最新式のナウいマシーンで野を駆ける 代償はお尻
感想、評価をいただきありがとうございます(*´∇`)
読んでくださる全ての方々へ感謝の祈りを捧げながら、本編第76話を投稿させていただきますー!
これからも皆様に楽しんでいただけると幸いです(*´∨`*)
前回のあらすじ
バルムの帰還→タヌキが帰るハズなのに
材料集める→マーグル作るのハズなのに
思う通りにいかないままにピクニック気分の窃盗犯
「案外思ったより御者やるのって難しくないんだな。」
西へ西へと延びる街道を進みながらついつい独り言が溢れる俺氏。別にぼっちでもないのになんで独り言を呟いているかっていうのならば、それは現在御者台には独り身が寂しい俺しかいないからだ。こうして自分しかいない状況というのは意識してしまうとなおのこと物悲しいものがある。
そんな彼女いない歴=年齢の俺に更なる孤独と言う名の牢獄をプレゼントしてくれた愛妹たちはと言うと、本日の同行者AとBことミリー&ハリンさんと一緒に少し遅めの昼食と洒落込んでいたりする。少しだけ羨ましい。
彼女らは突貫工事感満載の馬車(未完成品、屋根なし後部の壁なし)の中で食事をしているのであまり居心地はよくないだろうと思うが、いまのところ然したる問題はないようなのでいいんですけどね別に俺独りにされてもーとプリプリしてみたりする。現状、雨が降っても埃が舞っても不快指数急上昇間違いなしの欠陥ありすぎ仕様なのは勘弁して欲しいところだ。
そして、そもそも隻腕の俺がなんでわざわざ出しゃばってまで御者ってるのかっていうと、単純にこのメンバーの中で御者経験がある者がいなかったからというのと、いちおう馬たちと意思の疎通がかろうじてできない程に低レベルではあるが契約の繋がりがある俺がやってみたらなんか普通にできてしまったという不思議現象が理由だったりする。
なんだかコイツらってば実はとても賢く空気を読む馬たちだったらしく、勝手に障害物を避けてくれるので楽ちんだったりするのだ。開けてびっくりまさかの自動運転機能実装済である。非人工頭脳だがやはり自立した思考回路を持つ個体は利便性がダンチだ。こちらの指示が要らないのがとても好ましいと思うとともに、果たして俺がここで独り孤独と戦う意味があるのかという疑問も湧いてくる。静かに押し寄せてくるコレジャナイ感が見え隠れしてたりするのは秘密だ。
≪ですが、誰も御者台にいない状態で自動運転となると非常に奇妙で人目を引きます。たとえお飾りであろうとマスターがここに座る意義はあるとカナデは思います。≫
「・・・吹きつける風と同じくらい冷たいフォローあり。今度カカシかマネキンでも作ればいいんですね・・・わかります。」
この孤独な御者台から逃れようと思った時期が俺にもありました。他の人でも簡単にイケるんじゃないの?と声に出して抗議もしてみたりした。だが、街の外に出てからまずはミリーが代わってみたいと言うので代わってみたら全然進まなかった。この世の真理かと思うくらいの舐めプ仕様のお馬さんたちである。若干お馬さんたちが嘲り笑っているように見えたがきっと気のせいというヤツだろう。
次にテトにゃんがやってみたが真っ直ぐ進むのは問題ないが曲がったりするのが苦手なようで結構見ててハラハラする。あと御者台はスカートが向かないという事もわかった。すれ違う人の視線や表情などから俺にはとても良くわかった。あれは眼で追ってるパターンの顔や。次見かけたら塩を眼に擦り込む勢いで飛ばしてやろうそうしよう。
ちなみにニコは御者台に1人で座らせるのが危ないので俺という椅子をご利用になるが、この状態だとほぼほぼ俺が御者をしているのと変わらない結果を生んだ。どうやら俺が見える範囲にいるとこちらの空気に従う仕様のようだ。流石は視野270°を誇る草食動物。真後ろにいてもチラ見で神対応とかマジKY。ハリンさんは大体テトにゃんと変わらんかったから割愛。
《―――あと300mほど進んだ先に右方向へ延びる薄い轍がありますのでそこを右折します。その後、そのまましばらく道なりに進んでください。本日は渋滞もなく快晴。ドライブ日和ですね、マスター。・・・・・間もなく、右です。》
「異世界なのにそんな雰囲気がなくなる程のナビっぷり。流石はカナデさんっす。」
《馬車のナビは案内役として非常に有意義な仕事です。強いやりがいを感じます。》
労働の喜びを識るとは・・・社畜の素質があるということですねわかります。
《カナデの存在意義をおかしな方向に結び付けないでください。あまりに堪えがたい場合は馬車を危険区域に誘導いたしますよ、マスター?》
「あ、すんませんした。調子乗りました。」
若干1名の愚者が冷や汗をかいたものの、馬車は大地をゆっくりと行く。賢いお馬さんたちに牽かれて爽やかな風を受けながら僕らを運んで進んでいく。平穏無事に何事もなく。平和そのものを体現したかのような青空と白い雲と共に・・・。
「『きっと今日は何も危険なことはないさ!』もありか?もしくは『これから行く森は、深いところに行かなければ子供でも安心して行ける場所なんだよ。』とか?あー、『俺の実力を知ってんだろ?こんな街近くの森なんかでやられるかよっ。』なんかも良さげだな。」
「なんでかわからないけど、あんまりよくない気がするのー。」
「おっ、もしかしてテトはフラグわかっちゃう系?いやぁ~これだけフラグ乱立させておけば逆に安全という都市伝説を参考にしてみたが、どうだろうか?」
「フラグってなぁになの?」
「そういえばまだ説明してなかったっけ?フラグっていうのはそうだなぁ~。言葉で表現するのはちょっと難しいんだけど、すっごく簡単にまとめちゃおう。なんとなく前向きな発言や平和なこととか夢や希望に溢れる誓いを立てたりってのをすると、それを世界が妬んで破壊しに来るっていう事象のことを言うんだよ。」
「世界が・・・?と、とっても怖そうなの。」(ごくり)
「うん、とっても怖いの。でもだからこそそこに真っ向から対峙することによってフラグ機能そのものを壊せるんじゃないかって思うんだよ!具体的には処理落ち狙いに近いかな?言葉を重ねる度にセリフが軽くなる効果も狙ってるんだけどうまくいくかなー。」
ん~説明しづらいから微妙だなー。テンプレとか既定路線とか予定調和的な言葉を先に教えた方がいいんだろうか?それっぽいことを言えばそれっぽいことが起きたりその真逆のことが起きるって最早概念に近いもんだしなー。イベントの分岐処理的な話しをしても理解は難しそうだしそもそも説明がかったr・・・ケフン。
「前向きなこと、なの?う~・・・。それならソウのお怪我が早くよくなりますように、なの!」
ずきゅーーーんっ!!だ、ダメだ!それはいけない!その攻撃は俺に良く効く!!ハートに重い一撃がががががggg!!!
「う、うん。それも前向きの範囲だと思うけどそれだとお願いごとになっちゃうからちょぉっと違う・・・かな?うん。でも普通に嬉しい。素直にありがとう。」(テレテレ)
「そうなの?うぅ~難しいのー。」
「でもでも!なんか怪我が治る気がしてきた!いまなら腕とか生やせそうな気がする!!きっとテトが願ってくれたから近日中に生え始める気がするよ!ありがとう、テト!」
先程の発言はテトにゃんがフラグの説明を受けたあとに前向きなこととして言ってくれた訳だが、それを言ってしまうと想いが叶わないように世界が壊しに来るって部分はスルーだったんだろうか?と後になって気づく俺氏。お、俺の腕が治らないようにって言ってたわけじゃないよね?ね?ねっ?
《ポーン。間もなく、目的地、周辺です。運転お疲れ様でした。本日の運転時間は2時間41分です。走行距離は32kmです。ナビゲーションを終了いたします。》
「いやいやいやいや、別に日本のナビよろしくそんなアバウトにしなくていいから!カナデさんはGPSじゃなくて俺の眼で現在位置確認してるでしょ?!最後まで連れてってよ!」
《失礼いたしました。先ほどマスターがナビっぽくしろと仰っていたのでこちらの方がいいかと思いまして。》
「言ってないし?!急にボケとかやめてよ・・・カナデさんがボケちゃったら俺がボケられないじゃん!」
《カナデの数少ない出番ですので多少の遊び心はご容赦ください。キャラ立てです。》
「メタい発言っすわー。てか最近キャラ気にしすぎじゃないかな。カナデさん十分出番ある方だと思うよ?マジで。」
《登場キャラが増えるとカナデは影が薄くなる仕様です。自分のことは自分が1番理解しています、マスター。》
「そんな仕様どっから来たんだってばさ。」
まぁ、カナデさんには肉体がないから発言比率がそのまま死活問題だっていうのはわかるけどさ。
「やっぱり馬車は早いのね。歩いたら朝から昼にかけてかかるものなのに。」
「いつもは徒歩で来るの?」
「えぇ。いつもならまずはここからもう少し北の方にある猟師小屋を確保するか、もしそこを使われていたら西へ進んで色んな人が使う野営場に行くわね。陽のある内に往復するのは大変すぎるから。」
それもそうか。徒歩で往復ならそれだけで12時間くらいかかるし、朝めっさ早く出ても数時間しか狩り時間確保できないんじゃ効率悪すぎるもんね。ちなみに運が良ければ乗合馬車も出るらしいが不定期とのこと。特に天気が悪いと出ない傾向が強いらしい。
「ならまずはその猟師小屋を覗いてみようか。空いてたらラッキー程度で駄目なら他に拠点作ろう。」
「それならあっちね。」
ハリンさんの誘導に従って少し北に進んでから停車。森に入らないと小屋は見えないと言うので一緒に行こうと言ったら断られた。小屋を利用している冒険者がいたらトラブルになりやすいから人数は少ない方がいいらしい。わいわい言ったら目立つもんね。
「それならこの近くで採集でもしとくよ。植生も知りたいし。何かあったら大きな声を出して呼んでくれればすぐに行くし。」
「そうね。その時は遠慮なく頼らせてもらうわ。それじゃ。」
それだけ言うとスッと森の中へと入っていった。ここの森は東の森よりも少し濃い気がする。それは木々の間隔が狭いというのもあるがなんとなく空気が濃い?みたいな?
「それじゃ待ってる間に採れる物採っちゃおっか。薬草類と食材系が狙い目かな。あ、そういえば依頼ってどんなの受けたんだ?」
「今回の依頼はお肉と果物よ!」
「予想以上にアバウトだな。種類の指定は?」
「特にないらしいわ!」
「えっと、お肉はいつでも不足してるし果物も街の特産品だから、いつでも需要があるみたいなこと言ってたの。」
「肉・・・となると狩りか。罠とアタックの両面でやってみようかな?あ、でも近く人がいたりしたら罠は微妙か。」
「馬車に積めるだけ狩りましょう!あと、あたしがたっくさん食べれるくらいに!」
やる気があるのはいいことだが、狩りがそんなに簡単に行くとは思えない。そもそも難しいのは仕留めることじゃなくて見つけることって言うからなー。視界が利かない森の中じゃ俺の『視覚強化』もあんま役に立ちそうにないし。
お肉に関しては獲れたらラッキー程度の思いでとりま山菜や薬草類の採取に取り掛かる。ポーションの原料はいくらあってもいいし、マーグル婆さんの店にはポーション瓶がまだまだあったのは確認してるから問題ない。
それに東の森と違って食べれる物が多いこと多いこと。キノコ類含めてすぐに麻袋がいっぱいになるレベルだ。
《そちらの茎が紫色で葉が大きい植物も食べることができます。根に毒がありますので下部は切って捨ててしまうのがいいでしょう。》
「りょーかいっと。」
剥ぎ取り用にと貰ったナイフがここぞとばかりに活躍をしている。いままでずっと持ってるだけのシーンが大半だっただけにこうして陽の目を浴びることになってコイツも喜んでいることだろう。森の中なのでほとんど陽は当たらんが。
「てかマジで視界が悪いな。強襲されたら対処に困りそう。」
《そうですね。現状最も頼れるのはマスターの『気配知覚』と『魔力操作』の複合探索ですが、それも遮蔽物が多い関係で精度が落ちてしまっています。》
ぐぬぬ。安全を買うつもりで取得した『気配知覚』だがやはりそこは最下級スキル。中級スキルである『魔力操作』の助けがあってもここらが限界か。
《この世界に魔力がない物質や生物などほぼ皆無ですので影響を受けるのは仕方のないことでしょう。それでも半径20メートル程度は情報を拾えていますので十分だと思いますが。》
「えー?でもさ、この世界の敵対生物的にそんな距離って一瞬じゃね?って思うんですけど。下手したらちょっと強めのウサギとかが一足飛びに詰めてくる距離感かもしれないし?」
《ご推察の通りですが、感知さえできれば対処は容易です。》
いやな予想が丸っと当たったらしい。いやん。
「――――っん?誰か来た?」
「こっちに来てたのね。小屋の方見てきたわよ。」
「ハリンさんか。お疲れー。」
まだ俺側からは姿が確認できていないが声から察するにハリンさんで間違いなさそうだ。
「おかえりなさーい。で?で?どうだった?」
「残念ながらダメね、ミリーちゃん。複数の人が使ってるみたいだったわ。」
「なら仕方ないわね!どうするの、ソウ?」
「ふむ。そっちがダメならもう少し北に移動してから野営にしよう。水場があるんでしょ?」
「良く知ってるわね。その通りよ。」
カナデさん情報ですから当然です。ハリンさんと合流したので再度馬車に乗って北へと進む。道がさっきよりも更に悪くなってきてかなりガタガタと揺れる。時折ケツを蹴り飛ばされたんじゃないかってくらいの衝撃が俺を駆け抜ける以外は特に問題がないと言えるだろう。ただしケツは割れる。
「これでも揺れが軽減するようにパラレルリーフ式サスペンションで作ってるのに。折角寝る間も惜しんでカナデさん授業を耐えたのに!」
《いくら衝撃吸収に優れていようともあくまで防振です。タイヤがコレでは焼け石に水でしょう。》
カナデさんが言うコレとは車輪に鉄を巻いただけの状態を指している。有り合わせの素材だから仕方ないと訴えたいところだが、妥協しないでゴムを召喚して使えばよかったと後悔してるところもあるので気分的に言い返せないのだ。
「・・・だって、ゴムって高かったんだもん。」
本当は俺だってゴムで車輪を作りたかった。そうすればいまの揺れの8割は抑えられた自信がある。でも高い。何故高いか?それは当然絶対数が少ないからだ。この世界にもゴムの原料になる木があるらしいがそれは自生してる分しかない。もっと植林してガンガン増やしてほしい。そうすればデフレるのに。
「代替素材に何かあればいいんだけどねぇ。」
他にもいくつかモンスター素材などの候補はあったがむしろそっちの方が高かったのでお話しにならなかった。今度自生してるゴムの木(仮)でも探しに行こうかと本気で悩む。このままでは俺のお尻が死んでしまう。こんな悪路を走らなければ特に問題はないのはわかっているが・・・わかってはいるが・・・ぐぬぬぬぬ。
「あ、見えてきたわ。あの池が野営にはちょうどいいわよ。」
ハリンさんが指さす先に見えたのはそこそこの大きさの池だ。なるほど。これなら警戒するべき範囲を削れて楽になるか。深さはどれくらいかは知らんが水の中を進んでくる生き物は限られるだろうし。
「じゃ、ここからは予定通り二手に分かれるか。」
つまりは野営準備組と狩主体組だ。野営の準備はそんなにすることが多くないので俺とニコとミリーで十分。人数比的にはこっちが多くなるが実質は俺1人みたいなもんだ。ニコはともかくミリーは野営と狩りのどちらに行っても戦力にはならなさそうだし。
「それじゃ私にできる範囲のことはなるべく教えてあげられるように頑張るわね。」
「うん、よろしくお願いしますなの!」
テトにゃんはレンジャー系の技能を教わりたいらしい。先ほど馬車の中でハリンさんにめっさお願いしてたのを目撃ドキュンしていたが社交辞令じゃなくて本気の方だったのか。まぁ、テトにゃんは猫の獣人(半分だけ)だけに普通の人より五感が鋭くそっち系の技能向きだってのは理解できるが、それにしてもあの気合の入りようはちょっと不思議だ。
《マスターと共にいるために戦う力や役に立つ技能を身に付けたいのでしょう。》
「健気すぎるだろ。胸がきゅんってするわ。てか俺と一緒にいるのにそんな特殊技能要らんのだが?」
カナデさんが変なことを言ってくる。別に俺はテトにゃんに有能さを求めてないんだけども。
《現在テトにゃんの主はマスターです。自身の居場所を確保する意味で有用な技能を身に付けることは有効だと思われますが?》
「それは違うだろ。使えるとか使えないとかで一緒にいるんじゃないし、それはテトもわかってることでしょ。」
普段は全然意識していないが未だに【隷属の首輪】は外していない。カナデさんはそのことを言っているんだろう。今のところメタリカーナの街中でそこまで酷い種族差別を受けたこともないから別に要らないといえば要らないと思ってはいるものの、変な輩に絡まれることも考えられるのでそのままにしている。
この世界っていうかメタリカーナの街での奴隷っていうのは俺のイメージと若干違い、ある程度の金や権力を持ってるヤツらの所有物って認識があるらしく、トラブルを恐れるって意味合いで避けられやすいようだ。ちょっと違和感があるが、ある意味で身元がしっかりしている証左にも成り得るってのもある。変な話しだがそれがテトにゃんとニコを守ってくれているのは事実だと思う。
「そうだよ。2人にはそのこともちゃんと説明してるし、もう少し街や周囲に馴染めたら首輪なんか外したっていいんだよ。」
表立った差別がいまのところ殆どないあの街のことを考えても難しいのはわかっているが、やはり近い内に首輪は外してあげたいと思っている。けど、フリーの状態になったら人攫いに狙われたりしそうで怖い。2人とも可愛いし、テトにゃんに至っては半獣人だし。
「難しい問題だよ。」
出口の中々見えない思考を切り替えるといつの間にかテトにゃんたちはいなくなっていた。どうやらもう出発したらしい。挨拶くらいあってもいいんじゃないかとプリプリしようと思ったらカナデさんに《行ってきますと言ってましたが?》とツッコミを受ける。聞いてたなら教えてくれよ・・・。
あんまりぼやぼやしてると陽が暮れちゃうのでサクッと野営の準備を進めていこうと思い、ニコとミリーを見ながら考える。なんでミリーがいるんだろう?
《先ほどマスターが班分けをしていた際と同様の振り分けですが?》
と、カナデさんは仰るがそれはそれ、これはこれ。なんとなくテトにゃんのことが心配になったのでうちの番タヌキを向かわせるのにいっさら躊躇いなどあろうハズもなし。
「ミリー、野営の準備は俺とニコでやっとくから先にテトたちと合流しといてくんない?」
「ほえ?別にいいけど、あんたたちだけで平気なの?」
「普通に余裕だよ。それよりあの2人だけじゃ戦力的に厳しいだろ?面倒みといてくれよ。」
「えっ?!あっ、そ、そうね!そういうことならこのあたしに任せなさい!なんせこの中で1番ランクが高いのはあたしなんだから!すぐに追いつくわね!あたしに任せれば馬に騎士よっ!!」
何故か慌てふためきながら意味フなことを叫びながら森へと突っ込んで行ってしまった。テトにゃんたちがどの辺りにいるかちゃんとわかってるんだろうか?
《馬に騎士は正確に言えば馬に騎士が乗るが如しというこの地方での言い回しですね。鬼に金棒に近いイメージですが、適任や適切といったニュアンスも含まれるようです。》
特に知りたいとも思っていなかった解説をいただいてしまったが、どうやらそういうことらしい。あの脳筋タヌキ娘のミリーがことわざ風なことを口にするなんて幸先が悪いというか縁起が悪いというか・・・。
「何もなければいいんだが。」
などとプチフラグっぽいことを呟いてしまったのをすぐさま反省。この手のフラグはあかんですたい。ミリーが迷子になるフラグならいいけどテトにゃんたちに良くない事が起こる系はいただけない。さっさと後を追わねば。
「てことでニコ、ちょっと手伝っておくれ。」
「ん!」
傍らでずっと大人しくしててくれたニコの頭をなでなでしつつ声をかける。サラサラの髪が気持ちいい。まずは簡易かまどに使う石を集めることと枯れ木や枝葉を集めることから始めよう。これは単純に手分けすればおk。石は手ごろなのがあったのですぐに集め終わり適当に組み上げる。
次は今回の野営地を簡易かまどから半径30mくらいとして簡易結界で覆っちゃおう。全部を囲うほどの大きな魔法陣を描いてる暇はないからまずはぐるっと一周円を描く。補助用のポイントとなる陣をこの円周上に6ヶ所描いて代用しようそうしよう。周りの魔力を利用したいから魔力自動吸引の簡易版術式を書き足してーっと。
「陣の属性は火をベースで・・・かまどの火を発動維持の動力源にすればイケそうだな。かまどの周辺に基盤術式として防御の結界を―――(カキカキ)。」
うん、そこそこいい出来かな?あとはいつもの触手原料の灰を撒いてー。あ、馬車から馬を外すの忘れてた。ギリギリ池の端っこも結界内に納まってるから水も飲めるし雑草だって食べ放題だってことで十分だろ。それ放牧ー。
「ん。木、足りる?」
「ありがとニコ。これくらいあれば一晩大丈夫そうだね。それじゃ火をつけるからちょっと離れててねー。」
簡単に組み上げたかまどに枯れ枝を組んでから魔法を発動する。イメージは燃焼。燃焼系のアミノ式ではない。あれをイメージしてしまったら雑技に勤しむナニかが召喚されてしまう可能性も無きにしも非ずだから気を付けるよろし。
周囲の魔力と酸素とついでに水素も収束して全部を燃料に燃える炎を思い描く。『冒険級火属性魔法』の炎をイメージする感覚で。いや、あれじゃ強すぎるな。せめてマッチやライターくらいでいいや。うん。あとは分子の運動が加速するんだったか?細かいことはこの際いいとして、イメージと感覚でどうにかいってみようやってみよう。
「そんでもって、イメージを十分固めたところで『生活魔法』『種火』発動!」
イメージに合わせて指先から魔力を放出。これが先ほど収束した諸々と反応して延焼という現象を引き起こす・・・イメージ。それそれそれーと続けていく内にぼんやりあったかくなってきた?つまりはこの辺の感覚が火っぽいあれか?ふむふむ、多分熱い。きっと熱い!温度が上がってきた気がす――――ボッ
「ぃよし!」
イメージしたよりちょっと大きな火が出てしまったがまぁ結果オーライご愛嬌だ。なんでか知らんがアルコールランプの最大火力よりいささか大きいのが出ちゃったけど問題はないだろう。卵くらいの大きさだけど炎ってほどでもないし大は小を兼ねるってことで。これで魔法陣や精霊の助けを借りないでも火を出せるようになったな。ちっさい火だけだけどもこれもまた成長だろう。
そうこうしてる内にすぐに火が枝葉に燃え移り大きくなっていく。ここに息をフーフー吹きかけて勢いをつけてやれば・・・ほらこの通り!立派なプチキャンプファイヤーに!ってちょっと火が大きくなりすぎ!燃えやすい物詰め込みすぎたかもしれない。あまり燃えるのが早いと燃え尽きちゃって困ってしまうー。
「てことでニコさん、そこのちょっと太いのここに入れちゃってー。」
「んー。そいっ。」
ボスンッ
「うわちちちち!ちょ!火の粉が飛ぶからゆっくりやって?!」
「んわわっ!・・・わかたー!」
2人してちょっと慌ててしまったが無事に火の用意はできた!ニコさん豪快につき取扱いご注意っす。マジパネェすわ。えーっと、あとはこの火を始点に結界を発動っと。魔力をヌルっと魔法陣に込めると一瞬だけカッと光るのを確認できたのでここはこれで良し。続けて外周の補助用魔法陣も作動させてからリンクを作ってと。
今回は火属性で作ったから物理的な防御機能は皆無だ。火で物理とか頭おかしいもん。なので、外敵が侵入しようとしたら単純に熱い壁に阻まれる仕様になってるハズ。わかりやすくちょっと熱くて嫌な気分になるだけなので威力はしょぼんぬだけど問題ないだろ。知らずに熱い思いすれば騒がしくなること請け合いだし、もしかしたら驚いて逃げるかもしれんし。
敵認定は魔力を勢いよく当ててくるモノにしてある。獲物を狙う生物の特徴として自身が敵対する相手に害をなそうとしている時は魔力的なサムシングというかまんま魔力そのものが相手に向かってガン飛ばしされるのを利用した判定装置だ。悪意も敵意もない侵入者は素通りという恐ろしくゆるゆるな結界だけど俺にかかればざっとこんなもんよ。安定の低クオリティでも許しておくれ。だって、これ以上のクオリティを実現するにはどうせ道具も材料も色々足りないし、何より頭がおかしくなりそうなくらいの例の解放をしなきゃならんのですもの。心の準備がなかなか・・・ね。心なしかカナデさんがチラチラ見てくる様子が幻視できる。やらないよ?まだいいからね?
「じゃあそろそろ後追い始めますか。オバナとフランクはここで大人しく待っててね。」
「ん。いてきまー。」
「「ブルルルルルヒヒヒン。」」
いまの返事は俺に対してなのかニコに対してなのか全然さっぱわからんけど気にしない方向でいこうと思う。動物の声を聴くのは俺にはまだハードルが高いみたいだ。
いちおうの野営準備を整えたのでニコと共に森へと入る。ここら辺はさっきちょっと入った場所よりも更に濃い。空気がひんやりじっとりしてる感じと言えば伝わるだろうか。ムリ?ですよねー。
「ニコ、手ぇ繋いでこ。」
「んー。」
歩きづらいし視界が利かないのではぐれ遭難予防としてお手てを繋ぐ。ニコの手は小さくぷにぷにしてる。指もめっちゃ細いし爪もちっさい。お肌もスベスベである。何故なら水仕事をさせていないからだ。そこのところはやはし俺、グッジョブ。
やっぱ生活の疲れがにじむ様子よりもこうして健康的な方が良い。何より肌触りがいいし匂いもいい。健康優良児こそ至高である。これはあくまで子育て環境の話しであって他意はない。本当だ。信じてほしい。別に俺好みに育てて将来は結婚だなんて思ってない。思ってないですからね?
「でも絶対将来美人になるよなぁ・・・。」(ぼそっ)
《マスター・・・まさか・・・?》
いえ、いくら彼女いないからってそういう擦り込みみたいな真似はしませんよってからに。マジで。マジなので!やだなぁもうカナデさんったら疑わないでよ!変な噂とか立ったらどうしてくれるのさ!
俺が小声でぼそぼそ言ったのがいくらか聞こえてしまったのかニコが小首を傾げて不思議そうな顔をする。コテンだ。このコテンが俺を惑わせ・・・いやいやそんなバカなロリコンじゃあるまいしHAHAHAHAHAっ。てかこれほどまでの歳の差婚は流石にちょっと引きますって。一回り以上違うじゃないですかやだもーバカー。
《?マスターは0歳でニコは恐らく1桁台だと思われますが?》
っっ?!まさかの俺氏、年下展開!!いやいやそこはほらなんていうかアレだよアレ!俺の精神年齢でカバーしちゃおうよ!前世年齢も足してくださいお願いします!
俺の至極真っ当で当たり前な主義主張を鼻で笑い飛ばす我が家のナビゲーターさんと喧々囂々と口論を繰り広げること脳内時間で小一時間ほど。実際かかったのはきっと刹那的あれそれなんだろうけどそこはそれとして前を向いて生きていきたいお年頃だったりする。
「それにしても、テトたちがどっちに行ったか全然わからんな。」
目印や集合場所の相談もしないままに解散してしまったのが今更ながらに悔やまれる。草木を踏んで進んだと思われるがその跡なんか俺みたいな素人にわかるハズもなし。
《乱雑に切られた草などを追えばミリーは見つけられると思いますが。》
「いや、そっちはいいや。多分テトたちを探す方が難易度高そうだからこっち優先度高めね。野生のタヌキは飯でも作れば帰ってくんべさ。」
さしあたって、テトにゃんたちと合流する方法を考えるも特に思い付く頭もないので魔法に頼ればいいじゃないの精神で術式の要件定義を練りながら歩き進める。
「そうだな。近くにいる可愛い女の娘を見つける魔法を作れば解決するか。」
《マスター、貴方はアホウですか?》
カナデさんが何か言っている気もするが、いまは魔法を考えるのに忙しいので後にしてもらわないと。なにせこの魔法が完成すれば世界が変わるのだから・・・。
お読みいただきありがとうございます。
ここのところ東の森ばかりだったので久々の新天地(近場)です!
いやぁ~やっぱり異世界ですから冒険と旅(近場)が醍醐味(笑)ですよね?ね?
安全な街を飛び出して屋根のない過酷な環境でこそ磨かれる冒険者としてのなんやかんやが見れることを期待していますよ!想くん!(日帰り)




