初めましてこんにちわ 初めての魔法の衝撃
前回のあらすじ。
予定を考察。
予定を立てる。
情報を整理する。
ぼっちが独り言を話続ける。
異世界感が仕事しない件。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」
切れ切れになる息を無理矢理抑え込みながら歩き進む。若干早めで。
既に俺の移動時間は4時間を優に超えているだろう。体感だけど。
休みも殆ど取っていないので距離的にはかなりのものだ。よく続いていると我ながら思う。
ていうか正直20キロなんてとっくの昔に過ぎ去っていると思う。だってかなり走ったし。てか走らされたし?
本来ならゆっくりのんびり景色でも見ながら移動しようと思っていたのだが、犬・・・のような見た目の変なヤツに追い立てられて、色々な方向へ走り回ることになってしまったのだ。
というのも、スキル一覧画面を見ながら街道をテクテク歩いていたら、何かにぶつかってしまった。足元を見てみたら件の犬もどきだったのだ。
我ながら見事な前方不注意である。歩きタブレットはダメだなホント。人も歩けば犬に当たるとはよく言ったものだ。ごめん。誰も言わないそんなこと。
その犬もどきは四つ足で茶色く汚らしくゴワゴワしてそうな体毛を持ち、耳は穴(犬耳的なものはない)のみ、眼はカタツムリの様に飛び出していて噛み合わせの物凄く悪そうなガチャガチャで鋭い犬歯が沢山はえてる口を持っていた。体の大きさと比べると無駄に大きな口だ。
その犬?自体は大きくはないものの、普通に気持ち悪かった。つかメチャクチャ気持ち悪かった。
サイズ感的にはせいぜい普通の犬程度。普通ってどれくらい?コーギーとかそのくらいだよ!
ここがファンタジーな世界だということはわかっていたつもりであったが、どこかRPGやマンガのようなそんな洗練されたフォルムのモンスターを想像していた。
でも現実は非常に非情だった。兎にも角にも残念仕様であった。甘くないどころがエグ味と苦味と焦げ臭さでできているんじゃなかろうか?
あの神の差し金なのだろうかと疑いを持ちたくなる。イライラなのである。
「ほ、ホントにただの化け物が出てくるとは考えて、い、いなかった。」
絞り出すように声を出すとカナデが教えてくれた。
《はい、マスター。マスターの想像するような、フォルムの整った魔物も確かに存在しますが、先ほどの<ヌグリイ>のような醜悪な魔物も、この地域では一般的です。》
「名前もなんか、び、微妙だな。気持ち悪いから、取り敢えず走って、に、逃げたけど、あいつって強いのか?」
《いいえ、マスター。最下級に位置する魔物です。ただ、マスターは戦闘経験も、スキルも、武具もないので逃走は妥当な判断です。》
「あ~武具ね。そういえば俺丸腰だったわ。布の服ですわ。村人Aよりひどいかもしれん。」
《はい、マスター。現状のマスターの戦闘力は一般人にやや劣りますのでご注意を。》
はっきり言われるとなんかくるものがあるが、やっぱりそうか。こんなファンタジーな世界だもんな。一般人だって多少の戦闘の心得はあるのだろう。
自衛する手段だったり、日々の糧の一部にするためにでも武器を抱えて森に入ったりしているのかもしれない。
そもそも成人男性でレベル1とかいるのか?これって奇跡か悪夢の顕現じゃないの?そうなると街に行っても変に目立ったりするのは危険だし、危ないから勘弁だな。
衛兵どころか一般人女性とかにだって捕まってしまいそうだし、下手したら気まぐれにボコられそうだ。自覚はなかったが今向かってるメタリカーナだってヤバいんじゃないの?
俺の種族バレたら、こ、殺されるんじゃ・・・?
ビクビクオドオドしながらも道を進んでいくと、何やら怒声のような咆哮のようなものがそこそこの高さの藪の向こうから聞こえてくる。
「カナデ、これって誰かが何かと戦ってるってヤツか?それとも魔物の同士打ち?」
《はい、マスター。おそらくですが、人族と魔物の争いのようです。》
「マジでっ?」
この世界に来て初めての人類との対面になるのか!さっきの犬もどきの事もあるからこっちの人類を確認するのがちょっと怖かったりするが、やはり気持ちが逸る。
気持ちが昂ってソワソワし始めるのは仕方のないことだと主張したい。だが、それでも逸る気持ちを抑えながら藪の向こう側を覗いてみると、複数のでっかい狼っぽいのと対峙している1人の騎士の姿が見えた。
騎士は鈍色の甲冑を着込み、隙なくロングソードっぽい剣を構えている。なんかこう、ぶっといでっかいヤツだ。我ながら表現が頭ワロす。
しかしながらあそこまで見事に鎧で包まれていると容姿とかそういう情報が一切合財入ってこない。
男なの?女なの?人なの?亜人なの?神でも悪魔でもいまの段階では判断がつきそうにない。
むしろリビングアーマー的な何かだと言われても今なら信じちゃいそうな純真ピュアっピュアな俺。
だってさー、ここファンタジーじゃん?何があっても驚くけど、受け入れるしかないじゃん?
さっきの<ヌグリイ>とかいうヤツだって現代日本じゃUMA以上に受け入れがたい存在に違いないし。
ヤツは俺の大切なモノを奪っていったよ。
そう、体力とか精神力とかそういうの以上にさ、なんていうか常識?とかそういうなんか失くしちゃいけない何かを俺から奪っていったのさ。
などと無意味な悟りを開きつつ辺りを見渡してみると、騎士さんの傍らには荷馬車と思われる幌付きの台車と横たわる馬のような何か。側には老夫婦と思われる男女が地に伏せ怯えている。
マジか!ちゃんと人じゃんヒューマンじゃん!見た目的にはマジ完全に人だよひゃっほい!
あーよかったーちゃんといるじゃん人族!人間!ホモなサピエンスがちゃんといてよかったわーマジなんか焦りすぎちゃったぜーマジなー。
騎士さんはまだ中身見てないから現段階で初☆人類ご対面!はあの老夫婦ってことになるのかな?
状況的にはかなりマズい状態っぽいから多分不謹慎なんだろうけどこれは安心しちゃいますわー。
あとは言葉が通じれば問題ないな。神(笑)の加護だか祝福だかがあるし平気だろ。
いや、文化や風習の違いもあるし何より俺人間じゃないからバレたらマズいってのは変わりないんだけども。
ってまた思考がそれたな。あのじじーと対峙してからなんか頭が軽くなった気がするけど、ま、なんとかなるか。
頭を切り替え状況を見ると、あの狼のようなヤツらに馬車が襲われて、その護衛かはたまた近辺にたまたま居合わせた騎士が助けに入ったか・・・って感じかな?
狼っぽいのの強さとか全然さっぱ分からんが騎士さんったら頼もしい感じの背中だし任せて安心系かな?
いま出て行ったらなんか邪魔しちゃいそうだしこのまま観戦してよっかなー。こっちに狼っぽいの来られても普通に困るし。何より人に注視しすぎてあまり意識してなかったけど、あの狼っぽいのデカいって。
2m以上はある。確実にデカい。ゴールデンレトリーバーが子犬に見えるくらいにデカい。デカいはヤバいからな。俺は近付かない方向性でファイナルアンサー決定だ。
しかも推定狼の癖してタテガミにも似た毛が首回りにもっさーってなってるし、顔とか超凶悪っ!眼だって真っ赤で白目がない。何アレ、グロッ!
「ぐるるるるるぅぅっぎゃあん!ぎゃん!」
狼っぽい奴等が狂ったように吠えながら騎士さんへ殺到していく。1、2、3、4・・・ん~なんか沢山?素早く動く狼っぽいのを捉えきれず、数すら数えられない。ナンゾコレ?
生物としておかしな機動で疾走する狼っぽい奴等を手にした剣で必死に牽制している騎士さん。騎士さんも中々素早く、老夫婦を背になんとか孤軍奮闘している様子。ていうかあの速度に対応できる騎士さんマジですげーな。リスペクトっすわー。
などと暢気なことを考えていたのも束の間、狼っぽい奴等はそんな騎士さんを嘲笑うかの様に四方から攻め立て、隙をついて老夫婦を襲おうとしている。てかどんだけ狙われてんの?あの夫婦。夫婦って勝手に言ってるけどホントに夫婦かしらんけども、頑なに狙われてるのってどうなのよ?恨み買うようなことでもしでかしたの?それともやっぱ野生の本能的に弱いヤツからヤったれーオラオラーって思考でも働いてるのかね?
そんな狼たちに大人気御礼状態の老夫婦をそれでも騎士さんはかばい続けている。さながらアイドル会場で頑張って壁になっている警備員さんみたいだ。
時折、騎士さんは剣だけでは狼っぽい奴等を捌ききれなくて手甲や脚甲で弾いたり自ら肩を当てに行って防いだりして暫く膠着状態が続けていたが、5匹程の狼っぽい奴等に近距離でまとわりつかれて自由に動くことができなくなっていった。
どうやら毛皮か皮膚かは知らないがかなり堅いみたいだ。騎士さんの剣弾いてるよ。ギィンとか鳴ってるし。
騎士さんは完全に狼っぽいのの進行を防ぐので手一杯って感じで周囲への警戒もできていないご様子。
その死角をついて木陰の方から4匹の狼っぽい奴等が老夫婦目掛けて駆け出すのが見えた。
えっ?コレ普通にやばいんじゃね?数十秒後にはモザイク必至の惨劇展開フラグじゃね?
老夫婦になんの情も愛着もないが目の前で人がやられる所を黙って見てられるほど冷徹でもない。
何より彼らは俺の初遭遇人類だ。多分ずっと記憶に残るパターンに違いない。
焦燥で頭と胸がキューってなってくる。汗が噴き出る。手汗と背汗がヤバい。脇汗はかいてない。かいてないったらかいてない。
俺に何かできる?あの人たちか騎士さんを助けられる?狼っぽい奴等の意識をそらせる?都合よく颯爽と助っ人とか来るの?来ないの?ここメッチャイイ登場シーンよ!勇者とかいないの?出ないの?あ、出ないんですかそうですか。
どうでもいいことが一気に頭を流れる。視界の端にスキルウィンドウが映る。そこには冒険級魔法が記載されていた。
あっ!魔法なら!魔法なら俺でもどうにかできるかも!直接戦わないでなんとかできるかもしれない!
すぐさま俺は『冒険級火属性魔法』を、DPを対価に取得する。
《解放条件を満たしました。『冒険級火属性魔法』に関する情報が、該当の階位までに限り解放されます。》
カナデの声だがカナデじゃない、どこかもっと機械的な声が直接頭に響いてきたが、いまは気にしてられない。
情報が解放されるとの言葉の通り急に魔法の使い方などの知識が流れてきた。全部把握している時間なんてない!すぐに魔法を発動しないと間に合わない!
使い方は簡単だ。詠唱して魔力を解放するだけなのだから。意を決し、藪から飛び出し全力で叫ぶ!
《マスター!きk》「豪炎よ!」
叫ぶなり、俺の周囲に無数の赤い光が輝く。
光はすぐに小さな火になり、その火がそれぞれ音もなくくっついていく。
小さな火が沢山集まり、やがて大きな炎がいくつも出現した。
「我が手に集いて!」
瞬く間に振りかざした俺の右腕に、熱い何かが急激に集まる。
現れた炎が集束し豪炎となる。
我が手とか言っちゃったよ。やっぱこういう時って出るよねうんうん。仕方ないよあるあるだよ。
それに魔法は思った通り簡単に発動してくれた。
あとはこれをあの狼っぽい奴等に向かって放てば良いだけだ。
しっかりと意識を集中し、
「敵を穿てっ!!」
右手に力を込めた次の瞬間、炎が爆ぜた!
眩い光によって世界が急速に色を失い白く、白くゆっくりと、染まっていく。
次いでスローモーション全開な感じで世界が流れていく。
俺の右手と共に爆炎が上がり、肘辺りから先が吹っ飛ぶ。
おびただしい量の肉片と血液を撒き散らしながら飛ぶ俺の腕。
「・・・えっ?」炎が俺の右目の視界を埋め尽くし、激しい衝撃が俺の身体を中空へと吹き飛ばす。
微かに左目の端に映ったのは俺の右手と同じように爆炎に飲まれる狼っぽい奴等の頭。
俺の右腕以上に血と肉片を撒き散らしながら吹っ飛ぶさまが見えた。
カナデが何かを言っているような気もしたが、よく分からなかった。
続けて視界が認識できない速度でブレたと思ったのを最後に、俺の意識は途絶えた。
お読みいただき、ありがとうございます。
マスターの人生初魔法。
使ってみたら大惨事。
彼の生死は?
今後は大丈夫?
次回予告。
マスター、焦る。
犬は出ない。
前回予告とほぼほぼ一緒ですね。




