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3. ぼっちの出会い

時折休憩をとりながらも、ひたすら続く道を歩いた。

しかし、いくら歩いても森を抜けることはなく、人どころか動物の一匹も見当たらない。

相変わらず昆虫すら見ることはなかった。不安に思いながら進むも、だんだんと日が暮れてくるにつれ、行く足も鈍る。


どうやら人里まではまだ遠く、森はまだまだ続くようだ。ひょっとしたら廃墟くらいはあるかと期待をしたが、それすらも見当たらない。

今晩は野宿になりそうだ。


新しい世界に来て早一日。誰とも会わないばかりか、たった一人で森で野宿。物語のヒロインなら涙に暮れそうなものだが、自分にとってはいつものことだ。人と関わらない分、無駄に不幸に巻き込まれないだけありがたいというものだろう。


野宿になるのなら、その用意くらいはしなくては。

食事はパールポルンの実があるからいいが、そろそろ水が欲しいところだ。

小さくても構わないから綺麗な川や清水(きよみず)などないだろうか。

辺りを見回すが、背の高い木々と、生い茂る草花に遮られ、森の中を見渡すことができない。


「う~ん」


考えながら近くにある木を見上げた。パールポルンの木とは違い、地球上でも見られるような一見普通の木がそこにはあった。不可思議な色をした木々の中では、むしろ異色ともいえる普通の木。どっしりとした幹や枝は、人一人登っても十分に耐えられそうだ。


「頑張ってみる?」


自分に問いかけながら、よいしょと腕まくりをする。木の上からなら、森の中を見渡せるのではないだろうか。


「よいしょ」


どうか木が途中で折れて落ちることなどありませんように。そう思いながら木にしがみついた。小さな窪みやでっぱりに手をかけ、少しずつ上っていく。たいして時間をかけずに、地上3メートルほどの高さの枝にたどり着くことができた。


「ふう」


案外うまくいくものだ。そういえば前世ではよく木に登って実をとったっけ。ご近所に土地持ちのお家があり、趣味で色々な果物の木を植えていた。趣味というわりには不精(ぶしょう)だったせいか、大きくなりすぎた木のちょっとした剪定(せんてい)や実の収穫を手伝ったものだ。無論、報酬は頂いた。とりたての柿や梨、冬は蜜柑などは、高すぎて果物を買えなかった自分にとって最高の報酬であり、至福の時を過ごしたものだ。ちょくちょく枝が折れ、落ちたことは一度や二度ではない痛い思い出だが。


その思い出から慎重に枝を確かめる。見かけどおりどっしりとした枝は、自分の体重くらいならびくともしない。どうやら大丈夫そうだと判断して腰をおろした。地上3メートルはなかなかに高さがあるものだ。地上からは見えない遠くまでよく見渡せる。幸い、視力は前世同様良いらしく、遠くまでかなりはっきりと見えた。


「あ、あった!」


道路から森の内側に入った方向に、小さいが池のようなものが見えた。先ほどまではわからなかったが、耳を澄ますと小さな水音も聞こえる。地上からは見えなかったが、思った以上に近くにあった。やはり木に登ったのは正解だったようだ。他にも何かないかと思い、ゆっくりと全体を見渡す。


「あれ…?」


遠めに小さいが、建物らしきものが見えた、気がした。目を眇めてみたが、ひょっとしたら建物かもしれない、くらいにしかわからない。それでもぱっと目の前が明るくなった気がした。思わず浮き足立ち、すぐさま発とうと気が急くが、すぐに思いなおした。建物らしきものが見えたといっても、確証はない。それに、かなり距離がありそうだ。建物らしきものがどの程度の大きさかにもよるが、場合によっては思った以上に時間がかかるかもしれない。日も暮れてきたし、水の件もある。今日は諦めて、明日向かった方がいいだろう。


「『アイテムボックス』」


枝の上なので、用心しながら口にする。すると、枝の上ではなく、すぐ目の前の空中にトランクが出現した。


「すごい」


目を丸くしてトランクを見つめる。アイテムボックスはやはり実際の重さはないのか、まるで空に浮かんでいるように見える。この分だと、場所や広さを考えなくても良さそうだった。出現させる場所について考えなくてもいいというのは、大きな発見だった。見晴らしもいいし、とにかくここで食事をすることにして、トランクの中に手を伸ばす。


「あれっ!?」


思わず素っ頓狂(すっとんきょう)な声が出た。パールポルンの実がやけに少ない。

慌ててトランクの中を覗き込むが、やはり少ない。収納した数は優に100を超えていたはずなのに、今はおおよそその半分といったところだろうか。ここまでの道中、パールポルンの実を口にすることはなかったし、トランク自体出さなかったはずだ。

なのにこれは一体…


「!?」

「はっ、はぁっ!はっ―」


困惑しながらトランクを見つめていると、突然下で何かが走ってくるような物音と、息遣いが聞こえた。


(もしかして…人!?)


バランスを崩さないよう木にしがみつきつつ、声のした方を見やる。


「―きゃっ!?」

「いたぞ!こっちだ!―おらっ、手間かけさせんじゃねぇよ!」


短く高い悲鳴と、それに重なるような野太い声。

一瞬のことでよくわからなかったが、どうやら一人の女を男が押さえ込んでいるようだ。


「は、放して、放しなさい!」

「ぐおっ!?て、てめぇ…!」

(おお…!)


押さえ込んでいる男の腹に女の肘鉄(ひじてつ)が入った。素晴らしいフォームに思わず声をあげそうになった。しかしすぐに男は手を上げると、先ほどより尚手荒く女を押さえつける。


「うっく、ぅ…!」


くぐもった辛そうな女の声。どう見ても悪漢とその被害者にしか見えない。


「ふぅっふぅ…やっと追いついた。」

「はあ、はあっ…ったく、女のくせに足がはやいな。嬢ちゃんよう、あんまりオイタがすぎると少々痛い目みることになるぜ?」


さらに後方から足音と野太い男の声が。しかし、その風貌は女を押さえ込んでいる男と大差ない。ああ、これは困ったな、と思わずこぼしそうになる。


この世界で初めて出会う人間だ。できれば感涙にむせび泣きながら運命の出会いを堪能したい。

そうは思ってみたものの、どう見ても悪人顔した山賊風情の前に姿を現す勇気は出なかった。

へたれいうな、自覚はしている。だが、こんなでも自分は一応女性なのだ。

万が一何かあったら困るではないか。言い訳のように考えながらまるで蝉よろしく樹木にしがみつきつつ、眼下を確認する。


いかにもな悪顔をした山賊風の男3人(ABCとする)と捕らえられている1人の女性。

事情は不明だが、女性は男達から逃げていたらしい。


…うん、逃げるよね。そりゃ逃げる。

あんな悪顔に追いかけられたら誰だって逃げる。

ありえなさそうなことだが、たとえば彼らがいい人だったとして、「ハンカチを落としましたよお嬢さん」なんて礼儀正しく伝えられても脱兎(だっと)のごとく逃げる。


いやいや待て、ひとは見かけによらないものだ。

あの悪顔した彼らも、ひょっとしたら悪人ではないのかもしれない。

前世の日本でだって、麻薬取締官や暴力団対策本部にいたあの方々はお世辞にもいい顔しているとはいえないではないか。いや、とても立派なお仕事ですけども。政治家の集合写真なんか、まるでどこぞの犯罪者軍団のようで―いけない、そんなことを考えている場合ではない。


とにかく話だけでもしてみるべきだ。とはいっても、安全のことを考えて、すぐにでも逃げられる場所にとりあえず移動してから―


「うわっ!?」


バキバキバキバキッ!!!!


「ぐへぇっ!?」


緊張していてろくに確かめもせず、手探りで移動したのがまずかったのだろう。

細い枝先にしまったと感じた瞬間、みしりと嫌な音に続き枝が折れてそのまま落下した。


「いったぁ~…」


幸い、衝撃はあったが、思ったほどではなく大きな怪我はなさそうだ。

全身がずきずきやらひりひりやら痛むのは打ち身や擦り傷があるからだろう。

そのくらいは仕方がない。じんじんしている頭を涙目で押さえながら顔を上げると。


「…なんだてめぇは?」

「げ」


立派な悪人面がそこにはあった。

感動の(?)出会い

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