躇したが、即座に上げていた前足を振り下ろした。

俺は咄嗟に左腕を上げた。

その瞬間、左腕に有り得ないほどの激痛と、聞こえてはならない音が聞こえた。しかし、ウィンドウルフはこれで全てを終わらせる気だったのだろう。左腕だけで受け止められるとは思ってはいなかったようで、焦った様に、後ろに下がった。

ウィンドウルフが後ろに下がった瞬間、俺は少女だけを残った右腕で抱きかかえて、森の中を突っ走った。


そして物語は最初に戻る━━━━━━━━━━━



”奴”⋯⋯ウィンドウルフが去っていったあと、俺はまだ使える右手で、肩から腹にかけて血を流しながら横たわっている少女の荷物を探っていた。決して変態的な行動をしていた訳では無い。

断じて違う。

こういう異世界ならば、ポーションとか言って振り掛けたり、飲んだりしただけで怪我が治る不思議薬くらいならあると思ってのことだ。

少しも、『もし下着とかあったら⋯』とかは思ってない。

断じて違う。絶対に違う。

しばらく探していると、案の定、透明なガラスの瓶に入った赤色の液体を見つけた。数は10個ほど。

とりあえず、瓶の蓋を開けて、少女の傷口にかける。

実は"毒だったらどうしよう⋯”とか考えたのだが悩んでても仕方ないので取り敢えず掛けた。

え?もし死んだらどうするんだって?そんときゃぁそんときだ。


と、馬鹿なことを考えていたら、唐突に、彼女の傷が塞がっていった。周りに付いていた傷も、キレイさっぱり消えている。

もう一つ瓶を手に取り、蓋を開け、今度は自分が飲んだ。

しばらくすると、不意に左手に温かみが戻ったような気がした。

見てみると完全に治っている。折れていた骨も、皮膚の更に下、筋繊維さえも切り裂き、血が留まることを知らなかったはずの左腕は完全に元通りだった。

取り敢えず、もう一本彼女に飲ませた。これで恐らく外傷は全て治ったかと思われる。

彼女を背負い、木の洞穴からゆっくりと抜け出す。

周囲を確認し、ウィンドウルフが居ないことを知ると、途端に疲れがドッと出てきた。

しかし、彼女の横で倒れていた男。死んでないといいんだが⋯

最悪の事態にならない事を祈りつつ、俺は森の中を必死に走ってきた道を戻るようにして進み始めた。




数十分掛けて、元の場所に戻ってきた。

そして、相変わらず男がそこに倒れていた。

とりあえず仰向けにさせてポーション(?)を口に突っ込んだ。

途中でむせたらしく、男が咳き込み始めた。


「ゴッホ!オゥエッホ!ガハッ!あ〜死ぬかと思った⋯⋯⋯。あれ?ウィンドウルフは?お嬢は?!嘘だろ⋯まさか⋯俺っちが!俺っちが不甲斐ないばっかりに!!!」

「おーい」

「くそっ!くそっ!どうすれば⋯!ちっ、武器も壊れてやがる。どうしようも無いじゃないか⋯」

「おい聞いてんのか」

「お嬢ぉぉお!!すいやせん旦那ァ!くそぉ!⋯⋯もう死のう⋯。」

「面白いな、死ね」


ゴッ


「ぎゃほぉっ!!!」


握り固めた拳を頭のてっぺんに振り下ろす。鈍い音が響き、男が気絶する。

ひー、手が痛い。人殴ったのなんて初めてだからな⋯。ていうかこいつウザイかったぁー。人の話聞かないんだもん。挙げ句の果てには死のうとするし。てかこいつが言ってたお嬢って俺が抱えてるこの子の事か?とりあえずこの男の事を観てみよう。


「スキル【観察者オブザーバー】」


《種族名 人間族(ヒューマン) Lv.11 魔力総量値 52 スキル 【筋力増加】【身体防御力増加】【中級剣術】【中級格闘術】 属性 無》


ふむ⋯。多分こいつは戦士とかそんな感じの物理攻撃職系なんだろう。この子に対してLvが上なのに魔力総量値が低いし、【筋力増加】となれば、戦士とか騎士(ナイト)位しか思いつかんしね。

それにしてもこいつは俺が気絶させちゃったし、この子はまだ意識が戻ってないし⋯。


「どうしよう⋯。」


本気で困っている原因は、ウィンドウルフのせいかはたまた自分か⋯。



私の名前はティサウス・G・ミレンダ。15歳。

とある貴族の3番目の子供である。

私には兄と姉が1人づつおり、まだ小さい弟が1人いる。

先日、王国法で定められた成人の年齢、15歳になった。

その時に贈られた物の中から、冒険に役立ちそうなのや、換金出来そうなものを選び、荷物袋に詰め込んで、ばれないように家出したのだ。

理由は親からの威圧と兄と姉から逃げる為である。

特に姉からの威圧や嫌がらせがとんでもなかった。

石を投げてきたり、水をかけられたりは日常茶飯事だった。

酷い時なんかは食べ物に痺れ薬を入れられることもあった。

何でそんなことされるかの理由なんて知らなかったし、知りたくも無かった。


夜になって自分の部屋の窓を開けて、靴を履き、そっと家を出た。

道中で荷馬車に同乗させて貰い、巨大な樹⋯『世界樹(ワールドツリー)』が都の中央にある、ヘイムディーヴァ王国首都、イーリムの街にやってきたのだ。

換金出来るものは全てお金に替えて、それで頑丈な盾と、上級のポーションを買った。

何故か自分の事を『お嬢』と言って何かと関わってくる━━今回の家出にも付いてきた━━カールドという冒険者の男と、冒険者ギルドで採取系の依頼を受けて、街からだいぶ離れた場所にある、草原と密林の間を歩いていたのだが、運が悪かったのか、かなり強力なウィンドウルフと遭遇してしまった。

私とカールドで最初の何分かは順調に相手の体力を削っていたのだが、ウィンドウルフのスキル【風塵】でカールドが自分を庇って吹き飛ばされ、戦線は絶望的となった。

それでも、倒れ伏しているカールドを庇いながらも、十数分程は【中級盾術】や【中級剣術】を駆使しながらなんとか持ちこたえていたのだが、私の体力よりも先に盾に限界が来たらしく、(ウィンドウルフ)の一撃で粉々に砕け散ってしまったのだ。

すぐさま片手剣を両手で持ち、耐えていたのだが、所詮、見た目が豪勢なだけの物では耐えきれず、これもスキルの連撃で砕けてしまった。

しかも、威力を完全に殺しきれず、奴のスキル【風斬】を喰らってしまい空に鮮血が舞った。激しい痛みが脳に届き、あえなく私は気絶した。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


次に私が目覚めた時、真っ青な空が視界に入った。

傷は全く無かった。

あれほどの痛みと溢れ出た血が嘘だと言うように完全に塞がっている。横を見てみるとカールドが寝ていた。

何故か頭から白煙が昇っていて、ピクピク、と陸に打ち上げられた魚みたいになっているが、元からそういう人なので放って置いた。

周りが安全なのか見回した時に、彼と目が合った。

彼は開口一番にこう言った。


「やっと起きたか⋯。おーい、大丈夫ですかー?」


彼はとても奇怪な服に身を包んでいた。

黒い長ズボンに、白い長袖の服。

何故か白の服は、左腕の方がボロボロだった。


「あれー?無視?俺のガラスのハートが砕けちゃうよ?」

「⋯⋯⋯黒目⋯黒髪⋯?」


彼の言ってる『がらすのはーと』とやらが何かは知らないが⋯

しかしそんな事より、服よりも珍しいと思ったのがその髪色と目の色である。

黒目黒髪の人間族はとても珍しく、弱く、そして美男美女というものなのだそうだ。

しかも黒目黒髪の人間族のほとんどは、スキルを持っていないらしい。筋力や脚力も、この世界の一般女性よりも劣っているそうなのだが、たまに、王国にいる第1級の鍛治職人の作る剣よりも鋭く、硬い『かたな』と呼ばれる物を作る者がいるそうだ。

稀に、とんでもないスキルや職業を持っている黒目黒髪の人間族がいるらしく、現在の冒険者ギルド・商業ギルドの実績ナンバー1は黒目黒髪の人間族らしい。


曰く、彼等のその剣はすべてを切り裂き、

曰く、彼等のその身は金剛石よりも硬く、

曰く、彼等のその商才は歴代の偉人達を軽くあしらい、

曰く、彼等のそのスキルは神をも脅し、

曰く、彼等のその身体能力は一騎当千だと言う。


その希少価値や能力故に奴隷狩りなどに遭わされ、さらにそのお陰で市場価値がただの黒目黒髪の奴隷1人だけで王金貨15枚分なのだそうだ。

王金貨15枚あれば、ただでさえ物価の高い王都で、10年間は豪遊してもお釣りが回ってくるだけのお金になるので、その凄さは一目瞭然だろう。

ただ、それよりも、この目の前にいて、頭をかいている少年は自分達を救ってくれたのだろうか?そばには上級回復ポーションの空き瓶がいくつか転がっている。


「ねえ?本当に相手にされてない感じ?俺ってそんなに影薄い方だっけ⋯?」

「⋯⋯。」

「⋯おーい」

「ひゃあ!?」


気がつくと彼の顔がすぐ近くにあったので、変な悲鳴を上げてしまった。

すると何故か胸の辺りを抑えて何か言っている。


「⋯え?何?俺そんなにダメ?え?俺命の恩人。あれ?」

「あ、すみません⋯。きゅ、急にだったもので⋯」

「あ、ああ⋯。ならいいんだ⋯いいんだ⋯よね?」

「う〜ん⋯う、む?あ!!お嬢!良かった!よかっ⋯え?黒目に⋯く、黒髪?!」


どうやらカールドも目が覚めたようだが、やはり、黒目黒髪の少年に目を奪われたらしい。

私も⋯少し⋯。

いや、待て!何か今変な考えが浮かんだぞ?!


「おう?黒目黒髪はこっちじゃ珍しいのか?」

「お前ぇさん⋯そりゃ珍しいなんてもんじゃねぇよ⋯なぁ?お嬢」

「え、ええ。奴隷として売れば物価の安い街なら軽く20年、物価の高い王都でも、10年は遊んで暮らしてもお釣りが来るような値段になると聞きます。」

「え?ま、まさか⋯」


私の言葉を聞いて少年が後ずさる。すかさずカールドがフォローに入った。


「いや、待て兄ちゃん。俺たちゃあんたを売っぱらったりするつもりゃねぇ。それに、多分だが⋯ウィンドウルフから助けてくれたのはお前ぇさんだろ?」

「あ、ああ確かにそうだが⋯何で分かったんだ?まさか最初から起きてたとか?」

「おい!何で俺っちが最低でゲスで鬼畜なクズ野郎なんだよ?!」

「いや俺そこまで言ってないよ?!」

「くっ⋯ふふ」


はっ。

しまった。ついこらえきれずに笑ってしまった。

何で会ったばっかりなのにそんなに息が合ってるんだろう⋯。


「あ、お嬢、すいやせんした。」

「いや⋯ふふっ⋯それよりも自己紹介がまだでしたね。私の名前はティサウス⋯あー、ティサウス・ミレンダです。こっちは付き添い(?)のカールドです。」

「戦士のカールドだ。」


心なしかカールドが顔を引き締めてる気がするけど⋯さっきのを見てたら台無しだと思うのだが⋯。


「ミレンダさんに⋯カー⋯カー何だっけ?」

「いや俺っちの名前2回は言ったよ?!何で覚えてないの?!」

「いやそれはどうでもいいからカー何だっけ?」

「俺っちの扱いが酷くねぇか?!よーし!イラッときた!決闘だコノヤロウ!獲物がねぇから素手だ!」

「やったろーじゃねぇーかぁ?オラァ!」



何故か決闘が始まった。

生まれて初めて空気になった気持ちが分かりましたよ⋯ええ。



ちくしょう。ちょっとからかっただけで決闘が始まってしまった。

つーか俺も悪かったんだけどね。

つい、売り言葉に買い言葉で⋯。

そんな訳で決闘(?)が始まった。


「オッラァァアアア!」

「フッ!!」

「フン!」

「ドリャアアァァァァア!」


決闘モドキの状態は、全くと言っていいほど拮抗している。

カールドの攻撃を俺が躱し、俺の攻撃をカールドの【筋力増加】と【身体防御力増加】で水増しされた防御力で跳ね返される。

━━━━━━━━━━━━そして。


「ヌゥウウウウン!」


チッ


「グッ!」

「オラオラオラオラ!!!」

「⋯⋯ッ!!!」


少しずつカールドの攻撃がかすり始めてきた。

相変わらず俺の攻撃は跳ね返されているが⋯。

途中から殺気が篭ってる気がするのは気のせいだろうか?

最後の1発が俺の体を狙って放たれる。

恐らく、避けれない。


あー!もうクソッ!異世界に来てまでおっさんと殴り合いしたくねえんだよ!

あれ?でも1回だけ父さんとこんなことやったな⋯。いつだっけ⋯?思い出せない⋯。

でも、確か俺が負けたんだ。最後⋯周りの色が灰色になって⋯父さんの拳が目の前まで来て⋯。


ズキッ


うっ⋯頭が痛い⋯。



直後、周りの色が灰色になり、水の中にいるような感覚に陥る。

おかしいと思い、手をグッパーするが、いつもと変わりない。

何かがのしかかってくるような⋯流そうとしてくるような感覚を感じる。

そう言えばカールドのパンチが来ないぞ⋯?

パッと見てみるとカールドのパンチの軌道が、わかりやすく見えて(・・・)いた。

その瞬間、頭の中に声が響く。


《スキルを獲得⋯。パッシブスキル【予測視】を確認中⋯。発動しました。尚、予測的中率は攻撃を回避、防御するごとに上がります。》


なんとパッシブスキルを手にいれた。

なんて⋯なんて下らない事で手に入るんだスキル。

このまま格闘術とか手に入らないかな⋯。


《格闘術を確認中⋯使用者を発見。【観察者】と同期して取り込みます⋯。成功しました。スキルを獲得中⋯。格闘スキル【初級格闘術】を使用します。尚、【初級格闘術】の中に含まれるスキルは【腕力上昇】【迅歩】【一点集中】です。》



うん⋯。なんか⋯。すいませんね?

スキルってこんなにポンポン手に入るものなの?

このまんまじゃ精神:俺TUEEEEの状態異常:DQNになっちゃうよ?


ひとまずこの無駄な戦い(失礼)を終らせよう。


「これで終わりじゃァァァあい!!」


カールドが叫びながらこれまでで最速の拳を送り込んで来る。

スキル【予測視】が発動し、どこの位置に拳が来るのかが予測される。【迅歩】を発動し、一瞬で懐に潜り込むと【腕力上昇】と【一点集中】を使って、全体重をと水増しされた腕力を乗せて思いっきり腹に拳を打ち付ける。


あとで聞いたのだが、スキル【一点集中】は打撃や斬撃の威力を拡散させず、その場所に止めたまま一気に爆発させるらしい。格闘系には欠かせないスキルなのだそうだ。

一点集中!それが故に、打撃等を受けた相手が吹き飛んだりすることは無い。

【腕力上昇】と併用すれば、力が散乱しないので威力は絶大。鎧など皮の防具よりも劣ると言わんばかりの火力であるそうだ。


カールドの口から唾液か胃酸かも分からない液体が飛び出す。

もしかしたらさっき飲ませたあのポーションかもしれないと思いつつ、魔人カールドの謎の液体(超失礼)が掛からないように【迅歩】で後ろに移動する。

ドサリ。

と音がして、カールドの方を見てみると、尻が天を向いて誇らしげに鎮座していた(ハイパー失礼)。


「うわぁー。多分【一点集中】と【腕力上昇】での全体重の乗ったパンチでしょうか⋯あれは私も喰らいたくありませんね⋯でもちょっと食らわせてみたいかも⋯」

「ッ?!」


いま⋯背筋に悪寒が⋯。

何?心霊?怖っ!

いや⋯それよりも何だったんだろう今のは⋯。別に使い方を教えてもらった訳じゃないのに、身体が勝手に動いて⋯。


「取り敢えず改めてお礼を言いましょう!どうも助けてくれてありがとうございました!さて、ではカールドを王都まで引き摺っていきましょうか!」

「ちょっと待て。いや、今引き摺っていくって言った?」

「ええ。こうみえて丈夫ですし、何せ質量がとんでもないから重いんですよ。」


質量って⋯筋肉の事か?

しかもいい笑顔であの遠いところまで引き摺って行くって⋯。

ズル⋯ズル⋯という音を出しながら懸命にカールドの足を引っ張っているミランダ⋯さんの姿に思わず笑みが零れる。


「あっ!笑ってないで手伝ってください!重いんですよ⋯この人。」

「はいはーい⋯すいませんね。『お嬢』」

「なっ⋯ちょそれは辞めて!何だか⋯ムズムズします⋯。吐き気もします⋯。」

「すいません」


ちょっと待って。吐き気って⋯。俺ナチュラルに傷付いたんですけど。

うう⋯誰かこの心の傷を癒してくれ⋯。あとカールドから受けた傷も癒して⋯。


《癒しを認識⋯。回復魔法だと断定。パッシブスキル【自動回復Ⅰ】を獲得。発動中⋯発動しました。》


自動回復Ⅰ⋯⋯。

うん⋯なんかもう⋯知ってた。

だからこんなんでいいの?!スキルさぁん!


勝手に傷や疲労感が消えて行く事に驚きもせず、治る体に比例して、抱いてた理想の異世界像が傷ついていくのが分かった。


こんなんじゃなかったはずだ⋯。どうなってんだァァァァァあ!!



1時間くらい気絶したカールド(お荷物)を引きずって歩くと、例の大樹とそれを囲む巨大な城壁の門の前に来た。

驚いたのは2つ。まずはその行列人数の多さだ。軽く1~2時間程度は掛かりそうな位並んでいる。

二つ目は⋯その門の大きさだ。

天界(勝手にそう呼んでる)の門に匹敵するような大きさだった。

体感で1時間くらい並んで入都料とやらを払わされた。入園料みたいなもん何だろうか。

一人につき300アトラ。銅貨3枚。

しかし、ミランダさんは銀貨を1枚取り出して、門を守る騎士に渡した。お釣りは銅貨1枚だった。

つまり、銀貨1枚=銅貨10枚なのだろうか。

100アトラで銅貨1枚なら1000アトラで銀貨1枚か?

お金の価値について考えていると、ミランダさん達が寝泊まりしている宿屋につれて来られた。

吊るしてある看板に書かれてあったのは『白猫の魅惑』亭。

字もわかるという事に、ご都合主義を感じながら扉を開けて中に入った。

しかし、看板も伊達じゃなかったな。

小説なんかで見る冒険者たちにはこれが至福なのだろう。

カウンターには白猫と言ってもいいほどに透き通るような白い肌をした、自分と同い年位の女の子が立っていた。もしモンスターだったら状態異常:魅惑でも掛けられていたかもしれない。


「いらっしゃいませー!お泊まりですか?それともお食事ですか?あっ、ミランダさんとカールドさんじゃないですか!あれ?⋯そちらの方は?」

「ああ、こちらの方は⋯そう言えば私達は名前を聞いてなかったですね。」

「あ、すいません。えっと、神崎翔太です。よろしく。」

「ショウタさんです。一応私達の命の恩人なのです。」

「あら!でもミランダさん達が行ったのって採取系のクエストですよね?」

「ああ、それはですね━━━━━━━━」


と、事の経緯を話し始めた。

何でも、この街に来て最初に受ける仕事なので安全な採取系の物にしたのだそうだが、全ての素材を集めていざ帰ろうという時に、運が悪かったのか例のウィンドウルフに遭遇してしまったらしいのだ。最初は優勢だったものの、片目を潰されて怒り狂ったウィンドウルフのスキル【風塵】を喰らいそうになって、カールドが身代わりになったらしいのだ。

元々、カールドは頑丈らしいので、スキルを受けても吹き飛ばされて気絶するだけにとどまったのだそうだ。

普通なら色んなところが(あえてどんなふうにとかは言わない)千切れるそうだ。ちなみに、【一点集中】と【腕力上昇】のあのパンチ。常人なら既に重体レベルだと言う。

それにミランダさんがここの宿代を払ってくれるのだそうだ。

流石にそれは辞退しようとしたのだが、

「命の恩人なんですよ?この位は当然でしょう!」

と言って全く聞いてくれず、勝手に話が進んでいった。

そして、何故か五日間の宿泊(朝・夕食有)が決まっていた。

値段は銀貨3枚、3000アトラ。大体3000円位なのだろうか。んんん?安いのか高いのかよく分からなくなってきた⋯。


「はい!お客様のお部屋は3階にある、手前から2番目の場所でーす!おトイレや洗面所はお部屋にありますからねー。」

「えっ?あっはい!」

「今日はゆっくりと休んでいてください。明日になったらギルドにでも顔を出しましょう。」


そうミランダさんに言われてされるがままに、部屋に入る。

そこそこのベットが一つに、中心には背の低いテーブルと椅子のセットが置いてあり、その下には円形の絨毯が敷かれている。

広さは大体8畳位。タンスみたいのも置いてあった。チェストとでも言うのだろうか。隅っこの1畳位の場所に扉が付いていた。あれがきっと洗面所だろう。

勢いよくベットにダイブする。すると、すぐに眠気が襲ってきた。考えてみれば、今日は2度も死にかけたのだ。肉体的な疲労はポーションによって取れているが、精神の疲労はまでは回復出来ていなかったようだ。


━━━━━━━そのまま、俺は泥のように眠った。









━━━━━━━━━━━━━━━━━

名前 神崎翔太

種族 人間族

職業 ???

ギルドランク 無

Lv. 1

属性 ???

保持スキル

【隠蔽】【観察者】【予測視】new!!【初級格闘術】new!!【自動回復Ⅰ】new!!【???】

装備品

学生服・上 学生服・下 スニーカー

所持品

忘れ去られたスマホ 家の鍵 ハンカチ ポーションの空き瓶new!!

トランプ(53×3)



結構長くなったです。

「これじゃあ長すぎて読みたくなくなる。」

「ここの漢字は落ちるじゃなくて堕ちるですよ。」

みたいな感想とかして頂けると助かります。

褒めて頂けると嬉しいです!

次回、ギルド行きます!

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