2枚目 スキルと奴
学校で文化祭やってたので忙しすぎて⋯
このあとは中間じゃいアハハハハ(泣)
ちくしょう!ちくしょう!また悪い癖が出た!何してんだ俺!くそっ!まだ追ってくるのか!
心の中で自分と”奴”に悪態を吐きつつ、全力で走る。左手に抱えた少女が苦しそうに呻いた。彼女の額からは、血が濁流のように流れ出ていた。さらに、自分の右腕の感覚がほとんど無い。
それでも時折枝などにぶつかると、激しい痛みを主張してくる。
曲がる時に、振り回されて置いて行かれた右腕が、また木の幹にぶつかる。
「ぐぅあぁ!⋯⋯っ!っ!」
涙目になりながらも必死に森の中を走る。
追い掛けてくる奴から逃げる。逃げなければならない。そうしなければ死んでしまう。
背後から、死神が近寄ってくる音がする。
途中、幾度となく転びかけたものの、なんとか持ちこたえていたが、いかんせん、血を失いすぎたようだ。
足がもつれ、思いっ切り地面にダイブする。
幸か不幸か、地面に叩きつけられた衝撃で意識が朦朧とする。反動で跳ね上げられ、木で出来た天然の洞穴に2人は放り込まれる。
彼らを窮地に追いやった張本人(獣)は気付くことなく、その暴威を撒き散らしながら疾風の如く駆け抜けていった。
「たす⋯⋯かっ⋯⋯た?」
掠れた声と、荒い呼吸の音が、天然の洞穴に響いた。
◆
目が覚める。
「クソ眩しいな⋯⋯」
容赦なく照り付ける太陽に目を細めながら、ゆっくりと起き上がり、辺りを見回す。
だだっ広い草原の真ん中に、某有名巨人駆逐物語にでも出てきそうな城壁がある。
そして、その城壁の中から、一本のとてつもなく大きい樹が立っている。一番上の方は雲に隠れて見えないくらいである。
左手の方向には森が広がっており、密林と言っても過言ではなさそうだ。右手の方には岩が沢山転がっており、身を隠すのに丁度いい大きさのも何個かあるようだった。
不意に、涼しい風が通り過ぎる。
遠近感がおかしくなりそうな樹と風で、男は気絶する前のことを思い出す。
思わず震える体を抑えつけて、深呼吸をする。
大草原に一人たたずむ男。
そう、俺だ。神崎翔太だ。
うん。今更だけどなんで俺生きてんの?
あんな⋯あんな⋯ねえ?あの高さから落ちて生きてるとか未だに自分が信じられないよ?!足滑らせて落ちて数秒後からの記憶がキッカリないんだけど⋯。
俺が落ちたのは多分、立体機動うんたらでヒュンヒュン飛び回ってる人達の世界にでてくる、50m級の壁に囲まれている(遠くから見た感じ超高い)、あの大樹だろう。
恐らく、地上と離れすぎてて、風かなんかに煽られて、こんなとこまで飛ばされたのだろう。
ちなみに、俺が足を滑らせたころには、もう既に日も落ちていて、暗くなり始めてた。太陽は、もうそろそろ真上に到着すると見える。だいぶ寝てたな。気絶してから何日も経ってたりしないよね⋯。え?フラグ?知るかそんなもん。
いや、それは置いといてだな、まずこういう物語系は、街とかに行って、誘拐されそうな女の子を助けてハーレムを築いて行くってのが定番のハズだ。ていうか、街に行きたい。街に行こう。
だってさっきから視界の隅に、狼みたいのがいるんだぜ?
根性無し?都会暮らしの学生なんだから許せ。
そんなヘタレたことを考えながら大樹の方へ30分くらい歩いていただろうか、風に乗って、獣の雄叫びと、女の叫び声が聞こえてきた。
つい、風上の方を見てしまった。それが失敗だった。
そこには片目を失った先程の狼と、盾を左手に構え右手で剣を握る少女。その隣で倒れている、いかにも”冒険者やってます”風の男が倒れていた。
「グゥウルァァァァァアアアアアア!!!」
「⋯ッ!」
狼の獣は少女に向けて咆哮すると、風のような速さで少女に肉薄した。少女は盾で受け流しつつ、剣で少しずつ傷をつけていく。
それでも、完全にはダメージを流しきれないようで、今は、避けるのに精一杯ってところだ。俺は近くの岩に隠れながら様子を伺っていた。
状況は、やはり狼の方が優勢だろう。
くそっ!出るべきか?!いや、俺が出たところで⋯。
何度かそう思っていると、頭の中に声が響いた。
《一定時間のハイドを達成⋯。スキル【隠蔽】を入手しました。》
《一定時間の対象の観察を達成⋯。スキル【観察者】を入手しました。》
⋯⋯は?
ん?今スキルって言った?!え?【隠蔽】?!【観察者】?!何ぞそれ?!つーか今の声は何?!
え?何?本気でどういうこと?!発動!とか、スキル!なんとか!って言えばいいの?よし、言うぞ。大丈夫。俺は中二病じゃない!
訳の分からないところで自分を説得しつつ、向こう側で激闘を繰り広げている彼女らにばれないように小声で呟く。
「す、スキル【隠蔽】!」
途端に、自分が薄くなった気がした。自分の体を見るが変化は無い。ただ、そう。影が無くなっていた。決して薄くなったり、無くなったりしたのは髪の毛ではない。俺の髪の毛はいつも通りのボブカットだ。しかし、どういう訳だか影が地面に映らない。バレる可能性とか全く考えずに、ジャンプやらしゃがんだりするが、影は映らない。そして全くバレなかった。
続いて【観察者】も呟く。
そして、彼女らの戦いを見る。
狼の動きに注意していると、また頭の中に声が響いた。
《種族名 ウィンドウルフ Lv.18 魔力総量値 300 スキル 【風斬】【風塵】【聴覚強化】【咆哮】 属性 風》
淡々とした、あの無機質な声がした。
どうやらあの狼はウィンドウルフと言うらしい。直訳で風狼だな。ていうかこのスキルは相手のスキルまで分かるのか。便利!
ほかにもLv.って⋯。おいおい、ゲームかよ。
とか思いつつ、今度は女の方を向いて、発動する。
《種族名 人間族 Lv.6 魔力総量値 262 スキル
【中級盾術】【中級剣術】【初級魔法】属性 火 》
またもや男だか女だか分からない機会音声(?)が頭に響く。
って!おい!Lv差がダブルスコアってヤバくないか?
やっぱり助けに行くか⋯。
そう思い、行動に移そうとした時━━━━━
少女の盾が砕け散った。
名前 神崎 翔太
種族 人間族
職業 ???
Lv. 1
属性 ???
保持スキル
【???】【隠蔽】【観察者】
装備品
学生服・上 学生服・下 スニーカー
所持品
使えないスマホ 家の鍵 ハンカチ
次回も今回もほぼ説明回です。
魔法のカードはもう少しまってください。