感じる危険、背中を駆ける悪寒の正体
感想、評価をいただきありがとうございます(*´∇`)
読んでくださる全ての方々へ感謝の祈りを捧げながら、本編第81話を投稿させていただきますー!
これからも皆様に楽しんでいただけると幸いです(*´∨`*)
前回のあらすじ
魔法の研究
タヌキのつまみ食い
別れの時
カナデさんと脳内戦争を勃発させつつ帰路に着く道すがら、お金も出来たのでいい加減馬車一式を預かってくれる場所を探してみた。流石にいくらなんでも路駐も限界だろうというナイス判断だ。ついでに出来る男の俺は近くの人に聞き込みもしてみたりもした。
Q:「馬車ってどこで預けたらいいですか?あ、宿屋以外でお願いします。」
A:以下街の住人の返答
「馬車なんか使ったことないから知らないよ。」
「冒険者なんだったらギルドで聞いたらいいじゃないかしら?」
「ごめんな、ちょっとわかんねぇなー。」
「急いでるから他を当たってくれ!」
「おい!いい馬車だなぁ!俺様がもらってやってもいいっちょ?!待てよおい止まれ!とまrぶろぐ!!」
「馬と馬車なら貴族街にほど近いところで預かってると思うよ。店の名前?そこまではちょっと。」
「お、お嬢ちゃんかかかわいいぃぃ可愛いお嬢ちゃんがムムムムチを??!ハァハァハァハァ!!」
思ったよりも聞き込みに時間がかかってしまった。途中変なのが絡んできたが馬敷きにしたから無問題だ。ただ、物陰から俺たち・・・いや、俺のことをじぃーーーっと凝視してハァハァしてた変態は怖くて眼を合わせられなかった・・・。御者っぽい雰囲気が出るかなぁと思って持ってたムチでこんなにも反応されるとかマジムリなんだけど。
怖いというか気持ち悪いっていうのかな?ああいうのは生理的に耐えられないかもしれないと激しく感じた。日本にいた時に良く耳にしてた「マジキモいんですけどー?」とか、「生理的にムリ。」ってセリフを吐き捨てるJK的な子達の気持ちを理解したくなかったけど理解してしまった。ふぅ、これが女心ってヤツか。違うか?
「ねぇソウ、もしかしたらバルムさんたちなら知ってたかもって思うの。」
なん・・・だと?できる系だと思ってた自分のお脳みそが実はポンコツだったと思い知る。更にカナデさんは場所を知ってるとドヤりながら追い打ちをかけてくる始末。孤立無援とはこのことか!!てか先に教えてくれたらよくない?
場所さえわかればあとは簡単。ささっと馬車一式を預けてお会計。保証金制度があるらしくて支払いは銀貨5枚とそれなりのハードルだった。明日引き取りに来れば銀貨4.5枚分は返してくれるらしい。1晩預けるだけで俺的日本円換算で1万円相当の0.5銀貨。コインパーキングと違ってお高いんですね。ボロい商売ですよ。
「それなりに商品価値もある馬や馬車を預けるのですから護衛も必要で、しかも24/365の体制を維持せざるを得ない商売です。飼料も安くありませんからその程度は妥当だと思われます。」
・・・ぐぅの音も出ない。言われてみればその通りでむしろ良心的かもしれない。生き物の世話って大変だっていうし24時間365日営業とか働き方がえげつない日本的な社畜スタイル。いままで路駐と老馬介護で済ませてきてたからけち臭い考えになっていたらしい自分が恥ずかしくて仕方がない。あとでマーグル婆さんにそれとなくお礼を言っておくとしよう。
「見つけたぞ!黒髪の女あぁ!この俺を轢こうとしたのはお前だな!!」
反省しながらテクテクと歩き出した俺たちに向けて、小汚い恰好をしたおっさんが汚らしいだみ声を浴びせかけてきたのはそんな少しばかり心がやさぐれていた時だった。
―――――――数時間前―――――――
東へと延びる街道を疲れ切った身体を引きずるようにして進む1人の男がいた。ボロボロの外套に身を包み、手入れのされていないままの伸びきったヒゲで顔の半分が隠れてしまっている。
「はぁー、はぁー、はぁー、はぁー・・・。よ、ようやくだ。ようやっと見えてきやがったな。」
陽射しを遮るように手を額に当てながら男は呟く。続けて額の汗を無造作に拭ってから腰の水袋へ手を伸ばす。
「・・・はぁ~~~。もう中身がねぇってこと忘れてたな。街壁が見えてるとはいえ水なしじゃキツい距離なんだが。」
戦場から離れて既に二月。順調に進めていればそろそろ国境近くの北の外壁の街についている頃だ。ってことはこの近くには川なんかなかったハズだ。運よく人に会えでもしたら水を分けて貰えるよう頼んでみるか。
「なにせ支給品のコイツがあるからな。」
息を吐きつつ腰に差した剣をコツンと叩く。ただただ頑丈につくられただけの量産品であるものの、しかし一目で所属がわかるだけの意匠が施されていた。
「ここいらなら十分使えるだろ。」
男は再び歩き始める。まだ花びら1枚程度にしか見えない街を目指して。
そして、ようやく街の姿が握り拳の半分ほどの大きさに見えてきたころ、待望の音が彼の耳に響いてきた。
「―――馬と車輪の音、か。これなら期待ができそうだな!」
虚ろだった男の眼が一気に生気を帯びてきた。彼は勢いよく振り返り音のする方へと注視する。
見れば大きな箱馬車が走り来ているのが見える。2頭立て。車体には意匠も旗も見えないが馬の状態が良さそうなところを見ると、水くらいなら問題なく分けて貰えそうだ。
「おおーい!おおおーーーーいいぃぃ!!」
枯れた喉を必死に鳴らして男は叫ぶ。喉が裂け血でむせるがそんなことは知らないとばかりに声を張り上げる。
「おおおおぉぉぉぉーーーーいいいぃ!!!止まってくれーーーーー!!止まってくっっっ??!!」
近づいてくる馬車の姿が大きくなった時、彼は驚き動きを止めてしまった。
「な、なんで御者が寝ていやがるんだよ?!」
見ると御者台に座る人影がうつらうつらと頭を傾げているではないか。有り得ない!と思うのと同時にもしかしたら盗賊かモンスターにでも襲われて既に命がないのではないか?とも思った。
「おいっっ!!御者の!!生きているなら顔を上げよーーー!!!ぐっ!ごほっ、ごほっ!」
叫ぶ声に先ほど以上に覇気を込めた。当然自身の喉は堪らず割れるがそんなことはおかまいなしだ。叫ぶこと数秒。突如として御者が起き上がった!
「むっ?おぉ!息があるのか!おおーい!馬車をとめよー!意識定かでない中では危険ぞー!!」
更に叫び続け、ダメ押しとばかりに腰の剣を鞘ごと引き抜いて自身の所属を強調する。雇い主から支給されたこの剣の意匠を見れば例え貴族でも一時は止まるハズだ、と。だが、予想に反して御者が顔をしかめて声を返してきた。
「あぁん?お前のその剣は見た覚えのある量産品だな!ゴミクズの手下ってことを表しているのか??もしそうなら押し通る!馬に蹴られたくなければ道を開けろー!!」
男は驚いた。教会の所属を表す意匠を見せたのに退けと言われたこと、御者の声が異様に高いこと、御者が黒髪であること。何よりゴミクズだと?何に対して言っているんだ?続けて飛び込んできた様々な情報のせいで反応が大幅に遅れてしまった。
「死にたいならそのまま突っ立ってろ!!」
「んなっ?!」
いつの間にか目前に迫った馬と眼が合った瞬間、意識せず横に飛び出していた。しかし飛び退いたのが遅すぎたために足を馬に蹴り上げられバランスを崩すと勢いのままに地面へと顔を強かにぶつける。ついで、転げまわり道を外れて全身を強く打ちつけてしまった。
「ぐべっ!―――がぁっ!」
「ブルヒヒヒヒヒーン!!」
ドガラッドガラッガラガラガラガラガラガラ・・・――――。
「――――・・・っだああぁぁぁぁ!!し、死ぬかと思ったあぁ!うおああぁいてぇ!めちゃくちゃいてええぇぇぇ!!」
男は激しく跳ね回る胸を押さえながら走り去る馬車を見つめる。時間にして数分程度のできごとだったが、あまりにも驚いたためにひどく長い時間のように感じていた。
「な、なんなんだあいつ?!止まる気が全然なかったぞあいつ!この俺を殺す気で駆け抜けやがった!!許さねぇ!許せるわけがねぇぇ!!教会の支給剣見て突っ込むとか頭おかしいんじゃねぇのか?!」
顏がいてぇ!腕もいてぇし足もいてぇ!なんなんだ?なんで俺が轢かれなきゃなんねぇんだ??!訳がわからねぇ!絶対に見つけ出してやり返してやる!仕事柄舐められたままでいられるわけがねぇ!舐められんのだけはなしだ!!ぜってぇにありえねぇ!!
数多くの疑問や憤りよりも自身のプライドにより怒りを顕わにする男は、更に薄汚れた姿になったまま街を目指して歩きだした。
「まずは情報を集めるべきか。」
怒り冷めやらぬまま街へと辿り着いた男は目撃情報を探すことにした。常ならその役を持つものに任せるか馴染みの情報屋を使う所だが頼りの相手がいない。どうやらここは自分が思っていた街ではなかったようだ。長いこと森を彷徨っていたせいで目測が大幅にずれていたことを今更ながらに知る。
「それでも探しゃーすぐに見つかるだろ。」
何せ相手はあのように目立つ容姿をしている。すぐに見つけられるはずと当たりをつけたが結果は芳しくない。御者をしているような者をジロジロ見ている者は中々いなかったようだ。どうやらこの街では馬車を持つような富裕層はあまり快く思われていない風潮でもあるようだな。
次に馬車と言えばまず思い浮かぶのが厩だ。馬車に意匠がなかったのを考えると恐らくは家紋や家印を持たない平民、それもそれなり以上に力を持ってる新興の商人の類か何かだろう。
「まったくもって隠密って雰囲気でもなかったしな。」
なので貴族関連は頭から除外しておき、厩が併設してる宿を回ってみるがここでも空振り。
「どうなってやがる?」
普段斥候の連中にこういった調べ物は任せっきりだったのがいけねぇな。全然勝手がわからねぇ。
「貴族街を除けば他にいくとこなんかねぇだろ。どこに行った?どこに行きたがる?」
頭を悩ませる男はふと思いついた。
「あとは馬屋があったか。」
馬と馬車を扱うと言えば馬屋がある。もしかするとそこにいるかもしれないと人に尋ねつつ行ってみると・・・。
「見つけたぞ!黒髪の女あぁ!この俺を轢こうとしたのはお前だな!!」
やっとだ!やっと見つけたぞ!黒髪、黒の外套、顔に火傷の痕のある女!!
指を指し怒気を込めて叫びつけたにも関わらず黒髪の女は後ろを振り返る。
「おいてめぇ!舐めてんじゃねぇぞコラ!お前だお前えぇ!黒髪の女なんざてめぇしかいねぇだろうが!!」
「はぁ?またなの?なんなんだよお前らは。俺のどこが女だっつーの。節穴以下の役にも立たない眼ん玉なんか捨てちゃえばいいんじゃないの?」
「は?はぁ?はあぁぁぁ??ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞクソ女!!俺を轢き殺そうとしたばかりかここまでコケにされちゃ黙ってらんねぇ!!ちっと脅すだけにしてやろうかと思ってたがもう殺す!!ぜってぇ殺ぉす!」
男は腰の剣を抜き放ち駆け出そうと身体を前傾させた。それに気付いた周りの人々が驚き声を上げる。その大きな声に混じりながらも、黒髪の人物の小さな声がなぜかよく通った。
「はぁ。この世界のクズはアホばっかなのか?殺すと言われたら相応に返すだけだ。『生活魔法』『熱集突風』。」
男が駆け出すタイミングに合わせて強い向かい風が吹きつける。
「なにを・・・?いてっ!いていていてぇぇ!!つかあちぃ!あっち!あちぃぞなんだこれ?!」
アイツのいるところから吹いてくる風が熱すぎる!いてぇ!前が見えねぇ!!
「んー?いちおう引火点の300℃くらいになってるのにそんな程度のリアクションなのか?普通なら火傷しまくると思うんだがこのヒゲってば丈夫すぎるにもほどがあんだろ。
テト、ニコ、少し下がってて。なんかしぶとそう。」
「よくわからねぇがてめぇ魔術師か奇術師なのか?!だがな!この程度の子供だましでやられる俺じゃねぇ!」
再度男は駆け出した。今度は真っ直ぐではなく右へ左へとランダムに。
「気持ちわるっ。ゴキブリみたいな動きだな。『生活魔法』『細氷凍結』。」
黒髪の人物が更に呟く。翳した左手からは何も出ていないように見えるが男は警戒を一層強めた。伸ばされた左手の前に立たないよう細心の注意を払い、的を絞らせないようジグザグに動いていたがそれはまったく効果をなさなかったことを自身の身体の異変から感じ取った。
「がひゅっ?!あ、がっ!!?」
い、息ができねぇ?!なんだ?こいつはなんなんだっ??あと一息で切りかかれるっつーのに!い、息ができねぇ!苦しいっ!なんだってんだ!チカチカしてんのが舞ってやがるがこれがアイツの攻撃なのか??!
「あー、いちおうまだあんたが教会の所属なのかよくわからんから命は奪わないけど、これ以上敵意を剥き出しにして突っかかってくるなら容赦しないで殺すよ?」
「ぐぎっ・・・ぎ・・・がっ。」
強えぇ!なんだこの強さはっ!しかも口振りからすると情けをかけられ手加減までされてるっつーのにも関わらずまともにぶつかりあう事すらできんとは!
「んむ~、もしかしてまともに息できてない?これはちょっとやりすぎたかな?まだ安全圏って考えてマイナス30℃程度なんだが・・・。」
だがしかし!それでも容易に負けていいものでは、ない!断じてない!!勝負を挑んじまったからにはせめて一太刀!!
「ぐごっ・・・ご、ごれじぎのごどで!ごれじぎのごとで屈してなるかぁ!!」
全身に力を滾らせ大きく気を張る!これで多少はマシになるか?!
「はぁはぁはぁ!!」
「おいおい、自力で気道確保するとかなにそれ?変態かよ。」
術を破られたのに応えてねぇだと!?訳がわからねぇ・・・俺はいったい何とやりあってんだ?魔術師相手なら突っ込んじまえば勢いでどうにかなるはずなのに、術を破ればみっともなく取り乱すだけだってのに、コイツは近付いても術を破っても焦りゃしねぇし術の発動がアホみてぇにはえぇ。
・・・考えを改めねぇとダメだな。調子にノッてイキッたザコをぶん殴って謝らせるつもりだったが全然違った。むしろちょけてたのは俺の方みてぇだ。
「わ、我こそは・・・。」
ちくしょう!膝が震えやがるし頭がボヤける!呼吸が細いし声もまともに出せやしねぇがそれでも無様に倒れるわけにはいかねぇんだ!
「わ、我こそは!武を誇り、敵尽くを屠りし傭兵団、『血肉暴威の傭兵団』が第一分隊長、肉片叩きのランプマン!
汝を一角の者と見た!改めて仕合いを願いたい!!全力での仕合をだ!!」
「・・・は?急に襲いかかってきておいて何言っちゃってんの?何この状況?」
困惑と呆れをない交ぜにした表情で黒髪の人物はランプマンを見つめ返した。
「てかさ、お前教会と関係ないんじゃん。なんでそんな紛らわしい剣持ってんだよ?」
「・・・これは借り物だ。」
「じゃあもういいや。襲いかかってきたことも水に流してやるからもう終わりにしない?勝負とかいっさら興味ないし。」
「な、なんだと?!い、一騎討ちを断るっつーのか?!」
「はぁ~?なんか一人勝手に盛り上がってるところ申し訳ないけど、こっちからしてみたらお前なんかタダの犯罪者なんだよ?通り魔とか辻切りとかそんな感じのやつ。なんでまともに取り合って貰えると思うわけ?」
「も、もとはといえばお前が馬車で轢こうとしやがったからだろうが!」
「いやいや、普通街道歩いてて馬車来たら避けるっしょ?それの何が悪いの?」
「ぐぐっ!だ、だがな!こっちは教会の御印を提示してたんだぜ?普通止まるだろ??」
「は?なんで?教会関係者なら轢き殺すだろ、普通。」
言いながら黒髪の人物は心底嫌そうに顔をしかめて首を傾げた。
「なん、だと・・・?」
どういうことだ?ここはメタリカーナのハズだろ?なら十分に奴等の勢力圏内だ!意味がわかんなさすぎんだろ?!
「はっ!そ、そういうことか!お前さんの連れが原因ってことだな?そっちの亜人のことでなんかあったんだろ?なら話しは簡単だ!お前がまともにやり合わないって言うのならそっちのガキど・・も・・・。」
「あ"あ"ぁぁんっっ?」
な、なんだ???急にヤツの気配が変わったぞ?!!
「・・・・・・・なぁおい。冗談でも言っていいことと悪いことがあるって知ってるか?」
亜人が原因で教会ともめてんのかと思ったがまさかここまでとは・・。いや、だがそれでいい!これならヤツもまともにやり合うだろう!!
「さぁてな?良いも悪いも知ったこっちゃねぇ!俺には俺のやり方があんだよ!取り合えず続きだ!行くぞ!!」
剣を担ぎなおして最短距離を駆ける!大上段からの全力の振り降ろしで勝負だ!!
「おおおぉぉぉらああぁぁぁ!!!」
イケる!殺った!!
ギャリギャリギャリ!!!
「なあっ?!」
確実に殺ったと思ったら逆手に持ったダガーで流され「うごめごらへあっ!!!」・・・・・オボロロロロロロロ――――――ベチャンッ
ボスンッッ!!!なんて音が響いてたって聞いたのは後になってからだ。その時の俺は何をされたのか、何が起きたのかを理解することも気付くこともできずにただただ腹の中身をぶちまけるだけっだった・・・らしい。その記憶さえなくなっちまったからよくわかってねぇんだが。
詳しく見てたヤツの話しじゃ俺の渾身の一撃はいなして流され、それと同時に黒髪から飛び切りキツい前蹴りを腹にもらっていたらしい。上も下もバカみてえにゲーゲービチャビチャやってたって聞いた時には生きてんのが不思議な気分になったもんだ。ときたま鬼人なんかに殴られたヤツがそんなになってたからな。アレは死ねる。
万全の態勢じゃない上に魔術師が得意な距離から始めたのが良くなかった、なんて言い訳をする気はサラサラねぇ。負けは負けだ。認めよう。誇りをかけて負けた以上、今日から俺は・・・あの女一筋で生きていこうと決めた。
―――――――ソウ視点―――――――
ブルルルッ
んんんっ??
「な、なんだ?いまなんか物凄い悪寒が走った気がするんですけど??」
「誰かに噂でもされているのではないですか?街中で派手にやってしまいましたから。」
「派手になんかやってないじゃん?魔法は全部目視がムリめなのしか使ってないし、ロングダガーちゃんで切ったりもしてないよ。」
「でも、相手の人が凄いことになっちゃってたの・・・。う~、まだ臭いが取れないのー・・。」
「あー、ごめんなテト?まさかあんなに中身が飛び出してくるとは思わなくって。」
「完全に無防備な腹部を魔力で強化した蹴撃で蹴り抜いたのですから当然の帰結です。むしろよくあの男は即死しなかったものです。」
「いやいやいやいや!ちゃんとポーションで治療したじゃん!しかも蹴り抜いてないよ!ちゃんと五分抜きくらいで止めましたよ?マジで!」
「そもそも前蹴りは危険な技です。もし殺すつもりがないのでしたらなるべく控えるか、もう少し威力を落とすことをお勧めします。」
「んむ~、善処します。」
いきなり襲いかかってきた変態だったので別に返り討ちにしちゃっても正当防衛なんだが、そもそもが教会のクズの一部かと思って馬車で轢きかけたっていうホンの些細な負い目もあって殺しちゃうのは忍びないかなーって思ってたからなー。なのにちょっとばかしやりすぎてしまった。危うくヒデブ状態だもの。一歩前へ行ってたら完全逝ってたわ。さよなライオンですわ。
どうにもテトにゃん関連で害を成そうとする輩をみると自動プッツンモードに入っちゃうらしく、最近自制さんと歯止めさんたちが不在だったり居留守だったりするのもそれに拍車をかけているような気がする。少々危なっかしいと思えなくもない。ホンのちょぴっとだけだけどね。基本は平和主義だもん。
ちなみにさっきの通り魔は回復後、触りたくないのでそのままの状態で衛兵っぽい人に渡しておいた。ゲ○まみれのセルフ○ンココーティング仕様だったからマジ近付くのもムリだったし。お腹は強く蹴っちゃダメだな。ソウ覚えた。
「ただいまー。」「ただいまなのー。」「んー。ただまー。」「ただいま戻りました。」
「いつからここはあんたらの家になったんだい?えぇっ??」
なんとか気を取り直して帰るなり老婆がツバを飛ばしてくるが、頑張って気にしない方向でスルーするー。ちょっとお礼を言うタイミングを逸しただけだ。いまこのタイミングでありがとうって言っちゃうと俺がツバかけられて喜んでるみたいに取られかねないし。それは勘弁だ。忘れてなければあとで言うことにしよう。覚えていればね。うんうん。
「とりま材料の寝かせ具合どんなか見せてよ?時間の調整もあることだし。」
「はんっ。帰ってくるなりすぐにそれかい。別にいいけどね。こっちだよ、ついといで。」
なんだかグチグチ言ってるが他に一体何を期待しているんだろうか?逢引中のアベック(死後もとい死語)でもあるまいし、ハグしてキスでもしろと?冗談じゃない。汚らしい老婆とそんなただれた関係になるくらいならゴブとでもただならぬ関係になった方がマシだろう。老婆愛好家とゴブ好きの人に怒られそうだから声に出さないけども。ごめん、どっちもムリだった。むしろ死んでまた転生した方がずっとずっとよかったわ。次がアリやミジンコでも喜んで転生する方選ぶ自信がある。
「あんた、ちょっと失礼なこと考えていやしないか?」
ギロッとマーグル婆さんに睨まれるがそういうのは好き者同士でやっていただきたい。俺は自分に近いくらいの肉体年齢じゃないと受け付けない性質なのだ。だからジトるならせめて300歳くらい若返ってくれないと困る。多分それくらい引いたら同い歳付近だよね?100程足りないかな?400引かなきゃダメかな?
「特に思うところは何もないけど?それより中級薬草はいい感じだね。あと数時間で結界から出しても良さそうな感じだ。」
「どうにも腑に落ちないけどまぁいいさ。それにしたってそんなに正確にわかるもんなのかい?あたしにはまだ色の変化はわかりゃしないんだけどね。」
「結界の影響で見えづらいだけだよ。若干光の屈折率が違うからねー。これをうまく見るコツは、結界から放出されてる魔力の波長を少しだけ遮るようにしながら拡散させることなんだよ。今回は俺が手伝うけどマーグル婆さんもその内練習しといてね。」
言いながら周囲の魔力に干渉して結界から漏れる波動?っぽい魔力波的なサムシングを散らしていく。少しばかり繊細な作業になるけどこういうのは得意分野なので余裕のよっちゃんだ。
「言ってる意味がいまいち要領を得ないけど、なるほどね、このくらいの色になればあとわずかってことかい。」
「そうそう。中級魔草も同じくらいのタイミングでイケそうだね。まだ少しかかるから時間になるまでに夕飯済ませておこっか。」
予想では残り5時間くらいらしいので夕飯を済ませるのにちょうど良さそうだ。マーグル婆さんはもう食べたって言ってるので自分たちの分だけ作って食べよう。
「残ってるお肉は焼いちゃって、野草類も日持ちしなさそうだから使っちゃうか。キノコは一部栽培実験に回したいから血止め軟膏の原料になるのだけ残しておくか。」
「じゃあ、ウチお野菜洗うの!」
「ありがとうテト。それならついでだから手鍋にお水入れてきてくれる?スープに使おうと思って。」
「はいなの!」
「んー。んー?」
「ニコもお手伝いしてくれるの?ならキノコの石づきとってみよっか?刃物はまだ早いから今日はむしっちゃおう。ここの下の所をこうやってメリって感じ。」
「ん~・・んー?」
「そうそううまいうまい!ニコは料理の才能あるかもね!」
今日の献立は肉野菜炒めとキノコと香草のスープにした。かなりの手抜き料理だがこれでも十分うまかったのは素材がよかったからだろう。思った以上にキノコから出汁が取れるし肉も臭みがなくて食べやすい。獲れたてでしっかり血抜きをしてるのはやっぱ違うな。
「今度キノコの天日干しとか作ってみるか。もっと手軽に出汁が取れて美味しくなるかもしれん。」
「もっとキノコ美味しくなるの?ウチ、ソウのキノコ好きだからうれしいのー!」
俺のキノコが好きとか・・・なんだよテトにゃん最高かよ。っていやいやダメだろアウトだろ!可愛い妹をそういう眼で見るの、いくない絶対。ちょっともちつけ?状況を冷静に分析を頭にだな・・・。
「んー。ソウ、キノコ、入れて。」
ぶふぉあっ?!ちょちょちょ?!ニコさんそれはどうなの?いいの?セーフなの?!モ○○ンアウトだろ!ダメだろそういうの!
《少々落ち着いてください、マスター。気持ちが悪くて仕方がないです。》
(う、うん。止めてくれてありがとう。なんかちょっとダメな方向イってたっぽい。疲れてるのかな?)
少々色々あって疲れたのかもしれないと言い訳を考えてみたが、俺は疲れたら思考がヤバい方に行くタイプの人間なのかもしれないと思い至り更に凹む。おかしいな・・・これじゃあまるで変態みたいじゃないか。
《みたい、ではなく変態そのものですが?》
マジで勘弁してください。僕のライフはもう0です。
「そんじゃそろそろ時間かねぇ。あんたが言ってた影が伸びてきたよ。」
「危ない危ない。ちょっと考え事してたらもうこんな時間か。俺はもうごちそう様だけどテトとニコはどうする?」
「ウチももう平気なの。ポーション作るのお手伝いするの!」
「ニコもちゃんとご飯は終わってるかな?船漕いでるから寝かしてくるか。」
「流石にこの小さい身体では野営がこたえたのでしょう。早めに休ませるのがいいと思われます。」
「おk。じゃあ、ニコを寝室運んでくるからその間に食器の片づけお願いしていい?」
「わかったのー!」
「・・・・気のせいかねぇ。1人分多く声が聞こえたような?」
「どした?幻聴か?マーグル婆さんも疲れてるならもう寝てもいいんだぞ?朝早いから夜苦手でしょ。」
「幻聴なんか聞こえるわけないだろうに!」
「あ、そうなの?ならいいけど、あんまり変なこと言わないでね?こっちもびっくりするからさ。」
カナデさんのことを説明するのが面倒なので適当にはぐらかしておいた。流石は出来る系の男。会話の誘導もお手の物である。
「・・・いまはいいけどね、あとできっちり説明してもらうよ。覚えておいでよ、まったく。」
あれー?なんで気が逸れないのだろうか?完璧な誘導だったのに。
「誤魔化す気もないのに誤魔化そうとするからです、マスター。」
誤魔化さざるを得ない状況を作り上げた人に何故かダメ出しを受けながらニコを寝かしつけに行く。小さなニコは軽いしすべすべだ。髪もどんどんサラサラになっていくしで将来が非常に楽しみであるのと同時に怖くもある。
「ニコ、この人と結婚する。」なんて言われた日には自分がどういう行動に出るのかわからない。魔力と四肢を封印しておかないと相手の男を爆散させてしまう可能性がなきにしも非ずだ。想像だけで泣けそうな勢いである。
「いつの間にやら気持ちがすっかりお兄さんになってしまったな。こんな妄想もスムーズにできるまでになってしまった。」
「こんな妄想をできるようになってしまったのは甚だ残念ですね、マスター。異常過ぎて何を言いたいのか理解に苦しみます。」
カナデさんにはまだ早かったか。ぐすん。やばっ、マジで涙と鼻水が・・・うぅ。
「娘と妹は持つなというあの格言は正しかったか・・・。いや、でもそんな悲しいイベントは確かにあるかもしれないが、それでもやはり一緒にいられることに優るものはないんだろうな。だって、こんなに悲しくて寂しいのに愛妹に出会わなければよかったなんて微塵も思わないし。」
この世の真理の一端をまたしても覗いてしまった気持ちになった。うん、やはり持つべきものは可愛い妹に違いない。
「心がすっきりしたから作業を始めようか。いまならとてもいい物が作れそうだ!」
小さな棘が胸に残ったまま俺はポーション作成作業へと向かった。願わくば、テトにゃんとニコが下手な男のところへ嫁いでいくことのないようにと、祈りを捧げながら。
お読みいただきありがとうございます。
予告通り新キャラが出てきましたが、キャラがまだまだよくわからない人ですね。自己中で自分勝手で人に迷惑をかけてるのに自分は悪くないって言い張るタイプに見えますが、これからの絡みでそれらが明らかになっていく・・・ハズです。
後半なんか頭がおかしくなってる人がいますが、なんでしょうね?ちょっと気持ち悪いです。
ちなみに、24/365と作中で出ていますがこの世界は1日25時間なのでちょっと違っています。これについては地球の言葉なのであえてそのまま使っていますのでニュアンスだけくみ取っていただければ幸いです。




