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15. 一難去ってまた一難

遅くなってしまい申し訳ありません!


「うっうっうっ…」


滝のような涙を流しながら、教会までの道のりを足早に歩く。すれ違う人々が、凛の顔を見てぎょっとしたような目を向けるが、気にしている場合ではない。さっさとこの場を去りたい。というか、むしろ部屋に引きこもりたい。


(見られた…!恋人どころか赤の他人にいっぱい見られた…!!)


男前に、パンツの穴の指摘をされた凛は、後悔に打ちのめされていた。

まるで日本猿のような赤い尻は、おそらくあのカエル男と対峙した時にできたものだろう。

名誉の負傷といえば響きがいいが、実際はそんな勲章のようなものではない。

石畳の上をスライディングしたあの時から、妙に尻がジンジンしていた。強く擦られたせいで、パンツの尻の部分に穴があいてしまったのだろう。それは理解できる。だが、なぜ指摘されるまで気付かなかったのか。


(死ぬほど恥ずかしい…!)


むしろ死にたい。あの噴水広場からここまで、歩いて約10分。

10分も自分は、尻丸出しの状態で人通りの多い往来を闊歩(かっぽ)していたのだ。

これが恥でなくて一体何が恥だというのだろう。そういえば、あの広場以降、やけに人々の視線が気になった。今となってはその理由がいやというほどよくわかる。凛の自意識過剰などではなかったのだ。だが、わかったところで嬉しくもない。

今すぐ死んでしまいたい。


(ううっ…。こんなことになるのなら、)

「下着も借りておくんだった…!!」


凛は今、死ぬほど後悔していた。

教会を出発する前、宿舎でシャワーを浴びた後、凛はアイリスから着替えを借りたが、下着までは借りなかったのだ。アイリスが貸してくれなかったわけではない。むしろ、アイリスは手持ちの中から、新品の下着一式を凛にくれようとしていた。だが、その下着があまりにも高級そうだったことと、多少のサイズの違いから躊躇した凛は、遠慮してしまったのだ。


もちろん、下着がないのは人として困るので、アイリスからお金を借りて、この帰り道で購入する予定だった。はいてない状態で街に出ることに躊躇いがなかったわけではない。だが、アイリスから借りた服は上等の物で、生地が厚いから油断していた。まさかこんな目にあうとは思ってもいなかったのだ。


結果、パンツの尻が破れ、本来ガードする予定のモノがなかったせいで日本猿になった。これまで積み重ねてきた人生の中で、これほど酷い目にあったことは、23回目だ。確か、前回は乳丸出しの刑だった。あの時は、性別が男性だったから事なきを得たのに、今回はお尻…あんまりだと思う。


去る前に男前がくれたタオルで尻を隠しつつ、滂沱(ぼうだ)の涙を流しながら歩く。相変わらず、人々は凛に視線を向けるが、声をかけてくることはない。今の凛には、かえってありがたかった。


教会まで、あと数百メートルのところまでくると、凛の足が自然と小走りになった。

900m、800m、600m…だんだん近づいてくる特徴的な建物に、涙を流しつつ尻を押さえながら走る。

残り約300m、となったところで、


「―よう。また会えたな、黒髪女」


どこかで聞いたような声と台詞が、前から聞こえた。



***************



(…一体私が何をしたと)


一難さってまた一難。

今度は、三馬鹿…もとい、山賊もどきが目の前に現れた。

教会は目の前に見えているというのに、あとほんの少しだというのに。


ため息をつきながら、もどきを見つめる。途中で潰れたはずのCもどうやら復活したらしい。三人とも肩をいからせながら凛を睨みつけていた。


凛が教会の中に逃げ込んでから、既に数時間は経過している。これまでずっと町中探し回っていたのだろうか。昨日からずっと追いかけられているが、一体いつ休んでいるのだろう。すごい体力だ。


(…今はそれどころじゃないというのに)


はいてない状態の尻がひりひりと痛む。かろうじてタオルが巻かれてはいるが、あまりにも心もとない状況だ。万が一にでもタオルが外れ、これ以上生き恥をさらすような真似はしたくない。先ほどの醜態を思い出し、ぶわっと涙が零れ落ちた。


「うっうっうぅ…!」

「たっぷり泣かしてや――もう泣いてる!?」

「まだ何もしていないのに、なんで泣いてんだ!?」

「泣くのはこれからだぞ!?」


外野(モブ)がうるさい。あ、モブは私か。

泣きながら顔を上げる。さりげなく周囲を探るが、こちらを注目している者はいないようだ。むしろ、まるで凛達を避けるかのように、いつの間にか人がいなくなっている。


(…誰だってトラブルには巻きこまれたくないもんね)


どこの世界も同じだ。トラブルになんぞ、誰が巻き込まれたいと思うのか。

凛だって、関わりのないトラブルはできる限り避けてきたつもりだ。冷たいと言われようと、酷いと言われようと、いつだって避けようと努力してきた。だが、なぜかいつも巻き込まれているのだ。巻き込まれた挙句に酷い目に遭う。巻き込んだ相手が、いつの間にかトラブルの輪の外にいるのは毎度のことだ。


「金髪の女はどこだ?」

「さあ?教会で別れたから、その後は知らない」

「…おい。ふざけんのも大概にしろよ」


山賊Aの声色が変わった。先ほどより明確な敵意を感じる。どうやら本気になったらしい。


「ふざけてない。本当に知らない」

「そうか。なら、体に聞くまでだ」

「っ」


逃げようとした瞬間、Aの両隣にいた山賊が左右から飛び掛ってきて、あっという間にとっつかまってしまう。ぎりぎりと締め付けられる痛みに、凛は苦悶の表情を浮かべた。


「もう一度聞くぞ。あの女はどこにいる?」

「だ、からっ―…知らない、って」

「おらぁっ!!」


バシッ!!!!


言いかけた途端、右頬を思いっきり叩かれた。男の、それも、ムキムキマッチョのむさ苦しい男の手で殴られたせいで、一瞬でブラックアウトしそうになる。なんとかこらえると、すぐに左頬も同じように殴られた。


「ぅ、ぐっ…」


ぐらぐらする頭を必死に上げようとするが、あまりの衝撃に上がらない。文字通り、星が飛んでいる状態だ。衝撃の強さに、最初痛みすら感じられなかった。


「どこにいる?」

「知らな、」


バシッ!!!!


言い終わる前にまた叩かれる。BCの二人に両隣から抱えられているせいで、倒れることもできない。


(あ~…これ、後で腫れるな~…)


殴られた顔に、ようやくじんじんと痺れるような鈍い痛みが出てきて、他人事のように思った。


(…その“後”があるか、わからないけれど)


自嘲するように笑う。口元が切れているせいか、ぴりりとした鋭い痛みが走る。


「なに笑ってんだ、答えろ!」

「何度、聞かれても、知らないものは、知らない…!」

「てめぇ…!」

「ここではまずい、そっちでやるぞ」

(…はぁ。またか…)


この“後”のことを思って、心の中でため息をついた。


また、か。

前世も前々世も、前前前世も、いつも禄でもない人生の終わり方だったというのに。

今生も、禄でもない人生を終えてしまうのだろうか。


(…まだ何もしていないというのに!)


というか、この世界に生まれて(?)まだ2日目だ。いつの人生も酷いものだったが、生まれて2日目で死んだことなど、これまでで3回しかなかったはずだ。鹿として産まれた瞬間、虎の胃袋に収まった前前前前前前前前前世に比べればまだマシだとは思うが、あまりにも酷すぎるのではないか。


「おらっ、こっち来い!」

「っぐ…」


思い出に浸る間もなく、引っ立てられていく。ぎりぎりと締め付けられている為、ろくな抵抗もできない。それでもなんとか抜け出そうと必死にもがくが、「大人しくしてろ!」と服を思いっきり引っ張られ、余計に苦しくなっただけだった。


教会が、少しずつ遠ざかっていく。そこで待っているはずの少女を想い、ぎりりと歯を食いしばった。


(アイリス―…!)


「――ファイア!」

「おわぁっ!?」

「あちちちちっ!?」

「ひいぃっ!?」


突然、火の玉のようなものが目の前に表れて、囲んでいた三人組に直撃した。何事かと思って顔を上げると、目の前には右手を掲げ、山賊どもと対峙している女性の姿があった。


「そこの貴女、こっちに来て!」

「っ」


山賊どもに右手を向けたまま、視線だけ凛に向け、女性が言った。この女性は、凛を助けてくれようとしている。そう理解した凛は、持ち前の反射神経で女性の元へと滑り込んだ。


「てめっ」

「――ファイア!」

「「「うわあぁぁっ!!!!」」」

(すごい…!)


逃げ出した凛を捕まえようとした山賊に、更に火の玉のようなものが襲い掛かる。火の玉は、女性の右手から放たれているようだ。三人は必死に炎から身を守りながらも果敢に向かってこようとするが、炎がかすめるたびに服を焦がし、その度に炎を消そうと地面を転げまわっている。一方女性は、その場から一歩も動くことなく、右手のみを山賊に向けて何度も炎をぶつけていた。


「あつっ!あっちぃ!」

「ち、ちくしょう、おい、行くぞっ!」

「お、覚えとけよてめぇっ!次ぎ会ったら殺すからな!」


分が悪いと見たのか、山賊は悪態をつきながらも這々の体で退散した。あっという間にいなくなった三人に、ぽかんとしていると、女性がゆっくりとこちらを振り向いた。


(うわ…!)


一言で言えば妖艶。そんな単語が似合う美女だった。さっき広場で助けられた女性や、酒場で助けられた女性とはまた違った美しさ。流し目が似合いそうな大きな瞳に、ぽてっとした厚めの唇。口元にある小さな黒子もあいまって、とても艶っぽい。腰近くまである長い髪はさらさらのストレートで、ふとかきあげる仕草から、同性の凛ですらぞくっとするような色っぽさを感じた。


「大丈夫かしら?」

「は、はい。助けて頂いてありがとうございます」


かけられる声も色っぽく、その容姿によく合っている。立ち上がった凛の顔を見つめて、女性は痛ましそうに眉を潜めた。


「だいぶ痛めつけられたみたいね。…ごめんなさい、もう少し早く気付けたら良かったんだけど」

「とんでもない!助けて頂けただけで感謝です」


下手をすれば、人生が終わっていたかもしれないのだ。それを思えば、この程度の傷などどうというほどでもない。


「本当は、治療(ヒール)をかけてあげたいのだけど、私、そっちは得意じゃなくて。手当てをするから、一緒に来て」

「いえ、そこまでご迷惑をおかけするわけには」

「いいから」


凛の手をとると、女性は歩き出した。

ご覧頂いている方、ありがとうございます。更新ペースが遅くなっていて申し訳ありません。諸事情により、あと1、2ヶ月はスローペースとなりますので、ご承知下さい。これからも頑張りますので、よろしくお願い致します。

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