サイドストーリー ソウの依頼 城砦の矛
今回のお話しは少しだけ時間が遡ります。
城砦の矛メンバーがポーションの材料を取りに行くお話しです。
ちなみにミリーとの時間軸を合わせた形で書いていますので、彼らの冒険の詳しい様子は閑話で書いていく予定です。
本編が半端なところですがお付き合いいただけると幸いですm(_ _)m
「まぁ、その辺りは些か不安はあるものの、無事に帰ってきてくれればそれでいいよ。昨日も言ったけどムリはしないこと。焦らないこと。命大事に、の3つくらいは守ってね。」
「あぁ、肝に銘じておくさ。それじゃああたしらは行くよ!再開までしばしの別れを!友に笑顔を!」
「うん、しばしの別れを!友に笑顔を!」
異国人であるハズのソウさんは慣れ親しんだかのように友敬の挨拶を返してくれた。やっぱり不思議な人だね、この人は。
「さて、今回の依頼は難易度がかなり高いよ!みんな、気合いをたっぷり入れておいておくれ!」
「「「おうっ!!」」」
ミリーのやらかしちまったことのお詫びとしてソウさんから貰った依頼はあたしらが受けれる難易度ほぼギリギリのラインだった。
もしソウさんに事前レクチャーを貰ってなかったら正直手に余る難易度になっていただろう。
「それにしてもソウさんのあの情報ってどこまでが使えるんだろうね?」
「おや、フッドは信用してないのかい?」
「またまた。リーダーもわかってるでしょ?情報は鮮度が命な上に状況によっては正否が変動するモノだしね。3割くらいでも役立てば御の字かなって。」
「・・・普通はそうさね。」(ぼそり)
フッドは軽口を叩くがそれはいつもの伝手やギルドで受け取る情報の場合だ。ただ、今回に関しては情報源があのソウさんだ。正直すべてが嘘かすべてが本当かってくらいイレギュラーだと考えていいんじゃないかとさえあたしは思っている。
「なんとなく普通じゃない気がしてならないんだよねぇ・・・。」
誰もいない平野に向かって呟いたあたしの声は誰にも届くことなく虚しく溶けていった。
――――――――――――
「せいっ!」
「プギオォ・・・。」
「ふむ、メタリカーナの街から半日程度で随分とモンスターの数が増えおったな。」
「ツオー爺!私の方も終わったよ!」
「カンロ、解体までやって終わりだといつも言っておろう。タンロ、ハンロ、フォロー頼む。」
「はいっ。任せてください!」
「はーい。ほらカンロ、<ウィード・ウルフ>こっちに持ってきて。」
「あははははははっ!怒られちゃった!ごめんね!ツオー爺!」
「フッドは引き続き周囲の警戒を。テッチ!来ておくれ!ツオー爺とこのイノシシをさばいておくれ。モノリは姉妹の護衛を頼めるかい?こっちはあたしが受け持つよ。」
そろそろ昼休憩にでもしようかと思っていた頃にイノシシを襲っている<ウィード・ウルフ>を発見して討伐した。イノシシは奮闘してたみたいだけど随分とやられていたから、皮は使い物にならないだろうね。
「出先でいいもんが手に入ったと思っておくくらいがいいかね。食べきれない分は野営の時にでも燻しておくかい?」
「そうですね。<ピアド・ボア>より小さいですがそれなりの量のお肉が取れそうですし、今日中には食べきれませんもん。これはお料理のしがいがあります!」
「配分は任せるよ。水場はないが一旦ここで休憩にしよう。」
解体が一段落したら街道の端に馬車を寄せて火をおこす。街中に比べて不便もあるけど旅には旅のよさってもんがあるとあたしは思ってる。
「リーダー、肝臓や心臓はどうします?もう、食べちゃいましょうか?」
内臓もその内の1つだ。街の中で新鮮な内臓を手に入れるのはまず不可能。自分たちで得た得物を処理した時にしか口にできないぜいたく品というか嗜好品だ。猟師だった父ちゃんは肝を食うほどに強くなれるとか言ってたけど、ただ単に好きで食ってたとしか思えやしない。
「あぁ、イノシシの分は食っちまおう。」
「やったぁ!あ、私横隔膜も焼きたいんですけどいいですかっ?」
「テッチはそこ好きだね?あたしは心臓を少しばかりもらえれば満足だよ。」
「はいはーい!私は肝臓が大好きでーす!」
「カンロはいつもそれね。私はあんまり内臓は好きじゃないからいいわ。」
「ハンロ姉は好き嫌いが少し多くないかしら?」
「そういうタンロもあんまり好きじゃないじゃない?」
「うっ。で、でも最近は横隔膜は食べられるようになったもん!」
「うまいのに勿体無い!内臓を食えば強くなる!特に筋肉にはいい栄養なんだぞ!」
「これモノリ、そうは言われているが無理強いはよくないのではないか?食の好みはそれぞれでいいではないか。」
「ツオーさんが言うと重みが違うねぇ~。あ、俺はすこーしだけ脳を貰ってもいいかな?最近ハマってるんだよねぇ。」
「「「それはない!」」」
「え?あれ?そ、そうかな?南の方じゃ結構普通に食べられてるらしいよ?ホントだよ?」
「いつもならここでミリー辺りが「えっ?そうなの?じゃ、じゃああたしも食べてみるわ!」なんて言うわよね。」
「うむ。ミリーは真っ直ぐに育ったからな。」
「あれを真っ直ぐって言っていいのかしら・・・。」
「まぁ、根は良い子に育ってくれたさね。それに今頃は街での生活でゆっくりしてるハズさ。少しずつでも昔の感覚を取り戻してくれてるといいんだけどねぇ。」
談笑しながらの遅めの昼食は続く。肉を焼く音と笑い声が辺りに響いていた。
―――その頃のミリーは―――
東の森の中、冒険者たちの悲鳴を聞きつけて救援活動を行っていた。ソウの放つ『炎弾』でひとしきりのモンスターを屠り、助けた冒険者である鼻息荒い系男子と空気系男子と共にトドメを刺して回る。
動くモンスターがいなくなっても鼻息荒い系男子はモンスターに剣を突き立てることを止めずに興奮していたが、
「お、俺は死なねぇ!死んでたまるかぁ!」
叫ぶなり更に森の奥へと駆けて行ってしまう。
「ちょ、待てよ!待てよ!」
慌ててあとを追う空気系男子。
「ちょっと!これ以上深いとこなんて危ないわよ!戻りなさい!」
それを見たなりミリーも駆け出していた。このあとすぐに鼻息荒い系男子ことベンタクと、空気系男子ことドンタクに囮にされ<ピクシー・ゴブリン>の群れに囲まれた。
「くっ!お、お前らなんかに負けないわ!」
ブンッ ブンッ
自らの拳を『魔硬』で強化しながら振り回し<ピクシー・ゴブリン>をけん制する。数が多く周囲を囲まれている。さっき背後からの不意打ちをくらったのが痛い。ベンタクに次会うことがあったら『魔硬』で殴ってやるんだから!と強く心に秘めながら戦い続けるミリー。
バンッ!
目前に迫る<ピクシー・ゴブリン>の顔面に右の拳を突き立て、続けざまに左を!と思った時には周囲に群がる他の<ピクシー・ゴブリン>に腕を掴まれていた。
ガブッ
「いたっ?!こん・・・のぉ!!」
ゴッ ゴッ
お返しにと<ピクシー・ゴブリン>を殴りつけるが、まとわりつく<ピクシー・ゴブリン>たちによって勢いを殺され手打ち状態のミリーは有効打を放つことができなかった。
ゴチッ!
「あぐぅっ・・・。」
後頭部に痛打を受けて意識を手放してしまったミリーはすぐに<ピクシー・ゴブリン>の群れに飲まれ、連れ去られてしまった。
―――昼食からしばらく後―――
「今度は<ピクシー・ゴブリン>の群れかい。さっきの昼食の匂いにひかれちまったのかね。」
見れば5,6匹の<ピクシー・ゴブリン>が近づいてきていた。だが、元来臆病な性格の<ピクシー・ゴブリン>たちは遠巻きに『城砦の矛』のメンバーを見るだけで襲い掛かってこようとしない。自分たちよりも人間の方が多いからだ。
「放っておいてもいいことはないね。ツオー、モノリ、お願いできるかい?」
「うむ。」
「ま、ザコが相手でもただ歩いてるよりかはマシだわな!」
バルムからの指示を受けた2人は気負うことなくゆっくりと<ピクシー・ゴブリン>に近づいていく。
「タンロ、ハンロ。弓で支援してあげておくれ。多分森に何匹かいるだろうしね。」
「はい!」
「仕方ないわね。」
「あたしらは少し進んだところでまた止まろう。フッド、先行して偵察をお願いできるかい?」
「まっかせてよ!500ミットほどでいいかな?」
「十分さ。」
バルムの確認を取るとフッドは駆け出して行った。そのすぐ後に<ピクシー・ゴブリン>との交戦が始まり周囲が騒がしくなるが、数分でそれも納まった。
「全部で8匹だった。それなりの規模だが後続はないぞ。」
「報告どうもね、ツオー。怪我は?」
「みんな無事です、リーダー。」
「よかった。それじゃさっさと石だけ取って埋めちまおう。まったく、こいつらは素材もないのに手間だけかけさせるんだから・・・厄介だね。」
「ちげぇねぇな。」
はははと笑いながら手際よく穴を掘っていくモノリ。鍛え上げられた筋肉に任せてかなりのペースで穴を広げていく。
「相変わらず穴を掘る速度が異常ね。」
「助かってるんだからいいじゃん!ほら!ハンロ姉!見てみて!私も穴掘るの早くなったよ!」
「・・・カンロ、もっと森側に掘りなさい。ちょっと街道削っちゃってるじゃない。」
「えっ?!ここダメだったの??」
「はぁ・・・ミリーでもしないわよ。そんなミス。」
「うっそだー!ミリー姉ちゃんならきっと私と同じだよ!だってミリー姉ちゃんだもん!」
「まぁ、昔は同じようなことをやっていたがな。いまでは大丈夫だと思うぞ。ほれ、ここは儂が埋めておくからもっとあっちの方で穴を掘るといい。」
「はいはーい!」
タタタとかけていくカンロのあとをタンロが追っていく。どうやらお目付け役を買って出たようだ。
「そのミリーは今頃どうしてるのかしらね。」
「ソウさんに預けてきたからね。きっと彼女ならなんだかんだと悪いようにはしないさね。」
「そうじゃな。酒に酔ったどこぞの誰かさんにも丁寧に対応してくださっていたしな。」
「うっ。それを言われると頭が痛いね・・・。でもそういうことさね。できればあたしらが帰るまでに1,2回でいいからソウさんと一緒に<ピクシー・ゴブリン>狩りくらいはしておいてほしくはあるけどね。」
「放っておいたら鍛錬もしない性格だしね。けどあのソウって娘は戦えるの?強そうには見えなかったけど。」
「あぁ、みんなは見てないから仕方がないさね。ソウさんは至近距離でミリーの『魔硬』状態の拳を正面から受け止め、避けるだけの技量を持ってるよ。」
「なんとっ?!」
「・・・もしかして?」
「いやいや、ソウさんは『魔硬』持ちじゃないよ。その際に大怪我負わせちゃったから間違いないと思うね。」
「・・・そう。」
「それであの怪我だったのか。だが、ミリーの拳か。ソウという娘っこは見た目と違う何かを持ってるのは確かのようじゃな。」
「そうなんだよ。だから、できればソウさんにはミリーのヤツの稽古、とまではいかなくても何かしらの経験をさせてあげてくれたらと思うんだよ。勝手なのは承知の上でね。」
身勝手なことだと思いながらもミリーの成長を彼女は望んでいた。
―――その頃のミリーは―――
「・・・・・・・ん。・・・・はっ!」
粗末な小屋の中でミリーは眼を覚ました。
「つぅっ!」
全身いたるところに痛みを覚え声が漏れるが、<ピクシー・ゴブリン>の群れに襲われていたことを思い出しすぐに周囲を見渡す。
「・・・なに?」
見ると、頭部を失ったり胸の辺りから出血しているモンスターの姿が幾つもあった。
「おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!おでざまの、部下があああぁぁぁ!!誰だあああぁぁぁ!!!」
野太く凶悪な声に振り向くとそこには巨大なナニかがいた。
「見たこともないモンスター?!何よコレ・・・どうなってるの??」
焦るミリー。状況がわからず困惑するが、相手が怒っているのだけは伝わってくる。すぐに臨戦態勢を・・・
「えぇっ!?ミリーのヤツめちゃくちゃ声野太くない?!さっきまで普通の少女声してたのに僅かな時間で何があったの?進化しちゃったとか???」
「はあぁぁぁ??!あ、あたしの声のわけが・・・って?!」
「おおぉぉーーーがああぁぁぁああ!!」
ゴッ!
「きゃあっ!!」
動き出した巨体の腕、と思われる部位で横殴りにされた。巨体に見合った恐ろしい膂力で弾き飛ばされ壁に当たる。
ドゴンッ!
ミリーは再び意識を手放した。
―――『城砦の矛』一行がゴブの処理を終えた頃―――
「あー!見てみてバルムさーん!あそこにある木の実、食べられるんじゃないかなー!!」
「んん?あぁ、リンジュの実かい。少し酸っぱいだろうけど十分食べられるヤツだよ。いくつか取っておいでよ。」
「やったー!おっやつ!おっやつ!ほらほら!ハンロ姉!タンロ姉!行こうよ行こーー!!」
「きゃっ!ちょっとカンロ!そんなに引っ張らないでー!」
「・・・リーダー、私も行くわ。リンジュの実を食べたい人は?・・・1、2、3・・・全員ね。わかったわ。」
3姉妹が再び進みだした隊列を離れ森のはずれに進んでいく。それから間もなく先行していたフッドが帰ってきた。
「リーダー!暫く行った先に小さな小川があったよ!ここからまだ少しかかるだろうから野営するならあそこが丁度よさそうだね!」
「ありがとうフッド。それなら今日の拠点はそこにしようかね。」
「あれ?3姉妹たちは?」
「ちょうどすれ違いだったな。彼女らならホレ、あそこでリンジュの実を取ってるぞ。」
「あちゃー、なんだ。リンジュの実があったのか。行きの時は気付かなかったよ。」
「周囲の警戒をしながらじゃ難しいだろう。数が足りればお主の分も取ってきてくれるかもしれんぞ?」
「ホント?のども乾いてきたからできればほしいね。ミリーには悪いけどこれは依頼組の特権ってことで!」
にこやかに笑うフッドにツオー。誰もがミリーの危機を知らない。
「バールーム―さーん!沢山採れましたよー!」
和やかな雰囲気の中、彼らはリンジュの実を食べ始めるのだった。
―――その頃のミリーは―――
<オーク>?によって殴り飛ばされた際に負った怪我を、ソウのサポートと下級ポーションによりある程度癒されていた。しかし、まだ意識を取り戻すにはいたらなかったようだ。
「おーい!ミリー?起きれー!早よ起きれー!おっきしないと引っ叩くゾー!」
そんなミリーにかけられる遠慮のない言葉。
「鼻摘まんだりしたら起きないかな?」
更なる追い討ちをかけるソウ。実際に鼻をギュウッと挟みミリーの息を止める。
「う~ん・・・う~ん?」
苦しさにもだえるミリー。
「早く起きないとご飯抜きだよ~。」
「ご飯?!どこどこどこどこやだあたしのご飯どこ?!」
ゴンッ!!
「ふぎぅっ?!」
「あぐん?!」
ご飯コールにより目覚めたミリーはソウのアゴに頭を強打し身悶えていた。
「いってーなこの石頭!いやさ、鉄頭!!お前の頭にはいったい何が詰まってんだよ!砂か?石か?砂鉄なのか?!」
「~~~~~たたたたたたぁぁ・・・。って何よそれ!!あたしの頭には賢い妖精さんが住みついてるに決まってるでしょ?バカにしないでうぎゅっ?!
う、うでが痛いわ!なんで?こ、これ・・・折れてるじゃない?!なんで?なんで?なんでなの?!」
利き腕を骨折し、改めて自分の身体に意識を向けてみると数えきれない傷があることに気付いた。記憶にないし理由を思い付きもしない。そんな困惑状態にあったミリーはソウに言われて更なる事実を知った。
なんと、着ている服がボロボロになっていたらしい。気が動転して気付けなかったようだったが、ソウが外套を貸してくれて事なきを得ることができた。
その後、ソウがモンスターの後処理ついでにショートソードを拾ってくれ、キレイな布までくれた。これで汚れた所を拭けということだろうと思ったミリー。
だが、森の中で清潔な布や上着は必要性は高いが準備するのが難しい品だとバルムより教えを受けていたのでミリーは強く困惑してしまった。
そのせいもあり少しばかりぶっきらぼうに渡してくるソウに、
「え?あ、うん。なんか、ありがとう。」
と返すので精いっぱいだった。ここまで気遣ってくれると思ってなかった。1人で突っ走っちゃったし、いまにして思えば見捨てられてもおかしくなかったかもしれない。そんな当たり前の恐怖が胸の奥に生まれてくるのを感じた。
腕の治療を施され、落ち着いてきた所で男の冒険者に囮にされたことを思い出した。意識せず口から洩れたムカツクという言葉にソウが反応する。
「それだけ生きることに必死だったんだろう。まぁ、俺もムカついたから細い方の顔面ぶん殴っちゃったから、人のことあんま言えないんだけどさ。」
「・・・殴ったの?」
「あぁ、ロングダガーを握りしめながら全力でな。鼻折っといたから帰ったら見てみるといいよ。」
その言葉を聞いた時、思った以上にすっきりした!自分でやらないと意味がないと思ったのにどこか不思議な感覚だった。
一連のやり取りが済んだらソウは残りの片付けをするから妹たちをよろしくと頼んできた。
「わかったわ!この子達はあたしが守るからね!任せなさい!」
「いや、そういうのは要らないんだけど。お前だって怪我してるじゃん?怪我人を働かせようとは思わないよ。それに、多分骨折してるからこのあと熱出たりするぞ?なるべく体力をムダにしないようにしないと街まで保たないぞ。」
「そ、そういえばそうね。いまは不思議と体調が悪くないから忘れてたけど、前に骨折した時も2日くらい熱が続いてパーティーメンバーにも迷惑かけちゃってたっけ。」
まだ冒険者に成りたての頃を思い出した。あの時はバルムさんに迷惑かけちゃったな。
「ま、とにかくそういうことだから、いまはゆっくりしててくれ。テト共々異変があったら知らせてくれるとありがたい。」
でもソウは迷惑と思って言っているんじゃないってわかった。優しさで言ってくれてるんだって。胸の奥が・・・あったかくなった気がした。
「う、うん。わかったわ。」
なんとか返事を返してから妹ちゃんたちのいる場所へと移動したが、すぐに疲労から眠りについてしまったミリーだった。
―――『城砦の矛』一行サイド―――
「もうすぐ野営ポイントに着く。速度を落とすから焚火に使えそうな枯れ木を集めておくれ。」
バルムの号令を受け、手が空いている者は散っていった。『城砦の矛』はそれなりに大きなパーティーだ。小さいながらも幌馬車を持っているが、パーティーの規模に比べて大分小さい。乗車用ではなく運搬用の物でしかないのがわかる。
僅かながらに空いたスペースでうたた寝をしていたのは姉妹の末の妹カンロだ。女性にしてはそれなりに大きな身体を器用に折り曲げて挟まるようにして寝ていた。
「ほらカンロちゃん!そろそろ着くから起きてよ!晩御飯の準備、手伝ってくれるんでしょ?」
「・・・うーあー・・?あ、ご飯!ご飯食べる!食べるよテッチ姉ちゃん!」
ガコン ゴッ ガラガラ
「うわわっ!ちょ、ちょっとカンロちゃん?!荷台の中で暴れないでー!?」
「いたたたたたたた・・・。うっとー・・あれ?あー、寝惚けちゃってたみたい!ごめんなさい!」
「それはいいけど怪我はしてない?まだ旅の初日なんだから気をつけてね?」
御者台からカンロに声をかけるテッチはやや呆れた様子だ。
「それに、そんなに焦らなくても今日はミリーちゃんがいないからきっと夕食もゆっくり食べられるわよ。今日はイノシシのお肉もあるもの。」
「そっか!ミリー姉ちゃんほど食べる人いないんだった!寂しいけど、沢山食べれるね!」
うふふあははと笑いあう2人。『城砦の矛』は大きな問題もなく今日という日を終えられそうだ。
―――その頃のミリーは―――
ソウがテトの治療をしている際、眼が覚めてしまった。全身に残る痛みや倦怠感に眉をひそめるしかできないでいたミリーだが、徐々に瞼が重くなり再び眠りそうという時になってソウの手によって地面へと降ろされた。
遠く聞こえる声では治療だのなんだのと言っていたと思う。だが、その半分も理解できないままにまどろんでいたら全身を優しくて暖かいなにかが包むのを感じた。その直後、滑らかな手が、指が、ミリーの身体を撫でていく。
くすぐったいような、甘くとろけるような不思議な感覚。それとほぼ時を同じくして消えていく身体の痛み。先ほどまではただただ早く時間が経って、怪我がすぐに治ってくれることを願っていたがいまは逆にこの気持ちの良い時間が少しでも長く続いてくれたらと思わずにはいられなかった。
(あたたかい・・・きもちぃ・・・。)
何度も太ももやお腹回りを手が行き交い、その都度気持ちの良い波が押し寄せてくる。まぶたが重くて開けられないけど、もっと、もっと・・・ほしい・・・ほしいな・・・。
だが
やがてそれも終わってしまう。暖かかった手が、指がミリーから離れてしまう。名残惜しい気持ちが強くあるが、余韻に浸るのもまたわるくないとまどろみ始めた頃に大きな声がかけられた。
「だ、だがしかし!1点だけ俺にも活路がある!そう!これは治療行為なんだから訴えられなければ俺の勝ちだ!周りがなんと言おうが、このレベルなら同意さえ得られれば問題はないハ・ズ・だ!ミリー!起きてるんだろ!直ちに起床し俺の身の潔白を証明してくれ!」
折角余韻に浸っていたのに・・・大きな声で眼が覚めちゃった。そっか。さっきの暖かくて気持ちがいいのはソウの手だったのね。
「治療はしっかりしたハズなのにまだ炎症残ってたか?腕が痛むか?大丈夫か?おい。」
またソウの声が聞こえる。まだ少し頭がぽーってしちゃうけど、これは心配してる声。怒ってないのがわかるから。
「・・・い・・ぶよ。」
「はぁ?」
「だ、だいじょーぶ・・・よ。」
・・・あれ?なんでかしら?ソウの方を向いていつもみたいに話せない・・・かも?
「なんでそんな声が小さいんだよ?調子悪いならすぐに言えよ?ここは街中じゃないんだから黙ってたってイイことなんて何もないんだからな?集団で行動する以上、情報の共有は常識だからな?」
「わ、わかってるわよ!それくらい言われなくても知ってりゅし!」
・・・か、噛んじゃったじゃない!ソウがしつこいせいよ!絶対そうに決まってるんだから!
「それに、あたしはだいじょーぶよ!もう全然元気に決まってるじゃない!!」
それから頭は撫でられるわ急な暗闇で泣いちゃうわで散々だった。きゅ、急に暗くするとか反則よ反則!こんな歳にもなって暗い所が苦手だなんて知られたくなったのにぃ!
そして、気付いたらまた寝ちゃってて次に気付いた時にはソウが<オーク>のヤツに襲われていた。
「た、大変じゃない!すぐに助けるわ!待ってなさい!!」
すぐにいかなきゃ!でも何かが絡まってうまく動けない?
「あれ?なによこれ?!外套が絡まって起き上がれな・・・きゃあっ?!」
姿勢を崩して倒れてしまったあたしにソウの声が届いた。
「ミリー!お前怪我してること忘れるなよ!左腕まだ完治してないんだからな!!」
「そんなハズないわ!だってもう全然痛くないもの!それに、<オーク>はすべての女性の敵よ!絶対に倒してやるんだから!!待ってなさい!!」
怪我はさっき治してもらったしいまは絶好調なんだから!見てなさい!これを・・・こうして・・・こうやったら・・・ほら!出れたじゃない!これなら!!
「喰らいなさい!バルムさん直伝の突撃よ!!・・・っっっつ!!!?」
~~~~~っ?!!か、かたすぎよ!!何よこれ?!
「ぷぎおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
<オーク>の反撃に備えてたらソウがダガーを<オーク>の眼に突き立てた。すごい・・・あたしの攻撃は全然効かなかったのに。
その光景に茫然としてたあたしをソウが抱き抱えるようにして引っ張ってくれた。そうだ、<オーク>の傍でボーっとしてるなんて!し、しっかりしなきゃ!
「ミリー、そのショートソード貸せ。」
「う、うん・・・。」
あたしから奪い取るようにしてショートソートを構え直したソウは魔法?でショートソードを強化して<オーク>に襲い掛かった。
「死ね豚野郎!!」
「グゥウゥゥウゥ・・・・」
すごい・・・あの<オーク>の強靭な肌を一撃で?
「豚の血が非常に気持ち悪いな。全身に浴びてしまった・・・血生臭い。」
はふぅ~と気の抜けるような息をつきながらソウが近づいてくる。
「おいミリー、どうしたんごっ!!!」
物凄い勢いで弾き飛ばされていくソウ!そんな・・・<オーク>はもう倒したんじゃ?そ、それよりもソウは?!
「ちょちょちょっと!だだだだいじょーぶなの?!すごい勢いで木に当たってたけど?!」
「あぁ?あぁ・・・多分、な。それより豚は?」
「豚?え~っと、<オーク>のこと?」
そ、そういえばあまりにも衝撃的で<オーク>から目を離してたわ!あ、倒れてる。よかったぁ。
「アイツはアンタに攻撃したあとまたすぐに倒れちゃったわよ!どうやら最後の攻撃だったみたいね?多分だけど・・・。」
そうソウに伝えるとブツブツと文句を言いながらもモンスターたちにトドメを刺していく。なんか信じらんないくらいに血が出ちゃってるけど、だ、だいじょうぶなのかしら?
そんなあたしの心配をよそに解体を始めるソウ。
「あ、<ピアド・ボア>のお肉はね!普通のイノシシよりも美味しいのよ!勿体無いから持って帰りましょう!」
大事な事なのでしっかりと伝えておくと、ソウも少しだけだけどお肉を確保してくれた。そのあと麻の袋でモンスターの死体を吸い取ってたのには本当に驚いたわ。驚きすぎて顔中の穴から何か出るかと思ったくらいよ。
あたしがそんなことを考えていたらソウの表情が一変した。何かあるのかしら?
「ミリー、<ピクシー・ゴブリン>だ。数は・・・まだわからんが少なくとも10以上。お前どれくらい戦える?」
「嘘!?10体以上も!!?」
さっきあたしが<ピクシー・ゴブリン>に囲まれた時は何匹いた?それ以上だったら・・・でもソウだって血塗れだし、あたしがどうにかしなきゃ!!
「う、ううん、あ、あたしにかかればそれくらい全然余裕よ!いままでだって沢山のゴブをやっつけてきたのよ?そのあたしが、このあたしが!ゴブごときに負けるわけがないじゃない!」
「いや、正確な情報が欲しい。お前はいままで何体までなら同時に戦ったことがある?できればお前1人とゴブ数人って場合が聞きたい。」
うっ・・・ソウのこういう細かいところって嫌いだわ。
「・・・ぃわ。」
「あー?」
「ないわ!ないわよそんなこと!だって!だってあたしはバルムさん達といつも一緒だったもの!1人でなんかモンスターと戦うことなんてほとんどないわよ!」
当たり前じゃない!あたしはずっとバルムさんたちと行動してたんだから1人でモンスターと戦うなんて全然ないわよ!でもいまはそんなこと言ってられないじゃない!
「そうか。それもまぁ当然と言えば当然だな。それならミリーには防衛を頼む。テトとニコが乗ってる荷車を守ってくれ。このまま全力で荷車を牽いて森を出るんだ。殿は俺がやる。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!アンタ1人で戦うつもりなわけ?!そんなのムリに決まってるじゃない!バルムさんもゴブが多い時は逃げろって!」
「そう、だから逃げるんだ。お前が先に逃げてくれ。俺もあとから逃げる。それならいいだろ?」
「そんなのできないわ!あたしも残る!残って戦うわ!見殺しになんかできないもの!」
ゴンッ!
「いったぁい!!ちょっと!なにすんのよ?!」
「・・・なぁミリー。俺はお前に荷車を守ってくれって言ってるんだ。その意味がわからないのか?本気で怒るぞ?」
嘘よ!こんなに怪我してて、足の速いアイツらから逃げるなんて絶対ムリよ!
「だって!」
ゴンッ!!
「口ごたえすんな!さっさと行け!森を抜けた方が生存率が高い!早くいかないともっと殴るぞ!!ニコ!悪いがミリーと一緒に荷車を押してくれ!俺も後からすぐに行く!」
あんなに怪我してるのにどうしてこんなに力が強いのよ!?バルムさんのゲンコツ並に痛いわよ!!?
「ヤ!イヤよやめてよ!!?行けばいいんでしょ?いけばぁ!!もーーー!!」 「ん!ソウ!ぜったい!」
あたしは荷車を押して駆け出していた。ソウのゲンコツが怖かったのもあるけど、それ以上にソウの妹たちを絶対に守らなきゃって思ったから!そのタメにソウは残るんだってわかったから。
走って、走って、1度だけ振り向いた。ソウの周りには数えきれないくらいの<ピクシー・ゴブリン>の死体が転がっていた。どうやったかはわからないけどきっとソウが倒したんだ!あんな怪我をしてるのに凄いと思った!格好いいって思った!
「ギギャギャギャギャ!!」
「うそ?!」
回り込んできていた<ピクシー・ゴブリン>に追いつかれてしまった!
「んー!」
荷車の後ろを一緒に走っていたニコちゃんが手にした杖で<ピクシー・ゴブリン>を叩いた。小さな腕で懸命に叩くが<ピクシー・ゴブリン>は少しだけ怯んだ後にニコちゃんを襲おうとしている。
「させないんだから!」
地面を思い切り蹴りつけてムリヤリ止まってから更に蹴りつける!飛び掛かるように<ピクシー・ゴブリン>へと近づいてーかーらーのーー!
「喰らえー!!」
『魔硬』を乗せたパンチを打ち付ける!
ボゴッ!
<ピクシー・ゴブリン>の顔が一気にひしゃげて転がりとんでいく。なんとか間に合ったわね!
「イイけん制だったわ!」
「ん!」
お互いのケントーをたたえ合うあたしたち。
ガサ ババッ!
足音に驚いて振り向くと、どこかで見た覚えのある冒険者の姿が目に映った・・・けど、誰だっけ?
「冒険者・・・冒険者よね?助けてほしいの!ソウが!ソウがあっちで!!」
「任せろ小娘!!ふはははははは!!」
大きな筋肉の塊みたいな人?が最後まで聞かずに森の奥に駆けて行った。だ、だいじょうぶよね?助けてくれるのよね?
「またか。ブデノードさんは話しを最後まで聞かないからな。」
「仕方がないこと、ということで。ところで貴女は『城砦の矛』の?」
「そう!そうなの!あたしはミリアリア!『城砦の矛』の、バルムさんのところのパーティーメンバーよ!いまは別行動中で奥にいるソウと一緒にここに!あと、えと・・な、なんだっけ?!ニコちゃんわかる??!」
「ん。・・・ソウ、たすけ・・・て。」
「そう!そうなのよ!ソウを助けて!ヒドい怪我なのよ!!」
もう陽が落ちようとしてた森から脱出できたのはそれからすぐのことだった。こんな時間に冒険者に会えたのは運がよかったとしか思えないってあとでマーグルお婆さんに言われた。あたしもそう思うもん。
それから色々あってソウは8日も寝てた。その間はソウの看病したりテトとニコちゃんと一緒に薬草の採集をしたり、簡単な依頼を受けたり、戦うための練習をしたりした。ソウの怪我の治りが尋常じゃなく早かったのはちょっと怖かったけどそれくらい。
あたし、バルムさんたちと冒険してる時よりもずっと成長してるんだって、そう思うわ!
・・・・・・でも、こんな少人数で<ピクシー・ゴブリン>の巣を潰したり謎の洞窟を探索したり地底湖に落ちたり、知られざる迷路を進んだりお話しでしか聞いたこともないようなミノタウロスと戦うことになるとはこの時は全然思ってなかったことだけは確かね。
―――『城砦の矛』:メタリカーナの街を出てから8日目の夜―――
「今日はここで野営するよ。もう目的は果たしたからね。ムリはしないで確実に街へ帰るんだよ。」
バルムの声が響く。ここはメタリカーナの街から徒歩で2~3日といったところである。街道にいくつもある休憩所の1つに彼らはいた。
休憩所といっても軽く地面がならされていたり、かまどを組みやすい岩がいくつも一ヵ所に集められ転がっているだけの場所だ。戦略的価値はないが野営の拠点としては都合がいい。
「あー・・・それにしてもこんなに苦戦するなんて聞いてないよー。ソウさんも人が悪いんだから。」
ブーたれているのはテッドである。今回の旅程も、依頼に関する情報もほぼほぼソウの言う通りであっただけに唯一の想定外とでもいうべきことに納得がいっていなかった。
「苦戦したのはあたしらの実力不足だよ。ソウさんのくれた情報でかなり楽ができたのは確かだしね。火色蜥蜴だって、弱点を聞いてたからすぐに倒せたじゃないか。」
「そいつにしたって逆に情報がなかったら全滅してたかもしれないじゃないか!蜥蜴なのに2足歩行で走り回るなんて有り得ないよ!」
「強敵だったのは認めるけどね、あたしらの腕を信じて頼んでくれたって思うほかないよ。現に情報はホンモノだったし、ソウさんの利益にならないコイツのことだって教えてくれたんだからね。」
ジャララ
バルムが掴みあげたのは硬貨の様な丸く硬質なモノが幾つもついている貝だ。今回の目的地の目印になっていた湖に生息する特殊な貝で、このジャラジャラと音を立てている部分が装飾品として高値で取引されている。
「それにしたってそうさ。なんであんな若い娘がそんな情報を知っているんだか。俺も長く情報関連には触れちゃいるが、全然知らなかったよ。」
「・・・独自の情報ルートがあるのか、もしくはソウさん自身が凄腕の・・・いや、これはないか。」
「大体ね、ソウさんのことをどれだけ」
―――ザザザザザ
「夜襲だ!皆、備えよ!」
「ツオー!相手は?!」
「わからん!四つ足ではありそうだな!」
「四つ足か・・・<マーダージャック・ウルフ>じゃないことを祈るさね!みんな!焚火から離れるんじゃないよ!」
夜はモンスターや野生の動物の世界だ。彼らはそれを十分承知しているからこそ明かり火を重宝している。夜間の焚火はモンスターや動物たちをおびき寄せることもあるが、それ以上に迎撃の為に必要不可欠である。故に多くの火を起こしている彼らだがそこまでしても辺りを照らす光は満足な量があるとは言えなかった。
「見えづらいね!誰か!姿を確認したのはいないかい?!」
「はいはーい!狼さんだよ!きっと<ウォー・ウィード・ウルフ>だよ!」
「最悪じゃないけどその一歩手前じゃないかい!」
短く悪態をつく。想定している最悪、<マーダージャック・ウルフ>よりも格が落ちるとはいえ相手はそれなりだ。あとは数次第で難易度が大きく変動するが・・・。
その日現れたの<ウォー・ウィード・ウルフ>は全部で4匹。素早く動き闇夜に隠れる大きな狼の群れを相手に『城砦の矛』のメンバーは奮闘した。バルムと3姉妹。ツオー、モノリ、フッド、テッチの2組に分かれて互いの死角をカバーして迎え討つ。
「モノリ!前に出過ぎないで!」
「くそ!タイマンなら敗けねぇのにな!!」
「この明かりでは視界が悪すぎる。ムリはいかん。」
「おらあぁ!!」
ドシッ
「ギャワウン!」
バルムの大戦斧が1匹の<ウォー・ウィード・ウルフ>を切り裂く。それとほぼ同時に<ウォー・ウィード・ウルフ>と<ウィード・ウルフ>がまとめて突っ込んで来る。
「カンロ!」
「はいはーい!」
ハンロとカンロがバルムの死角をカバーして突進を受け止める。そこに割り込んだバルムが<ウォー・ウィード・ウルフ>を蹴り飛ばす。
「ギュ・・ウン」
「行くわよ!」
カシュン! ドッ
タンロの放った矢が蹴り飛ばされて体勢を崩した<ウォー・ウィード・ウルフ>の腹部に突き刺さった。
「次!」
カシュン! カシュン!
「うー・・・早すぎて当たらないかも。」
「上出来だ!おらよ!」
タンロの矢を避けた<ウォー・ウィード・ウルフ>へ跳躍とともに槍を突き出すモノリ。ズブリ、ズブリと立て続けに<ウォー・ウィード・ウルフ>の身体に深々と槍先が沈んでいく。
「まずは1匹ぃ!」
「油断するでない!」
叫ぶモノリを狙う影をツオーが切り捨てる。一撃で首を半分ほど裂き絶命させる。その間にカンロとハンロが押さえていた<ウィード・ウルフ>をバルムが叩き潰すと残りの気配が遠ざかっていくのを感じた。
「ふぅ。どうやらここまでのようだね。」
「や、夜襲なんてやめてほしいです。」
「テッチに同感。これだけ血の匂いが濃くなっちゃうと他のが来るかもしれないよ。はぁ。」
溜め息と共に同意を返すフッド。
「仕方ないさね。今日は夜襲警戒を更に強めるよ。いまから移動するよりはまだマシなハズさね。」
「移動中ではロクに明かりも取れんしな。それしかなかろう。」
「はぁ・・・。今頃ミリーはベッドで寝てるんでしょうね。羨ましい限りだわ。」
「ハ、ハンロ姉。それは言っちゃダメだってぇ。」
「・・・そうね。いまのは失言だったわ。」
皆普段以上の難易度の依頼を達成しやり遂げた嬉しさを感じていたが、それ以上に大きな疲労を抱えていた。想定以上に強い周囲のモンスターへの警戒や、ミリー以外にも今回参加できていないメンバーがいたために夜間の見張り交代も難儀していたからだ。
(ミリーの尻拭いの為と思って受けた依頼だったけど、そのミリーの罰が街でののんびりとした生活っていうんじゃみんなの不満も・・・。)
ミリーを置いてきたことを後悔したくはないが、そう思わずにはいられないバルムであった。
―――その頃のミリーは―――
「やっ!・・・はっ!・・・くぅぅぅ・・・とあー!!」
『魔硬』を使ってミノタウロスを殴っていた。かろうじてテトラリアが壁役を担ってくれているから生存しているが、少しでもミノタウロスの気がミリーに向けば即座に殺されるだろう状況。
更には例え意識していなくともミノタウロスの動きを読み違えて振るわれる腕や足に当たるだけでも致命傷が考えられるある種の極限状態でミリーは戦っていた。
もちろんバルム達はそのことをまだ知らない。
お読みいただきありがとうございます。
普段は出てこないキャラが出てきて新鮮な気持ちになれました!
って作者の気持ちはどうだっていいよ!というツッコミが多数来そうですが、皆様も楽しんでいただけたら嬉しいです(*´∇`*)




