01話
世間に疎い引き籠もり8年生の私は、今最新のテクノロジーという物を肌で感じていた。
VRというらしいその技術は、正に第2の現実といっても何ら遜色のないもので、五感の全てを感じる事ができる。
両親が引き籠もりの私にプレゼントしてくれたその技術で、私は今仮想現実の森の中にいた。
小学生だった頃以来味わったことのない森の空気。木々の隙間からいい塩梅で降り注ぐ木漏れ日。
ふかふかの落ち葉のクッションに、包まれて私は幸せな気持ちになりつつ、うとうとと微睡む。
私はこのうとうとしている瞬間が1番幸福感を感じる事ができる。この意識を手放すか、手放さないかの絶妙な時間が大好きなのだ。
うとうとしていると次第に日が暮れ夜がやってきた。
空気が冷えて少し肌寒さを感じるが、起き上がる気力がなかった。お腹も空いているような気がするし、
尿意も感じる。仮想現実は伊達ではないのだなと感じた。
視界の片隅に浮かぶ半透明のスクリーンには、様々な情報が映されている。
*空腹ゲージが減っています。
*尿意ゲージがレッドゾーンに突入しました。至急ログアウトしてお手洗いに行く事をお勧めします
*気温によるペナルティが発生しています。装備の変更をお勧めします
ふぅ。
とりあえず尿意を解消する。動きたくない時は常にオムツ着用。これ基本ね。
他人の目など知ったことではない。それに今時のオムツは進化をとげ、軽く1日分の小便なら吸収してくれるのだ。しかもさらさら感も持続する。
極力動きたくない私は、とりあえず口に1番近い土を舐めとる。ジャリジャリするがとりあえずしばらく舐め続ける事で空腹ゲージは満たされた様で、注意喚起のポップは消えた。ならよいのだ。
現実ではこうはいかないから、仮想現実の素晴らしさを実感した瞬間だった。
布団の周りのシーツで空腹を満たていた頃もあったが、すぐ両親によって止められた。以降ごはんだけは上半身を起こして食べなければならなくなった。
寒さに関しては、もうどうしようもない。
動きたくないのだから、なにも手に入れようがないし、装備も変更しようがないのだ。
ふぅ。
私はひとつため息を吐くと、再び眠りについた。
翌日、目覚めた私はぽかぽかと暖かいものに包まれていた。絶え間無くもぞもぞと動くそれは、どうやら私の足の先から頭までを覆っているらしく、その姿を確認することはできない。
まぁ、暖かいからよしとしよう。
*耐久スキルが0.1上がりました
*耐久スキルが0.1上がりました
*耐久スキルが0.1上がりました
*耐久スキルが0.1上がりました
・・・
システムメッセージがしつこくポップアップするので、たまらず初めての操作を行った。
と、いうものの思考操作ができるという最新技術のおかげで、身動きをとることはない。最新技術万歳。
システム:システムログを非表示に変更します