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門上御影

腹が減ったと彼は思った

作者: 的菜何華

前回までのあらすじ


なんやかんやいろいろな不幸が積み重なって凍死しかけた門上御影。

その脳裏に響くは「復讐を望むか?」の言葉。

それを断った御影の意識はブラックアウトするのだった。

目が覚めた。

どこまでも続く真っ白な天井。

整然と並んだ蛍光灯。


「動かないでください」


言われたとおり視線だけを向ける。

黒髪のおかっぱの巫女服少女と点滴につながれた自分の腕。


「そのまま、どうか安静に。下手に動くと死にます」

「……」

「返答はいりません。強いて言うなら寝てください」

「……」

「……まったく、あそこで復讐を望んでくれれば見捨ててやるつもりだったのですけど」


そんな声を聞きながら再び御影の意識は闇に落ちた。


 * * * 


ぶっちゃけ、真面目にヤバかったらしい。

あのままいれば確実に死んでいて――後五分遅ければ指の何本かは切断する羽目になっていたらしい。


ここがどこなのか――どういう状況なのか、まったくさっぱりちっともわからなかったけれど。

そこだけは素直に感謝する御影であった。


それはさておき。


「……腹減った」

「贅沢言わない!! 消化器官今ボロボロなんです!!」


意識を取り戻してから三日。

未だに御影は飯にありつけていなかった。

思い出すのは豚汁の美味かったことのみである。


まあ、御影も高校の成績は良かったので巫女服少女――くうと名乗った――の言うことも分かる。

今、何か食っても腹壊すだけだろう。


でも、それとこれとは別なのである!!

死にかけてたって腹は減るのだ!!


「腹減った……」


くうに聞こえないように呟いて御影は目を閉じた。


 * * * 


重湯が提供されたのはその三日後だった。

空腹にもほどがあった。

しかしそれ故――その味はいつかの豚汁をやすやすと凌駕した。


「生きていて、良かった……!」

「そうですかそうですか」


五臓六腑に染み渡るとはこのことである。

美味いとか不味いとかそういう次元の話ではない。

まさに全細胞が歓喜に打ち震えている。


「はっはー! 元気になったようで何より」


そして来客があった。

リクルートスーツの若い白人。

金の髪と目を持つ男だった。


「初めましてだ門上御影君。我が名はリューイ。リューイ・ディ・エンク。終焉世界エルードの主神をやっているものだ。以後よろしく」


軽い口調。軽い物腰。軽い笑顔。

なにより差し出された右手は神の名にふさわしくないほどタコまみれ。

だけど御影は――嘘ではないと思った。


「よろしく」


御影は握りかえす。

人の名に恥じぬほどにタコまみれの右手で。


ああ、そうだ。

働いて働いた証がこのタコだ。

だったらもう――騙されてたって構いやしない。


門上御影。二十歳。住所不定無職。

その異世界召喚譚のここが始まり。

それが一月十九日の東京でのことだということを――御影はまだ知らない。


知ったからってどうだというのか。それは作者も知らない。

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