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6. 異世界の基礎知識2

収納用の箱なのに、穴があいているという衝撃の事実を知ったその後。

落ち込む自分を心配するアイリスに、とりあえず聞きたいことを先に聞くことにした。


「ところでさっきの…マジックボックス?っていうのは?アイテムボックスとは違うの?」

「え?」


助けた(?)時、少女は手ぶらだった、それは間違いない。

けれど、彼女がささやいた『言葉』により、テントが現れた。

自分のアイテムボックスと似ているようだが、同様のものなのだろうか。

疑問を口にすると、彼女は理解したのか頷いて言った。


「マジックボックスは、固有空間です。色々なものをしまえるのはアイテムボックスも同じですが、アイテムボックスが時間の影響を受けるのに対し、マジックボックスは時間の影響を受けません」


なるほど、つまりわかりやすくいうと。


「アイテムボックスに入れた食べ物は腐るけど、マジックボックスに入れた食べ物は新鮮なままってこと?」

「はい、そのとおりです」


まじか。なんて便利なんだ、マジックボックス。

そしてなぜ自分のはアイテムボックス(穴あき)なのか。


「ただ、デメリットもあります。マジックボックスは、本人の魔力が枯渇している状況では使用できません。逆にアイテムボックスにはそのような制限はありませんので、いつでも使用できます」

「なるほど」


つまりは一長一短ということか。

とはいえ現状、凛のアイテムボックスには短所しかないのだが。

というか、一体なぜ穴があいたのか。一番初めにステータスを確認した際には、そんな記述はなかったはずだ。原因は不明だが、これでは使い物にならないのでなんとかしたい。せっかく褒めてくれたアイリスにこれを言うのは辛いが、やむをえまい。


「…私のアイテムボックス、穴があいてるみたいなんだけど」

「ええっ!?」


ぼそりと呟いた声に、アイリスが驚いたような声をあげた。


「アイテムボックスに、穴が…?リンは、どうしてそのことがわかったのですか?」


驚いたような顔をしていたアイリスが、不思議そうに尋ねた。


「アイリスと出会った時、木からパールポルンの実が落ちたでしょう?あれ、アイテムボックスから落ちたみたい」


大量に落ちた実のことを思い出すと、なんとなく悔しい。

しかし、結果アイリスが助かったわけだから良しとすべきだが、なんとも複雑な気分である。


(最初からおかしいとは思っていたんだけどね…)


なんせ、毎回アイテムボックスを確認するたびに、しまってあったはずの実の数が少なくなっていくのだ。いつから穴があいていたのかは定かではないが、実のなくなり始めた時だと考えると、ほぼ最初からということで間違いないだろう。ひどい話である。


「このままじゃアイテムボックスに物をしまえないから、直したい。どうすればいい?」

「それは…申し訳ございません。わたしにはわかりません」

「えっ」


アイリスならその方法を教えてくれるだろう、その予想に反して、戸惑ったような声が返ってくる。


「アイテムボックスやマジックボックスは、鍛えることができ、他者の介在も可能な技能や魔法とは違います。たとえるなら、その人の声や、身体のようなもので、最初から完全な状態で備わっています。だから、その…“直す”ということは、できないのです」

「ええっ!?」


ちょっと待て。ということはつまり。


「…一生このままってこと?」

「は、はい…」


言いにくそうに、それでも小さく頷くアイリス。その気遣うような瞳に、ショックを受けた。

“完全な状態”が穴あきのスーツケースとはこれいかに。

こんな理不尽なことがあっていいものか。


憤然としかけたが、考えて見ればこの程度の理不尽など前世以前からよくあることだった。森の中で迷い、熊に襲われて服を破られ、半裸状態で逃げ出した先で巡回中の警備に捕まった挙句投獄された前前前世に比べれば、ずいぶんマシな方ではなかろうか。そう納得すると、さっさと思考を切り替えた。


「穴をふさぐにはどうしたらいい?」

「…え?」


直せないなら仕方ない。だが、直せないのだとしても、なんらかの改善の余地はあるのではないだろうか。そう考えた上での問いかけだったが、なぜかアイリスは驚いたように目を瞬かせた。


「穴をふさぐ…ですか?」

「うん。だって、穴があったら物を保管しておけない」


大事な物を落したら困るし。大きく頷いた凛に、アイリスは小首を傾げて考え込んだ。


「あの、その“穴”は、どこにあいているのか確認できますか?」

「ちょっと待って」


目の前にアイテムボックスを出現させ、中を覗き込む。先ほどからそう時間が経っていないせいか、パールポルンの実は減っていないようだった。そのこと自体はとても嬉しいが、しかし。


「…ない」

「え?」

「穴、見当たらない」


パールポルンの実を取り出してよけてみる。再び中を覗き込むが、特に異常は見られなかった。念の為、アイテムボックスを閉じて外側から確認してみるも、やはり穴は見当たらない。どういうことかと首を傾げながら再度、ステータス画面を表示させる。


アイテムボックス(穴あき)


「…穴があいているのは確かみたい。けれど、見てもわからない」

「だとすると、穴をふさぐのは難しいかもしれないですね」

「そうだよね」


しかし、そうなるとこの中に大事な物を入れておくことはできない。つまり、何の役にもたたないということになる。せっかく授かった特殊能力だというのに、一体全体どういうことか。嘆きそうになるが、ふと思い返す。この程度の不条理など、自分にはよくあることだった。ちくしょう、石でもつめておこうかな。


「…パールポルンの実、アイリスのマジックボックスに入れてくれる?」

「え?あ、はい。いいですよ」


こころよく引き受けてくれたアイリスに実を渡しながら、今後について尋ねてみた。


「これからのことだけど。アイリスは、どうする?」

「わたしは―はぐれてしまった、仲間を探そうと思います」

「仲間?」

「はい」


聞けば、アイリスは仲間と旅をしているらしい。旅の途中、この森に迷い込む前の街で仲間とはぐれ、うろうろしていたところを山賊ABCに拉致されてしまったとのこと。一瞬の隙を突いてなんとか逃げ出したものの、追ってきた山賊もどきに捕まりそうになり、そこを凛に助けられた(?)ということらしい。


「なるほど。そうしたら、その街に戻った方がいいってこと?」

「いえ。おそらく、街にはもういないと思います。その街は休息をとるために立ち寄っただけで、目的は別にありますから。そう大きくもない街ですし、わたしが既にそこにいないことはわかっているはずです」

「そうなの?じゃあ、仲間はどこに?」

「この森を抜けた先、―アレクマイリスという街にいると思います」

私はマジックボックスが欲しい。皆さんはどっち?

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