03話
マズいかもしれない。マリはグロテスクな光景を目めにして焦りを感じた。
いかにゲームとはいえ、VRの与える精神へのダメージは計り知れない物があり、PKの被害にあった人やモンスターにやられてしまった事で、それをトラウマとしてしまう人が少なからずいるのだ。
もしマリがあの状況に陥ったとしたらと思うと、全身に鳥肌が立つ。
目の前に倒れている、カスミという名の・・・恐らく女性のアバターは身じろぎ一つしない。
ひょっとすると、嫌悪感や恐怖でログアウトしてしまったのかもとマリはやりきれない気持ちになった。
こんな恐ろしい死に方はあんまりでしょうに。
助けるつもりで近づいたが、無駄になってしまったかなと思いつつも、気色悪い芋虫の大群を見つめたマリはふと人型の口元にあたる場所に違和感を感じた。
何か・・・動いているような。勿論蠢く芋虫とは別の何かが。
「うおわあぁぁ!?」
マリはその位置を凝視し、それに気づくと思わず叫び飛び上がった。
「あ、あ、あ、あなた!正気!?」
こいつヤバい。マリは思った。
何がヤバいってその口元だった。
食っている、その、芋虫を。
「食べるならこっちにしなさい!!」
錯乱したマリが差し出したのはお昼ご飯にと買ってきたサンドイッチだった。
〇●〇
マリがカスミを発見してからゲーム内で1時間後。1時間かけてようやく芋虫たちの駆除に成功したともいえるか。
この芋虫、驚くことにモンスターだったらしい。北の樹海を掲示板で検索したところその情報が丁度話題に上がっているところだった。
この芋虫、リトルキャタピーというらしく、北の樹海でプレイヤーが野営しようとするとポップしてプレイヤーに集まってくるという運営の嫌がらせとしか思えないようなモンスターのようだ。掲示板にもこいつに全身覆われて死に戻ったというレスがちらほら書き込まれている。
「とりあえず、これで大丈夫よね?災難だったわね」
「・・・」
1時間虫退治に精を出しながら、マリはカスミという女性プレイヤーに何度か話しかけた。
・・・一度も返事は返ってこなかったが。かといって、ログアウトするような気配もなく、ただただ死んだ魚のような目で虚空を見つめるのみだった。
頑張って助けてこれである。マリは若干の苛立ちを覚えた。
「ねえ、返事くらいしたら?」
「・・・」
「ねえってば!」
「・・・」
ぽーん。
苛立ちを通り越して怒りを覚え始めたマリに一通のメッセージ。
差出人はカスミ。
『めんどい』
「勝手にしなさいよ!!」
そりゃ怒るわ。