プロローグ
自分が普通の人間でない自覚を得たのは、物心がついてきた頃からずっとだった。しかし、不定期な周期で訪れる変眼の特性を得た身だと自覚したのはもっと、ずっと後のことだ。
両親や周りの親類は薄っすらと気が付いていたようだったが、故意か、もしくは自主的にそれを秘匿していたようで。その日が来る度、わたしは家の敷地内に備わる物置で過ごすことを余儀無くされた。
それが当たり前のことであると疑わなかったから、それが異常だと知るまでは何とも思わなかった。
――虐待じゃない?
中学生の時分。ひょんなことから、わたしはクラスの友達に自分の変わった習慣を話して聞かせてしまった。その返答がこの一言だった。
相手からすれば何気のない発言で、当然、そこには悪意の一片すらもなかったのだろう。だからこそ、当時のわたしはその一言を過剰な程に意識してしまった。
帰りがてら夕飯を拵えているさなかの母に問うと、母は酷く取り乱してしまった。仕切りに繰り返される「違うの」と「ごめんなさい」を交互に聞かされ、何かいけないことを尋ねてしまったのだと、自己嫌悪の渦に囚われるような思いをした。
それからは平穏に、それまで通りの日常を送ることだけを念頭にわたしは努めた。その日が来れば有無を言わずに物置に閉じ籠るようにし、それを疑問に思っている素振りを悟られぬよう、細心の注意を払って過ごした。
母に問うてしまった日から以降、どうにも母の精神状態は不安定になってしまい、同居している祖母や祖父からの目が痛くなった気がした。悪いことをしたのだ、と自身に言い聞かせていたわたしはその責を当然のものとして受け容れた。
それでも親子関係の方は、気味の悪いまでに良好だった気がする。父も母も、それまでと何ら変わりなく接してくれた。時折に母が見せてくる狂気は違えど、それ以外の時間は平穏だった。
だが高校へ進学した頃、ひとつの事件がわたしを襲った。