折れたナイフ
思いつくままに無計画のまま描いてみました。
どうしてこうなってしまったのだろう。私が何か
悪い事でもしたと言うのだろうか。
私はただ、みんなと笑いあったりふざけあったりする。
それだけでよかったと言うのに。
変化なんて少しも望んでなかったと言うのに。
私の愛していた日常は、少しの衝撃で歪み、
そして崩れさっていった。
言葉のナイフは、時に本物のナイフよりも人を傷つける。
心の奥深くをえぐり、体じゅうに傷をつける。そんな鋭利な刃物。
現に私は傷だらけだ。もうこれ以上傷つける場所なんてないくらい。
けど傷跡は日に日に増えていく。
許せない。やり返してやりたい。そう思うけど、
この精神にはそんな力なんて・・・。
でも、負けてやるわけにはいかない。
さあ。そろそろ時間だ。
歪んだ日常にまた足を踏み出そう。
憂鬱な月曜日。足が重たい。
今日もお日様の輝いてること。あんたは呑気でいいよな、なんて
ふと思ったり。
今日も日常は日常のまま進んでいく。
見慣れた教室。後ろの端っこの席。風に揺れるカーテン。
そしてこの机の落書き。
「死ねだのキモいだのテンプレばっか並べやっがて。」
静かにつぶやき、私はカバンからアルコール液を取り出す。
毎日毎日飽きない奴らめ。書くならもっと面白いこと書きやがれ。
そんな風に見栄を張ってみても、少しばかり心の奥が痛む。
弱いなあ、私は。毎日見てる光景のはずなのに、涙が溢れそうだ。
でも、ダメだ。泣いたら私の負け。私はできるだけ無表情を作り
落書きを消していく。遠くからクスクスと笑い声が聞こえる。
いつもの4人組の声だ。その笑い声は、私の心をチクチクとつつく。
「なんか涙目じゃない。とっとと泣いちまえよ。大声でわーんてさ。」
「ハハハ!そりゃいいや。惨めな泣き顔を晒せよ。」
「今のウチらの話し声だってどうせ聞こえてんだろ?
ねえねえ、今どんな気分?みんなに無視されてどんな気分?」
「・・・あのさ。やっぱりこんなことやめにしたほうが・・・。」
「何言ってんだよ美咲。あんたが言い出したことだろ?」
「・・・そうだけど。」
そう簡単に思い通りになってやるかよ。
この圧倒的人数不利にも勝ってやろうじゃん。
どんなに鋭いナイフにだって、私は素手で立ち向かってやる。
まだ、戦いは始まったばかりだ。
そう思うけど、なにせ勇気が足りないもので。
足を踏み出すことはできなかった。
水曜日の午後。私の日常は相変わらずだ。
同じようなことを言われ、同じようなことをされ。
まるでロボットみたい。あいつらも、私も。
でも、こうして家に帰る時間が一番幸せ。誰にも邪魔されない。
家に帰ってしまえばこの苦しみは一度リセットできる。
今日は少し寄り道して行こうか。何故だかそんな気分だ。
私は歩く方向を変え、川沿いの広場へと向かう。
小学校の時は友達と毎日のように来ていた。
あの時の私達は本当にまっすぐだった。
この世界に汚れた部分あることなんて知らず。
何の穢れもなく。毎日が本当に楽しかった。
みんなでいろんなことをした。
鬼ごっこ、水遊び、時には川の上流の山の方に行ったりもした。
どこにいってしまったのだろう。あの笑顔、高揚感、勇気。
過ぎた時間は戻らない。こんな残酷なことがあるのか。
柵に手をかけ、川を見つめる。
夕日が反射して、キラキラ川の水面を映し出す。
心地よい風に運ばれやってくる木々の香り。
ふと川の上流の方を見ると、人影があった。
私と同じように川を見つめている。
同じような感性を持った人だろうか。
何だか嬉しくなって、少しずつ人影に近づいていく。
ひょっとしたら分かり合えるかもしれない。
話を聞いてくれかもしれない。
何故だかそう思った。
それが私の、心の弱さなのだろう。
「え・・・。紗凪。・・・ど、どうして?」
「な、なんで美咲がここに・・・」
お互いの沈黙した時間が過ぎていく。
最悪だ。こんなところで美咲にあってしまうなんて。
昔のことを思い出しそうになるじゃないか。
心の一番深いところにあるおいたあの記憶。
溢れそうで。吐き出したくて。でも・・・。
その瞬間私の足は、反対方向に思いっきり駆け出した。
本当はこんなことしたくない。しちゃいけないのに。
こうするしかなかった。
美咲は、驚いたような、悲しいような顔をしていた。
きっと私も同じ顔をしていただろう。
お互いにもう二人きりで会うことはないと思っていた。
3人の友情はずっと続くと思っていた。
みんなで大人になって、お酒とか飲んで。
そうなると思ってた。
『つらくたって、ずっと一緒だよ! 紗凪 美咲 市香』
あの樹に掘った言葉は残っているだろうか。
ずっと一緒だなんてこと、ありえない。
それを知ったのは割と最近のことだ。
小学6年生の終わりくらいだっただろうか。
市香が中学受験をすることを知った。
中学校が違うってわかって、悲しかった。
でも、悲しいだけではなかった。
憎かった。私達は裏切られたんだって思った。
ずっと一緒だって誓ったはずなのに。
そんなのおかしい。許せない。
そんな感情が私の心をを支配した。
そしてその感情はナイフへと変わっていった。
今私を傷つけているものなんかよりずっとずっと鋭利なナイフ。
傷つけた。本気で。渾身の力を込めて。
ズッタズタにしてやった。
でも、私の心は満たされなかった。
いつしか市香は、何も喋らなくなっていた。
当然そのことは美咲も気づいただろう。
美咲に、市香の様子がおかしいって相談されたこともあった。
知らないふりをした。受験で大変なんだろうって。
市香は私達を裏切ったのだ。あいつに居場所はない。
私は、美咲との友情だけを大切にしようと思った。
それでも美咲は市香を大切にしようとした。
それがたまらなく悔しくて、意図的に美咲を市香から遠ざけた。
それが続いたまま、卒業の3月。
完全に誤算だった。
市香が自殺した。
それを聞いた時私は何も言えなかった。
市香は怖がりで内気だったから、そんなことできない
と思ってた。でも本当は違ったんだ。
警察が市香の家の家宅捜索に入った時、
遺書や自殺した理由のようなものは見つからなかったという。
その代わりに見つかったのは、引き裂かれた紙と、殴り書き。
『なんなの!嫌だ!みんななくなっちゃえ!』
そういう内容のものがいくつも見つかったらしい。
市香がいなくなって一週間ほど過ぎた時、美咲に呼び出された。
美咲は昔から勘のいい子だった。
きっと薄々気づいていたんだろう。
思いっきり頬をはたかれた。
その時に言われた言葉は今でも覚えてる。
「わたしだって悲しかったよ!あなたもそうなんでしょ!
でも、私達の友情はそんなものだったの!?
遠くに行っちゃうくらいで壊れるものだったの!?」
その時だ。目が覚めたのは。自分の愚かさを知ったのは。
手が震えた。なんてことをしてしまったのだろう。
そんな些細なことでこんなことをしてしまうなんて。
そう。寂しかったのだ。ただそれだけ。
私はこれから、どう償えばいいのだろう。
「私はあなたのことを何があっても許さない。
今度は私が、市香の気持ちを教えてあげる。」
もう償えないのだと知った。
金曜日の夜。私は今日も広場へ来ていた。
星が綺麗だ。
今日もいつものように傷つけられた。
当たり前だ。あんなことをしたんだから。
やり返したくてもできないのは、自分の過ちを思い出すから。
そんなことで償えないとはわかっている。
それでも、市香を殺してのうのうと生きている私に、
少しでも罰を与えねばならない。
私は折れたナイフを握りしめ、一人歩く。
振り返ることは許されない。
これからもずっと一人なのだろう。
もっと早く過ちに気づけたなら。
もっと素直になれたなら。
私の隣には誰かいたのかもしれない。
傷だらけの私はそんなことを思いながら、
明日も足を踏み出すのである。
いじめって連鎖したりするのが怖いですね。
なくなる日は来るのでしょうか。
さて、拙い文章ながら読んでくださりありがとうございます。
文法等おかしな点がございましたらご指摘ください。
また、感想もお待ちしています。
次は連載小説を書いてみようかな。