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14. 異世界で恥辱

広場を抜けて10分ほど歩くと、前方に見覚えのある教会が見えた。教会は思った以上に大きい為、実際に歩くとまだ少し時間がかかるが、ここまで来ればあと一息だ。カエル男の襲撃からここまで急いで歩いてきたが、安堵感と疲れもあって、少し歩を緩める。街の中心部に比べると若干人の往来は少ないが、それでもかなりの人数が行き来していた。


往来には屋台や市場のように店が出ており、様々な商品が所狭しと並べられている。野菜や果物などの食料品はもちろん、食器などの雑貨や宝飾品まで、売られている種類は色々だ。特に目を引くのは、前世では見ることのなかった魔石や剣などの武器を取り扱っている店だろうか。魔石はまるで宝飾品のように、武器はまるでアンティークの作品のように美しく、見惚れてしまう。時間さえあれば、幾らでも見ていられるだろう。急がなければいけないと思いつつ、ついつい何度も足を止めてしまう。


「…?」


宝石のように輝く魔石に見惚れていると、なぜか視線を感じた。振り返ると、通りがかる人がちらちらと凛を見ているのがわかる。この黒髪のせいだろうか。道中何度も見られていたせいか、いつの間にか大して気にならなくなっていたが、ここにきて急に注目を浴びている気がする。


(…なんてね)


これまでの人生で注目されたことなど、公衆の面前で処刑された時くらいだろう。そのせいで少し自意識過剰になっているのかもしれない。反省しなくては。


心の中で反省のポーズ(体育座り)をしつつ、歩き出す。


「あの、ちょっといいかな」


後ろから、声がかかった。振り返ると、きりりとした男前の青年が凛を見つめている。身長は高く、180cmはあるだろうか。格好から見ると、地元の人間ではないようだ。アイリスの服同様、立派な仕立ての服を着ている。ところどころプロテクターのような物を身に纏い、帯剣しているところを見ると、傭兵か兵士のような職業に就いているのかもしれない。


「はい、なんでしょうか?」


少々声が上ずったが仕方がない。彼のような男前に声をかけられたことなんぞ、ほぼ記憶にないのだ。いや、一度だけあった。あれは前々世のことだったか。いつも通りぼっちだった自分に、たった一人優しくしてくれた男性。『君は一人じゃないよ』なんて甘い言葉を囁いて、舞い上がった自分に甘いロマンスをくれたひと。確かに一人ではなかった、彼に騙された女性は。そういう意味では彼の言葉は正しかったといえるだろう。結局、紆余曲折あってすべて凛が悪いということになったのも、いつも通りだった。


「だ、大丈夫か?」


懐かしい思い出に白目を剥いていると、男前が心配そうに尋ねた。大丈夫かというわりに若干腰が引けている。それを見ない振りして、凛はにっこりと微笑んだ。


「大丈夫です、いつものことなので」

「い、いつものこと!?」

「なにか?」

「い、いや…。あの、ちょっと、こっちへ来てくれないか?」

「え?」


男前が凛の手を掴んだ。そして、凛の返事を待たず、ずんずんと歩き出す。


「あ、あの、ちょっと」

「すぐそこだから」


そう言われて連れ込まれた場所は、路地裏だった。

一体なんだというのか。こんな場所まで連れ込んで一体何を―…。

混乱した頭で必死に考えていると、男前が真剣な顔をして凛を見た。


「――実は、言いたいことがあって」

「えっ?」


ひょ、ひょっとしてこれは!

俗に言う、ナンパというやつではないだろうか。

まさかとは思うが、そうでもなければこんな場所に連れ込まれる理由がないではないか。

そう思った途端、鼓動が激しくなる。もしナンパだとすれば、前世もその前も、もてたことなど皆無だった凛にとって、正真正銘、これが人生初めての経験だ。どきどきしないわけがなかった。


「あのさ。…言いにくいんだけど」


言葉通り、言いにくそうに視線をそらした男前が、心を決めたように再度凛を見つめた。

凛の鼓動が更に高まる。男前は、凛を見つめたまま、そっと指を指した。


「?」

「洋服、穴、あいてる。…尻のところ」

「へ?」

「隠した方がいいと思う。―それじゃ」


言い置いて足早に去って行った男前。

つられてみたお尻のところに、確かに穴があいていた。それも、小さなものではない。

大きく二つ、ご丁寧に真ん中だけを残して左右対称的にあいていた。

まるで、日本猿のようだ。尻だけ赤いあの猿のように、そこだけが肌色に色づいている。

もちろん、その肌色は凛の地肌である。つまるところ、凛は尻丸出し★状態で今まで街の中を闊歩(かっぽ)していたということだ。


街中に、それはそれは物悲しい悲鳴が響き渡った。

まだまだこれから。

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