光神教 迫害差別と猫耳と
感想、評価をいただきありがとうございます(*´∇`)
読んでくださる全ての方々へ感謝の祈りを捧げながら、本編第65話を投稿させていただきますー!
これからも皆様に楽しんでいただけると幸いです(*´∨`*)
今回は少しだけいつもと違う感じです。
前回のあらすじ
ピンクツインテ豊かな娘
異世界の自宅警備員
初めてのまともなダンジョン
アンナベル置き去り計画
「―――以上をもって汝等の神奉とする。」
「このクレオリオ・モーキンス、殉教司祭として恥じ入ることなきよう神への奉公を成し遂げることを誓います。」
「よろしい。この世界中にあまねく全知神様の御威光へ影を射すことなどは・・・これ一切許されざることである。くれぐれも留意の上、任に励むが良い。」
「はっ。全知神様の御光りにかけまして。」
朝陽射し込む交信教会の中で、厳かな空気をたたえながら辞令式が行われていた。
そこには頭を垂れ、片膝をつき、恭しく両の手を掲げて巻物のようなものを受け取る銀髪秀麗な青年の姿がある。その巻物には全知神よりもたらされた成すべき使命の内容が書かれている。
青年にを使命書渡しているのは白ひげを蓄えた老人だ。その身をゆったりとした真っ白な衣につつんでいる。この国では交信司祭と呼ばれる位にある男である。
名はドートル・アレイー。『聖なる光の降る国』の最南端に位置するサウスヴィエートと名付けられた街で、最高の権力を持っている男でもある。
彼は今、クレオリオという青年に教会の上層部からの指令、すなわち全知神より発せられた使命を言い渡しているところだった。
この国の在り方を知らない者からみたら多少奇異に映るだろうこの式は、建国以来変わらぬ様式を保ちながら今日まで伝えられてきた使命式なのである。
「うむ。良き返事かな。汝の旅路に全知神様のご加護があらんことを。」
「ありがたく。」
ドートルが場を離れ、続いてクレオリオも外へと向かう。居合わせた他の数多くの者たちはその様を憧れと尊敬の入り混じった眼差しで追っている。
中には興奮のあまり放心して倒れる者まで出る有り様だが、それもこの国では仕方がないことだろう。
何故ならこの国のほぼすべての人は全知神様を敬い、祈りを捧げる敬虔な信者なのだから。大抵の犯罪者ですらそれは変わらない。
ここ、『聖なる光の降る国』にはたった1つだけの宗教がある。国にいる者なら知らぬ者のない宗教、『光神教』だ。
全知神リリエル・コーロディアルを唯一無二の神と崇め、上位の信者は直接神の言葉を賜ることができる交信者で構成されている。
その組織は実に巨大であり、王侯貴族も全員が全員余すことなく入信しており、信者ではないものは異端者として扱われるほどである。政教合一。それがこの国の在り方だ。
「リュウケル。ディグダ。支度はできているな?」
「はっ!もちろんであります!モーキンス司祭!」
クレオリオの呼びかけに素早く応えたのは今回の任にて小隊長を任された男、リュウケル。
「滞りなく。」
折り目正しく応えたのはモーキンス家に仕える執事であるディグダである。
「ならばよし。早速南へ向かうぞ。全知神様の御期待に必ずや応えてみせよう!」
「はっ!」「御意。」
各々素早く動き小隊と共に街中を進む。その小隊をまだ朝も早いというのに多くの人間が見送っていた。
「モーキンス様に光を!」「クレオリオ様に祝福を!」
口々に叫び、諸手を挙げて小隊を送る。ここに居並ぶもの全てが笑顔を浮かべていた。
教会から街の外門までの距離は小隊の進む速度でおよそ10分程度。その間道の両端に並ぶ人の壁が途切れることはない。当然湧き上がる歓声も同様に、である。
ある者は花を投げ、ある者は笛や弦を奏でる。またある者は両膝をついて祈り、ある者は神の名を叫ぶ。
住民の、信者たちの力いっぱいの送迎を受けながら小隊は門をくぐる。その最後尾に位置する場所にてクレオリオは騎乗したまま後方を向き手を振っていた。
それから暫くの間小隊は一定の速度で進み、予定した場所にて早くも休憩を取り始めた。
「クレオリオ様、馬車をご用意いたしてございます。ここからはこちらへお乗り換え下さい。」
「あぁ。ここからは基本的にリュウケルに指揮権を渡して任せる。私は祈りの時間だ。」
「御意に。」
クレオリオはそれだけ言うと非常にしっかりとした重厚な造りの馬車へと入っていった。
それを見遣るとディグダは小隊長を呼びつけ先程の言を伝える。
「リュウケル殿、クレオリオ様はこれより祈りの刻となりました。よってここからはリュウケル殿を中心に隊を進めていただきたい。目的地までは出来る限り予定通りに進みましょう。」
「承知しました。目的地は隣国のダンジョンでありましたな。道程は12日程度。ゆるりと進めていきましょう。」
「よろしくお願いします。」
それから小隊は隊列を組み変え、馬車を囲むようにして行軍を進めていく。小隊の人数は全部で44名。『聖なる光の降る国』では一般的な小隊編成である。
この内7名の隊員が騎馬に跨り先遣隊となり先行する。また、歩兵も7名1組を集とし、1集が馬車の周囲を持ち場として配置され、更に2集が一定間隔で散らばり周囲へ警戒網を敷く。
そしてクレオリオが乗る馬車とは別に物資を積んだ荷車やお付の者たちが乗る馬車も数台後続に続いており、こちらもまた護衛対象であるため2集が付き添う。
合計騎馬を含め6集42名が小隊長リュウケル、ならびに副小隊長ユギの指揮下に入っている。
隊列は順調に進み、初めの補給地である村へと到着していた。
「モーキンス司祭御一行様!」
「あぁ、貴方はここの村長の方で相違ありませんか?」
「えぇ!えぇ!そうですともそうですとも!私はこの村の長を務めさせていただいております、メラーズと申します。以後お見知りおきを、どうかよろしくお願いいたします。」
「これはご丁寧に。私はモーキンス様に仕えております執事のディグダでございます。早速ではございますが、我らの休める場をご用意いただきたいのですがよろしいかな?」
「当然でございます!ですが、何分狭い村ですのでしっかりとした宿というもののご用意がなく、つきましては私の家をお使いいただければと。信仰の厚い者たちも数名集まっておりますれば・・・。」
「それはそれは。お心遣い痛み入ります。それでは―――。」
メラーズとディグダは既に決められていた既定路線の会話を並べていた。
これは『光神教』の一団が村を訪れた時は毎度繰り返される会話となっている。
「いつになってもこのやり取りだけは慣れぬな。」
リュウケルはこのやり取りに馴染めないでいた。彼は教会付きの騎士団であり、当然光神教徒だ。
だが祈りや式典の作法と違いこうした交渉事や通例といったものにはあまり馴染みがない育ちだったため、いまもまだ違和感を感じる立場であった。
「隊長様、騎士様方はこちらへお願いいたします。」
おずおずといった体で声をかけてきたのは村の青年だ。この青年は村の自警団をまとめる者で村長の身内でもある。
「わかった。厩もそちらか?」
「はい、そうでございます。どうぞこちらへ。」
リュウケルはこのようにわかり易いやり取りを好んでいたのもある。是か否かそのどちらかで考えられる会話は余計な勘繰りをする必要がないのが安心するようだ。
その日、モーキンス一行は村で歓待を受け翌朝早くに村を出ていく。
こうして村々を縫うように進んでいく一行は寄る村寄る村で同様の歓待を受けていく。
サウスヴィエートを出てから5日目についた村にて、執事であるディグダは村長と密談を交わしていた。
「学も技能も大してございませんが、どうしてもモーキンス様の元でより深く祈りをあげたいと申す者たちがおりまして。」
「そうですか。それは喜ばしいことですね。世俗を離れ、より一心に全知神様へ祈りを捧げようとは、何にも優る尊い行為です。」
「こちらの4名なのですが、御一行の御使命を妨げないことを第一と考えておりますれば、如何様に・・・。」
「ふむ、そうですね。此度の旅路は少々急ぎ足となってしまい、どうしても若いお嬢様方には厳しい道のりとなってしまうでしょう。
ですがモーキンス様は寛容な御方です。皆々様共にご同行いただけるかと思います。つきましてはこちらを・・・せめてもの身支度のあてになさるとよろしいでしょう。」
「いや、ありがたい限りです。」
村長に連れられてきた4人はいずれも若く、ようやく10を過ぎた者や10の半ばの者ばかりだ。
懐から取り出した布袋を村長へと手渡し、娘達を連れディグダは使用人たちが使う部屋へと進んでいく。
「お前達。この子らを村長から預かった。あとはいつもの通りに。」
「かしこまりました、ディグダ様。」
「じきに国境を越える。隣国に入れば代えはきかんからな、くれぐれも長く保たせるように。」
以降4人の娘達はモーキンス一行へと加わることとなったが、彼女たちの名前を確認する者は1人たりとていなかった。
これはモーキンスの一団ではいつものやり取りらしいが、連れられてきた娘たちは一様に身を震わせるばかりであった。自分達の先を案じて。
翌日、彼らは村を発ちやがて一行は国境を越える。『聖なる光の降る国』と『城砦鉄壁国』の国境だ。
予め申請を出し煩雑な手続きを済ませていたので滞りなく越境し、他国へと入ってく。この2国間は現在平和条約が、結ばれていて比較的安易に行き来が可能である。
それでも小さくない武装集団だ。本来なら荷物改めなどされるのが当然だろうが、この一団に対してそのようなことは行われない。
神の命を受けた一団とされている彼らを疑うこと、それそのものが不敬とされてしまうからだ。
故に彼らの旅路は順調に進む。初めに計画された道程も足止めを食うことを想定することなく組まれているのもそのためだ。
また、これだけの武装集団ともなると盗賊はもちろん、モンスターも中々襲うことをしない。
相手の脅威を推し量れない知恵なしが先遣する騎馬兵や、周囲を警戒する歩兵に切り捨てられる程度だろう。
「ふんっ!」
「グギィッ」
「他愛ないな。この辺りのモンスターはザコばかりか。」
「そのようだな。先程から小ゴブリンしか見ていない。」
「それに数も少ない。本当にこの先に難攻ダンジョンがあるのか?」
「それは俺にもわからんが、わざわざ他国であるウチへ救援を要請するほどだ。冗談ではなくあるのだろう。」
「しょぼいダンジョンだったら早めに済ませて街でゆっくりしたいものだ。」
「そうだな。ぬるい道だったが、やはり騎乗が続くと疲れも溜まる。それなりの宿で足を伸ばして寝たいものだな。」
「ははっ。違いない。」
「ん?あれは・・・あれが今回の目的地であるメタリカーナか?」
「もう見えたのか。早いな。」
「一旦戻ろう。リュウケル小隊長に報告だ。」
先遣隊で最も先を走る2名。フランクとアルマンは踵を返して駆け出した。
「リュウケル小隊長殿!メタリカーナの外壁が確認できました!道中外敵なし!以上です!」
「もう着いたか。わかった。報告ご苦労。馬に水をやってから持ち場へ戻るといい。」
「「はっ!」」
「ディグダ殿。聞こえておいでかと思いますが、間もなく着くようです。」
「どうやらそのようですね。では支度をはじめるといたしましょう。」
ディグダはクレオリオの居る馬車へと近づき声をかけ、リュウケルは周囲の兵に声をかけていく。
そのまま特筆すべきことは何もなく、一行は日が暮れるよりも早くメタリカーナの城壁近くへと辿り着いた。
「それではまずは領主家の館へ挨拶と参りましょう。」
「面倒であるが致し方あるまい。湯浴みも満足にできんとはな。」
「挨拶の前に身支度の時間程度は取れましょう。・・・その者は始末なさいますか?」
「ん?あぁ、そうだな。あまりに熱心に祈りを捧げるものだから既に天へと昇ってしまったようだ。脆いな。」
「かしこまりましてございます。誰か。」
「・・・はっ。」
「それをいつものように。」
「・・・はっ。」
使用人はディグダの目線が指すモノを見て眉1つ動かすことなく自らがすべきことを理解した。すぐさま耐水加工のされた頭陀袋を用意し作業に取り掛かる。
間もなくその作業が終わり一通り馬車の室内が整えられ、香を焚かれる。どうやら頭陀袋はすぐに埋められるようだ。数人の従者が作業に徹している。
「それではクレオリオ様、ご用意よろしければ。」
「大事ない。」
「かしこまりました。」
こうして一行はメタリカーナの城壁を通過していった。先頭は騎馬が、それから歩兵と馬車が一塊になり、クレオリオの乗る馬車のあとに続くのは荷車と出立した時よりも大きく数を減らした使用人たちの馬車である。
メタリカーナの街は西側の一角が貴族街として扱われている。ここに領主の別邸があるからというのもあるが、北西から流れ込んでくる川があることと街の更に西に領主の本邸があることが理由だ。
クレオリオ達は北門から入ってきたため、街の中を進むのは多少難儀した。兵が隊列を組んで進むようにできていないから当然である。
「道が狭すぎるな。ここの領主は何を考えている?これではまともに馬車が通れぬではないか。」
「仰る通りにございます。ですがこのような田舎街ではそれも仕方ないのでありましょう。そもそも馬車がどの程度普及しているのかもわかりかねます。」
「ふっ。所詮は亜人共を押し留める為だけにある壁か。我らの国と比べること自体が意味を成さぬということか。」
「左様でございましょう。」
「石畳が敷いてあるだけましと思わねばな。」
クレオリオは誰にともなく呟いた。彼の眼にはこのメタリカーナという街が酷く矮小であまりにも稚拙なものに映っているようだ。
しばらく揺れの激しい道を進み、領主の別邸へと到着した。先触れを出していたので領主家の使用人、並びに領主本人が出迎えの為に館の前で並んでいた。
しかしながらその数は少ない。クレオリオの感覚で言えば平時の出迎えの1/10程度にしか見えないそれに少なくない憤りを覚え声を荒げた。
「どうなっている!何故これほどまでに出迎えが少ないのだ!我らが世界をあまねく照らす全知神様の御使いであることが理解できておらんのか!!」
怒鳴り散らすクレオリオ。その彼の前に筋骨逞しく姿勢正しい偉丈夫が進み出て恭しく一礼をした。
「お初にお目にかかります。クレオリオ・モーキンス殿。私はここ一帯を王より任されたメタリカ家の当代当主、クリフレット・モルドレ・ド・メタリカと申します。以後お見知りおきを。」
「貴様がここの当主か!いったいどうなっている!?我らを愚弄しているのか!!」
「滅相もございません。恐らくモーキンス殿は誤解なさっておいでなのでしょう。
「誤解だと?これは異なことを。では申してみよ!何故これほどまでに少ない人数で出迎える!城壁にも我らを迎える者がおらんかったのだぞ!」
「当家に居ります使用人はこちらに居並ぶ者で総てでございます。また、ただいま兵はダンジョンと周辺の警戒の任についておりましてこの街には誰もおりません。」
「なんだと?この地方一帯を治める者の家にこれだけしか使用人がおらんのか?!」
「間違いなく。」
「クレオリオ様、どうやらメタリカ様が申していることは間違いないようです。こちらの魔導具でもそのように。」
「『真実を塗り固める箱』に反応がないとなると・・・信じたくないが真実なのか。」
「そのようです。」
「ならわかった。メタリカとやらよ。早計であった。許せ。長旅で疲れていたものでな。」
「・・・いえ。」
「故に私は早くに休みたいのだが、すぐに湯浴みは可能か?疲れを流したいのだが。」
「すぐにご案内可能です。どうぞこちらに。」
領主のクリフレットが先導しクレオリオやディグダたち複数の使用人を引き連れていき、執事長が兵達を厩や宿舎を案内していく。
まずはクレオリオが要望を出した湯浴み場へと通し、のちに夕食を振る舞う。その都度クレオリオが怒りを吐き散らしてはクリフレットが宥めるという行為を繰り返していた。
本来なら銘々落ち着いたところで一団の長であるクレオリオと領主家の会談が予定されていたが、クレオリオは何も言わずに寝所に引き篭もってしまったので取りやめとなったのである。
そしてクレオリオ一行が寝静まった頃、夜も遅い時間に領主の執務室の扉が叩かれた。
「お呼びでしょうか、父上。」
「あぁ、よく来てくれたな。取り敢えずかけなさい。」
「・・・はい。」
「話しには聞いていたがアレほどとはな。お前には苦労をかける。」
「いえ!この身が民草のタメになることなのでしたら当然かと!このエリザベート、否は有り得ません!!」
「そう言ってくれるか。すまんな、私にもっと力があれば・・・。」
「父上!皆まで言わずとも良いではありませんか!例のダンジョンは我が領内で対処するには相性が悪すぎたのです。それを解決できる手立てがあるのですから、僥倖という他ありません!」
「・・・そうだな。民の為にも他に手はない。悪いが割り切らせてもらうぞ。」
「はい!当然です!」
「先方は100日を期限にダンジョンを攻略すると言ってきている。だがそれも最大限に手古摺った場合の想定だろう。もしかすると10日か20日程度でことを成してしまうかもしれない。」
「そんなに早いのですか?」
「あぁ、彼らは聖魔法の使い手だ。全知神様の御加護は伊達ではないということだろう。」
「全知神様の・・・。」
「そうだ。故に早期に有言実行されると考えている。その時にお前がこの場にいないと困るからな。以降はこの街に留まってもらうことになる。」
「かしこまりました!」
「だがな、この屋敷の中には以降来るな。」
「なっ!何故ですか?!」
「・・・婚姻前の男女が同じ屋敷に寝泊まりしているというのは貴族家として外聞が悪い。わかるな?」
「・・・何故でしょう?」
「・・・いや、いい。この件に関してはタニアに任せる。お前はタニアの指示を聞け。」
「お父様!何故ですか?何故婚姻前の男女が同じ屋敷で寝泊まりしてはならんのですか?私は兄様や執事長たち使用人と一緒の屋敷で生活しているのですが!どうしてですか?!」
「それについてもタニアに・・・いや、できれば聞かないでいて欲しいが・・・どうしても聞きたくなったらタニアかメイド長に聞くように。」
「タニアかステラ長に、ですか?何故お父様ではダメなのですか!私はいま知りたいのですが!?」
「・・・私も今日は疲れている。わかるな?お前も疲れていることだろう。下がって休め。頼む。」
「くっ!・・・わかりました。帰ってタニアに聞きます。失礼いたします。」
エリザベートは悔しそうな顔を隠すことなく晒し、渋々頭を下げ部屋をあとにする。ホンの小さな声で「おやすみなさい、お父様」と呟きを残して。
「行ったか。どうにも男親だけではいかんな。こんな時にお前がいてくれたらといつも思うよ。」
小さなスタンドを手にクリフレットは嘆息する。そこにはいまは亡き最愛の妻の絵姿があった。
「いや、あの若造に差し出そうというのだ。悩んでも詮無きことか。」
窓の外で輝く月明かりに眼を細め、クリフレットは深いため息を繰り返すばかりだった。
夜が明けた早朝、クレオリオ率いる一団は既に動き出していた。昨日散々無礼を撒き散らした者達と同一とは思い難い光景だ。
「昨晩はよくお休みになられましたか?クレオリオ様。」
「・・・それを聞くか、ディグダ。」
「その御様子だとあまり芳しくなかったようですね。」
「当たり前だ!なんだあの寝所は?!道中泊まった村長の小部屋と大差なかったぞ!本当にここの領主家の家なのか!」
「間違いなく。ですが、財政面は貧弱で兵力も微々たるものしか持ち合わせていない以上それも致し方ないことでしょう。クレオリオ様と同じ子爵位であるとは思わない方がよろしいかと。」
「なん、だと?ここの当主が子爵?何かの間違いだろう?せいぜい豪商の類かと思われる程度の設備に歓待だったぞ?この国はそこまで疲弊しているのか?」
「いえ、ここの領がやや特殊なだけです。数年前から我が国と周辺領主から経済的に追い込まれていますから。おっと、これは口にしてはよろしくありませんね。」
「あぁ、例の件か。くそっ!それがなければこんな田舎の辺境地に来ることもなかったのだがな。全知神様のお導きではそうも言えんか。」
「左様です。それに、ここの領主の末娘は見目麗しいだけでなく、非常に頑丈であるのだとか。きっとクレオリオ様も気に入るかと。」
「見目がよく頑丈だと?ふっ、そんな眉唾信じられるものか。少なくとも見目だけは譲れんぞ?頑丈であればなんでもいいというわけでもないのだからな。」
「私も直接お会いしたことはありませんが、調査班に絵姿を描かせました。十分な上玉でしょう。」
「・・・ほぉ。これはこれは・・・。」
「道中は細やかな者しかご用意できませんでしたから、これならばクレオリオ様も満足されることでしょう。」
「あぁ、悪くない。全知神様の御使命を全うする喜びに加えて、これを持ち帰れるなら多少の我慢もしがいがある!ディグダ!お前も意地が悪いな!もっと早くにこの絵姿を用意せんか!はははっ!」
「申し訳ございません、クレオリオ様。ですが、お気に召したようで何よりでございます。」
クレオリオは絵姿を胸に忍ばせ上機嫌に振る舞う。その様子を安堵した様子で眺めるディグダ。クレオリオの機嫌を釣ることができたのが余程嬉しいのだろう。
それもそうだ。実はこのディグダが用意した連れの娘たちは行きの道程でほとんど消費してしまっており、あとは身の回りを任せるために連れてきた使用人たちが半数ほど残されているだけになってしまっていたからだ。
ディグダは焦る。このままではクレオリオの抑えが利かなくなってしまう。そうなったら国際問題にも発展しかねない状況だと理解しているからこそ切り札の1つである絵姿を切ったのだ。
結果、クレオリオの不満の大半を逸らすことが叶い戦果は上々。このままダンジョンへと向かえば娘の調達はいくらでもやりようがあるというものだ。
「では行くとしようか!」
士気高くクレオリオが声をあげ、一行はメタリカ領主家の見送りを得て東の門へと進み行く。だが東の門へとさしかかった所でその進軍の足が止められてしまう。
「なんだこれは?」
「どうやら冒険者の集団が集まっているようです。様子を探らせてきましょう。リュウケル殿。」
「なんでありましょうか、ディグダ殿。」
ディグダはリュウケルに声をかけ、冒険者のことについて調べてくるよう言付けた。暫くして冒険者の集団は門の外へと出て行ったころ、調査に行った兵が数人戻ってきて報告をあげてきた。
「どうやらこの先の森の中で異変があったとのことで、これから冒険者の集団が森狩りを始めるようです。」
「森狩りか。それだけでこの人数を集めるとは、かなりの大事か?いや、どうでもいいか。ディグダ殿どうやら我らには関係がない事柄のようですな。このまま進みましょうぞ。」
「ふむ、そうですね。それでは一旦門を出て隊列を組んでから目的地のダンジョンへと向かいましょう。」
「ザコ狩りごときであの人数か。どうやらこの辺りは文明が低いだけでなく戦闘力もロクにないらしいな。実に滑稽だ。」
『聖なる光の降る国』には冒険者があまりいない。それは各教会毎に騎士団を有しているからだ。
騎士団は正規の訓練を受けている。騎士団は魔法の訓練を受けている。そこが冒険者との大きすぎる差となって現れる。
個々の技量、集団での錬度、先を見通す戦術に潤沢な資金と人材。それらを抱える騎士団が謳歌する『聖なる光の降る国』で冒険者が肩身の狭い思いをするのは当然であるといえよう。
クレオリオがこの地域に明るくないのにザコ狩りと決めつけたのはそういった背景があってこそだった。
彼ら『聖なる光の降る国』の住民たちにとって、冒険者とは御用聞きや小間使いといった程度の認識しかないのだ。
「ここで1度部隊を再編いたします。隊列を組み変えて東を目指しましょう。」
一旦城門をくぐり、踏み固められた街道を陣取る。ここで隊列を適したものへと変じ進んでいくのである。
「フランク、アルマンの両名は先遣としてすぐに出ろ。範囲は最大で600ミットまで。あとはいつも通りだ。行け。」
「「はっ!」」
部隊の再編を急ぐ集団から2騎が駆け出していく。まずは先見。これが彼らも常套手段であり基本。なので、その大切な役割をこなす両名は視力に優れ索敵範囲が広い。
だが、彼らはその任を十全に果たす前に影を見つけてしまった。街道からやや離れた場所。大きな大八車を牽いているように見える数人の影を。
「おいフランク!アレは?」
「アレってなんだ・・・ん?あれは、牽き車か?」
「そう見えるよな。俺にもそう見える。リュウケル小隊長殿!」
「よい。牽き車とのことだが敵性は?」
「はっ!見える範囲には護衛らしき者もおりません!長い黒髪の者と赤髪の者が牽いているようです!ソレの傍にいるのは・・・黒髪の・・・いや、そんなバカな!・・・アレはまさか!?」
「・・・あぁ、アルマン。どうやら見間違いじゃなさそうだな。リュウケル小隊長殿!敵性あり!アレは・・・亜人です!!!」
「なんだと??!距離は?!」
「およそ400ミットほど!間違いありません!頭頂部に悍ましい獣の耳が確認できます!ご指示を!!」
「確かだな?モーキンス殿!有事であります!」
「聞こえている!亜人が街の近くをうろつく等・・・言語道断!すぐさま捕らえてここに持て!同行している者がいるなら切り捨てて構わん!!!」
「両名聞こえたな!すぐに駆けろ!容赦はするな!!」
「「はっ!!」」
騎馬を操る2名は目標へ向けて最速で突き進む。400程度の距離はあっという間に消え去り荷車の元へと到着した。
「そこの娘らよ!止まるが良い!我らは栄光ある光神教が騎兵である!汝らの傍らにあるその亜人を引き渡せ!」
「はあぁ~?急に走り寄ってきたかと思えば頭悪いことこの上ないこと叫び散らすなよ。ウチの可愛い可愛い愛妹のことを言っちゃってるのかな?
はぁ・・・。いい度胸だとは思うけどさ、死にたいなら他所でやれ他所で。これ以上臭い口を開くな。邪魔だから死ね?」
黒髪の少女が早口にまくし立てた内容を2人は十全に聞き取ることができずに止まってしまう。それを一切意に介さずに少女は続ける。
「・・・ん?おっとミスった。失敬失敬。ここで死なれたら通行の邪魔だし腐ってるから臭そうだ。人目につかない所に自分で行って、できる限り苦しんでのた打ち回ってから死ね。俺からは以上だ。」
お読みいただきありがとうございます。
今回視点があっちゃこっちゃ移って読みにくいかなーとも思ったのですが、ちょっと必要だったのでやってみましたー。
どうでしょう?実は不安だったりします。
楽しんでいただけると幸いです。
次回予告
騎馬とバトル
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テトにゃんの守り方




