おっさんから浴びせられる衝撃
前回のあらすじ。
色々情報整理して
室内簡易便所しようとしていたら
ガチムチおっさんやってきた
「あ、あ、ああ、あ、ああのののののっ!」
駄目だ。上手く言葉がでない。手足に力が入らない。弱体化中身体じゃ自分の身すら、守れやしない!
ゆっくりとした足取りで俺に近づくOSSAN。その歩みは乱れることなく進む。おっさんが進むとそれだけ俺に近づく。でも俺は逃げられない。身体が、身体が言うことをきかない。
きいてくれない。
これが、恐怖か?!全身から汗が吹き出るのを感じる。くっ、俺の貞操がこんなおっさんだなんて、絶対に嫌だ!!いっそ魔法で一思いに・・・
「ここで何をしている。」
「・・・はっ?」
「ここで何をしているのかと聞いているのだ。早く答えなさい。」
「え?え、えっとぉ、ご、ご覧の通り?室内簡易便器を使って小用を足そうか、と?」
「・・・一応聞いておくが、何故だ?」
「何故って言われましても、室内簡易便器でするようにと悪魔から言われているんですけど??」
「そう、か。」
「え、えぇ。」
言うなり黙ってしまうおっさん。いや、このまま居られても邪魔なんですけど?なんなの?俺のお色気シーンがそんなに見たいの?ていうかそれにしたって近いんですけど。近すぎるんですけど?あと、2歩くらいで触れ合える程に近い。
一体このおっさんはどういうつもりでこんな所で眉間に手を当てて佇んでいるんだ「この扉を開けた先に、すぐトイレがあるのは知っているか?」ろう、か?
「・・・えっ???」
マジで何を言っているんだろうかこのおっさんは?悪魔冥土さんが近い所にはお手洗いがないんですよぉ~って?残念ながら室内簡易便座しかないんですよぉ~って言ってたのを知らないんだろうか?若干ほくそ笑みながら吹き出すのを堪えたかのようにあの鬼畜悪魔冥土さんが言っていたのを、存じ上げないのだろうか?
「その呆けた顔を見るに、知らないようだな。」
呆けるも何も、今は何も考えられないんですけど?いま、イマナンテオッシャイマシタ?イマなんテオッしャイまシたのデショウか??トイレが、ある、だとぉ????
「うちのメイドが迷惑をかけたようだから一応断っておくが、これはアレが勝手にやったことだ。何より、騙される君もどうかしていると思うのだが?」
「はぁ。はい。そうですね?悪くてごめんなさい?」
何がなんだかわからないが、トイレは近くにあるらしい。何がなんだか何故だかわかることもわかろうともできないし理解も共有もできそうにないんだが、どうやらトイレはすぐ近くの傍まで来ているようだ?
「はぁぁぁぁぁあああああっっっ??!!!!なんっだソレっ?!ふざけんなしっ!ありえないしっ!!どんだけなんだしっ???」
気付くと俺は叫んでいたようだ。自分でも何がなんだかわからないが、憤っていたようだ。許せない!許すことなどできることがあるだろうか!!いや、ない!!断じて、ないっ!!!ないったらないっ!
「気持ちは、察することはできないが、良かったら行ってくると良い。私はそれまでここで待たせて貰うが、構わないね?」
「えぇっ!ご自由にどうぞ!好きにしててくださいっ!」
気持ちが収まらないまま、俺は物理的に重い身体を文字通り引きづりながら扉へと向かった。
扉を出ると、確かにすぐ傍にトイレがあった。あったのだ。ありやがったのだ。
トイレが、トイレがすぐそこにあ、あ、あ、あったって、あったってことはだなぁぁぁぁっ(プルプル)
「ぜっっったい!に!ゆ・る・さ・なぁーーーいっ!!」
青髪性悪鬼畜悪魔冥土だっ!!何がどう転んでも一切合財一から十まで何から何まで十把一絡にあの女が悪くて悪そうで悪きに悪いで決まっているのだ!!
もうオコだよっ!激オコだよっ!こんなに頭にきたのは人生初かもしれないほどに怒り狂って怒ってイラでオコでプンスカプンプンで限界突破の怒髪天を突きまくりだよ!!
「なぜだ!なぜこんなことを!!」
やっと立ち入ることができたトイレの中でも叫ばずにはいられなかった。抑えが利かずに留まることなどできなかった。下手したら天に向けそそり立つ髪で天井を破壊してしまうかもしれないくらいにちょーべりーばっどだった。
《マスター。流石にこの状況で叫ぶのはどうかと思いますが。》
「カナデ!俺が用を足してる時には、『視ざる・言わざる・聞かざる』でお願いって言ったじゃん?!」
《いいえ、マスター。申し訳ございませんが、この状況でマスターを放置することはちょっと・・・できかねます。》
「うぐぅ・・・。でも、だって、しかし、それでも、どうしても、許し難く・・・(ぶつぶつ)。」
《マスター。マスターが今回してやられたのは、程度こそ低いものの情報戦と言える範疇です。ですので、カナデもサポート役として注意し助言を挟むべき立場でした。無関係ではいられないのです。ご理解ください。》
「んむー。そういわれると弱いな。立つ瀬がない。」
カナデに窘められ、気遣われて多少は頭も冷えてきた。ついでに小用を足したままの姿だったからお尻も冷えてきた。このままではお腹も冷えそうだ。そろそろ戻るべきか。
「納得も許容もできないままだが、ここでこうしていても仕方がないから戻ろう。悔しくて悲しくてどうにかなりそうだが、騒いだってあの悪魔が喜ぶだけだろうし。」
《はい、マスター。おそらくは仰る通りかと。》
ここで騒いでも良いことがなんにもないので諦めて部屋へ戻る。すると、どういうことだろう?先程のおっさんがまだいる。なんでだ?
「ただいま戻りましたが、何故にまだこちらに?」
「・・・ここで待ってると伝えたハズだが?」
そういえばそうだった気もする。すっかり忘れていた。
「あ~、そういえば、そんなことを聞いたような気もします。すみません、お待たせして?」
「いや、結構。うちの者の不手際でもあるからな。」
おっさんが右手の平を開いてこちらへ向けてくる。どうやら異世界でも、似たような仕草で意思の疎通が図れるらしい。
「はぁ、ありがとうございます?ちなみに、ここへはどういったご用で?」
「ふむ。まぁ、いいだろう。私の用向きは君に聞きたいことがあったからだ。」
「はぁ、なんでしょう?」
「君は、どうして我が娘を助けようとした?」
「はい?」
娘?娘って誰だ?このおっさんの娘なんか全然知らんぞ?さっきからずっとおっさんおっさんって言ってるが、見た目年齢30後半くらい?彫りが深いから老けて見えてる可能性も考慮すれば、下手したら30前後の可能性も・・・。
《マスター。おそらくですが、この男性がここ、メタリカ領の領主本人だと思われます。》
「えっ?マジで?」
おっさんがめっちゃしかめっ面した。ってやば!いまの声出てた?俺声に出してた?俺が脳内案内役と話してたとかはわかんないんだろうけど、なんかヤバそうな気がする??
「あ、あ~そ、そういうことですね。えっと、貴方がここ、メタリカ領の領主様で、娘さんっていうのがあの彼女・・・いやいや、えーっと、エリザベートお嬢様ってことですよね?」
「あぁ、その通りだが、君は・・・。」
「いえいえいえいえ!お、俺は、いや、ぼぼぼ、僕はたまたま通りかかって物陰からみていただけで、なんちゃらってウルフが走ってきたから驚いて魔法が暴発で自爆が自得で自業しただけでして?」
カナデとの会話がバレたら、イコール電波系の危ないヤツか、最悪人外認定されちゃって討伐されちゃうかもしれないから必死に誤魔化したいけどうまいこと言葉が出てこないでマジ普通に焦るんですけど?
「で、ですから、」
「いや、もういい。」
領主様が頭を振って諦め顔だ。
「思えばまだ自己紹介もしていなかったな。異国の少年よ。私はメタリカ。ここ、メタリカ領の領主にして我が祖国、城砦鉄壁国の子爵家当主を務めている。」
「これはどうもご丁寧に?あ、僕はしがない流れモノで、月城 想って言います。」
名乗られたから名乗り返したけど、思えばここは姓と名ってどっちがどっち?金髪さんを例に挙げればやはり英語圏式が正しかったのだろうか?
「やはり、か。姓があるということは、どこぞの貴族家か?それともお抱えか?」
うぇっ?!やっべ!これ異世界モノのお約束じゃん!普通名字とか家名がないパターンのヤツだ!まずったどうしよう?
「あ、いえ、あの~、その~?姓ではなくてですね。ツキシロソウ全部で名前です。分かりにくくて馴染みづらいかもしれませんが、ツキシロソウって名前なんです!言いにくかったり紛らわしかったりしたらソウで大丈夫です。ただのソウ。姓もなければ家名もない、ただの流れ者のソウです。ソウなんです。」
誤魔化し切れてる?
「・・・まぁ、それでも良い。」
はいダウト―。あー、これ絶対にヤバいヤツだ。お貴族様に変な感じで目をつけられたっぽいぞー。俺の人生やっばいぞー?
「つまり、だ。君は【偶然】我が娘の戦闘を目撃し、【偶々】自分も襲われそうになったから魔法を発動しようとし、慌てていたから制御に失敗したあげく、魔法暴発に巻き込まれただけでそもそも娘を助けようとしていた訳ではないと、ウルフ達が倒れたのも、【運良く】魔法が当たったと、そういいたいのかな?」
「そ、そうです!ソレです!そんな感じです!」
「ふむ。そうか。」
メタリカさんは、何処か訝しげで胡乱気な表情を作り頷いている。俺は何がなんだかわからない。なんで俺はこのおっさんと話してんだ?ていうかこのおっさんあんな大きな娘さんがいて、いったい何歳なんだ?
わからないことばかりでもどかしいが、いますぐ捕えてどうこうとかって雰囲気じゃない気もする。これは、案外大丈夫か?
「ちなみに聞くが、君は今後どうするつもりなのかな?」
「どうって・・・?あ、そうでした!忘れてました!すみません大層な治療をしてもらっちゃいまして、お礼も満足にっていうか全然できてませんで!!一応この通りそれなりに動けるようにもなりましたし、できれば、できればいいんですが、もう数日ご厄介になっても良いですか?ダメですか?
もう少し調子を戻せたら出て行こうと思っていたんですが、思いのほか中々治らなくてですね、このポンコツな身体がですね・・・。」
「いや、そこまでにしてくれ。君の治療は我が娘の希望だ。一区切りがつくまではいてくれて構わん。メイドの不始末の件もあるしな。しかし、その後は出ていくとは言ってもその身体でどうするつもりなんだ?」
おっふ。普通に親切オジサンだった。勘繰ったりしてお恥ずかしい限りだ。誰だよ。異世界のお貴族様は傲慢で俺様で身勝手で意地汚く性格が悪い最高で最低な嫌われ者だなんて言ったのは?
って俺だよ。俺でした。無知蒙昧で浅慮浅はかなこの身を、この頭を恥じ入るばかりでございます。
「寛大なお心遣い、恐れ入ります。当ては・・・特にはありませんが、一応はメタリカーナの街を目指していましたので、変わらず行ってみようと思っています。」
「そうか。目的は何かあるのか?」
「いえ、特には。強いて言えば生活費を稼ぎたいくらいです。なにぶん手持ちがないもので。」
ぶっちゃけ住所不定無職無一文だ。このお屋敷を出たら早晩のたれ死ぬだろう。野宿をしたらヌグリイに喰われ。街に入れば無一文の素寒貧で飢えて倒れる。渡る異世界は鬼ツラい。
「そうか。いや、わかった。一応娘にも伝えておこう。先日魔物の討伐に出掛けてな。まだ戻らないが、戻り次第言付けておくとしよう。」
「お心遣い痛み入ります。」
こんな言い方でいんだっけ?俺的教養だとこんなんでよかった気がするから、きっと大丈夫だろう。
「ではな。」
言うなりおっさんが部屋から出ていく。領主っつーか戦士っつーか、そんな感じの後ろ姿だ。いかつくてデカい。
(あんなのからよくもまぁ、あのキレイ可愛い娘が産まれたもんだ。)
《いいえ、マスター。産んだのは彼の妻である、エリザベート嬢の母親です。》
(・・・そっすね。)
たまに若干のズレを感じるカナデトーク。微妙なニュアンスとかって色々と難しそうだ。
「それにしても、領主のおっさんは何しにきたんだろう?」
お色気シーンに乱入されたのに、結局よくわからん人だった。
《挨拶、様子見、見聞、といったところでしょうか?情報が不足していて予測演算に足りていません。》
「俺にもわからん。ただ、敵には回したくないタイプっぽかったな。」
こうして俺の貞操は守り通せたが、理解不能な謎は増えていくのだった。
ちなみに、数時間後にノコノコとやってきた青髪性悪鬼畜残念悪魔冥土は、ガチで怒って全力で叱って千切れんばかりの罵倒を浴びせて置いたのは言うまでもない。
お読みいただきありがとうございます。
良い感じの更新速度が維持できていると自負してますが、いかがでしょうか?
このままお付き合いいただけると幸いですm(_ _)m
想君の貞操は守れたみたいですが、大切な何かは失われてしまったように思えます。
主にセクハラと情報戦によって。
でも、自力で動けるようになったのは、良いことです、ね?
次回予告。
安心とか安寧とか
出会いと別れ
やっと到着




