腹が減っては恋ができぬ
小説は趣味で書いているので、文章力がないに等しいです!!
気ままに書きます!!!
シリアスもありますが、大体ギャグコメディです!!!よろしければどうぞ!!!!
※主人公の女子の一人称が俺で、かなりサバサバしてるので、注意してください!
※グルメとありますが、グルメ中心ではありません!
『腹が減っては戦ができぬ』ということわざがある。何をするにも身体にエネルギーがなければうまく進まないということだが、21世紀の日本では、戦なんて物騒なことはしない。
しかし、人間は食べる。戦のためだとか、そんな壮大な意味ではなく生きるために食べる。強いていうなら、現代の『戦』は仕事であったり、学校生活であったり、はたまた恋愛だったりする。『戦』の形は人によって様々だ。
そして、この少女もまた少女にとっての『戦』のために、料理を口に運んでいた。
湯気がそこかしこに立ち、皿とスプーンが擦れ合う音が鳴り響く。厨房からはネギを刻むリズミカルな包丁の音や、フライパンの上で野菜が炒められ、油の跳ねる音がした。アルバイトの男は忙しそうに客の注文をとり、ドタバタと足音を鳴らして早歩きしている。
ゴクリ、と喉を鳴らして少女は水を飲む。
一口水を飲むと、それが合図だったかのように体をのけぞらせて、ビールジョッキに入った水を飲み干してしまった。少女の細い体からは想像もできないような見事な飲みっぷりである。酒を飲んでいるわけではないが、少女にとってはヤケ飲みであった。
割れない程度に、且つ豪快に空のビールジョッキをテーブルに置くと、そのまま大きな溜息をつく。周りに見られている危険性など考えず、溜息をついたままテーブルに頬をつけた。無防備という言葉がぴったりな様子である。
この中華屋は安くて量が多く、しかも料理を出すまでが早いと評判の店で、少女ほど若い客はいないが、周りは皆時間に追われている者ばかりで、少女のことなど気にも留めない。そこが、少女としては気に入っている点でもあったのだが。
「なんでこうなっちゃったんだろうなぁ……」
言葉に出すと、涙が溢れてきた。後悔ばかり募る。どうして、なんで、と紡げば紡ぐほど涙はこぼれ落ちる。
遡ること約2時間前ーーーー
「は?」
ぽろりと少女の手から落ちたのは銀色のフォークだった。フォークを失った少女の手の真下には、出来立てのナポリタンがある。
優雅に流れるクラシックの音楽が、この沈黙に不自然だと無意識に感じた。
「今、なんて……」
「お前とは付き合えない」
それは、少女が告白をされた男からの言葉だった。どうしても付き合ってほしいと泣いて頼まれ、流石に断りづらくなり、「友達からなら」と言ったはずだった、のだが。男の方はあれをOKの返事だと勘違いしたようだった。
付き合えない、付き合えないとは何なのか?自分から告白してきたくせに、付き合えないとは何なのか?いや、そもそも付き合ってすらいないのだけれど。
男の目を見ると、まるで別れ話をすることが当たり前かのように真っ直ぐな目をしていた。
「え、ちょっと待て」
「だから、俺はもう真琴とは付き合えないんだ」
「いやだから、話を整理しよう。そもそも俺は」
「真琴がこんなにがさつで、女らしくないなんて思わなかった。全然俺の気持ちわかってくれないし、未だに手だって繋いでくれない。俺たち恋人なのに……」
何を言っても無駄かもしれない。少女ーー佐藤真琴はそう悟った。
男ーー門倉圭吾は真琴への不満を、それはもう原稿用紙にまとめられていたかのようにすらすらと述べ続ける。頭が良いから尚更わかりやすく、真琴の胸に深々と突き刺さる。言葉の刃ほど避ける方法が難しいものはない。
元々性格が男勝りではあるが、料理だって洗濯だって裁縫だってできる。一通り家事全般はできるくらい女の子らしい一面もある真琴であったが、門倉にはわかってはもらえなかったらしい。それもそのはず、告白されてからまだ一週間しか経っていないのだ。
悩みがなさそうと友達からはよく言われるが、流石に一週間でここまでずたぼろに言われると凹むものである。
「それに」
まだ何かあるのか、と真琴は頭を抱え込む。
この際なんだって言えよ!!と真琴は心の中では怒り狂いながら、表では涼しい顔をした。
「それに、俺より食べるし」
その瞬間、真琴の中で何かが切れた。
気づいたら私はこの男の顔に、コップの水ーーなんて生易しいものではなく、ナポリタンを叩きつけていた。
「じゃあ俺より飯が食えるようになれっつーの!!!!」
そう店内に響き渡る大声で叫んだ。昔から大きな声を出すことは得意なのだ。得意というよりも、出てしまうと言った方がいいかもしれない。
満足したように、真琴は腰に手を当て顔を上げる。
しかし、その時に真琴はある人と目が合ってしまった。
同じ高校の先輩で、会ったその日から真琴が尊敬してやまない人ーー高峰光樹に。
「真琴…ちゃん?」
高峰先輩はそれはもう絵に描いたような戸惑い顔、現代風に言うならドン引き顔をしていた。
そして、今に至る。
真琴はあの後、逃げるように席を立ち、がむしゃらに走ってこの中華屋に入った。本来なら電車を使ってくる場所だったが、真琴はひたすら走ってこの中華屋に来た。
お団子にしていた長い赤毛はボサボサになり、足は靴擦れを起こしてヒリヒリと痛みを感じる。
先ほどの店とは違い、若者など一人もいないし、店内だって騒がしい。クラシックの音楽もかかっていないし、優雅のゆの文字もない。
女らしくない、か。とポツリと呟く。
ファッションに気を使わないわけではないが、自分にスカートが似合うとは思えない。足には小さい頃につけた擦り傷やら切り傷で、女の子の足とはかけ離れている。
髪だって、こんな赤毛で外に跳ねまくる髪をどうセットすればいいのだろうか。癖が多すぎてかなり難しいと、美容室の人を困らせてからは髪を結ばない日はない。
化粧道具を買う金があるなら、生活費に当てないとまともに生活もできない。化粧をする時間があるならバイトをするだろう。
『俺より食べるし』
あの男のこの一言は、今でも頭の中でぐるぐると駆け回っている。この一言だけでなく全てがそうだが、この一言で堪忍袋の緒が切れてしまった。そこまで必死に抑えていた怒りのパロメーターが限界を超えてしまったのだ。
「俺はよく食うんじゃなくて、金がないからまとめて食ってるだけだっつーの!!!」
普通の女子より食べれるのは本当だけどさぁ、と呟く。
真琴はバイトをしているが、それでも生活費を稼ぐので精一杯なのだ。
両親は2年前、つまり真琴が高校生になった時に事故で死んでしまった。その後は叔母さんに面倒を見てもらっているが、迷惑は掛けられないと一人暮らしをしている。
真琴と同じ赤毛をもつ母と淡い栗色の髪を持つ父がこう言っていた。
「もし一人になっても、誰かに甘えてはダメ。甘えは弱さを産むからね。そして弱さからは何も産まれない。アンタには強くなってほしいんだ。いつだって前を向いて、しゃんとしてればいいの。どんなにみっともなくても、前を向いて地に足をつけてれば、どうにかなるもんよ」
「幸せは待っていても、ほとんど来てはくれない。お前が迎えに行ってやらなきゃダメだ。そして、その幸せをどうするかは全部お前次第だ。人生には何万通りの選択が存在して、どれが一番いい選択だったかなんて誰にもわからない。それを一番いい選択に育てるのが、俺たち人間の仕事なんだよ」
両親はいつだって真琴にこう言い聞かせた。だから、真琴は強く生きようと誓ったのだ。
「なんであんなとこに高峰先輩がいたんだよぉ〜〜!!今まで高峰先輩にはなるべく本性隠してきたのに……」
高峰先輩とは、真琴の憧れの先輩で、真琴が人生で最も言葉遣いに気を使っている人物だ。担任の先生にも敬語は使うが、高峰先輩は別格である。
一度バスケットボールの試合を見に行った事があり、そこで高峰を見た時に、なんて素晴らしいプレーをするんだと驚いたのだ。自在にボールを操ってシュートを決め、仲間との連携も完璧で、点を取られても焦らず確実に奪い返す。
顔も爽やかなイケメンで、男に興味のない真琴でさえも惚れ惚れしてしまう。
そんな高峰に憧れて、地道にアピールし、やっと名前を伝えた矢先にこの事件である。
今まで敬語を使って礼儀正しかった後輩が、休日に男の顔にナポリタンを叩きつけているのだから、確実に高峰に嫌われたに違いない。
しかも、あの門倉圭吾という勘違い男は驚くことに高峰と仲が良い。門倉はサッカー、高峰はバスケットボールといった感じに、スポーツ仲間なんだろう。
流石にナポリタンを顔に叩きつけたのはやり過ぎだったかもしれない。でも、元はと言えばあの勘違い男が悪いわけだ。別に付き合ってもいないのに、何故あんなに長々と私の短所を言われなければならないのか。何故私と付き合っていると勘違いしたのか。
思い出したら腹が立ってきて、ギリギリと歯ぎしりをしていると、どんと目の前に大盛りの炒飯が置かれた。
なんで炒飯が?と思ったが、そういえば店に入った瞬間になんでもいいから大盛りで!と叫んだことを思い出す。
レンゲを手に取り、頂きますと手を合わせると、炒飯をすくう。ナポリタンを食べ損ねた上に、ここまで全速力で走ってきたのでかなり腹は減っていた。
あんなことがあっても腹は減るものだなぁ、と不思議に思いながらも炒飯を頬張る。
絶妙な米のパラパラ具合と、隠し味に入れたであろうニンニクの風味が口いっぱいに広がり、とても美味しい。この中華屋で作っている自家製チャーシューも味が染みていて、噛めば噛むほど旨味が出るとはまさにこのことだ。
皿を手に持って、それはもうガツガツと食べ進める。
誰も自分のことなど気にもかけてないだろうし、ヤケ飲みヤケ食いしてしまえというのが真琴の心情であった。
「よく食べるな」
突如声がした気がして、視線だけ前を向けてみる。
まず目に飛び込んできたのは、黒いスーツだ。この中華屋にいることが不思議なほど、スーツに詳しくない真琴でさえわかってしまうくらい皺一つないまるで新品のようにきちんとした黒いスーツだった。
思っていたより背が高いようで、視線を向けるだけではその人物の顔が見えなかった。炒飯の皿を持ったまま、顔を上げてみる。
そこには大変なイケメン、というよりもハンサムといった方がいい男がいた。
だが、やはり黒い。肌が黒いわけではない。といっても白いわけではないが、髪は少し青みがかった黒髪で、瞳も同じだった。黒いスーツが似合いすぎている顔立ちだ。
「少々お腹が減っていまして」
自分とは住む世界が違う気がして、一応敬語を使っておく。相手は自己紹介もなしに、しかも初対面の自分に向かってタメ口だったが、明らかに年上なので、真琴もタメ口は気が引けたのだ。
「そうか」
「……」
会話が続かない。いや、会話するような仲では絶対にないのだが、自分から話しかけておいてその返事は何なんだ、と真琴は炒飯を咀嚼しながら思った。
この中華屋は大体の席が相席なので、こうして人と向かい合うことの方が多い。しかし、話しかけられたことなど今まで一度もなかったため、どんな会話をすればいいのかさえわからなかった。
今日は厄日だな、と思いつつ再び炒飯に視線を落とす。
すると、ことりと音を立てて目の前に胡麻団子が置かれた。蒸籠には艶々と胡麻が照り輝く団子が3つ入っている。店員は周りにいないようなので、目の前の男が真琴の前に置いたようだ。
どういう意味かわからず、男と胡麻団子を二度見してしまった。
「あの〜、これは……」
「やる」
「は?」
「俺はこの団子が食えない」
全く表情を変えずに、しかも要点だけ答えるので何を考えているのか少しもわからない。
真琴は人の表情を読み取るのが得意な方だが、この男だけは一つも読み取ることができなかった。
顔の表情筋が麻痺しているのではないか、というぐらいこの男は無表情なのだ。
幸い腹は減っていたので、食後のデザートとして丁度いいと思い、もらうことにする。この中華屋のものだから、変なものは入ってないだろう。
「お言葉に甘えて……」
「ああ」
真琴が炒飯を食べている間、この黒い男はじっと真琴を見つめていた。視線を合わせたらいけない気がして、黙々と炒飯を食べ進める。食べづらいのは言うまでもない。
炒飯を食べ終え、胡麻団子に手を伸ばすと、真琴はある当たり前の疑問を感じた。
なんでこの人帰らないんだろう。どう考えてもここにいる理由がない。それに、
「なんで食べられないものを頼んだんですか?」
考えてみれば、この無表情なくせに顔の整った真っ黒な男が、こんな油まみれの中華屋で胡麻団子を頼むようには思えない。
「俺はクレジットカードしか持っていない。あとは偶然ポケットに入っていた小銭だ。だが、この店はクレジットカードで支払いができなかった。今持っている小銭で頼めるのが、この胡麻団子だけだったということだ」
「ああ、なるほど」
この店はクレジットカードで支払いは出来ない。全て現金で支払う。そのために、胡麻団子を頼むしかなかったというわけだ。
そのまま店を出て、違う店に入るという選択肢はなかったのかという疑問はここでは置いておこう。
もちもちとした食感と胡麻と餡子の独特の風味を楽しみ、胡麻団子を完食すると真琴は手を合わせていつも通りご馳走様をした。
「あっ、そうだお金!」
目を開けてそう言うと、やっと気付いた。ああ、この人は支払いを待っていたのか!通りで帰らないわけだ!!
だが、真琴のそれは見当外れの答えだった。
「いらない」
これまた無表情のまま、男は短くそう言った。
「え、でも」
「俺が頼み、俺がお前に与えた。金を払う必要はない」
「いやいや、払いますって」
「いらん」
この男は無表情のくせにかなり頑固者らしい。このタイプは一度言ったら、中々考えを変えない。真琴は自分自身がそういうタイプなので、嫌という程わかっていた。
「ほら、私たち初対面じゃないですか」
「だからなんだ」
「親しき仲にも礼儀ありとか言いますし……ね?」
「それとこれとは関係がないだろう」
なんだか面倒なことになってきた。愛想笑いがだんだん引きつってくる。
約2時間前にキレたため、沸点が低くなっているのだろうか。こめかみに違和感を感じた。
強くなれ強くなれ私!!と自分を鼓舞して、再び愛想笑いをつくる。
「俺がいらないと言っているんだ」
この一言を聞いた瞬間、この男はきっと立場の高い位置に属する人間なんだなと無意識に感じ取った。薄々雰囲気的にそうではないかと思っていたが、この予想は当たっていそうだ。
「だから金は……」
「私が払いたいと言ってるんです!!」
真琴はこれ以上キレたら本当に厄日になってしまうと思い、強引に男の胸のあたりに札を押し付け、またもや逃げるように中華屋を出た。
しっかり愛想笑いをしたので、心配はないだろう。それに、二度と会うこともないだろう男のことだ。
ちなみに、真琴があの時渡した札が、千円札ではなく一万円札だったことに気づくのは家に帰ってからのことだった。
次回は気ままに投稿します!